第25話 初運用はまぁまぁだね
どこで区切っても中途半端になりそうでしたので、長くても一話にまとめました。
書影は色々な所で出ておりますが、おまけSSなどの情報解禁日が今日でしたので、投稿が遅れました。
あれから三日後。俺はつなぎ姿でヘルメットをかぶり、土木部隊を引き連れて海側の門の前に集合して開門を待たせていると、先日殴った男を先頭に二十人くらいの男達が現れた。
「おう、来たぜ」
「遅刻したらそいつは休みって事で帰らせるつもりだったが、よく来てくれた。俺は今から立ち上げた土木部隊の運用初日って事で挨拶をするから、これから移動するこの兵士の後ろに並んでくれ」
そう言うとガヤガヤとし始めたが、開門と同時に防壁の外に出て道からはずれた場所に兵士を並ばせ、スラムの男達はその後ろに並び始めた。
「諸君。道を造る、整備するというのは地味できつい仕事だと思うが、これは全ての物事の要になる最重要な仕事だと思え。むしろ私は思っている。道が綺麗ならどこにでも行ける。馬やロバも走りやすく重い荷物を載せた荷馬車も素早く移動できる。寒村への行き来も楽になり、物資の流通が良くなり結果的に全ての国民が得をする。この中に寒村の出身者はいるか?」
俺は辺りを見回し、誰も口を開かないので一拍ほど溜めて口を開く。
「もしいるのなら想像して欲しい。森にある細い道で木の根が地面からボコボコ出てて、窪んで泥水が溜まって移動しにくい道を。それが綺麗に整備されて、商人が頻繁に行き来しはじめその度に賑わう広場を。そして村の新鮮な収穫物を買った商人が町へ行き、それが我々の口に入る。道というのは物流の要だ。その事をどこか頭の隅にでも置いておいてくれ。さて、長い話は嫌われるのでこの辺にしておくが、これは自分達の為であり、国民の為でもある。その事だけは忘れるな。以上だ。サイモン、何かあれば一言」
俺はとりあえず隣にいたサルビアに投げると、え? 俺? みたいな顔で俺を見た。俺の次に偉いんだから、これは仕方ないよな?
ってかサルビアを含む貴族達なんか、汚れても良い格好って言ってあったのに、乗馬服みたいな、貴族のスポーツ! 的な服着てんの? 俺の服なんか、スラムにいた男達よりちょっと良い服だし……。
まぁ、兵士は用意した目立つ色の服で揃えてるからさ、支給された服ってな雰囲気が出てて問題はないよ?
この中でつなぎってどうよ? めちゃくちゃ浮いてるじゃん……。
「ニワトコ様は道の事しか言っていないから、私が補足しておく……。お前達は兵士になれないからこちらに来たと思っているのか? それは違う! できる事はできる奴に任せればいい! これはお前達にしかできない事だ! 綺麗な道を造り、兵士達の疲労を最小限に抑え、自分達を敵より優位にさせる為の大切な下準備だ。お前達は出来損ないなんかでは断じてない! 立派な兵士だ! 腰抜けじゃなければ返事をしろ!」
「「「フーアー!」」」
陸軍式かよ……。誰が教え込んだんだ? まぁ、迷い人だろうな……。ってか三日前の視察の時なんか、全員了解って言ってただろ……。部隊で差別化でもしてんの?
そしてこれが貴族として生まれた奴の言葉か……。俺とは全然違うなー。ははは……。
これから俺の立ち位置とかどうすっかな……。
つまり俺はまだ、この王族や貴族社会に馴染んでないって事だよなぁ……。
ってかスラムの男達なんか目を見開いてきょろきょろとしている。なんで兵士がいるんだってところだろうか? それとも俺が貴族側にいるからか? 残念。半分王族です。
「さて。事前に部隊長や各班の班長には、道具の使い方や何をするかの会議をした時に来て、部下に教えていて、一部を除く全員が知っている前提で進める。まずは道幅を決めて杭を打ち、そこから百の紐を基準にどんどん整備していくぞ。各班、装備や体調に異常がないか、一列、三列は後ろを向いて確認はじめ」
「「服装よし! 兜よし! 顔色よし!」」
「「服装よし! 兜よし! 顔色よし!」」
兵士達はお互い向き合い、服装はしっかりしているか、ヘルメットはしているか、体調が悪そうではないかの確認作業を、指をさしながらしている。
この辺りは教えた通りだ。問題ない。
「「「異常ありません!」」」
「よし! 作業はじめ!」
「「「フーアー!」」」
俺がそう言うと兵士達は大声で返事をし、荷馬車にあった道具を取り出して準備を始めたので、スラムの男達の所に行く。
「さて……。さっきも言ったが、私の部隊は道を造る事だ。君達は本来ならば、後日立ち上げる予定だった王立の民間企業の方に行く事になるはずだったが、まだできていない。今から働いて基礎を学び、部下を率いる班長にもなれるが、どうするか今日の作業内容で決めておいてくれ。それじゃ、スコップやスレッジハンマーを持って兵士達の指示に従ってくれ」
未だにどうしたらいいのかわからない、スラムの男達に声をかけ、俺は今後の事を説明した。
事前に働いてれば、部下をつけても指示を与えられるはずだ。
「もう少し右だ! 行き過ぎだ! 杭を半分戻せ! そこだそこ!」
張った状態で垂れている糸を覗いている奴が指示を飛ばし、紐を付けた杭を持った兵士が百メートル先でちょこちょこ動きながら微調整をし、杭を地面に打ち込んでから七メートルの紐を張って道路幅を決めてから、また杭を打ち込んだ。
それを繰り返している間に、別の班は少しへこんでいる部分に土砂を入れて、そこをプレートで均して平らにしはじめた。
