第3話 変装ってなんだっけ? 前編
普段使わない謙譲語がボロボロです。
お許し下さい。
それと国王様の年齢を書き忘れていたので、書き足しておきました。35歳です。ほぼ同い年での子作りですので、問題はないはず?
アレから三日、特に変化らしい変化はなかったが、用意された執務室で資料を読み、明らかに数字の誤魔化しっぽい物とかを探したが特になかった。随分とこっちの国は綺麗にやっているみたいだ。
そして言葉使いだが、なるべく普通に喋る事にはした。けど目上の人にいきなり呼び捨ては無理です……。なので敬称はもぎ取った。
そして今日も特に何もないので、国の歴史や政策の資料を読んでいたら、ドアがノックされたので短く返事をした。
「ニワトコ様、プロテア様がお呼びです。ロディア様と一緒に先日の会議室に来る様にとの事です」
「わかりました。ってか国王として謁見とかあるんじゃないんですか? 昼食を食べてからそろそろ太陽が二個分傾きますよ?」
時計はないし、なんか太陽の傾きで時間を計る事が多い。迷い人が持ち込んだのか作ったのか知らないが、垂直式日時計っぽい物があるけど、目盛り一個分が本当に一時間かも怪しい。そもそも時間の概念がほぼない。朝食、昼食、夕食くらいしか基準にしていなかった。
取られた携帯とか時計があれば、多分ある程度はわかっただろうけど、どうにかして取り戻しても多分もう機能はしていないだろう。デザインが気に入ったって事で、安物の手巻きの腕時計を、毎日時間を合わせてたのが仇になったな。あと携帯は絶対にバッテリー切れだ。
ついでに言うと基準となる物差しがない。昔は王様の足の長さとか肘から指先までの長さとか、時代で違う物が多かったけどさ、そういうのもない。距離は歩数とか、太陽何個傾いたくらいとか、馬車で一日とか。
そもそもこっちに来て驚いた事の一つが、春蒔きで秋収穫の麦だった事だ。なんで春から初夏にかけて収穫じゃないのかが不思議だ。日本の米みたいだ。けど、二毛作じゃなければ、コレが普通なのかもしれない。化学肥料とかもないし。
「珍しく謁見の予定がない為、急遽執り行われるとの事です」
「そうですか……。執務でもしてればいいのに……」
俺はため息を吐きながら資料にしおりを挟んでから閉じ、ゆっくりと立ち上がった。
「失礼します。ロディア様とニワトコ様をお連れしました」
俺達はシルベスターさんに案内されて、最初に家族会議をした場所に案内されるが、やっぱり家族が全員そろっている。
「挨拶はまぁいい。とりあえず座れ」
顎でイスを指されたので座るが、なんか王様って言うよりオヤジって感じがするわ。ってかなんですかねぇ、その綴られた紙は。
「コレか? ここ数日のお前の報告書だ。ざっと目を通したが……。お前は本当に男か?」
綴られた紙を見ていたら、気になっているのがバレて、プロテアさんが勝手に言ってきたが、なんか変な事を言われた。
「はぁ?」
本当にそんな声が漏れた。なんでそんな事を、いきなり言われなきゃいけないんだ?
「シルベスターやティカ、その他見習いの執事やメイドからの報告で、同衾はしていないにしろ、同じ部屋で男女が寝てるんだぞ? なんでそんな展開にならないん――」
プロテアさんがそう言った瞬間、隣に座っていたダリアさんがフライパンで頭を軽く叩いていた。この間持っていたのは、叩く為だったんですか……。
「一応婿入りは決まってますが、出会って即性交とか無理です。もう少しお互いの事を知ってからの方が良いのでは? その辺の娼婦なら、お互い割り切ってるので平気でしょうけど」
そこまで言ったら今度は俺がロディアに叩かれた。なんで叩かれるんだ?
