表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/59

第29話 リアルと劇の違いは魅せる事だと思う 後編

 数日後。劇を鑑賞するので家族全員で劇場に向かう事になっているが、俺は恥ずかしいのでノコギリみたいな名前に出てきた映画の仮面を取り出し、コートの中に忍ばせていたが、膨らんでいるので簡単にばれてロディーに取り上げられた。

「家族と一緒にいるんだから、本人だってバレバレよ。髪色でわかっちゃうし。ってかなんでそんな事しようとするのよ」

 一緒に部屋で待機していたロディーに突っ込まれ、あきれた様にため息を吐かれた。

「恥ずかしいから仕方ないだろ? しかも劇団員に顔は割れてないかもしれないし、俺の顔を知らない人もいるだろうから、最後の抵抗だよ」

 俺はロディーが嫌そうな顔で仮面を持って、じろじろ見ていたので奪い返して顔に付けた。

 うん。ゲームをしよう! って気分になるな。やらないけど。

「ってか、本当それ不気味よね。仮に王族がお忍びで付ける為の仮面にしても、もう少し品って物が……」

「んーそうかなー? 豚のお面でも良いけど、口の辺りがこう出っ張ってるのがなかったし」

 俺はにらみつける様に少し顎を下げ、ロディーを見ると一歩下がったので可哀想になったから仮面を外して、おでこの辺りを軽くコンコンと叩いてからコートの中にしまった。


「豚って罪人が付けるような奴よ? あと本当にソレを持って行くの? 何個か普通のがあるから、それを持って行きなさいよ」

「いや、それだけは譲れない。結構お気に入りなんだよね」

 本当後味の悪い映画だったけど、ホラーゲーム風鬼ごっこに豚と一緒にゲスト出演してるし、仮面だけなら年末の飲み会で付けてたんだよね。

 結構社内にもファンがいて、子供が乗らなくなった三輪車を翌年持ってこようとしてた、銀色全身タイツの人が止められてたくらいだ。でも翌年に豚のお面で対抗してきたけど。

 そんなやりとりをしていたら、準備ができたとアニタさんが呼びに来たので、劇場に向かった。



 劇場に着いたら着いたで、なんか顔を売る為に座る、劇を見るのにはなんか微妙な突き出ている二階席に案内されたので、早速お仮面を装着したらしたでヘリコニア義兄さんとトレニア義姉さんが、左目を細めて見た事のない変な顔になった。

「ず、ずいぶんと個性的な仮面じゃないか」

「そうね……。なんか、こう、近寄り難い雰囲気が出てるわよ?」

 やっぱり不評みたいだ。悲しくなるなぁ……。

「外します。外しますよ……」

 俺はため息を吐きながら仮面を外し、後ろに控えていたアニタさんに仮面を渡すが、やっぱり少しだけ嫌な顔をしていた。

 見る人によっては不気味だし、この世界じゃ知られてないから余計か。

 とりあえず右の方を見ると、別な突き出ている席で義父母が二人で座っており、向かいの席を見たらサルビアの父親と思われる男性と女性、アルテミシアさんと同じ髪色の人が二人座っていた。多分二人の両親だろう。

 その隣には若そうな赤髪と薄い緑の髪と青髪の女性、多分サルビア達だろう。その隣に青髪の夫婦らしき人がいるので、関係者のほとんどがいるっぽい。本当こういう時にオペラグラスって欲しくなるな。

 ってかサイネリアさん一家も招いたの? 本気か?