別の班は、少し出ている大きそうな石があれば掘り起こし、道の外に出した所に土砂を入れてプレートで均している。
「土砂を乗せた荷馬車を、締め固めた上を走らせてみろ。コレでへこんだら意味がないぞ」
「フーアー! 荷馬車が通るぞ! 少し道を空けてくれ」
「流れに問題はなさそうだな」
俺は一応スコップを持ちながら作業を見ていたら、サルビアが話しかけてきた。周りに人はいないので、口調はいつも通りだ。
「だな。一応平地での作業はこんなものだろ。問題は街や村から離れた中途半端な場所での休息と宿泊。山や森での作業ってところだな」
そして別な貴族は、多分二百メートルくらい先にいる兵士達と話をしているのか、十人くらいで固まっていたが、一人の兵士がこっちに走ってきた。
「報告します。約五千メートル先に大きな石があり、道路を真っ直ぐ引く障害となりますので、先行して破壊してまいります」
「……わかった。今日参加した男達も連れて行け。単純作業なら問題はないだろう。まて……私も行こう」
俺は馬車での移動中の風景を思いだし、確か王都を出て少ししたら、大きな石があったような気がしたので、一応行く事にした。
「良いのですか? 別にニワトコ様が行かなくとも、問題は処理できるかと私は愚考します」
「やってみて、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ。私のいた世界……まぁ、国だな。にある有名な言葉だ。上の者がまず模範にならんとな。んー……魔法使いはまだ土木部隊にはいなかったな。空いている荷馬車に必要な道具を乗せろ、何があるかわからないから、ある程度道具の種類は多めにな」
「フーアー!」
有名すぎてあまり続きが言われる事はないが、最初の方だけでも十分通じる良い言葉だよなぁ。
「ってな訳だ。力に自信がある十名を連れて行く。我こそはという者は前に出てくれ。別にいなくてもこちらとしてはかまわないが、来てくれた場合は意欲ありと判断し、今後のコレに関わってくる。少しだけ早く見習い期間が終わるかもな」
俺はスラムの男達に訳を話し、親指と人指し指で輪を作って見せる。
「いきなりの力仕事だ。自信のない者は他の事をし、兵士達の心情を良くすれば、もちろん少しだけ遅れるだけだから問題はない」
俺は指で輪を作りながら、来なくても給金に問題ない事も付け加える。
「俺は一人でも行くぜ。おう、お前達も行くぞ」
そう言って、俺が殴って気絶させた男が前に出た。体格も良いし、やっぱり力には自信があるんだろう。
「助かる。お前は人を引っ張る魅力があるからな。今後この仕事を続けてくれるなら、直ぐに班長になれるだろう。だが、そういう選び方は駄目だ。自信のある者を十名だぞ? 人にはその時の体調があるから、そういうのは顔色や本人の意志も聞かないといけない。倒れられたら責任は上に来るんだぞ?」
俺は真剣な顔をし、自分の胸を親指で指す様に叩く。
「お、おう。一つだけ良いか? おま……。貴方はどの様なお方なので?」
「んー……。隣にいる貴族様より上なのは多分確かだ。俺は別に言葉使いは気にしないけど、他の奴は気にするから気を付けろよ」
俺は腕を組んで少し考え、親指をサルビアに向けながら答えた。王族予定って言うよりはマシだろう。
「も、申し訳ありませんでした!」
男は姿勢を正して謝罪をしてきた……。サルビアの爵位ってなに? って後で聞いた方がいいのかな?
アルテミシアさんの親が公爵だろ? そして親同士が仲が良いって事は、同じ様な境遇なのか? もしかして公爵の息子?
あれ? 公爵の上ってあったっけ? 大公は王様以外の公だから、ヘリコニア義兄さんとか、トレニア義姉さんとかだよな? 結婚とか正式なお披露目をまだしてないしな……。んー。もしかして、まだサルビアより下だったかもしれん……。
「気にすんな。なんかするなら、最初に絡んで来た時にしてる。だけど、他に人がいる時は気を付けろよ? さ、お前がこの中じゃ偉そうなんだから、皆を率いる為にさっきの事を踏まえて、よく話し合ってから選んでくれ。サイモンは残って他の者の指導を頼む」
「はい。初日くらいはどの様な仕事か見ておかないといけませんからね」
まぁ、王族の子供に偉そうな大人の貴族が丁寧に接してる事もあるし、一応問題はないだろう。
とりあえず笑顔で男の二の腕を叩き、残りの九人を選ばせる事にした。
「んー。向こうに着いて、準備をしたら軽く休憩だな」
俺達は荷馬車に乗り、太陽を見ながらそんな事を呟いた。
「休憩なんてあるんですか?」
「あぁ。ぶっ通しで作業するより、休憩を挟んだ方が効率は上がるからな。すまん、兵士達には言ってあるが、お前達には言ってなかったな。もう少し遠く……。村と村の間の何もない場所に泊まる事もある、その時の為に商人や娼婦を呼んだり、近くの街に馬車を出す事も考えている」
荷馬車に揺られながら何となく進行方向を見て言うと、遠くに石らしき物が見え始めた。
この距離でも見えるって、結構でかいな……。山はあそこで、海までは遠い。近くに川はないし……。火山の噴火で飛んできたのか? なら火山灰とかもどこかで採集できるかもしれないな。
「仕事は準備が八割。コレをどうやって退かすか話し合いをして、方針を決めたら休憩するぞ」
俺達は大きな石の所までやってきたが、遠くの方に牧場に偽装した櫓が見える。最初の牧場ってこんなに近かったっけ?