「けどロディアからの熱烈なアタックが毎晩の様にあって、誘われてるけど躱しているらしいね。男なのによく耐えられるねぇ」
「シャイなので。ってかさっきも言いましたよね? お互いの事をもう少し知ってからって」
今度はヘリコニアさんからの質問があったが、笑顔で返しておいた。
「一発ヤっちまえば後はどうにでもなるだろうに。なぁ? ダリ――」
またダリアさんがフライパンを恥ずかしそうに振って、プロテアさんの頭をさっきより強く叩いていた。
「娘が傷物になった。責任を取ってもらおう。こうしてお手付きになった女は見事嫁入り……と。まぁ父さんと母さんは結婚する事は決まってたけど、ちょーっと早かったよね。まぁ、自分を仕込んだ時の年齢の男なんか、性欲の塊みたいなものだから仕方ないけど。お爺ちゃんもお爺ちゃんで、そういう状況を作ったのが凄いんだよなぁ……」
「けどニワトコさんは、そんな状況でも三日もロディーに手を出していない。女性からしてみれば好感はもてます」
トレニアさんはニコニコとしながら、資料を置いてお茶を飲んでいる。
「けどロディーが何を焦っているのか、しつこ過ぎなのがいけないのよ? 殿方は露骨すぎると逆に萎える方もいると聞いてるし、少し焦らす感じで抑えてみたら?」
そしてお茶を置き、さらにニコニコとしながらロディアを見ている。なんか変な威圧感があるな。
「髪の色を見ればわかりますが、プロテアさんそっくりですね。結構がっついてきますよ? それこそ先ほどから話している、盛りの付いた年頃の男みたいに。けどからかうと顔を真っ赤にして、大人しくなりますが」
「まぁ、ニワトコはある程度年齢的に自制が利くだろうし。けど同い年くらいだったらその日のうちに、ヤってそうだけどねー」
ヘリコニアさんがそう言った瞬間、トレニアさんがティースプーンを投げ、それを涼しい顔をして人差し指と中指で掴んで、音もなくテーブルに置いた。ちなみに俺はロディアに、バシバシと二の腕を叩かれている。
「お兄ちゃん、下品ですよ?」
「ははは、すまない。どうもこういうところは、父さんに似ちゃってね」
「俺からしてみれば、二人共十二分に下品ですけどね。ってか親子ですねぇ。ちゃんとボケとツッコミがしっかりしている。投げた物がちょっと物騒ですけどね。で、本題は何ですか? 綴られた紙全てが、夜の自室の報告書って訳じゃないでしょうし」
俺は苦笑いをしながらお茶を飲み、四人の前にある綴られた紙を視線を動かして見る。
「さっきも言ったがここ数日のお前の報告書だ。悪いがシルベスターを始め、見習い達にも監視してもらった。暇な時は執務室の資料を読み、食事のマナーは異世界的な差異はあるものの、ロディアより綺麗に食べる。特に我がままらしいものもなし、メイドにお手付きもセクハラもなし。酒は酔わない程度に飲む。もう少し調べるつもりだったが、品行は良いとして方正は……。まぁ、戦場に出ていた時点で多少は目を瞑ろう」
「戦場は別物でしょ? 父さんなんか戦時中の会議とか物凄く怒鳴り散らしてたじゃないか」
ヘリコニアさんはニヤニヤとしながら言い、お茶を一口飲んでから、琥珀色の液体の入った瓶を取り出して注ぎ足した。多分酒か何かだな。
「まぁ、そうだな……。そうなると今のところ婿としては問題はないんだが……」
プロテアさんがそういうがどうも歯切れが悪い。
「判断するには、何かの理由で時間が足りなかったと?」
俺は多分言おうとした事を言い、ため息を吐いた。
「あぁ、これから賠償として手に入れた、新しい領土の視察と、他国との外交が入ってる。ちなみに同盟国……。まぁ、ダリアの実家との会談な。視察はその途中に寄る」
「その期間だと俺を遊ばせ過ぎると……。わかりました、少しだけ好きにやらせてもらいますよ」
「飲み込みが早くて助かる。報告はヘリコニアにしろ。一応次期国王で、お前の義兄だからな」
「わかりました。そして少し質問が……。ずいぶんお若くして国王になったみたいですが、先代様は?」
お爺ちゃんとか単語が出てたし。存命か気になるじゃん? 最悪謝ろう。
「あぁ、引退して港街で余生を過ごしている。ってかあいつが死ぬまでには、あと季節が二十回は巡る必要がありそうだけどな」
「あいつって……」
「アイツで十分だ。なんてったって私が三十になった途端、無理矢理王位を継がせてのんびりしてるんだぞ? まだ国王でも十分に通用する歳と判断力だったのに」
プロテアさんは、お茶の入ったカップの取っ手を持ってプルプルとしているが、かなり力を入れているのか、手の甲に血管が浮き出ている。
「それはそれは……。プロテアさんが先代様より有能だったから、さっさと引っ込んだと思っておけばいいのでは?」
「悪知恵だけが働く、今でも悪ガキみたいなジジイだ。趣味の釣りに没頭したかったんだろうよ! まぁいい。とりあえずある程度の権限とか諸々は、ヘリコニアに任せてあるから聞いてくれ」
