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第28話 野菜が多いって、人にとってはある意味恐怖だな前編

前後編の前編です。二話同時投降です

 サルビアのいざこざに巻き込まれてから二日後。俺は明日の視察に行く準備を終わらせ、書類の山をどんどん低くしていたら、ドアが鳴ったので返事をしながら外を見たら、丁度お茶の時間くらいだったので一息つけると思ったら、トレニア義姉さんの所のメイドさんが入ってきた。

「トレニア様が、塩に強い植物の件でお話があるそうです。お手数ですがお越しいただけないでしょうか?」

「わかりました」

 丁度お茶の時間を狙っての呼び出しか……。今日は城にいたんだな。

 珍しいなと思いつつペンケースを引き出しから取り出し、俺は大人しくメイドさんについて行った。


「呼び出しちゃってごめんね、お義兄ちゃん」

 執務室のドアが閉まり、トレニア義姉さんが申し訳なさそうにしていた。

 既にお茶が二つ用意されており、ロディーとヘリコニア義兄さんの乱入はないと考えて良いだろう。

「平気だよ。お義姉ちゃんの方が忙しそうだし」

「お義兄ちゃんは明日視察に行くんだから、終わらせておかないといけない書類とか多いんだし、忙しいって事にしておいて」

 トレニア義姉さんが、いつもよりゴチャゴチャした執務机から立ち上がり、ソファに座って手の平を指してきたので、俺も座ってお茶を飲み始めた。

「でね、師匠から塩に強い植物とその種、説明書きが先日届いたの」

 そう言ってトレニア義姉さんは、俺の死角になっているテーブルの足下から、プランターを置いた。わざと隠してたな。

 そして葉っぱにはブツブツができており、地球で見た事のある物そっくりだった。


「名前はソルトリーフ。種を植えて海水を与えて育つ、かなり珍しい品種。だって」

 翻訳されてるから名前がアレだけど、まんまアイスプランツだな。海水で育つから、それよりかなり強い塩分濃度でも育ちそうな感じがする。

「んー。あったのは良いけど、種が一瓶じゃ大規模な栽培はまだ無理だね。とりあえず一枚食べてみて良い?」

「どうぞどうぞ」

 トレニア義姉さんはニコニコとしながら進めてくれたので、なんか既に一枚取ったような跡がある場所の、反対側から摘み取って半分だけ噛み千切った。

「んー。葉っぱの形をした塩……。ジャリジャリしてないだけマシかな?」

 俺は顔を歪ませ、お茶で口直しをした。アイスプランツよりかなりしょっぱい。


「これなら海水に浸かった土地でも、問題はなさそうだと思わない?」

「ですねぇ……。海水で育つなら問題はないかと。育ったら乾燥させて砕き、瓶詰めで香辛料みたいにすれば、パスタに振りかけたりできそう。パンに練り込むのもありかな? とりあえず塩害の出てる土壌で、発芽時期に鉢に植えて様子見? かなぁ……」

 俺は歯で引きちぎった葉っぱを、指でクルクルと回しながら答えた。

「それが妥当よねぇ。師匠にレポートの提出が種を譲ってもらう条件だから、もうちょっと何かないかしら?」

 トレニア義姉さんは少し妖艶な笑みを浮かべ、ねだる様な感じで聞いてきた。フィールドワーク用の服じゃなく、ちゃんとしたドレスで、胸を強調させれたら大抵の男は胸に視線は釘付けだろう。ニット生地やシャツでも効果は高そうだ。


「んー。水耕栽培かな? 海水で育つなら、濡らした綿とかスポンジに種を乗せ、そのまま太陽の光だけでどうなるかの実験? 球根みたいな花なら、水と太陽の光だけで花が咲くから、やってみる価値はあるかも」

 ヒヤシンスの水耕栽培とか、二十日大根の種だかを湿った脱脂綿に乗せたりとか小学校でやったし、家庭用のベビーリーフ育成装置的な物もあったしな。

「植物の育成には基本的に光と水、それに土の栄養が必要ですけど、種って水分がないと発芽しないからって事で、一個ずつ分けて実験とか幼少期の教育機関でやってたんですよ。蘭とかって、木のくぼみに根っこを伸ばしまくって育つ訳ですし?」

 俺はなんとなくそれっぽい理由を並べ、レポートに必要なヒントっぽい事を言ってみる。釈迦に説法だと思うけど。

「んー。そうねぇ……。海水に浸かった土で育つ植物で、余ってる土地の有効利用するためだけど、水だけの栽培は船での育成でー。ってな感じでいけるかしら?」

 トレニア義姉さんは頬に指を中て、右の方を見て何か考えているみたいだ。

 ってかもう片方の腕を胸の下に入れないで! 肘を掴んでいるから胸が強調されるんだよ!


