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第23話 この時代背景にトロッコって問題はないよな? 前編

接骨木とヘリコニアの二人とも「お兄ちゃん」呼びでわかり辛いとご指摘がありましたので、多少変えようと思いましたが、そうすると両方「お義兄ちゃん」呼びになるので


接骨木がヘリコニアやトレニアを呼ぶ時は「お義兄ちゃん」「お義姉ちゃん」

ヘリコニアやトレニアが接骨木を呼ぶ時は「ニワトコお義兄ちゃん」としました。


これは書籍版に合わせた物になります。

気が向いたら、この話の前のも直しておきます。

 学校の授業を聞いてから数日。多分時期的に夏の終わりくらいだと思うが、日本に比べてやっぱり涼しい。

 何回かこっちの夏は経験しているが、屋内で窓を開けていれば結構過ごしやすい。

 日本は亜熱帯や亜寒帯があって、極端に暑かったり寒かったりするけど、やっぱり一番の違いは湿度だと思う。

 年中暑い国の人が夏に日本に来ると、暑いと言う。逆に寒い地方の人が冬に来ると、寒いと言う。多分湿度が関係してるんだと思うけど、ある程度乾燥してるだけでここまで違うんだもんな。


 とりあえず兵士育成所から、兵士としてはちょっと及第点がとれない人物を引き抜き、土木部隊として使いたいと申請をして、異動したい者だけを集めて一班十人編成で、百名ほど試験的に運用を開始する為に基礎教育を終わらせ、いざ運用を数日後に控えている。

 そしてサルビアだが、教育した貴族達の上の役職として俺の下に付くことになった。

 俺の知らない所で、何かあったのは確かだが、色々と片が付くまで偽名(サイモン)で活動する事になっている。

 だっていきなりプロテア義父さんに部下を増やすとか言われ、最初の打ち合わせにサルビアが来て驚き、その後も何度も打ち合わせしちゃってるし、もうほぼ決まっている様なもんだ。

 今思えば、あの貴族に色々教えた時に来てた時点で、ほぼ決まってたんだと思う。



 スーツの上着を脱いで、まずはフローライトから国営製塩所のある町までの道路整備計画や、行程の再確認。道が直線になるようにする為に、簡単な測量器具の確認を終わらせる。もちろんコレの使い方は教育済みだ。

 といっても折りたたみ脚立の様な、比較的しっかりと安定した物から尖った重りの付いた糸を垂らす物だけど。

 本当は三脚に板を付けて、尖った重りの付いた糸を真ん中から垂らしても良かったけど、糸が長い方が遠くまで見えるし、立ったまま確認もできる。あと安定性重視。ちょっとした改良っていうか、現場での使いやすさを重視した。

 そこまで精度を重視してないし、百メートルや二百メートル先で直線が確認できれば良いだけだし。

 カーブなんか作るときは、町と町の間に家なんかないし、百メートル置きに五メートルとか十メートル横にずらしてもなんの問題もないので、その辺は目標地点から迎入れる感じで、一キロくらい直線で道路を造る事になり、後は適度に修正って形で決まった。

 ってか城の壁。誤差の範囲だと思うけど、少しだけ内側に傾いてない? 真っ直ぐより崩れにくいの? 最終確認の為に見なきゃ良かったわ……。なんかああいうの見ると不安だわー。



 そして今日の分の書類仕事をしようと、書類の最重要のラックから手を伸ばして表題を見る。

「製塩所の生産量やらその他の報告書か……」

 そう呟き俺は書類に目を通し、生産までの行程は蒸発させる行程が増えただけで、あまり変化はないが、煮詰める段階で大きな違いが出ているらしく、生産量が五割り増しになっている。

 塩分濃度が違うから増えるのは当たり前だとして、五割り増しって多いのか少ないのかはわからない。倍になるとか言っちゃったし、施設を増やせば簡単に実現はできるだろうな。

