たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<16>今日はゆずの日
12月のとても寒い今日たっくんはケビンと近くのマックスバリュに来ています。
「さぁ、今日の晩御飯は何にしようかね」
ケビンはスマホでお店のチラシを見ました。
「今日は国産鶏モモ肉が安いぞ。たっくん、チキン食べたい?」
「食べる!食べる!」
「よーし、そうしよう。今日はチキンステーキだ」
とケビンはカートを押していきましたが途中で、
「今日はこれを買うんだった、忘れてた」
とカボチャと柚子のパックを取りました。
それからケビンは他にも野菜を買っていたのですがたっくんは柚子のにおいからあることを思い出しました。
2か月前にケビンは柚子からゆず味噌を手作りしたのですがなにぶん初めてなもので失敗して、それで作ったゆず味噌チキンはひどい味で全員がうんざりしました。まさかあれをもう一度作りたいのでしょうか。
これは避けねばなりません。たっくんは
「やっぱり俺、チキンはいいや…」
と言うとケビンは
「変な子だね。急にどうしたの。チキン大好きなのに」
と不思議がります。
「うん…」
そのとき、ケビンのスマホが鳴りました。
ケビンはたっくんにカートの番をさせてお店の隅っこへ走りました。
たっくんはゆずをカートから捨てればケビンは買い忘れてゆず味噌チキンを諦めてくれるかもと思ったのです。
「俺って頭よすぎだな。さすが」
と、たっくんはゆずの袋をつかんで急いで元あったところへ返します。
電話が終わってケビンが戻ってきました。
「ごめん、ごめん」
ケビンはカートをまた押して歩きました。
「あ、そうだ、にんにくとブロッコリーを忘れていたよ」
ケビンは野菜売り場に引き返します
「あれ?ゆず忘れてたかな」
と言い出し、またゆずをカートに入れました。
「ダメじゃん!」
とたっくんは思いましたががっかりしているひまはありません。
そうしていると、ケビンは知り合いの人に出会って立ち話を始めました。
「今だ!」
たっくんは急いでゆずをカートから放り出しました。
ケビンが立ち話を終えてカートを向くと
「あれ、さっきもう一度ゆず入れたのに。落としたのか。んもーう、たっくんちゃんとカート見ててよ!」
とケビンは文句を言ったのでたっくんは
「今度はちゃんと見るよ」
と言いました。
ケビンがゆずを今度は奥の方にしっかりと積めてしまいました。
そのとき、店内放送で
「本日はマックスバリュハンプトン東店にお越しいただきありがとうございまぁす。鮮魚コーナーよりお知らせいたします。ただ今よりレジにてお刺身全品半額、お刺身全品半額…」
半額、の声を聞くなり放送が終わらないうちにケビンはまるで領空侵犯のスクランブルがかかったときのようにダッシュして行きました。
ケビンがお刺身の盛り合わせを両手に抱えて戻ってきました。
「中佐のおつまみが1品助かるなあ、たこのお刺身もあるからたっくん、食べるでしょ」
「う、うん」
「あー!」
またカートにゆずがありません。
これで3回目です。いくらなんでも偶然とは思えません。
「たっくん、ゆず、知らない?」
「えっ?俺何も見てないよ」
ケビンはどう考えてもたっくんが怪しいと分かっていましたが、ピーマンを捨てたのなら分かりますがどうしてゆずをこんなに嫌うのでしょう。
ケビンはゆずをカートの一番上のたっくんの目につきやすいところに置いて
「たっくん、牛乳取ってくるからもう一度カートちゃんと見てね」
と言って行ってしまいました。
たっくんはすぐにゆずを取ると野菜売り場のあった場所へおいたとき、背後から
「たっくん、なにやってんの!」
とケビンの声がしてたっくんは前顎のランディングギアが飛び上がりました。
「やっぱりたっくんだった!だめじゃないか、勝手に戻したら!今日はどうしてもゆずが必要なの!次やったら今日はお菓子買わないよ!」
