第27話 勝手に俺を舞台に上げるなよ! 前編
なんか筆が乗り、気がついたら25000文字になってました。
区切りが良い所で分けると大体5000 10000 10000くらいの配分になります。
同時に三話投稿します。
夏も終わり、木々が段々赤や黄色になり始め、そろそろ秋になってきたなーと感じ始めた頃。
スラムの浅い場所に簡易的な宿ができあがり、治安回復も徹底しているので、大きな事件もなく運用はしている。
近所にはシーツとか衣類を洗う人達も雇い、薄利多売な飲食店もかなり賑わっていると報告が来ているし、あの辺り一帯の改善は少しずつできていると思う。
後は仮設住宅に入ってくれている人達の、不満が爆発しない程度には、早めに区画整備しつつ住宅を建てないと。
けど火災対策の為に、少し密集しない様にしてるから、住める土地は少なくなる。一応住み心地が悪くなって出て行く人や、二階建てのアパート? コーポ? 的な物も作れば問題ない様にはなってるけど……。
そしてそれを繰り返してれば、スラム化した一帯を下級区くらいまで引き上げる事は可能だろう。
だけど何年かかる事やら……。これはただの切っ掛けだし。
そしてやっぱり来た、灯油を使った訓練の報告書だけど、とにかく危険だって事を理由も書いて、五枚くらい返事を書いた。
訓練風景も見てたし、安全対策として水や砂がないし、こぼれた液体や気化したガスが広がって、思わぬ場所で火がでたり、風向きやらで火の竜巻とかも発生するとか。
最悪防火服や、風とか使える軍に所属してる魔法使いに頼んで、吸っても苦しいままの空気で消す方法をあみ出せと強く書いた。
ちなみに執務室で見た巨大な火柱は、防壁からかなり離れた場所で、魔法使いのファイアボールを使って着火したらしいけど、熱波で軽傷多数。
魔法使いの証言で、あのレベルの魔法だと、国内で使えるのは数名で、使ったら一日寝込む程度の規模。
報告書が来た翌日に現場を見に行ったけど、よくもまぁ草原に飛び火してなかったなーって規模。聞いた話では、近くの森から鳥が一斉に飛び立ったとかの証言あり。
灯油ってこんな規模で燃えるん? って思ったよ。実はなにか俺の知らない魔法的な作用がある物体とか液体混ぜてない? 本当勘弁してほしいよ。
後はトロッコのレールの生産を、鍛冶屋のおっさん主導で横の繋がりを使ってもらう様にして頼んで、最悪俺の名前を出して良いと王室専用の紙やらスタンプ? 国璽? を押した物を渡した。
そして離れの裏手に合計で十メートルくらいのレールを、土木部隊の人達に頼んで事前に敷いてもらい、キッチンで使うパン用の小麦が入った袋を積んで軽く押してみるが、簡単に進んでくれた。
ちなみに箱型ではなく板が乗っているだけだけど、一応定義的にはトロッコのはず。
持ち手の根本のピンを外し、進行方向側の逆側に取り付けてから押して元の位置に戻し、特に問題はない事が確認できた。
なるべく平らな板に、果実酒なんかが入っている透明の瓶に水を半分入れ、倒して固定して作った、なんちゃって水平器で左右のレールの高さを確かめる。
「下地と枕木って大切だよなぁ……」
手作り水平器をもって立ち上がり、小麦の袋をキッチンに運ぼうと思ったら、見習いメイドさんのまとめ役の一人である、腕っ節が強そうなおば様メイドさんが代わってくれた。
俺が持って来たから、俺が戻すのが道理なんだけどなぁ……。そう思いながらお礼を言い、執務室に戻ってトロッコの報告書を書いていたら、なんか外から楽しそうな声が聞こえた。さっきまで聞いていた独特な音と共に。
「何やってんだあのおっさん……」
窓から身を乗り出し、キッチンの方を見るとプロテア義父さんがトロッコの上に乗って、はしゃいでいただけだった。
国のお偉いさん……、ってかトップだな。それがそんな事してるから、護衛がオロオロしてるし、落ちない様に動くトロッコの左右に、付いて歩くのは中々にシュールだ。
俺は眉間を揉み、おっさんでもふざける時はふざけるし、同じ課にいた年上が、アホな事をしているのを見た事があるので、何となく気持ちは察しておいた。
キャスター付きの椅子を廊下に持ち出し、座ったまま壁を蹴って、どこまで進めるかとか。サーファーごっこなのか、持ち込んだ銀色の全身タイツに着替え、変なポーズで何かわからないBGMを口ずさみながら、台車に乗って押してもらってたりしてたし。
たしかあの人も三十は越えてたはずだ。プロテア義父さんも誕生日がわからないので、まだ三十五歳程度だとしても、そんな事をしてても問題はないはず。あれが超進化した奴が電車だしな。
「これがトロッコか。随分と簡単に押せるんだな」
少しだけ重くなった足で、キッチンの裏手のレールの所に行くと、そんな事を言ってきた。
「第一声がそれですか……。色々端折りますが、摩擦とかの関係でそうなってます。先ほど小麦の袋を乗せて試しましたが、問題ありませんでした。鍛冶士の所でも、鉄のインゴットをかなり乗せても問題ありませんでしたよ」
プロテア義父さんがトロッコに片足を乗せ、軽く押しながらその上に飛び乗り、膝を曲げてバランスを取りながら面白そうに往復しているが、俺は突っ込みを入れずに軽く目で追うだけにしている。
「そうか。どのくらい乗せられるか不明だが、落ちない程度に積んでも、一人が運べる量をかなり超えるのは確かだな」
プロテア義父さんは、俺の前でゆっくり動くトロッコから飛び降り、ちらりと護衛達が止めたのを見てからにこやかに言った。
「で、だ。ティカとシルベスターからの報告で、作法的な物は問題ないと聞いている。叙爵式の前に社交界にでも出て、練習しても良いだろう。それに――」
プロテア義父さんは途中で言葉を区切り、俺の耳元まで近づいてきた。
「レットセージ家の件もそこで色々やるつもりだ。そろそろ第二夫人の子供が表に出ると情報が入ったからな」
そう言ってから顔を離し、いやらしい笑顔でニヤニヤしている。
「頼んだぞ」
プロテア義父さんはそう言いながら、俺の肩を叩いて城の方に戻っていった。
いや、何を頼むんだよ。面白くしろって事か? なんでここの男共は、こういう事好きかなー。俺もあまり嫌いじゃないけど、晒し上げが基本なんだろうか? 貴族とかって怖いわー。
それとも時代かな? テレビとかがないから、なるべく大勢にわかる様にって奴か?
