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第21話 授業って疲れるね 後編

「さて、ここからは持ってる知識の応用だ。土木っていうのはある程度数学も必要となる。基本は縦かける横かける高さの立方体だ」

 そう言って俺はピンで留めた紙に、絵の具で立方体を簡単に描く。

「ここの線の数字が全て1なら、1立方メートルになる。全て3なら27立方メートルだ」

 そういって紙に数字を書き、イコールで27と書く。

「ここからが問題だ。深さが1で幅が2、長さが300の堀を五つ掘るとしよう。防衛陣地にも使われる程度の物だが、学校での戦略科の知識では人の人数くらいしか出ないだろう? 実際に作る側の目線でやってみるのもいいだろう」

 そう言って三人に一枚の紙を渡し、どういう風に計算するか見てみるが、俺は頭を抱えたくなった。


 なんだよ、魔法使いが掘るとか……。今はそんな話じゃねぇんだよ。数字の話なんだよ。

 ってか土木に特化できそうな魔法使いとかいるのかよ! 視察する場所や順番間違えたわ! ってか俺が砦にいた時にそこに回せよ、結構重要な拠点だっただろ……。そこまでして王都付近を防衛したかったか、俺のやりすぎ感があったのか?

 ってか学校の図書室ぅ! あの資料は何だよ。新装版に更新しとけよ。書き写した奴の殆どが無駄だったじゃん。もうあの先生の講義でも聞きに行くか。名前覚えてないけど。


「えー。先生は少し頭が痛くなりました。これは掘ったりした土の量や、埋めるための計算の基礎的な事だったんですが。まさか解答に魔法使いが出てくるとは思いませんでしたよ……」

 そう言うと、後ろで見学していた四人が苦笑いをしていた。

「えぇっとですね。これは水路にも使えるので似たような数字を出しましたが、これから続く問題にも入れねぇっす……。ここに縦かける横かける高さって書いてあるだろ。答えも出てるだろ? 今は数字だ。この答えは600だよ600! それが五個で3000だよ。そこから堅い土を掘ると、フワフワになって量が増えるって繋げたかったんだよ。荷馬車の車軸の傷みもあるから、一台でこれくらいまでとか言いたかったんだよ! 何台運ぶかで荷馬車の数も決まるから計算してんだ。なんだ魔法使いって。それは今後検討するから、今は数字だよ数字!」

 そう言って俺は壁に貼った紙を軽くバンバン叩いた。変わった生徒のいる先生の気持ちが良くわかったわ。ったく、金閣寺を建てたのは宮大工とか、弱肉強食ではなく焼肉定食とか書いた時の先生の気持ちが良くわかったわ。


「もっと複雑なのがあるが、今はこれだけだ。次行くぞ」

 そして簡単な計算を続け、多少複雑になってくると、怪しい物もあるが、慣れれば問題はないだろう。

「山に道を通す場合があると思うから、ここからは軽く説明するぞ? 斜面が急だと崖崩れがあるかもしれないから、原則として、綺麗な四角を描いて、斜めに線を引いた角度だ。そしてあまり重い物が乗ると、それでも崩れる場合があるから、この1の紐分を離して杭を打ち込み、一本か二本板を横に打ち付ける。それ以上近寄ると危ないぞって警告の意味合いも強い。そして雨で土が流れないように、木の苗や草、花の種を植える。まぁ放っておいても雑草は生えるけどな。険しい山道は、軍行用に最悪荷馬車が一台通れるくらいでもいいからな。その場合は軍部からそういう依頼が来るだろう」

 そう説明しながら、紙に黒の絵の具で描いて説明を続けていく。何度までなら安全か忘れたし、四十五度以上の斜面もあるからな。これで問題はないだろう。


「昼食も近いな。これで最後だ。これは乗り合い馬車広場にもある、黒い石でできた地面だ。断面図があるから説明だけな。今度本格的に施工する時に教える。まずは地面を平らにし、砂利を敷いてから均し、小粒の石と黒いのを混ぜて平らにするとこうなる。後でやるから、下の詳細を読んでおくように」

 そう言って俺は勉強会を終わらせた。


「ニワトコ様。まだ紙が半分ほど残っていますが、終わりなのでしょうか?」

 そして貴族の一人が、手を挙げて不思議そうに聞いてきた。

「残りは宿題だ。次に呼ぶまでにやっておくように。知り合いや家族や使用人に聞いても良いし、自力で解いてもいい。けど俺には頼るなよ。対価としてもっと複雑なの出すからな」

 俺はそう言って資料を閉じ、特に意味のない図形を壁に貼った紙の余白に、余った土地に変な形の建物を建てたいって理由で、四角を変に四つくらい繋げて描いて数字も書いた。

「この土地の基礎は軟弱で、砂利を敷いて絞め固めたい。ある程度の強度を出すのに一平方メートルに1の半分の量の砂利が必要だとしたら、何立方メートル分の砂利が必要か求めよ……。ある程度応用でできる問題だ。こんな感じでどのくらい必要か事前にわかってれば、見積もりもしやすいだろ? 土木ってのはこういうのも必要なんだ。末端は力仕事ばかりしてれば良いかもしれないが、君達はこういう事もする必要がでてくる。あまり簡単に考えてると、量が量だから、簡単に金額が跳ね上がるぞ。さ、太陽が真上だ。では、終了」