石は俺より頭一つくらい大きく、両手を広げて四人分くらいの外周か。質にもよるけど、見えてるだけで六トンから十トンくらいあるか?
「何か案はあるか?」
「見えている部分を破壊し、埋めるのはどうでしょう?」
「横を掘って落とす様にして転がすのもありかと」
「……まず横を掘って、どのくらい埋まっているかで判断だな」
俺はスコップを持ち、転がす側を軽く掘ってみるがガチンと鈍い音と、手に痺れるような痛みが走った。
「見えてるのは一部分で、もしかしたらもの凄くでかいぞ……。ちょっと手伝ってくれ。それと替えのスコップを。先がかなり丸まってしまった」
そう言って辺りを数人で掘ってみるが、氷山の一角といって良いのかわからないが、埋まっている部分がかなり大きい事がわかった。
「……ハンマーを貸してくれ」
俺はスレッジハンマーを持っていた男に、指をクイクイとやって借り、少し軽めに石を殴りつけるが、石に白い傷が少し残って跳ね返った。柄が折れる事はなかったが、折れたら誰かに当たってたかもと思うと変な汗が出る。
「硬いな……。砕くのも時間がかかりそうだ。どうする? 鏨で穴を開けて石を割る道具でも突っ込むか? それとも今日は戻って、明日にでも工兵から魔法使いを一人派遣してもらって退かすしかないぞ……」
俺はスレッジハンマーを地面に付け、柄の部分に手を置いてため息を吐く。
ドリルとかあれば簡単なんだろうけど、工業用ダイヤモンドが付いた刃先なんか絶対ないしな。
こりゃ最初から退かさない方が楽な気もする……。
「退かさないって案も念頭に入れておいた方がいいかもな……。石の目がわかる者はいるか?」
俺は振り返り、辺りを見回すが誰も名乗りでないので、スレッジハンマーを持っていた奴に返した。
見える人は見えるらしいので、一応聞くだけは聞いてみる。
「周りで火を燃やして、水をかけるってのはどうだ? もろくなるって聞いた事があるぞ」
スラムにいた男の一人が提案をしてきた。うん。それは俺も考えた。
「私も考えたが、周りを掘り返して半日から一日くらい燃やす事になる。そうすると薪代もかかる。なら魔法使いに少し多めに手間賃を払った方が安いと思う。こういうのは班長の判断になるが、この場合は戻って班長達で簡単な話し合いをしつつ、どうするか決めて上に報告するべきだな。どうやっても時間や金が少し必要になってくる。時間だから休憩を挟んでから戻った方が良いな。どのみち道具も足りない。色々想定してたが、コレはそれの上を行ったな」
俺は太陽を見て休憩時間だと言うことを伝え、ため息を吐きながら石をペチペチと叩いた。
背の低い草の生えてる地べたに座って、事前に頼んでおいた軽く塩の振ってあるクラッカーっぽい堅焼きパンの様な物を食べつつ、樽に汲んでおいた水とかを飲み、塩分と糖分はコレで問題はない。あとはクエン酸とかだな。レモンとかオレンジを飴にできれば、収穫時期じゃなくても問題はないだろう。多分だけど……。
ってかビタミン系って熱に弱いんだっけ? 他になんかクエン酸とか取れる食べ物って、何があったっけ?
そして雰囲気を良くする為に色々と聞いたり、身の上話になったりしたが、最前線の砦で防衛戦をしながら生き残った事も言ったら、兵士もスラムの男達も食いついたので一応語ってみる。
「そしたらさ、やっと補給が来たと思ったら負傷した兵士も一緒で、断る事もできないからその辺に藁を敷いて半分は救護、半分は防衛で危なかったんだよ」
「なのに元から砦にいた兵士の大半は生き残ってるんすよね? やっぱニワトコさんは凄ぇや!」
「事前準備と訓練である程度敵はどうにかできたけど、食料の管理と厳格化で必死だったさ。なにせ負傷した兵士も食うんだぞ? 予定してた日まで持たないから、何日も味が薄いポリッジだよ。それに塩は生きるのに大切だから、食堂のおばちゃんにはギリギリまで抑えてくれって無茶言ってさ、微妙に塩味のする奴になったけど、何とか耐えてた。そしたら砦は平気だったけど、国が負けて引き取られたって訳よ」
兵士達は激戦地で生き残った武勇伝的な物を好むのか、かなり真剣に聞いていた。もしかしたら自分達もそういう状況になるかもしれないし、少しでも知恵を吸収しておきたいのかもしれないが、貴方達は多分戦線に行きませんよ?