「今から気が重いんだけど……」

「折角の劇だ。楽しまないと損だよ」

 ため息を吐いたらヘリコニア義兄さんが笑顔で親指を立てたので、ジト目で親指を立て返しておいた。

「ヘリコニア義兄さんは関わってないからいいですよ? 俺は半端に関わってるんすよ?」

「あら、いいじゃない。劇の役になれる事なんか滅多にない事なんだから」

 トレニア義姉さん……。俺のいた時代でコレは、実話を元にしたフィクションって奴っすよ。

「個人的には勘弁して欲しいですけどね」

 やっぱりこの時代の考えは、合わないところが多い。だって俺からしたら晒し物レベルだぞ? 住所がばれて、なんか知らない人が訪ねて来ちゃうのと、同じレベルだぞ? 人気動画配信者的なアレ。

「私はある程度知ってるから、前半の鉱山行きになる前がどうなっていて、見せ物としてどんな風に変わってるかね」

「どうもこうも、劇用に大げさに改変されてるだろ……。最悪俺が鉱山で兵士相手に無双もありえるか?」

 もう時代劇終盤の殺陣なんかヌルく見えるレベルでやりそう。

 そんな事を話していたら幕が上がり、進行役なのか団長なのかは知らない人が挨拶をし始め、終わったら拍手が鳴り響き、頭を下げて袖に引っ込んでいった。


「おーほほほほほほ。この毒でサルビアを殺せば――」

 一旦下りた幕がまた上がり、なんか高価そうな部屋の背景と、サルビアの義母だと思われる女性が立っており、毒殺がどうのこうの言ってサービスワゴンの上に置いてあるティーセットの脇の砂糖と入れ替えていた。

 そして何も知らないと思われるメイドさんが、サルビアの所まで運び、お茶を煎れて去っていくが、砂糖を入れずに飲んで母親が悔しがり、あの手この手で毒を仕込むが、サルビアが見事に手を付けない演技をしていた。

 ふむ。こうやって偶然かわしていたんだな。こうして見ると、地位のある人が毒を特定の人物に仕込むのって、難しいんだな。

 不特定多数を殺すなら、スープに仕込めば良いだけだしな。



 そしてなんやかんやあって場面が変わり、背景が執務室的な場所で机に座り、紙を持って文字を書く演技でわかりやすくしており、そこに鎧を着た人達がなだれ込み、罪状を言ってサルビアを拘束し、義母役が喜んで自分の息子が貴族になれる様な事を言い、義弟と手を取り合っていた。

 牢屋に場面が変わる時にステージが回り、早着替えでも見せたかったのか、服が麻のシャツとズボンに変わり、髪の毛がボサボサで牢屋の中で大げさに叫び、鉄格子を揺らすがビクともせずに悲観しはじめ、馬車に乗せられて黒髪のボサボサ頭の男が途中で乗り込んだ。

「俺はナツメ。よろしくな!」

 そこで俺は小さく噴き出し、笑いを堪えるのに必死だったが、ロディーに膝を叩かれた。

 だって仕方ないじゃん? あんな爽やかにしてないし。しかも男の俺でもわかる美形だ。

 しばらく馬が歩くような音が鳴り続き、俺とサルビアの会話シーンが入るが、そんな事言ってないよ? のオンパレードだった。


 そしてステージが九十度回って、サイネリアのシーンが入る。

「婚約者のサルビア殿が、不正を働き鉱山に連れて行かれた。犯罪者をいつまでも婚約者にしていられん。婚約の破棄を正式に伝えてくる」

「そんな! サルビア様……。不正を働く方ではないはずなのに……。私にできる事をしなければ!」

 サイネリアは自室で泣く様な演技をし、初めて会った時の事を語り出し、色々と贈り物をしてくれたりと、甘い思い出を言いながらサルビアの良いところを言い、役の価値を上げまくっていた。

 そして背景が岩だらけになり、俺とサルビアがモッコを担いで歩きながらお互いを励ましあい、途中でダンスっぽい物も挟まり、食事シーンになった。ミュージカルかな?

