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第18話 動画で見て知ってるから洒落になりませんよ? 後編

「駄目だ。やっぱり心配だ。俺が処分しないとヤバい事になる」

 執務机に座り、ペンを持って文字を書く直前でそう呟いて直ぐに立ち上がり、ドアを開けて、待機していた見習いメイドさんを無視しつつキッチンに走った。

「いない……」

 キッチンに行ったが、アニタさんはもういなかった。

「アニタはどこに行ったか知らぬか?」

「今ここから離れの裏手に、トニーと出て行きましたが。なにやら護衛と言う言葉を言っておりました」

「通るぞ!」

 俺は短く言い、キッチンの中を通ってドアを開けると、少し離れた所で、今まさにアニタさんの手から瓶が投擲された瞬間だった。

 しかも結構綺麗なフォームでの投擲だった。

 そして普段スカートで見えないふくらはぎが見えた……。


「あーあ。俺しーらね」

 そう小声で言った瞬間瓶が離れた所に落ち、ガチャンと言う音と共に辺りに液体が飛び散り、数秒後に不完全燃焼なのか、不純物が多いのかはわからないが、大量の黒煙を出しながら盛大に地面に炎が広がっている。

「意外に火の広がりが凄いですね。コレは確かに取り扱い注意って意味が良くわかります」

「私なら落下地点から最低でも大股で十歩は離れたいな」

「燃える水って扱い辛かったですが、コレなら軍部もニッコリでしょうね」

「騎士団は正々堂々がモットーだから無理だろうが、工兵なら好んで持ちそうだ。鎧に投げつけられたら、中から火に焼かれる。考えただけでも恐ろしい」

 なんか炎を見ながら、そんな事を話し合っていた。いや、この黒煙の出方は異常だからね?

 普通は割れた瞬間に、飛び散った液体に火がついてもっと酷いし、ここまで酷い黒煙出ないからね?


「そこの二人! 何をしている!」

 そして鎧を着込んだ兵士が数名走って来て、大声を出していた。うん叱ってあげて。その人達、興味本位で離れの裏手で実行してるんだから。

 しかも毛布も砂もないし、水すらもない。

「兵器開発部が作った物です。ニワトコ様の護衛をするに当たり、効果を見る為に使用しました」

「そうか。いったいどんな物か知らぬが、これなら馬での突撃くらいなら止められそうだ。火に慣れた軍馬は少ないからな。ちなみにコレは安易に使えるのか?」

「紙に魔法文字が書いてあり、十を数えてから燃えるので、触ってから投げれば燃える水に引火する仕組みです」

 ん? なんか流れがおかしいぞ? 叱るんじゃないの?


「護衛馬車の最後尾に少し多めに積み、後方へ投げ。各馬車にも数個乗せて、窓から左右の敵に投げるのもありだな。これは私が見たままや私見を加えて報告書にまとめ、護衛担当に渡そう」

「よろしくお願いします。移動中割れない様に、干し草やクッションの様な物に入れるっていうのも足してください」

「わかった。付け加えておこう。トニーは何かあるか?」

「……樽に燃える水を入れ、ジャバジャバこぼしながら走り、火矢で射る、もしくは魔法文字のかかれた紙を握りつぶして一緒に捨てるのはどうでしょう? 襲撃途中で炎の道ができて、上手く行けば襲撃者は火の中で大火傷です」

「「「おぉ!」」」

 いや、叱ってよ。一緒に付いてきた兵士もおぉじゃねぇよ。まだ燃えてるんだよ? いいから消せよ。黒煙がもうもうだよ? 絶対城からも見えてっから!

「……護衛としては良さそうだ。燃える水と投擲瓶を分けてもらい、実験をしてから報告書に書き足そう。良い意見を感謝する」

 ちょっと何言ってるかわからない。いや、護衛する身としてこれはいいのか? この場所だけでは俺が間違ってるの? もういいや……。


「ニワトコ様。いらっしゃったのですか! どうですかコレ! 馬車での移動中の防衛力が上がります!」

 離れの兵士長なのか誰だかしらないけど、興奮気味に黒煙の上がっている火を手の平で指し、笑顔で聞いてきた。

 防衛する者としては、素晴らしい物なんだろうけど、俺からしてみれば、装甲車や戦車とかに十数人くらいで投げつけて、中の人間を焼き殺したり、隙間から入った液体に引火させて走行不能とかって使い方を知ってるから、本当に何も言えない。

 多分そこに行き着くまで、そう時間はかからないと思うし、早期にこうなる事はある程度予測してたし。

「ウン、ソウダネ」

「何かニワトコ様から、ご意見などございますか?」

「トクニナイヨ。ゼッタイニキヲツケテネ」

 俺は笑顔のまま棒読みで答えるしかなかった。

 ってかトニーさんもアニタさんも、ニコニコしながらこっち見ないでくれ。俺は威力を知りたくて来たんじゃなくて、注意しにきたんだよ。



「はぁ……。俺も投擲瓶に対しての私見を書いて、護衛部隊と戦術課、兵器開発部に渡さないと……」

 盛大にため息を吐きながら、変に頭痛のする頭で、書こうとしていた書類を机の脇に寄せて、新しい紙を取り出す。

 作った兵器や作戦は相手も使う事を考慮や思慮し、対策案を完璧にしてからの使用を強く勧める。特に兵器開発部が作った投擲瓶。

 燃える水が盗まれ、物陰に潜まれて十数人に一気に投げられたら、鉄でできた馬車でも中の人間は死ぬので、燃える水の管理は厳格化する事。一度実物を作って投げればわかる。

 黒煙が酷いので、逆に位置を知られる可能性がある。

 君達は燃える水を甘くみている。使用条件を限定する案を出して、折り返し報告書にまとめて提出する事。

 もう少し書きたいけど、あまり関わりたくないのでこの辺にしておく。

 何するんだったっけ? あぁ、疎水の草案だ。あんな事があったから、少し忘れてたわ。



 その後、木箱を馬車に見立て、兵器開発部から数個もらってきた投擲瓶を全て投げつけ、簡単に火が付き、直ぐに燃え崩れたとか報告を聞いた。

 いや、そんな情報いらないから。結果は知ってるから。戦車だってやばいんだから。マジでそっち方面に、俺を関わらせるのやめてくれない?



