表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/59

第23話 この時代背景にトロッコって問題はないよな? 後編

「どうもー。お久しぶりです」

 昼食を食べ、馬車を出してもらって防壁の外の工業区に行き、いつものおっさんに声をかける。

「おう、兄ちゃんか。水をすくい上げるのは上手くいってるか?」

「えぇ、ばっちりですよ。向こうの職人で()作れました」

 一応おっさんを不機嫌にさせない様にしつつ、聞かれたので簡単に報告だけはしておく。

「で、今回はなんだ。また変な注文か?」

「まぁ、変っちゃ変ですねぇ……。とりあえずコレを見てください」

 そう言って俺はカウンターに図面を広げた。


「ほう……。物自体はつまらんが発想がおもしろい。これを作ればいいのか?」

「はい。一番気を付ける事はこのレールですね。大きさと長さを揃えないと色々と大変な事になります。後は繋ぎ目になる穴の位置です。これさえ気を付けてくれれば、下に敷く枕木の高さで平らにできますので」

 俺は図面を指しながら説明をし、重要部分を説明した。俺の剣が鉄棒だからシャフト部分は作れるだろうし、タイヤ部分もどうにかなるだろう。

「ふむ……。簡単に考えてたがそうなると結構面倒だな。試作品を作るだけでも、どれだけかかるかわからねぇ。とりあえず左右のレールって奴四本と、つなぎ目部分の部品。鉄の車輪と台だけで良いか?」

 鍛冶屋のおっさんは眉を寄せながら片手を頭に乗せ、カウンターを指で叩きながら言った。

 地球にあった製鉄所の様な、全てが規格化できるような物でもないしな。長く作って切断って訳にもいかないだろうし、手作りでレールなんてのはかなり難しいんじゃないだろうか?

 それを大型化して長く敷くっていうのは、まだまだ無理な気がするな。


「問題ありません。とりあえず時間はかかっても良いので、鍛冶屋としてのプライドが保たれる物をお願いします。もしかしたらこの試作品が基準になると思いますので」

「……わかった。できあがったら弟子に連絡させる。住んでる場所を教えてくれ」

 鍛冶屋のおっさんは、口元を隠す様に手を当てしばらく図面を見て、顔を上げて言った。多分自分の中で決心したんだろう。

「あそこですよ。フローライト城の離れのニワトコまで……。すみませんね、今まで隠してて」

 俺は親指で城の方を指し、少し申し訳なさそうに言った。

「気にすんな。良い服を着てて馬車で来て、従者がいる時点でどこかのお偉いさんだと思ってたけど、あんたが噂の奴か……」

 うーん。噂がどんなものかもの凄く気になる……。聞いてみるか。ロープとか!


「……どんな噂ですか?」

 俺はカウンターから身を少し乗り出し、鍛冶屋のおっさんに顔を近づけて小声で聞いた。

「優秀でロディア様の婿として来てる奴。じゃじゃ馬に勝ったうえに頭も良い奴。道があるのに、道作りや整備を本気でやろうとしてる酔狂者」

「んー、間違っちゃいないなー。ところで……ロープとかその辺の噂は?」

 俺は少しニコニコとして聞いてみた。

「あぁ。もちろんあるぜ? 夜の方の噂だから言わなかったが、聞かれたんじゃ言うしかないな!」

 鍛冶屋のおっさんは俺が聞いたので、知ってるならって感じで言ってくれた。


「あ゛ー……。知ってるなら結構です。沢山尾鰭がついてそうだ……。まぁ、そういうのは少し気になりますので、ついでに聞きました。ってか態度を変えてないのも良いですねー。これからも俺に対してはそのままでお願いしますよ」

 俺は手で顔を覆い、一息付いてから普通の顔でいつも通りに返した。

「あぁ? 今更だろ? 名乗るなら最初からやってるだろうしな。ってか兄ちゃん面白い奴だな。流石一般人から、婿を取ったってなだけあるわ。全然偉そうじゃねぇ!」

 鍛冶屋のおっさんは歯を出してにやけ、俺の肩をバンバンと叩いた。この人もある意味凄いな。モルセラさんなんか舌を噛んでたのに。

 職人気質というか、上の方すぎて興味がないのか、実感がないかだな。最悪義父さんの顔とかも知らなそうだ。


「ははは。あまりやりすぎると、俺は良いんですけど後ろの護衛が気にしますよ」

「おっと、そうだった。あの(・・)ロディア様に勝ってるんだ。護衛なんか必要ないだろうけど、立場ってもんがあるからな。じゃ、できあがったら弟子に言って知らせに行くわ」