たっくんはすでに握ったプリキュアのクッキーを見つめて困っています。
「分かったらカートに近付かないでね」
お菓子を人質にされたらたまったものではありません。たっくんはゆずをのせたカートを押すケビンの後ろをとぼとぼと付いていきます。
ああ、どう転んでも今日のおかずはゆず味噌チキンなのです。
基地のハンガーに着くとケビンは晩御飯の支度を始めました。
たっくんはプリキュアのクッキーを持ったままうなだれていました。
テレビをつけましたが内容が全く入ってきません。
「たっくん、何もしてないんだったら先にお風呂入っちゃいなさいよ」
とケビンが言ったのでたっくんはお風呂の方へ行きました。
お風呂場からいつもと違うにおいがします。
これは…さっきのゆずです。
お風呂の中にたくさんのゆずが浮かんでいます。
これは一体どういうことでしょうか。
その頃、ジェイムスン中佐が帰宅しました。
「ラプターは?」
「お風呂ですよ」
「そうか、たまには一緒に入るかな」
とジェイムスン中佐がお風呂場に行こうとするとケビンが
「そうそう今日、たっくん、変だったんですよ」
とたっくんが何度もゆずを捨てようとしたことを話しました。
「ふぅん。なんなら俺が聞いてみるよ」
とジェイムスン中佐は服を脱ぎながら首をかしげました。
「おっ、今日はゆず湯か。そうか今日は冬至だからな」
とジェイムスン中佐が先にお湯の中にいるたっくんに声をかけました。
「父ちゃん、知ってるのか」
「ああ、今日は冬至と言って1年で日が短いんだ」
「そう言えば今日、F35もそんなことゆってた」
「昔から冬至の日はゆず湯に入るもんだ。体を温めて血行がよくなるし風邪予防や腰痛にもいいんだ。それに冬至に食べるのはゆずじゃなくてカボチャだ」
「へぇ、じゃあゆずを買ってたのは風呂に入れるためだったんだ」
「お前は何に使うと思ったんだ?」
たっくんはゆず味噌チキンの話をしました。
「アハハハハ、そんなこともあったな。さすがにあれはもう作らねぇだろ。あのときはあまりのひどさに全員が無言になったからな」
お風呂から出ると晩御飯はほぼ出来上がっていました。チキンステーキはいつものチキンステーキでした。それにカボチャのスープもあります。
「やっぱり食べるのはゆずじゃなくてカボチャだったんだ」
とたっくんは言いました。
「そう言えばたっくん、ゆずをどうして何度も捨てたの?怒らないから教えてくれないかな」
と、ケビンは気になっていたことをもう一度聞きました。
「…」
たっくんはやっぱり黙っています。
「こいつは前にお前が作ったゆず味噌チキンのまずさがよっぽどこたえたらしく、あれをまた作られるんじゃないかとびびってたんだよ」
と中佐が言いました。
「ああ、そんなこともあったな。でも正直に言ってくれたらよかったのに」
とケビンが笑うと、
「だって得意なことを下手くそって言われると悲しいし怒るだろ。俺だって絵が下手って言われるとムカつくし」
とたっくんがなぜ黙っていたかをやっと話してくれました。
「ありがとう。でもそういうときはちゃんと言ってくれても怒らないよ」
とケビンはにっこりしました。
「なあんだ、怒らないのか。じゃあちゃんと言えばよかったな。あんなおならみたいな味のチキンはもういらないよ。さつまいものシチューは紫でバイオハザードみたいだったし、ひじきのリゾットは鼻毛がのってるのかと思ったよ。」
とたっくんが言うと中佐が
「思い出した!どれもこれもひどかったなぁ。俺的にはチーズとマヨネーズ掛けししゃもが最悪だった。あれでどうやって酒飲めと」
と笑いました。
するとケビンがゆでダコのように真っ赤な顔して
「そこまで言わなくたっていいだろ!」
と言うとたっくんと中佐は
「ほら怒った!怒った!怒らないって言ったのに!」
と騒ぎました。
<終わり>