「で、あの煙はそう言う事だったのね。皆離れのある窓際に集まってたわよ? 火事か! って。けど黒すぎる煙だし、直ぐに違うって報告があったけど、黒煙がなくなるまで散らなかったわ」

「もう少し安全な場所でやって欲しかったよ。本当頭が痛くなる」

「ま、叱られてたし、次はないと思うわよ」

「だよね。俺は後ろで呆れてるくらいしかできなかったよ。やるなよって言ったのに、即その辺に投げてるんだから」

 俺達はベッドに座りながら、黒煙事件の事を話した。


「あ、けどランプに使えるから、悪い事ではないね。ランプの方は黒煙を見てないけど」

 昔、ランプ用の煤が出にくい油を使ったけど、それでも上部に煤があったし、多少は出ると思う。

「どうせ面倒だから、ランプに燃える水を入れたんでしょ」

「……正解。そしたら問題なく使えたらしいから、併用はできるね。その行為はあまりほめられた事じゃないけど」

 ため息を吐きながらサイドテーブルのランプを持ち、意味もなく芯を延ばしたり縮めたりする。

 別に灯油ランプじゃなくても、灯油を入れて平気なら問題はないとは思うし、使ってる内に改良案とかも出るだろう。

 そして芯を短くしたら、ロディーにランプを取られ、それをサイドテーブルに置いたら俺の隣に座って、体を預けてきた。


「ねぇ。ダメ?」

「ダメって事はないけど……。最近多くない? 俺は別に良いけどさ」

「アルがね、サルビアと良い感じになったって言ってきたから、ちょっとだけ対抗かな?」

「あぁ、そういう……。サルビアの爵位とか家系って、公爵家のアルテミシアと釣り合うのか? あいつの事貴族ってしか知らないし。それとも別に気にしないのか? 別に前者でも後者でも俺としては幸せになってくれるなら良いけど」

「問題ないらしいわ。元々お互い婚約者の事あまり好きじゃないっていうより……普通? あまり会ってないなら、そんなものよね。なら幼い頃から仲が良かった方が良いんじゃない?」

「恋愛結婚って珍しいなぁ。貴族って政略結婚ってイメージしかないし、側室の方を愛する可能性もあるしなー」

 なんかそんなイメージしか出てこないんだよな。


「私達も恋愛結婚でしょ」

「最初はそっちからの一目惚れで、猛アタックって言うより、檻の中に二人放り込むって感じだったけどね」

「へー。そう思ってたんだー」

 ロディーはそう言いながら、なんかもたれ掛かるというより、どんどん力を入れてくる感じで肩で押してくる。

「当たり前だろ。あんな状況だったんだぞ? まぁ、好きになる努力はしたけどね」

「そう言う事にしといてあげる!」

 ロディーは立ち上がり、飛び込む様にしてタックルをしてきて、俺はベッドに押し倒された。

 座ったままじゃ無理だと思ったんだろう。本当手段が強引だなぁー。最初からずっとだけど。


「で、薄暗い中でもわかるくらい顔を真っ赤にして、お腹に乗ってるお姫様はこの後どうするのかな?」

「こ、この間の雪辱を果たすのよ!」

「ふーん。紐でも持ってきて縛るくらいしないと、この前みたいに戦況がひっくり返っちゃうぞー。今から呼び鈴でも鳴らして、メイドさんに持ってこさせる? 俺は一向にかまわないよ? どうする? 手を伸ばせば直ぐだぞ?」

「な、なに言ってんのよ! そんな事したら恥ずかしいじゃない」

 少しからかったら、手の平でバシバシと胸板を叩かれた。こういうプレイかな?


「ロディーが地下で、似た様な事になりそうだっただろ。それと同じ。俺が捕まって、尋問って名目でロディーに……。全くロディーは変態だな! こんな行為を強要するなんて! 止めて! 私に乱暴するつもりでしょ! 傭兵や盗賊みたいに! 傭兵や盗賊みたいに!」

「ちょっ! 何言ってるのよ! 私は変態じゃない!」

「ま、このくらいだったらまだ軽い方だから、変態の入り口か?」

「変態じゃないって言ってるでしょ!」

 そしてさらにバシバシ叩かれ、なんだかんだで下着で乗られてるって理由で、反応しちゃってる俺なんだけどね……。男の下半身ってやっぱり単純だと思う。



 翌朝。ティカさんに少しだけ注意された。

 なんでも言い争いは、かなりの人に聞こえてたらしい。当たり前だよね。ちょっと声が大きかったし。気を利かせたメイドさんが、隣の部屋に紐を持って来てたって話だ。結局使わなかったけど。

 戦況? 基本ターン制だったよ。小声だったし、聞こえてなかったと思いたい。

 そして顔を真っ赤にして、太股をバシバシ叩かれたのは理不尽だと思う。まぁ、原因の大半が俺だから仕方ないけど。

「さて、着替えて朝食でも食べようか」

 そしてロディーから逃げる様にして、さっさとベッドから下り、俺はスーツに着替えた。

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