 鍛冶屋のおっさんは工房の奥の方を親指で指し、なんかこっちを窺ってる弟子の存在に気が付いてるのかどうかは知らないが、慌てて頭を引っ込めた。

「じゃ、よろしくお願いします」

 俺は軽く手を上げてから工房を出て、表に止めてあった馬車に乗り込んだ。



「噂は広がってたかー」

 向かいに座っていたアニタさんに、少し愚痴る様に声を漏らして、膝に肘を置いて額に手を当てた。

「離れ中……。いえ、城中の噂でしたから。メイドや執事見習いなどは基本住み込みですが、休暇で外に出ますからね。多分その時でしょう」

「……ですよね。ま、その辺は仕方ないとして、他の噂は比較的まともだったな。可もなく不可もなくだけど」

 俺は姿勢を戻し、窓枠に肘をついてゆっくりと流れる風景を見る。


 工業区ではアンビルに鉄板を乗せて、ハンマーで叩いて鎧を作ったり、焼けた鉄を叩いたりしている。

 俺が頼んだのって、実はかなり無茶だったんじゃないかと思えてきて、少しだけ申し訳ない気持ちになったが、誰かがやらないといつまで経っても生産やら産業、技術が上がらないからな。鍛冶屋のおっさんには俺のお抱えって事で、今後もがんばってもらうしかないな。

 ああいう人にとっては、王族のお抱えっていう名誉ってどうなんだろうか? 嬉しいのだろうか? とりあえず天狗にならなければいいけど、あのおっさんの事だから、ないとは思う。


 水車を作って、上下に動くだけの柱っぽい奴の先端を鉄にして、ドスドス叩ける様にできないかな?

 普通に水が流れてる所の水車だと、馬力が足りないか? 上から水を落とす様にすれば、かなり強い力になったはず……。

 確か五馬力前後だったような気がする。

 手前から水車の動力で水を汲み上げて、木製の枠で水を流して落とす……。なんかそれだと少し違う気がする。

 水輪の部分を大きくして、ギアの組み合わせで力を強くした方が良いかもしれない。その辺は子供の頃ミニ四駆でやったけど、当時はなんで力が出るかとか、こっちの組み合わせの方が早いとか理解してなかったな。

 まぁ、小さい水車の水輪に箱を付けて、水を汲み上げて流すのと、大きな水輪のどっちが安いかで決めるか。

 その前に疎水を引かないと駄目なんだけどね……。


 そんな事を思いつつ、馬車の中で作ってもらったバインダー風の板に紙を乗せ、箇条書きで工業区に疎水を引く案やら、水車の動力を使った物を書いていたら、アニタさんが眉に皺を寄せて紙の方を見ていた。

 馬車の中でよく書き物ができるな。もしくはこんな所でも書き物をするの? ってところだろうな。

 ロディーやアルテミシアさんにも注意されたし、移動中は控えた方が良いかもしれないが、忘れないうちに書いておかないと本当に忘れるからな。コレばかりは仕方ない。



 夕食を食べ終わらせ、いつも通りロディーと寝室でゴロゴロしている。

 ちなみにベッドの隅に追いやられ、うつ伏せで寝るように言われたので言われた通りにしたら、俺の尻を枕にしてT字にした感じになっている。ちなみに今回は足が出てないので、ブラブラさせてはいない。

「ねぇ。急で悪いんだけどさー」

「んー?」

 うつ伏せになって本を読んでいたら、ロディーが声をかけてきた。なんだろうか?


「土木部隊の初運用が近いのは知ってるけど、明日時間作れる?」

「んー。大丈夫だと思うよ。で、なんで?」

 いきなりだったので、とりあえず俺は理由を聞いてみた。

「スラム街の見回りがあるんだけどさー。ニワトコってスラム街に手を入れたい様な事言ってたらしいじゃない。ならこういう時に、一緒に回った方が面倒は少ないでしょ?」

「そりゃそうだ。俺が必要な時に回ろうとしたら、護衛が必要になるし」

「だからかな。いつか行くならこういう時の方が良いでしょ?」

 ロディーは俺の尻に頭をグニグニ押しつけてきたので、キュッっと力を入れて硬くしたら、本を閉じてゴロンと腰の方に転がり、わき腹をつついてきた。


「おふっ! そこは止めてくれよ」

 俺は少し仰け反り、ロディーの脇に反撃しようとするけど軽く手を払われてしまった。

「ふふふ、残念でしたー。この状況だったら私の方が有利よ!」

「くそぅ。何か打つ手はないのか!」

「やれるものならやってみなさい!」

 その後は特に反撃するそぶりを見せずに、言うだけ言って本を読んでいたら、ロディーの攻撃が激しくなってきたので、前腕を掴んで攻撃を止めた。反撃のチャンスかな?