 薪代が減って生産量が上がるなら問題はないけど、施設を増やす為の資金が、何年分の薪代になるかで、元が取れる様になるまでは時間がかかるし。

 それと作業員が忙しくなって手が足りないとか、腰を痛めた者がいるとかの問題も出てきている。


 最重要はどの辺だと思いつつ、俺が手がけた物なので一応ここに入っているんだと自分自身を納得させる。

 でも人手はそっちでどうにかしてくれ。と思うが、腰の件は何かしら改善が必要だと思う。手を出した以上は最後までやらないと、有名な温泉アニメ映画の、ボイラー室にいるじーさんに怒られるので、視察した時の風景を思い出す。

 できた塩を外に運び出し乾燥。乾燥した物を倉庫。そこから荷馬車。大体平坦な敷地……。

「手押しトロッコで間に合うな……。ってか乾燥させる場所から、倉庫に運ぶのに一輪車的な手押し車じゃ重すぎるんだろうか? それとも倉庫に山詰みにする時か? 迷い人が持ち込んだ知識の台車とかあった気がするけど、まぁ楽な方が良いか」

 俺は図面を引く準備を始め、ある程度他の書類に目を通してからトロッコやレールの絵を描いた。



 細いレールに枕木、そして箱型ではなく平らな板状の物を描き、車輪だけ鉄製にし、持ち手は簡単に取り外せて前後に付け変えられる、極力単純な構造の物を意識した。

 手漕ぎ式っていうの? 良くアニメとか映画で見る、二人で上下に動かして前に進むのなんか必要ないし、動力を伝えるギア部分の磨耗や、鉄で作る労力を考えるなら、今はこれで十分だ。それに電車みたいな太いレールは必要ない。

 どうせ同じ所の往復になるんだから、緩いカーブも必要ないし、そこまで技術も必要としないだろう。乾燥する場所に運ぶために壁をぶち抜く事になると思うけど……。楽する為に直線に作るって言う事は……。まぁそういう事だ。

 そうすれば、数十メートルを二本。倉庫の中に作りたいなら三本で済む。サビ止めの手入れは、最悪家庭用の廃油的な物で拭いても良いと思う。

 海沿いだけど常に走らせてればあまりサビも出ないだろう。この辺は現場の判断だな。

 それに、一袋の大きさを半分にできないかも、少し書いておこう。

 そして俺は呼び鈴を鳴らし、一応国営なのでヘリコニア義兄さんの許可を取ろうと思い、メイドさんに都合が良いかを聞いてきてもらう。

 なんだかんだでローラーコンベアでも良いけど、木製だと管理がなぁ……。あとあれは高い所に持ってくのには困難だし、常に使うならやっぱりレールとトロッコだよな。



「お茶をお持ちしました」

 そして待っている間にお茶が来てしまった。

「どうしました? なんか微妙な顔をしてますが?」

 アニタさんが不思議そうな顔で、顔に出ていた事を指摘してきた。

「いえ……。先ほどメイドに、ヘリコニア義兄さんと会うのに都合の良い時を聞きに行ってもらったんだけど……。今すぐでも良いぞ。ってなったら、少しもったいない気もしま――」

