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第4話 姫と友人とお供が優秀過ぎてする事がない 後編

「傷口を圧迫しましたので、太陽一個傾くくらいは持ちます。適切な処置をすれば死なないでしょう」

 トニーさんが馬車から下りて、先ほど切られて落馬した男の足を縛って止血しており、そして馬に乗って駆けていった二人も戻ってきていた。

「多少尋問の心得がありますが、どうしましょうか?」

 アニタさんが俺に聞いてきた。ねぇ、なんで俺に聞くの? ねぇ?

「……ねぐらの場所と仲間の有無、奪った金品を流した場所と、生存者はどうしたかだけで良いです。最悪町に戻って応援を呼びましょう」

「わかりました。傷を塞ぐのにポーションの使用許可を」

 ポーション……。一応持ってきてはいるか。

 まぁ、液状の薬全般とか毒の事をポーションって言うから、間違いではないけど……。使った事ないんだよな。どうなるんだろうか?


「どうぞ。どの程度の金額か知りませんが、情報と探索の手間を買うと思えば安いんもんでしょう」

「基本は大銅貨五枚。輸送の手間で多少金額は増えるけど、各家庭に一本は常備するように国政で決めてあるわ」

「へぇ。寒村じゃ金銭を得る手段が少ないかもしれないし、その辺は視察しつつ聞いてみるか」

「その必要はありませんよ。野草と一緒に生えていたり、迷い人の知識で私が生れる前から、栽培に成功しておりますので、村としての収入は農作物以外にあります」

 アルテミシアさんがそんな事を言い、アニタさんに馬車の中からポーションを出して手渡していた。

 農村に、一応財源確保の方法が別にあるんだな。少し安心したわ。

「聞いていましたよね? 先ほどの事を吐けば傷は塞いであげます。それで命は助かりますが、吐かなければその分苦しんで死ぬ事になりますので、その辺は頭の隅にでも置いておいて下さい」

 そう言ってアニタさんはポーションを傷口に垂らし、中途半端に止血をした。本当に苦しませる気満々だな。


「ではお茶にしましょう」

 アニタさんは笑顔で言い、トニーさんは野営で使う道具を用意し始めた。

「こんな状況で、お茶とか飲みたくないな」

「待ってる間暇でしょ? なら有意義に使わないと」

「コレが騎士団式の尋問の方法っすか……」

「もう少し手荒な方法もありますが、ロディア様とアルテミシア様にお見せする訳にはいきませんので」

「俺は良いのか……」

「男性ですので」

 アニタさんは笑顔で言い、トニーさんが出したイスの方を手の平で指し、座るように勧めてきた。


「ちょっとこいつを借りますよ。証人としてトニーさん付いて来て下さい。二人はお茶でも飲んでて。のんびりと待ってても、喋らずに死ぬかもしれないので、ちょっと向こうでヤってきます」

 トニーさんが座る様に勧めてきたがそれを断り、俺が聞き出す事にした。

「拷問の心得でもあるのか? 普段は温厚なのにヤる時はヤるのね。別にここでもいいわよ? そのくらいじゃ引いたりなんかしないし、ここでヤっちゃえば?」

「えぇ、私達は騎士団に所属していたので、見慣れてはいますよ?」

「こっちの方がどん引きだわ……」

「女性の方が、躊躇(ちゅうちょ)なくやれる方は多いですよ?」

「やだ。ここの女性陣怖過ぎ……」

 そう言いつつトニーさんからナイフを借りて、捕らえた男の方に近づき、最前線の城を守っていた時に見た方法を試す。

「好きに喋れ。俺が満足する情報が全部出たらその時点で止めてやる」

「ま、待て。どういう事だよ! せめて聞きたい事の質問くらいしろよ!」

「自分で考えろ。俺はお前の母親じゃない」



 そして欲しい情報を全て聞き終わった俺は、血塗(ちまみ)れの男にポーションを三本程ぶっかけた。後ろを見ると全員引いていた。

 まずい。やり過ぎた……。

「いや、まぁ……。お茶でも飲もうか」

 そう笑顔で言ったら、ロディアがアルテミシアに抱きつき、服を強く握っていた。

「あ、いや。ごめん。やり過ぎたわ。先輩の方法をマネしたんだけど」

「マネするのと、実際にできるのとでは大違いですよ?」

 トニーさんに微妙にフォローになっていないお言葉を頂き、気まずい中お茶を飲んだ。


「なぁ、ニワトコは普段からあんな事をやっていたのか?」

「いや、あれが初めてだ。気分は良くないが、より多くの情報を手に入れられた。必要のない情報も……。お茶を飲んだら森の中に入ろう、聞こえてただろ? (やぐら)とねぐらがあって、そこに今まで強奪してきた金品もあるって」

 さっきの事で笑顔はまずいと思い、真面目な顔で言いながら砂糖を少し多めに入れたお茶を飲み、何気なく森の方を見るとトニーさんが散っていた馬を集めていた。本当優秀だなあの人。