なんか面白い家族だなぁ……。王族って事を忘れるわ。ってか絶対に血だな。プロテアさんとへリコニアさんも時々悪ガキっぽいし。
「さて、父さん達が出て行ったけど……。何から手を付けるかの目途は立っているのかい? ねぇ、ニワトコ君」
ヘリコニアさんがお茶を飲み干し、また懐から琥珀色の液体の入った小瓶を出し、残り二口分くらいを、カップにあるだけ注いだ。まぁ、多少王族の感性はずれていると思っておこう。
「そうですねぇ。先ほど港街の話が出ていたので、そこから行きますね。ここ数年の塩の運搬で多少の――」
「待ってくれ。ネンって……なんだい?」
ヘリコニアさんは手を前に出し、待ってくれってな感じのジェスチャーをした。まぁ、多分待ってくれであってると思う。
「あぁ、すみません。向こうの単語が出ました。季節が一回巡る間に、最低でも平均して十回以上の強奪があるみたいですが、まずは街道の視察をしたいですね。相手も時期的に、警戒を緩めた頃に襲ってるから質が悪い」
「で、具体的に何をするんだい?」
ヘリコニアさんはニヤニヤとしながら、多分持ち込んでいたバッグか何かから、インクとペンを出して、軸を人差し指でトントンとやっていた。
こういう場で酒を飲んでるから少しいい加減な性格と思ったが、切り替えはしっかりしているみたいだ。そして横を見ると、トレニアさんもベルトのポーチから筆記用具を出していた。そして意外にもロディアも……。
持ってきてないの俺だけかよ……。何も言われてねぇし、こんな事知らねぇよ。
「野盗が頻繁に出る所の視察や、潜んでそうな場所の発見及び破壊。それが困難、例えるなら森の様な場所があるなら、近隣の村か町から金銭を払って労働力を雇い、適度な伐採。もしくは国から労働力を出して、街道の整備ですかね? 視察しないとわかりませんが」
俺はとりあえずそれっぽい事を言っておく。妥当だと思うんだけど、通るかな?
「ふむ。で、塩を野盗に奪われる金銭的損害と、労働力を雇う金銭。どっちが高い?」
ヘリコニアさんは、当たり前の質問をしてきた。まぁ、なんでそうするかを聞きたいんだろうな。
「もちろん雇うお金です。ですが一時的な物ではなく、永続的な物ですし、近隣への治安回復も望めます。街道を整備する事で商人の往来や寒村へ立ち寄る事も増えて、長い目で見れば収益は増えるかと」
俺は周りを見て、特に反論や意見がないので続ける事にした。
「全て石畳、とまでは言いませんが、伐採した森林に道を通す場合は締固めくらいはしないと、雨が降った後に馬車の車輪が泥にはまります。路面が最悪だった場合は、整備した時に出た砂や砂利を敷いて固める事も必要でしょうね。急だったので資料や計画書がないですが、一つ上げるとしたらこの辺りでしょうね」
俺は三人がメモを取り終わるのを待つのに、お茶を一口飲み、皆の手が止まったとこでもう一度口を開く。
「街道整備っていうか、こういうインフラは本当は軍にやらせたいんですが、まぁ俺にそこまでの権限は多分なさそうですし、視察をして計画書を書いてヘリコニアさんに提出します。あ、もう一つの利点は進軍速度とかですね。欠点は攻められたら相手も同じ条件ってところです。末端の寒村や海のない内陸の塩の価格は多少下がるかと。国境を越える際の税金関係は専門家に任せれば、他国との貿易戦争になる事はないと思いますがね。それもやれと言われればやりますが、門外漢なので、多少時間は頂きたいです」
俺が言い終わると、ヘリコニアさんが苦笑いをしながらカップに口を付け、トレニアさんも眉を寄せて、ペン軸を人差し指でトントンとやっている。
「資料を見てある程度は覚悟していたが、まさかここまでの事をそらんじるとは……。迷い人は侮れないなー」
「迷い人は皆この様に教養があるのですか?」
「あー、うん。ニワトコの事、もう少し馬鹿だと思ってた」
「ロディアにそんな事言われたら、なんか涙出て来るわ……。まぁ、今言ったのは多少特殊ですが、ここの城で働けるくらいの計算や小難しい事くらいは、季節が十五順する頃にはほぼ全員と言って良いくらいできると思いますよ。更に二十順する頃になれば、もっと特殊な事も習います。俺みたいにまじめに仕事をやって貴族に睨まれるか、賄賂を貰うかは性格によりますけどね」
「で、一ついいかい? インフラってなんだい?」
ヘリコニアさんは、苦笑いをしながら書いたメモを、指でトントンと叩きながら俺に聞いてきた。癖なんだろうか?
それと単語が存在しないから、翻訳されないのかもしれない。
「下支え、下部構造ってな感じで、皆の下地になる感じです。道路なんか整備すれば誰だって使うんですから、基本みたいな物ですね。他は公共施設を充実させたり、港や河川の整備ですね。この辺をもう少し整備すれば、自然と利用者も増えて、災害も減って収益は上がるんじゃないですか?」
俺は大きく息を吐き、残っていたお茶を全て飲み干して、ヘリコニアさんと今後の事で話し合いを進めた。
ちなみに筆記用具はロディアから借りた。