「俺はもう我慢できない! 俺はここから逃げるぞ!」

 そして俺が拳を突き上げた後に兵士を殴り、ぞろぞろ出てきた兵士達をボコボコにしはじめ、棒で後ろから殴られて一瞬動かなくなってからわざとらしく倒れ、サルビアが俺の上に多い被さってかばってくれている。

 劇としてはサルビアが主役だからこれで良いし、見せ場を作るのにはこんなもんだろうと思いながら見ていた。

 殺陣はなかったし、わかりやすくやってくれていたので助かったわ。だって盾になった兵士もいなかったし。本当一般向けだね。

「こいつは独房に連れて行け」

 俺がぐったりしながら兵士に連れられ、退場してしまった。


 独房にいた時にサルビアはモブとモッコを担いでいたが、ステージの横では義母と偉そうな奴が、わかりやすく金を渡したり談笑をしており、私刑にして事故に見せかけろとか、次の見せ場の準備をしていた。

 そしてサルビアが兵士に捕まり、押さえつけられ、殴られそうになった瞬間に俺が現れて鞘ごと殴りつけ、危機一髪で助けだし、ロディーとアルテミシアが兵士を引き連れて現れた。

「サルビアじゃないか!」

「君は……アルテミシア!」

 うん。なんか始まった。劇って言うより、もうミュージカルだな。

 意味もなく俺とロディーも台詞を言いながら踊ってるし。見せ物としてはいいね。ここまで来ると、あの囚人達に掘られた男……名前は忘れたけど、そいつの登場はないだろうな。

「騙していてすまなかった。私の本当の名はニワトコと言い、ロディア様の命で潜入調査をしていたのだ」

「このニワトコ様との出会いが、私の人生を大きく変えたのだ」

 サルビアがわざとらしく両手を広げ、四人で偉そうな奴を成敗し、そこでやっと俺の身分が明かされ、途中からはアルテミシア家で過ごしているシーンが続いた。

 そしてサイネリアはサルビアの事を思い、心配しつつ泣きながらベッドに突っ伏し、自分にできる事がないかと動き始めていた。

 本当にこんな事になっていたんだろうか? 学校に通ってたよね? まぁ、こんな突っ込みは無粋だな。



 灯油関係はすっ飛ばし、道作りをするから私の部下にならないかと俺が再登場し、難しい計算やら人事的な事、資金のやりくりをさせられ苦悩しているが、自室でダンスを踊りながら自分の知識が増えて喜びを感じているサルビアを見ていると、少し笑いそうになってしまった。

 確かに特殊な計算はあるけど、基礎があればできる物が多いし、スキルアップで自分磨き的なアレで、成長していく様を出したかったんだろう。

「証拠がそろったわ。それに今度のパーティーにニワトコ様がご出席なさり、その為に義母や義弟が挨拶をする情報を掴んだの。今こそ憎き相手に制裁をしましょう!」

「あぁ! その為に私は苦汁を嘗めながら今まで自分を磨いてきた。そのパーティーで全てを終わらせる!」

 あー……うん。見せ物としての主人公的には問題ないんだけど、色々と本人を知ってる側からしてみれば、つっこみどころ満載だなぁ。

 最初はほとんど俺がやってたじゃん? ってか残りの貴族の部下三人も登場なしか。可哀想に……。



「今ここで恨みを晴らす!」

 パーティー会場で色々と始まるが、劇が一番盛り上がっている感が凄い。お芝居とか劇を全然見に行かないが、素人でもなんとなくわかる。

 そしてサルビアはわざとらしくナイフで義母を指し、襲いかかろうとしたところでナイフを落とし、どこからか瓶が転がった。

「止めろ! お前は私の部下だ。そんな事で自分の価値を下げるな。そんな事をしなくても私の部下として活躍し、見返すだけで十分ではないか! 奴等の罪は色々な証拠と共に明白になっている。殺す価値すらない! 兵士達よ、この者を連れて行け!」

 俺が命令すると、義母と義弟が兵士達に連れて行かれ退場した。

「ニワトコ様……」

「小者を殺し、お前に親殺しの汚名が付く事の方が、私にとってかなり悲しい事だ。ここは法に任せ堂々としていろ。友人(・・)からのお願いだ」

 んー。色々突っ込み所満載だけど、先入観なしなら友人って台詞でサルビアが報われるんだろうな。王家の人からそんな事を言われるんだし。


「サルビア様!」

 おぉっと。やっとヒロインの再登場か。パーティー会場の裏の方でモブ感だしてたけど、バレバレだったんだよなぁ……。

「サイネリアか。父から婚約破棄の件は聞いた。婚約者が投獄され、鉱山送りになったから仕方がないと思うが、一度破棄されたからには白紙。この件については、後日落ち着いてからしよう」

「そんな! 無実の罪とは知らず父が早合点したのを怒っていらっしゃるのですか? 私はサルビア様がそんな事をするはずがないと信じておりました。どうにか証拠を集めようと必死に動いておりました! なのに!」

「この件は後日と言ったはずだ。それに……この様な場所でする話ではない」

 んー。これはアルテミシアさん抜きの、サイネリアさん正妻ルートか?