「レポートなんだし、海水がドバーって陸に来ちゃって、種がヒタヒタに浸かっちゃったって前提で良いんじゃない?」

「そうね。根腐れ関係でも書けそうだし、それでいってみるわね」

「ならこっちは、次の発芽時期に試験的に植えるための土地の確保を、レール関係で製塩所に行った時にでも。それといかにして商品として価値を上げるか。その後の宣伝文句と販売先、吟遊詩人の確保もかな?」

 俺はペンケースから紙を出し、一応メモを取っておく。口コミって結構馬鹿にできないし。

 他の香辛料と良い感じで混ぜて、これ一本! 的な? 冒険者やってる人に売れればでかいかもしれない。カレー粉的な感じで。

「あ、こっちで育てるのに、土はどのくらい必要? 持ってくるよ?」

 入った事のない、多分あるであろう温室的な場所や、近隣に確保しているであろう土地で育てるのに、俺は一応聞いてみた。


「んー。半分は何かあった場合にとって置いて、その半分を種取り用と実験だからー……。荷馬車の荷台を一台分かしら?」

 一台? 多くね? 種って瓶一本分なんじゃないの?

「塩害対策として、荷台毎水の漏れない箱に入れたいし、半分でもいいのかしら? うん、とりあえず荷台の縁ぴったりで一台お願いしてもいいかしら? んー。同じ量の土に塩を蒔くのと、どっちがお金かからないかしら?」

 トレニア義姉さんは首を捻りながら考えている。

 さっきと同じ姿勢なので、首を動かした時に胸が少し揺れた。本当凶悪だなぁ。ってか、あれだけで揺れるのかよ……。


「実験用として現地の土と、塩を蒔いた土って事で良いんじゃないカナー? 荷馬車とかの移動費もあるし、違いも確認できる。小麦袋で二個か三個持ってくれば、プランターでも育てられるし、帰りの荷物が少し増えるだけになるじゃん?」

「それもそうね。それが一番安く済むわね。じゃあ悪いんだけどお願いできるかしら?」

 トレニア義姉さんは微笑み、お茶の入ったカップに手を伸ばしたが、支えのなくなった物が重力に負け、大きくたゆんだ。二人っきりは精神的に参るわー。マジでヤバいわこの義姉……。

「はいはい。じゃあそれでいこうか。じゃ、俺はこの辺で……」

「まだ来たばかりじゃない。お茶ぐらいゆっくり飲みましょ? ね、お義兄ちゃん」

 俺は立ち上がろうとしたら、やんわりと止められた。立ち上がれなくなる前に、立ち去ろうとしてたのに……。

 男ってそんなもんだしな。パートナーがいても、目が行くものだって本当だな。

「はいはい。もう少し付き合わせていただきますよ……」

 俺は諦め、少しため息を吐いてトレニア義姉さんの鼻の辺りに視線を合わせる事にし、お茶の時間が終わるまで、ゴミを捨てるだけの土地改良方法の現時点での結果を淡々と聞いておいた。

 ってか本当無防備ってか、男に対しての視線を気にして。隣にロディーがいるありがたみが、ここの王族の女性陣と二人きりになってようやくわかったわー。

 そういやロディーも、会った時も今も王族だったわ。子犬とか小動物みたいだから忘れてたわ。



 翌日になり俺はロディーと一緒に製塩所まで向かうが、一キロ毎に看板がたててあり、フローライトまで残り約千歩とか書いてある。

 土木部隊でしか単位が使われていないため、とりあえずこんな表記なんだろうと思いつつ、俺は少し振動の減った道を十数キロほどニヤニヤと見ていた。

「んー。残りの距離がわかると、敵に情報が――」

 ロディーはなんかそんな事をブツブツと言っていたが、防衛時の撤退する時に引っこ抜けば良いんじゃね? って思ったが、常に人が歩いてれば紛れ込んだスパイにバレバレだし、この時代に情報を出しておくのも考え物だな。

 許可を出したの義兄さんだけど!