「さて、休息は終わりだ。今から向こうに戻るが、石の報告は私がした方が話は早い。けど練習の為に班長がしてくれ」
「フーアー!」
先ほどの砕けた雰囲気はなく、休息中と作業中の切り替えは完璧だな。
□
班長が他の班長と相談をし、貴族に報告をしている一連の流れを練習の為って事で説明をして見ていたが、問題はなさそうだ。
そして工兵から魔法使いを派遣してもらい、道の隣に転がす計画になった。
その頃には昼食の準備になっているが、一応試験運用って事で王都が目の前にあるけど、当番制で一班が作る事になった。
「火力は問題ないか?」
「はい。問題ありません! ただ、食事は小規模な部隊単位で作っていた為、余るか足りないかはわかりません!」
「……そうか。足りないと大変だから、多めに作ってくれ。余れば誰かが食べるだろう。少し王都や街から離れた場所で食事をする場合は、作ってくれるご婦人を雇うつもりだが、百人分の材料はどの程度かレシピ化する必要があるな。今日は野営の訓練で覚えた勘で補ってくれ」
「フーアー!」
昼の一時間前くらいに、そんなやりとりを土木部隊としつつ、今度は貴族が持ち込んだテーブルと椅子が置いてある場所に向かう。
別に休んでいる訳ではないが、現場を見ないとできない事をやらせている。
「ご苦労。出した課題は解決しそうか? 立たなくて良いからそのままで報告を頼む」
「はい。百メートル置きに杭が二本、紐や土砂の量を計算し、人件費を含む千メートル当たりの金額が出ました。これでかなりの悪路ではない限り、基準となるものができました」
「こちらは物資搬送計画を立てております。何千メートルごとに集積所を作れば効率が良いか、各班長と相談して輸送費を出しました。それと一日当たりの舗装距離も、おおよそ見当が付きました」
「人の動きを見て、プレートや必要な道具類をどの程度増やせば良いかを各班長と相談し、一班に一台あれば効率が上がり、壊れた場合の予備は全体の二割あれば問題はないと判断し、明日にでも魔法学校のマジックアイテム科に発注に行って参ります。それと先ほど、魔法使いの派遣要請がありましたので、これから工兵隊に行き話を付けてまいります」
三人で色々と役割を分け、それがサルビアに行って、最終的に俺に来るんだな。面倒だけど、報告に来るのが偉い奴一人の方が楽だし?
「ご苦労。君達を今日現場に出した理由がこれだ。実際に出てみないとわからない事も多いからな。しばらくは土砂での舗装になるが、子供達や孫の代になったら、乗り合い馬車の広場の様な黒い小石で道を通したいものだ……」
俺は遠くで作業している兵士達を見ていたら、小石が一個落ちてきたので上の方を見ると、ロディーをはじめとした家族全員が防壁の上に揃っていた。しかも護衛がめちゃくちゃ付いてるしよ……。
「…………なんでいんだよ。しかも全員。暇なのかよ」
俺が気が付くとロディーが手を振ったので、とりあえず振り返すと椅子に座っていた貴族達が立ち上がり、膝を突いて礼をしていた。
サルビアの方を見たら、周りの兵士に声をかけてやっぱり作業を止めて礼をしている。
なんとなく様子見で来たんだろうけど、偉い人が来るとこういう風に作業が止まるんだよなぁ。
「私達の事は気にせず作業を続けてくれ。初日という事で様子を見に来たが、問題はなさそうだな」
「国王様もああ言っておられる! 気にせずに作業を再開しろ!」
俺は全員に聞こえる様に大声で指示を出し、とりあえず門の内側の兵士の詰めている休憩室脇の階段から、防壁内部の階段を上がり、皆の居る所に向かった。
「ご足労いただき――」
「ここでは普通でかまわないぞ。いつもの護衛で固めているからな」
一応人の目もあるので、国王としてプロテア義父さんと接しようとしたら、先に向こうから不要と言われた。
「はぁ……。わかりました」
そういえば、よく見るとなんとなく見た事があるような……。最初に会議室に行った時に、俺の両脇に付いてた人達だったかな?
「どうだ? 首尾の方は」
プロテア義父さんは顔だけを道の方に向け、問題はなさそうに見えるのに、そんな事を聞いてきた。
「そうですね。少し進んだ所にある大きな石を退けようと下見をしましたが、思ったより大きく深く埋まっているので、話し合いで工兵の所から魔法使いを派遣してもらおうか。となってます」
そして先ほど貴族達からの報告であった事を、軽く説明をした。
「ふむ……。その調子なら貴族側も問題はなさそうだな。にしても……思いの外きっちりしているな」
「そうねぇ。本当に真っ直ぐね」
ダリアさんは張ってある紐を見ているのか、目を細めてそんな事を呟いた。
「なんか兵士じゃないのもいるね。もしかして報告であった、スラムの男達かい?」
「えぇ。報告書に書いた男達です」
ヘリコニア義兄さんが、スレッジハンマーで杭を叩いてる男達を顎で指し、なんか知らないけどニヤニヤしている。
「国民からの雇用が少し早まったねぇ。けど意欲的だし、力でねじ伏せて従わせるのもありだとは思うよ。ああいうのがいれば、鉱山にいる比較的大人しい連中は従うだろうし」
「いや、まぁ……。あれは俺が原因ですので」
俺は苦笑いをしながら目を逸らし、防壁に肘を突いて寄りかかってるトレニア義姉さんを見た。
「あの辺りを耕して、豆とか植えられないかしら? それとも王都が近いから手間のかかる野菜……。道が綺麗だから放牧をして、こぼれやすい乳や割れやすい卵も――」