 俺はなんだかんだで劇を楽しんでいるが、イフルートとしては良い感じになってきたな。


「サイネリア殿。ここはサルビアの言う通りにした方が良い。人の目があり、ここで話しをする様な内容でもない。だれか、サイネリア殿は錯乱している。別室に連れて行ってあげなさい」

 確かにあの時、そんな事も言ったなぁーと思いつつ、どうなるのか続きを大人しく見ていたが、舞台が九十度回り、片方にサルビア、もう片方にサイネリアが出てきた。

「まさかサイネリアがパーティーに来ていたとは……。全てが終わってから、こちらからもう一度正式に婚約を申し込もうとしていたのだが……。ニワトコ様に止められなかったら、サイネリアの前で私は義母を刺すところを……。それこそ怖がられて嫌われていたかもしれない」

 サルビアはベッドに座り、頭を抱えながらなんか葛藤している。

 あそこで刺してても噂は出回るだろ。この辺は劇だなぁ。もしかして俺って劇とか楽しめない人間かもしれん。

「私は……。サルビア様に嫌われてしまったのでしょうか。私が助けなかったのがいけないんだわ……」

 サイネリアは負の感情に押しつぶされそうになっているが、ドアがノックされアルテミシアが入って来て、家で匿っていたが物凄く気にしていたみたいな気遣いをして慰め、サルビアの部屋には俺が行き、きっと大丈夫だ。時間が解決してくれる。愛があれば問題ない。最悪自分も手伝う的な事を言っていた。言ってないけどね。


 そしてここからは俺が知らない展開なので黙ってみていたが、家族の話し合いで謝罪から始まり、再び婚約をしてくれないかと話が進み、デート後にステージ上で二人のダンスが始まり、自室に行ってベッドの上でキス寸前で幕が下りた。

 劇としては良いと思うけど、史実的にアルテミシアさんが可哀想だな。にしても見事にどん底からの復讐劇で、ハッピーエンドにまで持って行ったな。

 そう思っていたら幕が上がり、出演者の挨拶が始まったが最後の最後になんかゲストとして一人の男がステージの中央に立った。

「我が劇団のライバルであるパピー劇団は、サルビア様の復讐劇を見事に完成させましたが、ライバルである我々キテゥン劇団はニワトコ様がフローライトに来る前。砦時代からのシナリオをただいま作成中であり、次の春以降に公開を予定しております。それを基に小説やおとぎ話も作られますので、どうぞお楽しみに。そうそう、多少大人向けではありますので、お子様にはおとぎ話だけにしておいてください」

 男はよく通る声でそう言い、大きな拍手が鳴る中で俺は顔を押さえながら盛大にため息を吐いた。

「こうして事実とは違う誇張された物語が、世に出回るのか……。勘弁してくれ。俺の劇は絶対に見に行かねぇぞ……」

 そう呟き、ヘリコニア義兄さんの方を見るとニヤニヤとしており、義父母の席の方を見たら、やっぱり義父がニヤニヤしていた。

 帰ったら、どうからかわれるかわかったもんじゃねぇわ。まぁ、孫ができたら一緒に読んでもいいかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 国から逃げていいんじゃないかな?ニワトコ
[良い点] 子供が出来たら自慢話が出来ていいじゃないかニワトコ!!!!
[一言] 更新お疲れ様です。 なかなか難儀なサルビア一家(^^;; 劇仕立てのサルビアの復讐&復権劇。 ニワトコは誇張された自分の姿(それでも自分主人攻撃よりはるかにましでしょうがw)に若干悶絶も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