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個室の扉を開けると、中は一転して熱気がこもり、さながらサウナのようである。
「だ・ん・ど・か・し・て・ぐれ〜」
ほとんど呻くような洟声で探偵が助けを求めた。
それもそのはず。
毛布にくるまってベッドに横たわる探偵の足もとと両脇に、ラグ模様をしたサッカーボール大の毛のかたまりがそれぞれ一つずつ。さらに胸の上には十キロはあろうかという虎縞模様の毛のかたまりが、ずっしり鎮座している。そのかたまりはいずれもゴロゴロという低周波音を立てている大型猫であった。
「こんだぢ乗られたら、づぶれる。じぬ。あづい。うごけん〜」
車掌は窓際にあるヒーターの温度を調節して「強」にした。
「探偵さま、我慢してください。これが猫流・温熱療法です。一晩発汗すれば、翌朝にはすっきり治るそうですよ」
「よ、よんひきもいらん〜げほげほ」
「どうぞ我慢なさってください」
トキ子は苦笑して、探偵の額に乗った濡れタオルを取り替えようと持ち上げた。とたんに額から大量の湯気が上った。
外はすっかり暗い。「星ねこ号」は盆地を抜けてまた山間部に入っていた。もうしばらく走ると海が見えるはずだ。探偵の風邪はきっと今晩が峠だろう。
(第四話完)