トレニア義姉さんがなんかブツブツ呟いてるなぁ。土地が空いてるから、何か作りたいんだろうなぁ。
「お義姉ちゃん。そういうのは需要と供給だよ。せっかく門から近い場所なんだから、失業者が多く働けるとかも見た方が……」
「そうね。なまじ近くに王都があるから兵士の訓練や防衛線構築があるって事で畑を作らせてないのよ。もしやるならまず開墾かしら? あれは人手が多く必要だし。ニワトコお義兄ちゃんが水を引く計画もしてるんだから、いっその事穀倉地帯が手頃なのかな? ロディー、防衛面から観てどう思う?」
トレニア義姉さんが防壁に肘を突いたまま、ロディーを見ずに聞いた。ってか胸まで乗せちゃってるよ……。ってか自重で胸が潰れてる……。これはジロジロ見ちゃいけない奴だ。
「あまり詳しくはないけど、船で海岸沿いに兵士を集めても海からここまで結構あるし、その前に敵に気が付いて対策はできるんじゃない? しばらくはミニウムも手を出してこないと思う。そもそも速さ重視の作戦で来ても、最短距離で来るだろうし、海側からの攻めは無理があるんじゃないかしら?」
なんでこの二人は、防壁の上で大切そうな話し合いをサラッとやってるんだ? もし作るならって妄想なのに。
「同盟国の海軍もいるし、防衛面では問題は少ないが、ニアが言ったとおり防衛をする場合を考えて何かを作らせる事はないぞ。せめてもう少し離れた所じゃないと無理だ」
「私の実家のある国の海軍は強いわよー。だから海からの侵攻は排除して良いわよ」
「そうよねぇ。そうすると、やっぱりあの辺の土地がもったいないなー」
プロテア義父さんが一応問題はないと言うが、防衛面から観てやっぱり無理のようだ。
ってか、ダリア義母さんの国の海軍は強いのか。なら海にも国境線がある事は確定か。この辺りの地理が、地図上でどうなってるのか本当知りたいわ。
「搬送はしやすいんだし、これを主要道路にして小さな集落を寄付金を出して何個も作って、地味に広げるしかないんじゃない?」
一応それっぽい事を言っておくか。最初から私財で開墾しようとは思わないだろうし、そもそもそこまでしないと移住させられない。スラムにいる住人ならなおさらだ。
「それが現実的かー。地力はあるっぽいし、最初は麦かしら?」
「麦に余裕があれば酒も作れるし、それも良いね」
ヘリコニア義兄さんは、麦になるかもしれないとわかると、トレニア義姉さんの隣に立ち、防壁に寄りかかってニコニコとしている。
「お兄ちゃんはお酒が飲みたいだけでしょ?」
「いや。実際国内の需要も高いし、麦の生産量を上げた方が良いって。保存もある程度利くし」
俺も酒が飲みたいだけかと思ったけど、一応その辺の知識は押さえてるみたいだ。確かに酒だったら、輸送に気をつければどこでも売れるしな。
「んー。最初は税をなくして、麦を買い取ればやる気も出ると思うし……。ロディーもニワトコお義兄ちゃんと一緒にスラムをどうにかしようって動こうとしてるから、人も集まるかな? そうすると、やっぱり最初は麦が無難よねー」
……なんでこんな場所で、今後の政策の話をしてるの? 本気じゃないよね?
「ならそれで行くか。明日にでも会議だな」
通っちゃったよ……。最初の街との間に広大な麦畑ほぼ決定だよ……。しかもこんな場所で何となくで話してた奴なのに。本当にそれでい良いの?
「確かに海側の土地はあまり開拓されてなかったけど、そんな簡単に決めて良いんです?」
「問題ない。元々海側の土地をどうするか決めかねていた。この街道を整備して、関心がそちらに向けば発展もするだろうしな。集落用の寄付金を出しても、季節が三回くらい巡れば税収が見込めるし、直ぐに費用の回収は可能だろう。折角だから海の近くに蒸留所も作って、王都や近隣の街用、海の近くは船乗りや海沿いの港、交易用にすればいい。このくらい方針が決まってれば、会議でも話は早いだろう」
俺は不安になり、なんとなく聞いてみたらプロテア義父さんが俺の肩を叩きながら、めっちゃ良い笑顔で言ってきた。
なんか、わかってるよな? 的な雰囲気がプンプンする。
「隣国と貿易をするのに、位置的な問題で海側の穀物類は必要最低限だったからな。コレを機に、一気にやってしまおう」
プロテア義父さんは付け足す様に言ったが、後付けくさい。
「区画整備……。大体五百歩の四角で、太い道は荷馬車が二台通れる道で良いですね。そこに細い道を百歩毎に四本入れて、二十五の畑にした物を四つ。そこに一般的な住宅数件と、道具を入れる納屋……。井戸も必要か。それを一つの集落って事で進めちゃって良いですか? あと防衛線を張るのに、防壁からどのくらい開けとけば良いんですか?」
俺は胸ポケットから書き損じた書類と木炭を取り出し、確認の為に言葉に出しながらメモを取り、その後に足下の防壁の床に薄く絵を描き、防衛線構築にどのくらいの距離があれば良いかを聞いた。
「お、おう。そうだな……。おい、ちょっと詳しい歩数を知ってる奴はおるか?」
プロテア義父さんは、護衛としてついている近衛兵に聞いている。多分こりゃ後日だな。だって所属が違うし。
ほら……。なんか小声で話し合っちゃってるし。
「申し訳ありません! ここに詳しい者はおりません!」
やっぱり……。国王の護衛と、国の防衛は違うしな。プロテア義父さんも急に振られると、無茶な事も言うんだなぁ。
素直に知らないから、詳しい奴と会議で決めるから待て。くらい言っても良いのに……。