 そこまで言うとノックが鳴ったので、返事をすると先ほどのメイドさんが入ってきた。

「お茶の時間だから、飲み終わってからで良い。と仰っておられました」

「えぇ、ありがとうございます。伺う時はアニタに任せるから、自分の仕事に戻って良いよ」

「失礼します」

 そう言ってメイドさんは執務室から出ていった。


「んー。おかしい……」

 俺は湯気の出ているティーカップに手を出さず、腕を組んで少し首をかしげる。

「お茶が無駄にならず、良かったと思わないのですか?」

「普段なら丁度良いからこっちで飲もうぜ! 的な流れになると思ったんだけどなぁ……」

「確かにヘリコニア様なら、そう言う事の方が多い気もします」

 アニタさんもどうやらそういう認識の様だ。

「何かご都合があるのでは?」

「多分そうなのかな? まぁ、淹れてくれたお茶が無駄にならなくて済む」

 俺はニコニコと砂糖をいつも通り入れ、熱いお茶をゆっくりと飲む。

「その場合はキッチンで、休憩中の見習いのメイドか執事が飲むので、問題はありませんよ。むしろ茶葉が違うので喜ばれます」

「んー。屋敷に仕えてる使用人が、主人にだした残りや余った食材を美味しくいただくってのは何かの知識で得たけど、出涸らしも飲むってのも聞いたな……。その辺の福利厚生……。城での使用人達の労働環境や満足して働けるか。ってのはどうなってるの?」

 俺は少し気になったので、聞いてみた。言っちゃったし、最悪の場合は改善だな。


「食事も普通の物が出ていますよ。茶葉も等級は劣りますが一般家庭で飲まれてる普通の物ですし、休憩中に飲めます。多分ニワトコ様の想像している様な事はないですね」

 んー。そんなに顔に出てる? ってか、さっき余り物とか出涸らし言ったわ。

「なら良かった。パン以外の食事やお茶は、お金を払って食え。とかだったらどうしようかと……」

 俺は安心して軽く息を吐き、少しゆっくりとお茶を飲んだ。

 最低限の食事しか与えず、どんどん働け! とかだったら、改善させてたわ。



「失礼します」

 俺はアニタさんに先導され、手押しトロッコの案と、ある程度の予算をもぎ取るための書類を受け取り、ヘリコニア義兄さんの執務室に入ると、プロテア義父さんもいた。

 なんでいるんだよ……。あれか? 俺が製塩所の件って言ったから、プロテア義父さんも呼んで来たのか?

「まぁ、かけてくれ」

 ヘリコニア義兄さんが言ったので、俺はプロテア義父さんの事を見るとにやけている顔を縦に振った。なのでとりあえず座る事にした。


「製塩所の事で、ニワトコから何かあったら真っ先に伝えろと言っておいて良かったぞ」

 プロテア義父さんは上機嫌で言い、まだ湯気の出ているお茶を口に運んだ。多分俺が来る少し前にお茶が届いたんだろう。

「そうですか……。その顔は、結果は上々ってところですか?」

「あぁ。隣国に安く交易すると言った約束が守れるし、先ほど話し合いでその算段もついた。外交や財務を任せてる奴も笑顔だし、これでお前に文句を言ったら逃げられても仕方ないくらいだ。で、製塩所に関する事なんだろ? 今度は何をするんだ?」

 プロテア義父さんはソーサーに丁寧にカップを置き、ソファに寄りかかった。

「作業量というか、一回で生産できる量が増え、作業員の腰に負荷がかかり腰を痛めていると言う事ですので、それの改善です。とりあえずこれを……」

 俺はそう言い、描いてきた図面を広げて簡単な説明をした。



「確かに便利だな……」

「そうだね……」

「で、これはどういう意図なんだ?」「何か訳があるんだろう?」

 そして二人が同時に顔を上げながら、俺の方を見てきた。親子だな……。なんかアニメなら、集中線が付きそうな勢いだ。

「効率化と作業員の健康の為ですね。大量に荷物を載せても一人で押せます。長い距離を重い物を持って運ばないので、腰を痛めません。労働環境の改善はするべきです」

 腰を痛めて、仕方なく職を変えるって話もよく聞くし、できる事が制限される事も知っている。体の要と書いて腰と書くってのは、本当的を得ていると思うわ。


「ふむ……。囚人用鉱山から精錬所にも敷きたいな。けどこのレールという物で、鉄を大量に使うのがなぁ……」

 プロテア義父さんは腕を組みながら、なんか渋い顔で図面を見ている。

「ですね。もう少し余裕がないと、あの距離は無理だと思います」

 その言葉で俺は、鉱山から精錬所までの距離を何となく想像し、多分荷馬車で半日ない距離であっても、かなりの量を必要とすると思って答えた。

 大規模で効率的な製鉄所もないだろうし、鉄鉱石からの精錬も一苦労だろうな。しかも鉄なんか兵士の装備品にも使いたいんだろうし。


「大量に他国から鉄を輸入しても、元が取れるまでどのくらいかかるか。本当に今必要か。本当にそれだけの働きをするか。多分ですが、道を整えてから隣国の国境付近まで延ばすのなら、長い目で見れば収益はでると思いますよ。馬やロバで引けば問題はないですし。ただ、本当に今必要かは、運用実績を見てからでも良いかと」