「言われた通りだと、この辺に櫓が……。あったあった、あれだな」

 俺は男が指した辺りから森に入り、少し進むと粗末な櫓があったのでちょっと上ってみることにする。

「こっちからだと向こうがよく見えるぞ。これなら襲いやすい」

 そう言って、櫓に繋いであった紐を情報通りに引っ張ると、遠くで小さく鉄同士をぶつけたような音が鳴り、鳴子っぽいのがあると思われる。

 獲物が来た時と、処理が終わった時の合図があるらしい。しかも女性が捕らわれてるので留守番が一人。だから鳴らしておく必要がある。

「この紐を辿ればいいんだな! うぎゅ!」

 下の方でロディアが言い、腰の剣を抜いて早足で上を見ながら歩き出し、木の根に引っかかって転んだ。それをアルテミシアが起こしている。

「なんか子犬っぽいなぁ」

 俺はそう呟き、櫓を下りて足下も見ながら進む事にした。


「誰だ貴様!」

 情報通りねぐらには留守番が一人いて、生かして捕まえたであろう女性達で、絶賛お楽しみの最中だった。

「賊に名乗る名などない!」

 ロディアがそう返すと、全裸で武器を持っていない男の三本目の足を、真ん中辺りから切り落としたので、俺は股間を押さえた。

「ふん。汚い物を見せつけるな」

 元騎士団の上位陣は伊達じゃないな。日本の殿様は実力が足りないなら、免許皆伝を買ってたとか聞くが、王族だからってそういうのは一切なかったんだろうなぁ。

 ってかその汚い物は、俺にも付いてるんですけど? 夜の生活が不安になってきたわー。

 何か叫びながら股間を押さえている男を、アルテミシアさんが殴って気絶させて縛りだしたので、俺は辺りを見回して色々探し、女性達に布を被せ回った。

 ってか普通逆じゃね? 俺が真っ先に突っ込んだ方が良さそうなのに。

 なのに、なんでこの子達は前に出たがるんだよ……。

「もう大丈夫です。森の外に馬もいますので、近くの町まで送ります。歩けますか?」

 女性達は軽くうなづいたので、目に付く金品をとりあえず持ち出しながら馬車に帰り、状態がひどい女性を馬車に乗せ、俺達とまだマシな女性は馬に乗って町に引き返した。



 そして町が見え始めたら、アルテミシアさんが映画みたいに手綱を鞭のようにしならせ、短く声を出すと、多分出せる最高速度で駆け出して先に行ってしまった。多分門番に伝えるんだろうと思うけど、一声欲しかったわ。

「どう説明するんだろう?」

「騎士団では、こう言う時の報告も訓練であったわよ?」

「へー。ここで言ってみてよ。ちょっと気になるし興味ある」

「えー……。んんっ! 緊急。私は王国第一騎士団のロディアだ。賊のねぐらを見つけ殲滅したが、女性五人が慰み者になっていた。受け入れ準備と上官を呼んで欲しい」

 ロディアは恥ずかしそうに言っていたが、なんか浮ついていた。多分訓練はしたが、報告した事はなかったんだろう。


「けどもう退団してるから、今回は元が付くのだと思うわ。言う事を聞かないなら最悪身分を明かして、無理矢理押し通すかね。報告は捕まえた馬とか男の事、金品の総額とかかしら?」

「だろうねぇ。身分を明かしたら、お忍びもここで終わりだな」

「仕方ないわよ。あのまま放置もできないし。男の引き渡しもあるから」

「だねぇ。とりあえず宿で報告書とか、あの辺りの開拓計画か防犯対策でも立案かな」

 そんな事を話していると門の前に着き、兵士が毛布っぽい物を持って出てきて、女性を真っ先に保護した。男の性って奴? まぁ女性とか少なそうだし、仕方ないよな。

「お忍びの旅行中に、この様な事になってしまい申し訳ありませんでした! これからは警備する範囲を延ばし、今後この様な事がないよう――」

 身分明かされてたわ……。お忍びも終わったわ……。

 そして上官っぽい言い訳が終わったので、ソレっぽい事を言い宿屋に戻った。


「あ゛ー。思ったより視察できなかった。あの先にも出没するって情報があったのに、町から一番近い場所で出るんだからなぁ。帰りに出て欲しかった」

「女性が助けられたので、良かったのではないでしょうか?」

 トニーさんが部屋にお茶を持ってきてくれたので、ちょっとグチを言ってみたらもっともらしい事を言われてしまった。

「まぁ、そうなんですけどね。ただ王族になるって事で、こんな小さい数字の成果で、今後の視察に遅れとか出ないか気にしちゃうんですよ」

「今回は視察で、数日の予定を取っております。なので些細な事と思い、女性を助けられた事を喜びましょう。それにニワトコ様はザイフェ家の補佐と言う事で、そこまで大きな事には関わらないかと思われます。今回の事はお気になさらず、少しずつ慣れていけばよろしいのではないでしょうか?」

「そう……ですね。良いことに大きいも小さいもな――」


「ソレでね、私男のアレを初めて見ちゃってね。聞いてた物より小さかったの」

「男は自分の物を大きく言ったりするらしいわ。だからアレが普通なのかも。ロディーもニワトコのを見ても切らないでよ」

「もちろん! 槍でも破城槌でもどんと来いって感じよ!」

 俺は笑顔で言っていたが、隣から聞こえてきた声で笑顔のまま固まった。良い事に大きいも小さいもとか言ってたら、アレの大きい小さいの話題が聞こえてきた。

 それとこっちの世界では、野菜やキノコとか加工肉ではなく、武器に例えられるっぽい。確かに槍と破城槌では大きさは違うけどさ。

 俺の破城槌を見ろ! そのショートスピアしまえよ。になるんだろうか? それともナイフとクレイモアとかか?


「女性の会話は生々しいですよね。アニタから報告は聞いておりますが、まさか切り落とすとは思いませんでしたね……。勇敢と、女性らしさは別であって欲しかった。この事を報告書に書かないといけないんですよね」

「切りやすかった状態なのは、確かですけどね」

 俺はため息を吐きながら、持ってきてもらったお茶を飲んで壁の方を見た。

「子供の頃に両親の営みを見てしまったので、父の物よりは小さかったのは確かですけどね」

 そして俺は、アルテミシアさんの一言でお茶を吹き出し、トニーさんは手でおでこ辺りを押さえて首を横に振っていた。


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