「では後日で良いです。こういう感じで進めるかもって事で、サイモンと話し合っておきます」
「あぁ、頼む。会議で決まったら、追って知らせる」
慌てていたプロテア義父さんの後ろで、残りの家族がニコニコしていたのは、あまり見せない慌て方をしたからだと思っておこう。
「わかりました。直ぐに動けるように書類も書いておきますね」
「お、おう」
なんとかその返事をしたプロテア義父さんの横で、開墾は一つの集落で大人が二十人いればどうにか形にはなるか? と思いつつ、どのくらい家屋が必要かを考え、一家族用や独り身用の集合住宅、必要な道具類や家畜小屋、区画番号。最初の方は食料支援を考えて、五組分を国が用意するように書いておく。
「んー? まだ何か描いてるの?」
そしたらロディーがやってきて、覗き込む様にしてメモを見た。
「細かいわね……。絵じゃなくて文字なのね」
「そうだね。とりあえず職にあぶれているスラムの人用だから、こっちが結構支援しないと。将来的にはかなり畑を広げるだろうから、ある意味最初の人は実験になっちゃう。けど成功すればどんどん増やせるし、長い目で見れば畑だから国益に繋がると思うんだよね。はい、義父さん。流れはこんな感じで。後で返してくださいね」
そして簡単な流れを書いた紙を、プロテア義父さんに渡した。
「んー。ここまで支援する必要があるのか?」
プロテア義父さんは眉間に皺を寄せ、メモを睨む様に見ている。
「働く気のある、あそこの人達にまずは百人単位で仕事を用意できますし、治安回復と平行すれば、働く気のない者は居心地が悪くなって出ていく。そのうち別の土木部隊も国営の会社として立ち上げるつもりでしたし、かなりの雇用は生まれると思いますよ? そして区画整備しやすくなったスラムを解体して、新たな住宅地やらなんやら……。なので予算的な物をもぎ取ってください」
俺はニコニコとしながら言った。
「居心地が悪くなって他に行った場合の治安が気になるなら、それはそれで別にいいです。盗賊になった場合は討伐隊を組んで、奴隷か鉱山、もしくは処刑。他の街に流れた場合はそこの領地の管轄ですが、文句は出るので、どのみち対策案は必要になってくるでしょうね」
ついでに出さなかった場合も、何となく言っておく。
「半分脅しにも聞こえるが?」
プロテア義父さんは苦笑いをして、メモをポケットにしまった。
「どのみち強制撤去や排除した場合は反感を買いますし、本気でどうにかしたいならこのくらいの覚悟は必要です。働く気がないならどうにもなりませんが、このくらいの後押しをしないと動けませんよ……。それとも強制収容所でも建てて、働いてない国民を送り込んで無理矢理働かせます?」
俺は投げやりな感じで首を傾げつつ、片手を軽く広げてニヒル的な笑顔を作る。
「お前は時々恐ろしい事を言うな……」
「長い目で見ないと治安は回復しませんし、臭い物には蓋をしろ的なものなら反感を買う。ぶっちゃけ今までのツケですよね? それともヘリコニア義兄さんの代に渡します?」
「それは勘弁して欲しいなぁ。ニワトコお義兄ちゃんが、ちょこちょこ横から口出ししてくると思うと、胃が痛くなりそうだ」
ヘリコニア義兄さんは、から笑いをしながら防壁に寄りかかるのを止め、防壁の内側にあるスラムの方を見ている。
「塩で儲かった分とかそっちに回して、季節が数回巡った時の麦でどうにかするしかないんじゃない? 僕ならそうするね」
「うむ。それは考えておった……。だが一気に動かすのは少し財政的に厳しいぞ?」
「だからメモに書いたんですよ。試験的に百人程度と……。上手く行けば、海側にも穀倉地帯ですよ」
三人で防壁の内側に立ち、スラムの方を見た。なんかやけに白い煙が上がっているので、また何かを焼いているんだろう。本当比較的浅い場所でもあんな状態だったからなぁ。どうにかしてなんとかしたいなぁ……。
「男同士なに難しい事を話してるのかしら? そのくらいなら別に国が傾く様な物でもないでしょ? 孤児のスリとかも増えてるんだから、さっさと動かないと余計に酷くなるわよ? 簡素な家を建ててあげてまで、お膳立てしてあげるんだからそれで駄目な人は駄目。それで良いじゃない。とりあえずやってみないと答えは出ないわよ? 最悪家だけ安く売っちゃえば良いのよ」
背後からダリア義母さんの声が聞こえ、プロテア義父さんの肩に手を置き、なんか最後の方は良い笑顔で言っていた。
個人的には、親指を立てて言ってて欲しかったくらい良い笑顔だ。
「ダリアはいつも簡単に言ってくれる……。色々と、その間の事が面倒なんだぞ?」
「結局はそこに行き着くんだから、間に難しい事を挟む事なんて必要ないでしょ?」
なんか……剛胆なのか、何も考えてないのかわからないな。いつもフワフワしてるイメージだけど、決断力とか凄そう。
伊達に年子で三人も生んでないって感じがするなぁ。肝っ玉母さん的な感じになってなくて良かったわ。
「あら? ニワトコ君はなんでそんな目で、私を見ているのかしら?」
「あ、いえ……。なんだかんだで剛胆だなぁと」
「私は少し面倒な事が嫌いなだけよ。結果さえ出れば、途中はあまり気にしないんだから」
気合いを入れる感じで、グッと脇を締めて握り拳を作っているが、なんかお茶目だな。童顔で小柄だからそう見えるだけだろうか? けどこれでも子供を三人産んでるんだよなぁ……。
ってか途中をおろそかにすると、結果が出た後に混乱するんだけどね?