 俺が応用問題を出すと、三人がもの凄くいやな顔をしながら聞いていたが、宿題部分を見て似たような問題がない事に安堵していた。



「ニワトコ殿。私は道路作りを簡単に考えていたが、実際はかなり複雑なのだな」

 そして四人で食事をしていたら、オッサンがそんな事を言ってきた。アニタさん? ここのメイドさんに任せて、専属メイドっぽく俺の後ろに立ってるよ。

「えぇ、少しずれて道を通すと、長ければ長いほどそのズレが大きくなります。そうすると色々と面倒じゃないですか? 元いた世界では、自分が作ろうとしてる土木部隊みたいな兵士が、季節が二千回巡る前からいたと言われており、真っ直ぐな道を造るための道具も確認されています。本来兵士は生産性のない金食い虫ですが、平時は常に道を整備していたと言われています。ですがフローライト軍は訓練も必要ですし、市民の雇用問題もあるので部隊は別にしました」

「確かにそうだ。歩くなら真っ直ぐが良いですな。で、とある場所で噂になっているのですが、敵を倒しやすい堀の形や掘り方を知っているとの事ですが……」

 そして興味深そうにおっさんが聞いてきたので、トニーさんに説明をした事を、余っていた紙に、横から見た簡単な図を食事をいったん中断して簡単に描いた。


「堀が真っ直ぐだと、防壁からの弓に対して死角ができますが、防壁側をこの様に斜めにすると丸見えです。上る時に身動きができないから、真っ直ぐな方が良い場合もありますが、ここに柵を打ち込み、上る手間をここで作ります。物資と時間がある場合ですけどね」

 俺は口を湿らす為に、グラスの水を飲み、紙をめくって二枚目を見せる。

「で、上から見た場合にこの様な形にすれば、防壁に近い場所に集まりやすく、練度の低い兵士でも弓を当てられます。本当は防壁がこの様な形なら最高でしたけど、今更工事をするとなると大変ですので、土嚢や堀で代用ですね。予算や資材、人手、時間に余裕があるのでしたら、防壁の外側にもう一区画作れば良いだけですけど、王都の防壁の長さが三千五百歩なので、季節が二十回巡るくらい見積もった方が無難ですかね? 大きなレンガを焼く施設や、粘土も必要でしょう。平和は次の戦争への準備期間とはよく言ったものです……」

 俺は頭を振りながらため息を吐き、紙をオッサンに渡してからフォークとナイフを持って、食べかけの魚のムニエルを口に運んだ。


「ニワトコ殿のいた世界では、この様な形が主流だったのですか?」

 そしておっさんは驚いた様に言い、紙をずっと見ている。

「そうですねぇ。技術の発展と共に、今の防壁では一切役に立たない攻城兵器が登場して、それを防ぐ作りになってますよ。ま、更に凄いのができちゃって、地下深くに作ったり、それも破壊できる物ができたりで、全く新しい防衛方法になったりしてます。なので今は(・・)これが一番現実的ですね。カタパルトの投石くらいなら堀で無力化できます」

 そして最後の一切れを口に運ぶが、皆がぽかんとした表情でナイフとフォークが止まっていた。

 俺はナプキンで口を拭き、軽く畳んでテーブルに置く。そういや上司に、軍事系が趣味で、そう言うのに詳しい人がいたなぁ。もっと話を聞いてれば、もっと詳しく説明できたんだろうけど……。


「……つまり今まで口を出さなかったって事は、ニワトコは今の状況に合わせて動いているのか?」

 プロテア義父さんは、真剣な目で俺を見ながら聞いてきた。

「そうですね。俺の世界には魔法はありませんでした。なのでこちらの世界には技術的な遅れが多少あります。そこにこれこれこうだ。と、自分の知ってる知識を披露しても大半は再現できないでしょう。なので俺はこちらに来てから、魔法の力を借りるか、今の技術力や地位で、できる事しか(・・・・・・)してません。本当魔法があるだけで、色々な技術力が低い……。回復魔法やポーションがあるから、医療技術も病気に関する知識が低い。攻撃魔法があるから攻城兵器も少ない」

 俺はため息を吐きながら首を軽く振り、肩をすくめた。


「俺からしてみれば、攻め込まれた時の不安や犠牲を減らしたいだけです。今回は製塩の薪代を抑えましたが、次は道を整備して隣国に出荷し、外交で友好国を増やし、少しでも戦争にならない様になれば良いかなー程度ですね。それもほぼ自分の為です。別な隣国と仲良くすれば、最悪戦争になった時に、中立か援軍に来てくれますからね」

 俺はプロテア義父さんを軽く見てから、オッサンやサルビアも見た。

「ま、この辺りは専門家に任せ、自分は視察しながら辺境にある寒村への道を作ったりして、細部の活性化をすれば、自然と税の収入も増えるでしょう」

 俺は水のお代わりを頼み、話を終わらせた。



「ふーん。計算の答えに魔法使いをもって来ちゃったかー」

 夜中に寝室で、今日あった事を少し愚痴ると、少し笑いながらロディーが腕を組んで頭を縦に振っている。

 なにか近い答えとか、ロディーも書いたんだろうか?