「では、多少なり宿泊客は増えていると?」

「えぇ。宿泊名簿を見てもらえばわかりますが、商人の増え方が多いです」

 俺は宿泊する宿の主人に話を聞くのに、いきなりカウンターに行き、普段通りの話し方でかまわないと言い、差し出された帳簿をペラペラとめくっていく。

 んー。月の概念がないから、日付が変わったら線を引いて翌日。ってな感じだな。

 そう思いながら宿泊名簿を見て、太い線を三十本数えるまでの人数と職種を数え、それより前や最初の方の人数も数えた。

 確かに少しだけど増えてはいる。でもそれより前の宿泊名簿を見せろってのも失礼だと思うし、このくらいにしておこう。

 ちなみにだけど、俺が部屋を出たのを察したのか、トニーさんが後ろで控えている。


「確かに多少商人の宿泊が増えているな。私のわがままで手を止めさせてしまい、すまなかった」

「とんでもない。ニワトコ様の作った製塩所と道のおかげで、こっちは助かってるんです。このくらいなんて事ないですよ」

 主人は両手を胸の前で振って驚いている。

 王族予定が、こんな簡単に謝るなんて思ってないんだろうな。気を付けないと……。

「そうか。ついでに聞くが、町の活気はどうだ? 商人の往来が増えたなら、多少は雰囲気で察してると思うが」

 俺はなんとなく食堂の方を見て、酒を飲んでいる行商人っぽい人を見ながら言ってみる。

「えぇ。近隣の村から物を売りに来るのが増えてます。今日の夕食の野菜は、その村の物を使ってます。大通りに露店が増えてますので」

「それは楽しみだ。では失礼する」

 宿屋の主人はニコニコとしながら言ったので、配膳されているスープを見てから本心を伝えた。


「うん。確かに美味い……」

 食事の時間になり、ロディーと今日の事を話しながら何気なくスープに入っている大きめの野菜を掬い、口に運んで少し長めに噛んでから飲み込み、自然と声が漏れた。

「どうしたの急に?」

「ん? さっき主人と軽く世間話をしてね――」

 そして軽くさっきの事を言い、だから声が出たと説明をした。

「王都に近い場所である程度の活気が出てるなら、製塩所に近い場所だともっと商人がいるかしら?」

「どうだろう。道が整備されてるのは、まだ王都に近い場所だけだからなぁ……。本当に買い付けに来た商人だけしかいなかったら、宿屋しか賑わってないかも。これも甘みがあって美味いな」

 俺は別な野菜をスープから掬い、口に運んで素直な感想を漏らす。


「それはそれで良いんじゃない? 空荷で来るって事はないから、目的地に着くまでに売り切るだろうし、最悪投げ売りとかすれば物が増えて、近隣から人も自然と集まるでしょ?」

「ま、そりゃそうだ。製塩所までの道が整備されるのには、夏くらいになるかもしれないけど、そんなの関係なしに栄えるかもなー」

 俺は空いているロディーのグラスに果実酒を注ぎ、自分のグラスも満たしておく。

「けど王立のは一般に販売してないから、近い場所の別な場所で買い付けでもしてるんかな? そうなると模倣して作ってるだろうから、そっちも安くなる。良い事なんだろうけど、詳しくはないけど価格の暴落とか価格競争とかめっちゃ怖い……」

 そして果実酒を半分程飲み、思い切りため息を吐く。

「その辺は……専門家が何とかしてくれるでしょ。できない事で悩んでたって仕方ないわよ。ほらほら、せっかくおいしい野菜があるんだからどんどん食べて、今はそういうのはなしにしましょ。はい、あーん」

 ロディーは笑顔で、なんかスープ皿にやけに残っているオレンジ色の野菜を俺に差し出してきた。


「もしかして、ニンジンは嫌い?」

 俺はロディーに聞きつつ、さりげなく後ろに控えていたアニタさんに視線を送ると、小さくうなづいた。嫌いなんだな。

「そ、そんな事ないわよ? なんかゴロゴロ入ってて、均等に食べたかったからニワトコにあげようかなーと」

「そう? じゃ、いただこうかな?」

 俺は差し出されたニンジンを食べ、ニコニコしながら良く噛み、仕返ししてやろうって気持ちが出てきた。

「はい、お返し。あーん」

 俺は残っていたニンジンの中で一番大きな塊を掬い、笑顔でロディーの前に差し出した。


「ほら、離れじゃこういうのはできないでしょ? 結構憧れてたんだよね」

 俺はニコニコしたまま優しく言うと、ロディーの笑顔が少しだけひきつった物に変わった。

「い、いや。ほら。均等に食べたいって言ったでしょ? ニンジンじゃなくてジャガイモガイイカナー」

 ロディーはニンジンを拒否しつつ、小首を傾げて笑顔のまま別な注文をしてきた。中々面白い断り方だな。

「えー。こんなに甘くて美味しいのに? もったいないよ。はい、あーん」

 俺は笑顔のまま目だけは笑ってない状況を作り、ロディーを見つめたままスプーンを口元まで持って行く。

「あ、いや。その……。ははは……」

 ロディーは微妙な表情で笑い、俺から目を背けて右手を前に出して止めて欲しいと、ジェスチャーで訴えている。

「嫌いだからって、人に押しつけるなよなー。なら最初から残した方がいいぞ? あー、もったいないって思って、食べる時もあるけど庶民だからなぁ、王族じゃ基本無理だし……」

 俺はニンジンをスープ皿に戻し、ジャガイモを掬ってロディーの口元に持って行くと、嬉しそうに口を開けて食べてもぐもぐとしている。

 こういう仕草は可愛いなぁ。戦闘とかその辺の男より強いけど……。

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[一言] トレニアにロックオンされてね?
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