 とりあえず今は諦めさせる方向で、やんわりプロテア義父さんを誘導しておく。


「そうだな。大規模な物はヘリコニアの代か、孫の代に任せておくか。ただ、小規模な物なら各地に配置できそうだ。とりあえず試験的に国の穀物庫にも敷ける様に話は通しておくか……。あそこは平だし、倉庫の奥まで運ぶのも手間だしな」

 プロテア義父さんは顎に手を当て、右の方を見ながら呟いた。

「なら僕は予算関係で動こう。ニワトコお義兄ちゃんは企画立案って事で、計画書の草案をお願い」

「お義兄ちゃん……。俺は製塩所の件で来たんだけど?」

 ってか人前じゃ私って言うし、家族内じゃ僕だし、なんか面倒くさいだろうな。


「このトロッコの話が通ったって事で良いんじゃない? 通ったら製塩所の草案とか書く予定だったんでしょ? なら少し詳しく図を描きつつ、ついでにもう一枚複写すれば良いだけでしょ」

 ヘリコニア義兄さんはそう言ってからお茶にお酒を入れ、笑顔でこちらを見ながらティーカップを口に運んだ。

「確かにそうだけどさ……。まさか一気にここまで動くとは思わないじゃん?」

「諦めろ」「諦めて」

「二人して言わなくてもいいじゃん……」

 俺は笑顔でティーカップを持っている二人に突っ込みを入れた。ってかタイミングも仕草も似すぎだろ……。


「なんだかんだでニワトコは、有益だと思ったら動く男だからな。今の技術力でもいけると思ったから案をもって来たんだろ? なら私達はそれを見て判断するだけだ」

「あまり無条件で進めさせるのもどうかと思うんですが? 妄信しすぎなのでは?」

 俺は呆れた感じで言い、用意されていた少し冷めたお茶を飲んだ。

「なんだかんだでニワトコお義兄ちゃんのやった事が、地味に効果が出始めているしね。街道の盗賊被害がどのくらい減ったか知ってる?」

 俺は少し上を見ながらそういう書類が来てない事を思い出すが、確か来てないはずだ。


「全然知らないね。書類で確認してないから、自分の所には来てないんだと思う」

「あー、すまない。報告書だからそっちに回してなかったね。過去三十日分の報告では、最初期に比べて半分以下に下がっている。そして例の関所もある程度効果が報告された」

 ヘリコニア義兄さんはティーカップを置き、自分の机に行って何かの紙を持ってくると、俺の前に置いてソファに座った。


「子供の作文みたいな内容だなぁ……」

 紙には、三十日分の街道の被害報告と書かれていて、どの様な事が何件としかなかった。

 そして事件が起こったら関所に報告が行き、小規模だが峠の見張りを厳重にしている事が噂になっているので、塩の荷馬車が襲われる事は、ほぼなくなっているという事が二枚目に書かれていた。

「一枚で済むじゃん……。両方余白多くね?」

「管轄が違うから仕方ないと思ってくれ。そもそも字が違うだろう?」

「まぁ……ね。上に報告が行ってその人が書く、そしてこっちに来るって奴ね。街道と関所で違うのか……。同じ警備だから上は一つだと思ってたわ」

 俺は軽くため息を吐き、お茶を飲んでから話をトロッコに戻し、懇意にしてる鍛冶屋に試作品を頼む事を伝え、とりあえず二人に解放された。

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