プロローグ
人類が太陽系外へ進出して2000年が経った。
彼らは、太陽系の隅々まで調べ尽くし、その外側へと旅立ち始めていた。
太陽系から15光年圏内にある、プロキシマケンタウリ星系、バータード星系、シリウス星系、プロキオン星系まで進出し、それらを自らの勢力圏に取り込む。
人類が生存可能な惑星には植民地を築き、それが出来ない(人が生存できない環境下の)惑星には、惑星軌道上に超大型の衛星軌道コロニーを建設した。
もちろん、入植した惑星の中には原住民……いわゆる異星人が生活していた。
基本的には、彼らの営みに干渉しないというルールがあったが、自分たちに相反する勢力を正義の名において殲滅する。
そして、自分たちに有益になりそうな種族に対しては、人的資源の提供を担保に経済支援や安全保障を行なっていた。
しかし、実際には強大な武力を背景に、原住民を管理下に置いて国力を増強させていった。
《もっと広大な範囲を支配下に置きたい》
いつの頃か、彼らにはそんな欲求が芽生え始めていた。
現在、地球人が活動しているのは銀河系の『オリオン腕』と呼ばれる領域であった。
銀河の中心から伸びている他4つの腕とは違い、このオリオン腕だけは『腕』と『腕』の間に挟まれた独立した領域である。
その隣にある『ペルセウス腕』と総称している領域まで何としても手に入れる。
そして、そこにある惑星から物的資源、あわよくば原住民等の人的資源も手中に収めよう。
彼らは己の欲求を満たす為、これから生まれるであろう子孫たちに対して先人の偉大さを残す為に未知の領域に対して進出、進軍しようとし始めた。
しかし、偶然かそれとも必然か。
そんな地球人の動きを良しとしない勢力が現れた。
彼らは、大きく分けて5つの種族からなる『惑星連合』であった。
地球人の活動するオリオン腕の隣、約6500光年離れたところにあるペルセウス腕を活動拠点とする集団だ。
5種族の内、もっとも冷酷で残忍なうえに好戦的な種族の長をリーダーとして構え、ノーとは絶対に言わせない強引な行動で多数の植民星をもっている。
地球人の暦で統一暦1803年、惑星連合の暦でワルゴラン暦3054年、ついに彼らと惑星連合勢力が相見えることとなった。
オリオン腕とペルセウス腕の間の宙域……距離にして約3000光年の距離で、地球連邦軍 2個艦隊と惑星連合軍 5個艦隊が相対して大規模な戦闘が突如として引き起こされた。
今となっては、どちらが先に仕掛けてきたかは分からない。お互いに攻撃の応酬を繰り広げ、突発的な戦闘は熾烈を極めた。
戦闘の結果は、地球連邦軍 1個艦隊殲滅、惑星連合軍 1個艦隊壊滅という幕引きであった。
完全に地球連邦側の敗北である。
突如、目の前に現れた所属不明の武装勢力を前に、地球連邦軍 2個艦隊はなす術なく敗れ去った。
これは地球連邦側が初めて惑星連合という敵対勢力を認識した瞬間であった。
その事は当然のことながら政治中枢はおろか、地球連邦市民全員に知れ渡ることになる。
この銀河系内には、自分たち以外にも外宇宙へと進出できる技術力を持った知的生命体が存在している。
これまで知る由もなかった事実が一気に地球連邦側を不安に貶めた。
民主共和制をとる地球連邦では、市民の間に好戦論が沸き起こり政府もそれを無視できなくなっていた。
統一暦1820年、ついに地球連邦は対ペルセウス惑星連合戦争を始めることにした。
……ありもしない理由を並べ、あくまで敵から仕掛けてきたという事にして。
ーーー『対ペルセウス惑星連合戦争』が勃発して30年が経った。これは、ある日の最前線の光景である。
「アルフ提督、敵艦隊 真っ直ぐこちらへ向かってきます!」
「左翼に展開するアイテル分艦隊へ通達、可及的速やかに敵の横っ腹を突くように回り込み、本隊の戦闘開始時、敵艦隊の分断を行え。」
「敵、速度そのまま。0.2光秒後、我が方 主砲射程圏内に入ります。」
「よし。右翼に展開するダーリア分艦隊に通達、最大戦速にて敵後方へ回り込み、アイテル分艦隊と協力し敵艦隊を挟撃せよ。」
「艦長、敵 我が方 主砲射程圏内へ到達しました!」
「全艦に通達、1匹たりとも残すな……主砲一斉射 始め!!!」
「全艦、撃ちぃ方、始め!!!!」
真っ暗闇の中、突然真っ直ぐに突き進む無数の光。
それらが対象に当たると、大きな爆発を伴いながら辺りを明るく照らしていった。
空気がなく音が伝わらない為、ただ明るく光っては消えていく虚しい花火のような光景が目の前に広がっている。
自分たちの掲げる『正義』を信じ、何もない深宇宙で多くの虚しく儚い命が散ってゆく。
「抑圧された種族の解放」を大義名分としてペルセウス惑星連合に攻撃をする『地球連邦』
「銀河の秩序を正す」を大義名分として地球連邦に攻撃をする『ペルセウス惑星連合』
双方の自己満足な理由での戦いはまだ始まったばかりである。
はたして、敵対する知的生命体同士は共存の道に向かうことができるのか。
それとも、お互いのどちらかが滅びるまで戦いを続けるのか。
永きに渡る戦いの只中にあるが、彼らの住まう銀河系に平和が訪れる日は来るのか。