「んー? 何かしらその目は? 惚れちゃ駄目よ? 私にはプロテアがいるんだから。それにニワトコ君にはロディーがいるでしょ」
「こら、人前だぞ」
ダリア義母さんはプロテア義父さんに抱きつき、ニコニコとしながら人差し指を立てて、なんか微妙にズレた注意をされた。
「思った以上に子供っぽいなーと。それに、こうして見るとロディーそっくりだなーって」
「姉妹に見えるかしら?」
「いえ、そうではなくてですね?」
なんかこのまま話を続けたら頭痛がしそうだ。
「母さん。ちょっとは人の目を考えないと。ここは城内じゃないんだよ?」
「そうよ。仲が良いのは良い事だけど、ちょっとは考えないと」
「んー。似てるって言われたら否定できないかなー」
そして実の子供達からも、一名を除いて突っ込みが入り、結局はあやふやになってしまった。もしかして狙ってやってた? それなら結構凄いな。
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「はぁ。結局あの時は、あやふやのまま終わっちゃったよ」
夕方になり、作業を終わらせて王都が近いから部隊全員で引き上げ、俺はつなぎのまま執務室に帰ってため息を吐き、あまり汚れていないので着替えてから椅子に座った。
あの後昼食の時間になったので家族皆は城の方へ戻っていったが……。一応運営初日としては問題はなかったけど、なんか締まらなかったなー。
あとTシャツとハーパンが欲しい。比較的ラフな格好でも、コレは部屋着ってな雰囲気じゃないし。
「おかえりー」
そしてロディーが、ノックもせずに執務室に入ってきた。入ったのを確認でもしていたかの様なタイミングだ。
「あぁ、ただいま。今日はどうしたの? いきなり皆で来て」
「ニワトコの作った部隊の初運用だもん。そりゃ見に行くわよ」
「あー。そういうの気にしてなかったわ。そういや部隊とかの初運用って、なんか盛大にお披露目するイメージがあるわ……」
パレードとか? もしくは訓練内容を見せるとか。
「けど小規模だったからね。時間を作ってちょっと驚かせに行こうって事になったのよ」
ロディーはソファに座り、呼び鈴を鳴らした。そして入ってきたメイドさんにお茶を頼み、ついでに俺の着ていたつなぎを渡していた。
良かった。そのまま嗅ぐような事はしなかったか……。
「で、なんで机に座ってペンなんかもってるのよ」
ロディーは呆れた感じで言い、ジト目でこちらを見てきた。
「サルビアに渡す資料作りだけど? 俺はあまり現場に出られない立場だし」
「もう業務は終わってる時間よ? ペンを置いてこっちに座りなさい」
ロディーは叱る様に言い、向かいのソファを指した。
「義父さんや義兄さんだって、時間外でもやってる事もあるでしょ?」
「まぁ、少しはあるけどさー。別に明日でも良いじゃない」
「ロディーだって騎士団時代、訓練が終わった後に報告書とか書いたことない? 今まで外に出てた俺が書き物をする場合は、夕食までの時間しかないんだけど? 暗くなってから、ランプの明かりだけでやりたくないし」
「う……。確かに書いてたけど……。けど、それはそれよ」
ロディーは覚えがあるのか少しだけ口ごもったが、開き直っちゃったよ。
「本音は?」
俺は首を傾げ、ペンをインクに浸す直前で止め、ニヤニヤしながら聞いてみた。答え次第では、このまま手首を下ろして作業をするつもりだ。
「少しかまって欲しい……」
「……はいはい。少し意地悪しちゃってごめんね。働きすぎって言われたら、そのまま続けるつもりだったけど、その理由なら仕方ないなー」
俺はペンを置き、インク壷の蓋を閉めてから立ち上がり、ロディーの向かいに座った。
「けどさー、かなりしっかり道を整えてるのね。驚いちゃった」
お茶が届き、一口飲んでから一息ついたところで、ロディーがそんな事を切り出した。
「本当はもう少し正確にやりたいけど、道具がないし、地図も作れない。だからああするしかないんだけどね」
俺もお茶を飲み、ため息を吐いた。地図自体が国家機密なんだから、都市開発系の縮尺が小さい、正確な地図なんか無理だし。
「どっちもあったら、どうなってたの?」
「そうだなぁ……。測量してまずは正確な地図を作り、そこからどういう風に道を作るかの計画を立て、道から外れた村とかに道を通すかを会議して、拡張性がありつつ効率的な田畑や家屋を置くか。かな? 無意味に作ると、今後季節が二百回くらい巡って、色々技術力が上がった場合の老朽化した物の建て直しとか面倒だし」
俺が何となく説明すると、ロディーは肩をすくめて盛大に溜め息を吐いた。
「そんな先まで見据えてたのね。本当道を甘く見てたわ。ごめんなさい」
「いや、いいよ。地図が機密情報なんだから。それに……。最悪ヘリコニア義兄さんの子供に任せればいい。外交で同盟国を増やし、安全になってからでも遅くはないさ」
俺は悪い笑顔を作ってお茶を飲むと、ロディーが焼き菓子のかけらをデコピンで飛ばしてきたので、左手でつかみソーサーの上に置いた。
仮にでも一応俺の執務室なんだから、散らかさないで欲しい。
「笑顔怖すぎ。しかも色々と含みすぎてて、何から突っ込んで良いかわからないわ」
「悪い笑顔は冗談だけど、実際できない事なら次の世代に回すしかないでしょ?」
本当は本土防衛用の前線基地や、中継基地なんかは事が起こってからじゃ遅いから、さっさと秘密裏にプロテア義父さんに書類付きで話しておきたいし、早めに建ててもらいたい。
こっちに攻める気がなくても、あるだけで攻め込みたくないって思わせる物。
同盟国が戦争に巻き込まれて、戦線が拡大してこっちにも来た場合……。
色々理由はあるけど、火薬の出現での大砲や銃を想定した砦や、塹壕の構築とかも……。平和な時に、やる事なんか多すぎて困るくらいだ……。
「そうねぇ……。けどお兄ちゃんの子供の事より、まずは私達の子供じゃない?」
「……そうだね。それよりも先に、貴族や国民に俺の事を周知させないと」
俺は何となく、まだ子供は早いんじゃない? って感じで言う。
「そーじゃない。今夜どう? って意味よ」
ロディーはニコニコとしながらお茶を飲んでいるが、最近二人きりの時は、恥ずかし気もなく誘ってくるようになったなー。
「んー……。別に疲れてないから良いけどさー。最近のロディーがっつきすぎじゃない? まぁ、プロテア義父さんの性格の方が強いから、性欲旺盛なんだろうけど……」
新婚さんでも、もう少し少ないんじゃない? って頻度だしなぁ。
「ならお兄ちゃんは、もっと凄いって事になるわね。多すぎてお嫁さんが逃げちゃうとか?」
「けどメイドさんとかに手は出してないから、理性的ではあるだろうし……。結婚したら愛妻家だろうなぁ。性癖が酷くなければ、問題はないんじゃない?」
「有名な性癖って何かしら? 攻めたい願望とかかしら?」
ロディーが首を傾げながら聞いてきた。コレは言って良いのだろうか?