「そう言えばさ、夜のロープの噂なんだけど、ありゃ諦めた方が良いね。今日行った鍛冶屋のおっさんも知ってたわ」

 そう言った瞬間ロディーの動きが止まったので、ベッドから落ちない様に仰向けになり、顔を見ると真っ赤になっていた。

「おーい。大丈夫かー? あれは未遂だから気にしなくてもい――」

 そこまで言ったらロディーが枕を掴み、顔に叩きつけてきた。酷いな。

「あんな事最初からしなければこんな噂が流れなかったのよ! なにが傭兵や盗賊みたいによ! ニワトコが変な事言うのが悪い!」

「あの時はちょっとふざけただけだろ? 実際にしてないんだからいいじゃん。別に仲が良いんだから、そんな噂気にしな――」

「私が気にするのよ!」

 ベッドにロープ未遂で反撃できたけど、ちょっとタイミングとか、心情的に難しかったね……。うぷっ。また枕が顔に来たよ。


「はははは、ごめんごめん。実際にすれば噂じゃなくて本当になるか――」

 三回目っすか……。ティカさんに叱られるなこりゃ。

 そして少しニヤケながらそんな事を思っていたら、ロディーが馬乗りになって枕で顔をボフボフ攻撃してきたので、軽く膝を立てて腰を上げて重心を崩して逃げようと思ったら、そのまま倒れてきて俺が押し倒された形になり、最悪のタイミングでドアがノックされた。

「お二人とも何をなさって……」

「「あ……」」

 そしてドアが開き、二人でティカさんの方を見ると口が半開きの状態で固まっていた。


「ティカ、これは違うの! ニワトコが私をからかうのが悪いの!」

 ロディーが体を起こし、枕を握った手を突き出す様な感じで言い訳をしているが、今の馬乗りの状態で言っても説得力はあまりないだろう。ってか腰の辺りに座らないで……。

「あ、本当です。俺がからかいすぎたのが原因でしてね?」

「寝室ですのでちちくりあうのは結構ですが、入浴の時間になり、メイドが呼びに来た時の事を考えなさいと、ロディア様には言いましたよね? ニワトコ様にもこの前、からかい過ぎない様注意したはずですが?」

 一応フォローはしたが、無理だったよ……。ってかティカさんの目が怖い。

「それに、お二人の趣味嗜好にあまり口出ししたくはありませんが、その様な状態で言われましても、見る人が見れば服を着たまましている様にしか見えません!」

 その発想はなかったわ……。


「してないわよ! ほら!」

 ロディーがそう言うと俺から下り、俺の下半身を指して反撃をしている。ってか、別に指をささなくても良いんじゃないかな? 少し恥ずかしいんだけど?

「そう思われる可能性の話をしているのです! 別にしているしていないは今は関係ありません。勘違いされる可能性の問題なのです」

「ちょっとニワトコ。ニワトコも何か言ってよ!」

「……ちょっとふざけすぎました。すみませんでした」

 俺はベッドから下り、素直に謝っておく。

 なんだかんだでこの場合は、謝っておいた方が早いし。


「はぁ……。我々メイドも一応中の気配を探り、問題なさそうならノックをする事にしておりますが、希にそういう風にする方もいると伺っております。いつも通り多少じゃれ合っていると思い、今回は入室させていただきましたが、本当になさっていなくて良かったと思ってはいます。今後お気をつけください」

 ティカさんはこめかみに人差し指を中て、眉間に皺を寄せてため息を吐きながら言ったが、今回は多少賭に近かったみたいだ。

 まぁ、人が来る様な時間帯にはしないさ。だって気まずいし。そんな趣味もないし。



「ニワトコ。ちょっとそこに座りなさい」

 俺は風呂から出て寝室に戻ると、いきなりロディーからそんな事を言われたので、一応従ってベッドに腰掛けた。

 もちろんロディーは立って俺を見下ろしているが、ベッドが少し高いのでギリギリ俺より目線が高いくらいだけど……。

「私の隙を作るのに、夜の話題は今後止めてちょうだい」

「……はい」

「まぁ、流れてる噂はもう仕方がないからいいけど、実際言われるともの凄く恥ずかしいんだからね!」

 あ、流れちゃった噂は別に良いんだ……。

「はい。申し訳ありませんでした……」

「何か私に言う事は?」

「顔を真っ赤にしてるロディーは、めちゃくちゃ可愛かったです!」

「そうじゃない! もう言いませんとか、色々あるでしょ!」

「んー。無理! 可愛いから無理!」

 俺は立って見下ろしていたロディーの腕を掴み、軽く引っ張ってベッドに押し倒した。

「この間、言質は取ったよね?」

「……ま、まぁ。そう……ね」

 ロディーは恥ずかしいのか、目を逸らしながらか細い声で何とか返事をしただけだった。


 もちろん内容は普通ですよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] プライベート空間でロディーと関わると直ぐにそっちに行く。まぁ新婚夫婦なので致し方がないのですが(笑) トロッコの原型は、確か狭くて低い坑道の中で、容易に運搬が出来るように……みたいなもの…
[一言] ゆうべはおたのしみでしたね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