□
その後、書き掛けの報告書を書き終わらせ、夜にロディーとベッドでダラダラしていたら、社交界の話になった。
「ってな訳で、社交界は目立つ為にスーツでも良いけど、叙爵式は駄目よ」
「ティカさんから何回も聞いてるよ。ってか、サルビアの件で地味に動いてた事の方が驚きだよ」
ロディーは仰向けに寝ている俺の太股を枕にして、サラッと今日あったサルビアの件を話してくれた。
「毒殺やら鉱山送り。殺せって事で賄賂。毒の方は証拠がないにしても、鉱山は俺が一緒だったからなー。死刑?」
「一応貴族の後継者争いだからねー。所詮家の中での事だし、短期留置や罰金刑とか遠方へ追放かしら? 義弟の方がどのくらい関わってたかは知らないけど、そっちは爵位の取り上げ? 一般人として生きてくんじゃない? 父親がどの程度金銭面で支援するかにもよるけど、最悪そのまま放り出す?」
「そんなもんか。首謀者は斬首とかだと思ったわ」
確か貴族の犯罪的なのを、ドキュメンタリー番組で見た気がする。金を払ってほぼ無罪とか、関係者が金欲しさに出来レース的な裁判で、裏で話し合いつつ邪魔だから排除する感じで死刑とか。
こっちに来てからは、郷に入っては郷に従えでやってるから、どうなろうとも俺には関係ないけど。
俺に実害が出たら、徹底的に暴れて逃げるけどな。
「ねぇ。どうなると思う?」
ロディーは俺の上に覆い被さる様に乗り、胸に顎を乗せて上目使いで聞いてきた。
「とりあえず俺の俺が反応するから下りて欲しい」
そう言ったら二の腕の内側をつねられた。そこは……結構痛いんですけどぉ?
「そうだなぁ。基本的になるようにしかならないし、変に考えても仕方ないから、そいうのはあまり考えない様にしてる。どうしてもって言うなら、サルビアが幸せになる様に動いて欲しい。ってのが答えかな」
俺は目をつぶり、ロディーの髪をサラサラとさわりながら答えた。
「そうねぇ。無実の罪で貴族なのに留置じゃなくて鉱山行きにしたのは酷いし。落ち着いたら、アルと結婚まで行って欲しいわー」
「だねぇ。ロディーから聞いてる話だと、良い感じみたいだし」
「何で本人から聞かないのよ。結構会ってるんでしょ?」
「聞いて、気まずい答えが返ってきたら嫌だから。だから深いところまでは聞かない様にしてる」
久しぶりに会った友人や同級生に、今何やってんの? って聞いて、クビになって無職になったとか、返事が帰ってきたら気まずいしな。
「んー。そんなもんかな?」
「性格だよ。だから深い場所にある、プライベートな事までは聞かない。相談されたら別だけどね。そろそろ寝ようか」
そう言ってロディーをどかそうと、軽く腰の辺りをポンポンと叩いたら転がり下りて、俺の横にぴったりとくっついた。
「寒くなってきたから、一緒に寝たいなー」
「はいはい。暑くなって、寝苦しくなって布団をめくらなきゃ良いよ」
俺は上半身だけ起こし、少し分厚くなっている掛け布団を掴んで引っ張って寝ころんだ。
◇
「言葉は社交界だけど、六十日に一回開かれるパーティーの事だろ?」
義父のトロッコサーフィン目撃から数日後、ついにこの時が来た。
「そうね。けどニワトコのデビューだし、今後の事にも関わるから楽に構えないでね」
「そう言われると緊張するなぁ」
昼くらいから仕事を無理矢理切り上げさせられ、城の方にいるメイドさん達が五人ほど来て、髪を切られたり、入浴時に髭を剃られたり、香水なんかも付けられた。
かなりの力の入れようで、王家側の本気度がヒシヒシと伝わってくる。
「武器の持ち込みは禁止されています」
そして左腕前腕と右足首に付けていた、ダガーとナイフがメイドさんに没収された。
「仕方ない。何かあったら、テーブルにあるナイフとフォークでどうにかするか――」
軽くつぶやくと、メイドさんに大きなため息を吐かれた。けどロディーはニヤニヤしながら髪留めをいじっているので、あの暗器はばれていないみたいだ。
それか見逃されているか……。
「護衛がおりますので、極力自らどうにかしようとなさらないでください」
「……はい」
そして注意をされたので、渋々返事をした。パーティー中に使える物でも探しつつ、袖の中にくすねとくか。
テーブルから一本くらいナイフがなくなっても、気が付かれないだろ。後は下級兵士時代仕込みの、食堂での喧嘩流だな。何かあったらの場合だけど!