「なによ。変な顔しちゃって。私そんなに聞いちゃいけない事でも聞いた?」
「んー。別に変じゃないけど……。有名どころで言うなら、ロディーが言った攻めたいか攻められたいか? もう少し過激になってくると、鞭で叩いて興奮するか叩かれて興奮するか。変な方向に行くと、俺がロディーにメイドの格好をさせる。ロディーが俺に執事の格好をさせる、そして地位を利用して強要する感じの演技をするとか。別に村の男性だったり女性だったりでもいい。そういうのが性癖の一部だね」
俺は少し丁寧に説明すると、ロディーは何かを考えるように視線を右の方に向けている。
「今のところ、大体同じくらいよね?」
攻めたい攻められたいの話だろうか? 今夜そういうプレイをしようって言われなくて良かったわ。
即実行してたら砂に水を撒くみたいに知識を吸収して、今日は恐ろしい事になりそうだったわ。
「えー。そうかなぁ? 事ある毎に優位に立とうとしてくるから、攻めたいって願望の方が強いでしょ? 結局俺が軽く抵抗するから同じくらいになるけど、させるがままにしてたら、絶対攻めたいって方が多いね」
俺は片目を細めてお茶を一口飲み、ソファに寄りかかった。
「……そうかしら? んーあー。そうかもしれない?」
あっさり認めたなー。
「そうだよ……。誘ってくるのはロディーの方が多いし、好きにさせてたら、こうしたい、こうして、ああしてって言ってくるじゃん」
「そ、そうだったかしら?」
ロディーはバツが悪くなったのか、目を逸らして苦笑いをしている。本当わかりやすいなぁ。
「まっ、ヘリコニア義兄さんの奥さんは、昼は淑女、夜は娼婦とか合いそう」
「何よそれ。二人必要って事?」
「違う違う。昼間は淑女の様な妻だけど、夜は娼婦の様に激しい二面性って事。多分二人っきりになったら、もう見てるこっちが胸焼けしそうなくらいな奴」
俺は少しだけにやけながらお茶を飲み、何となく似合いそうな女性を想像する。
「お姉ちゃんは?」
「んー。自分でバラ園とか管理してる、受け身って言うか、振り回される方が性に合ってそうな感じの人かなぁ」
「お姉ちゃんって、ああ見えて行動力は凄いもんねぇ。気が付いたら執務室やお城にいないし」
「みたいだねぇ。だから上手く助言したり、一緒にいる時に行動を忠告できて止められる優しさも必要かな。一応俺達の義理の兄になるし、そうであって欲しいって願望もあるけど」
なんとなく上を見て、危機管理能力に長けてる、ニコニコしてるのが似合いそうな人を想像する。
「そうね。お兄ちゃんはお嫁さんをもらうけど、お姉ちゃんも私の時みたいにお婿さんに来てもらう事になるだろうし、どこかで穀倉地帯の管理とかしてた実績も欲しいかも」
「だねぇ。一応優秀な人はフローライトにもいるだろうけど、土地が痩せてる時にそれを解決したとか、大飢饉にきっちり備えられる人とかかなぁ」
「じゃ、私は? お兄ちゃんの将来の奥さんが、淑女と娼婦なら、どんな感じに?」
「昼はじゃじゃ馬、夜は甘え上手な犬?」
そう言ったら、二個目の焼き菓子のかけらが飛んできた。
「じゃじゃ馬は酷いんじゃない?」
ロディーは片目を細め、拗ねた感じで言ってきた。
「猪突猛進の猪よりはマシだろ? 最初に砦で会った時だって、鉱山潜入や死の沼だってそうだったじゃん。ちょっとは冷静な判断とかしてくれよー。王位継承的に低くても、部下の立場ってのもあるでしょ?」
「こ、好奇心だから」
「死の沼はわかるけど、最初の二つは好奇心関係ないよね? 鉱山の時は真っ先に坑道に行って、結局アルテミシアさんが俺の所に来ちゃったし。戦争の時は士気向上とかあるから、何も言えないけど。だからじゃじゃ馬」
「ならニワトコは警戒心が強い兎ね! 臆病なくらい下調べやら準備は万端だし、守る事ばかりしか考えてないもの」
ロディーは何を思ったのか、勝ち誇ったかの様に言っている。馬と兎を比べられてもなぁ……。
「褒められてる気しかしないんだけど? それに馬とかも警戒心が強くて臆病なんだけど?」
「え? そうなの? 気性が荒いイメージが強いんだけど?」
「大きな音や人影でも逃げるし、自分の影に驚いたりもする。かなり臆病だよ? だから人に慣れてて、なんだこいつって思ってる馬で、そういうイメージが付いてるのかもね」
俺は焼き菓子を食べ、確かそんなんだった気がすると思いつつ、お茶を飲んだ。
ちなみにだけど、昼間の事が頭にあったのか、夜はなんかやたらとロディーが優位に立とうと立ち回ってきた。ちょっとは気にして、大人しくなると思ってた俺が愚かだったよ……。
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