「そうなんだよー。俺も似た様な事したから、今じゃ先生の気持ちが良くわかるわー。ってかさ、土木に使える魔法使いいたわ。堀とか掘れるじゃん。ロディーは知らなかったの?」

 なんか聞いた事があった気がしたので、とりあえず聞いてみた。

「ほぼ最前線だったし、あの堀は人力で掘ってると思ってた」

「そうっすか……」

 俺は膝に肘を付けて、盛大にため息を吐いた。


「学校に行った意味がマジックアイテムだけになったわ。そしてビバーナム一家は犠牲になったのだ……」

 なんか忍者マンガみたいな台詞になったけど、まぁどうでも良い。

「馬鹿な貴族が排除できて、領民ニッコニコ」

 そしてロディーが両頬に指を当てて、首を傾げながら笑顔で言ってきた。クソ可愛いなおい! 生地の薄いワンピース型のパジャマだから襲いたくなるわー。


「あ、そうだ。縄で縛るとか縛らないとか、城の中で噂になってるぞ? この間お姉ちゃんから聞いた」

 そう言った瞬間、ロディーが真顔になり、無言で膝をバシバシ叩いてきた。

「まてまて。確かに俺が悪いけど、あの時上に乗ってきたのロディーじゃん! 半分とまでは言わないけど、半分の半分はロディーも悪いじゃん!」

「大声出すとまた聞こえちゃうでしょ! 馬鹿なの!?」

 そう言いながら、ロディーの膝への攻撃は止まらない。ってか痛くない場所を的確に狙ってきてるので、本気ではないんだろうな。


「声! 声大きいって!」

「むー」

 俺がそう言うと、少しだけむくれて攻撃が止んで静かになった。

「もう寝る!」

 そう言って立ち上がり、ベッドに座っていた俺を倒す様にして押し、端に寄れと言わんばかりに押してきたので移動すると、俺のベッドに潜り込んできた。


「って、一緒に寝るんかよ。怒ってるからてっきり自分のベッドの端で、極力距離を空けると思ったわ」

「別に噂なんだからいいでしょ。本当にしてないんだから」

「そうっすか……。ま。別にそっちが良いなら良いんだけどね」

 そう言いながら仰向けの状態から九十度転がり、ロディーに体を密着させお腹に手を置いた。


「さっきの凄く可愛かったよ。ちょっとだけ襲いたくなったんだけど」

 そう言ったらロディーが頭を横に振り、胸板に側頭部を軽くぶつけてきた。髪が長いから、癖にならない様に軽く結って前に垂らしてるけど、ずれない? 大丈夫?

「こういう時のニワトコは、ちょっと意地悪だから駄目」

「はいはい。また次の機会にお願いします」

 そう言ったらロディーがランプに手を伸ばして、芯を調節する摘みをひねって消し、仰向けになった俺にすり寄って来て、密着させて来た。


「コレで我慢して」

 そう少しだけ照れくさそうに言って指を絡めて握り、それ以上の動きはなかった。

「なんか。ムラムラします……。逆に辛いんですけど」

「罰って事でしばらくムラムラの刑かな」

「ムラムラが続くと本当に襲いそうだから、そういうのは止めて」

「ニワトコは紳士だから、同意なしや、こっちが駄目って言ったらしないってわかってるから」

「確信犯っすか。そのうち本当に襲っちゃうぞ?」

 俺はロディーの指を優しく解くようにして抜けだし、太股を優しくなでる。


「やれる物ならやってみなさいよ」

「あ。言ったな? 俺がやらないと思ってると思ったら大間違いだ」

 そしてなでていた手を止め、特に何もしないでそのまま寝ることにした。

「……なにもしないの?」

「期待してたの?」

「ち、違うわよ」

「言質は取ったから、その日の体調とか機嫌を見つつ、その内ね。いつ襲われるかドキドキしながら待ってて」

 そう言ったら、太股を布団の中でつねられ、ロディーは何か安心したような、残念ってな感じのため息を吐きながら、今日はお互い特に何もなく寝る事になった。

 日付が変わった瞬間にって事はなかったよ? 

活動報告にどこの出版社様から出るか、イラストレーター様のお名前、本編がどの様に加筆されているかの報告があります。

興味のある方はお手数ですが、下記のURLをコピペして行くか、作者の名前をクリックして活動報告を見に行っていただければ嬉しく思います。


下記のURLは小説家になろう様の、作者の活動報告に行けるURLです。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/428528/blogkey/2397733/

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[気になる点] 縛る縛らないなどの床事情が街中まで広まるのはメイドなりの家人か間者などだと思うけど、さらっと流してるけど国家転覆罪に匹敵し得る事だと思いますが。王家に連なる者の恥をペラペラ喋るとかアリ…
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