第18話 動画で見て知ってるから洒落になりませんよ? 前編
前編が少し短いです。
俺はプロテア義父さんが、声をかけてくれている貴族の教育用問題集を作りつつ、答えが合っているかも自分で計算し、多分必要と思われる計算やら知識やらを書いている。
小学生の夏休みの宿題みたいに、色々な教科が入っているようなアレな感じだ。
山を切り崩して締め固め、法面の角度とかも、重りを付けて真っ直ぐ垂らした糸と、瓶に入れた水の水面の半分辺りを目安に、具体的な数字ではなく、物とかを使って例えたりしている。
そして崖崩れ防止の為に苗木を植えたり、黒土にして草花が勝手に生える様にしつつ、なんでそうするのかも書く。雨風で土が流れない様にする為だ。もちろん木には崖崩れ防止の為だったり、切った木にはそれがない事もきっちりと付け加える。
そして崖側は一メートル以上離して杭を打ち込み、荷重をかけても崩れない様にだ。
そして労働基準やら休息時間を決め、絶対に守るとか、塩分や糖分、レモン果汁の大切さとかを書いておく。
「整地や森を切り拓くのはこんなもんか。けど治水や利水の為の疎水は必要だから草案だけ書いておくべきだな……」
一息つきながら独り言を言い、ため息を吐きながら冷めたお茶を一口飲んだらドアがノックされた。
「ニワトコ様。兵器開発部の方が面会を求めておりますが、今お時間の方はよろしいでしょうか?」
返事をするとアニタさんが入ってきて、そんな事を聞いてきた。
「えぇ。問題ないですよ」
「問題ないそうです。では、お茶を入れてきますね」
「失礼します」
そこにいたのかよ……。お伺いを立ててからって流れじゃないのか……。
「どうぞ、お掛けください。ん? かけろ。か? まぁ、言葉使いは気にしないでくれ。まだ不慣れでな」
俺はそう言い、ソファーに移動して兵器開発部の、誰だかは知らないけど対面に座る。
「で、どの様な話だ? 兵器開発に関してはあまり関わりたくないんだが? 名前を残したくないんだ」
「いえ、今回はこの絵図面を見ていただきたいと思いまして」
そうして兵器開発部の人は、一枚の紙を出してきた。
「ランプ油が切れ、部下が試しに燃える水を入れてみたところ、問題なく使えたと言う事で、さらに安全面に配慮した物の設計図です。ですので我々より詳しいニワトコ様に見ていただき、ご助言をいただきたいと思いまして」
灯油ランプか。向こうにもあったし、副産物の灯油が使えるなら、どんどん使うべきか?
「ふむー。この芯の部分だが、柔らかく薄い鉄を巻いた物を少し延ばし、下の油を入れる部分に火が極力行かない様に工夫すべきだな。そしてもう少し高めにして火を遠ざけた方がより安全だ。上部に煤がたまると思うから取り外しを容易にし、清掃面の事も考えた方が良いだろう。ここの火の当たる部分を平らにすれば、鉄製のカップを置き、湯を沸かす事はできないが、熱で冷めない様にできる。保温って奴だ」
「……効率的にも作るという事ですね」
キャンプ用品とかで上に缶詰とかを置いて、暖める方法もあったし、軍人なら機能性も持たせるべきだしな。
「熱がもったいないからな。夜中に会議とかで使うなら重宝するだろう。カップを規格化して落ちない様に縁を付ければ、飲み物をこぼすこともないだろうが、大きめに作れば何にでも対応は可能だろう。それはそっちで決めてくれ」
デザイン次第では、一般家庭や貴族の屋敷でも使えると思うが、燃える水の一般への販売とかどうなんだろうか?
「ご助言ありがとうございます」
「いや、気にするな。今私が考えている土木部隊にも使えるだろうから、こう言うのだったら問題はない。一般にはまだ普及はないだろうから、デザインではなく機能性しかない物でいいだろう。ま、そのうち燃える水が出回るようになったら、専門家が貴族向けにデザインしたものが出るかもしれないがな」
「我々下っ端兵士には装飾は必要ない物ですからね。指揮官殿はわかりませんが……。いやぁ、機能美というのは素晴らしい」
指揮官殿とか言ってるから、兵器開発部には、お偉いさんはいないのかもしれない
「わかる……。その辺は同意できる。ゴタゴタしたのは私も嫌いだ。で、これだけという訳ではないだろう? さっき一緒に瓶を持っていただろ?」
まぁ、嫌な予感しかしないけどな。
「えぇ。投擲瓶です」
そう言って兵器開発部の人は、ソフトボールくらいの丸底フラスコが入った箱をテーブルに置いた。
まんま丸底フラスコ風火炎瓶です。捻りがありません。やばいです。ガラスを吹いて作っただけです感が強いです……。
城壁の外が滅茶苦茶悲惨な状況になるぞこれ。
「……ほう」
「いけません!」
特に興味ありません的な態度をとり、瓶を持とうと思ったら、いきなり止められた。なんでだろうか?
「ここの紙に、魔法文字が書いてあります。これは文字に触れて十を数えると燃えるのです」
「あー。はいはい。見本のために蓋がコルクっぽい木材だと思ったけど、このまま使うんだな」
「はい。色々試しましたが、中身がこぼれて火傷した同僚がいます。なので安全を考慮し、しっかりと蓋をして魔法文字で代用しました」
なんか聞いちゃいけない単語が聞こえたが、無視してもいいんだろうか?
「安心しろ。私に魔力はない。つまりこの長い部分を持って、文字に触れて投げて、割れて紙に油が染み込んで、それが燃えると」
そう言ってから瓶を持ち、張ってある紙を見ると梵字の様な文字が一つ小さく書いてあり、周りに点が十個あった。
「ふむ。コレだと文字も小さいし少ないから安いだろう? 生産費用は?」
「銅貨十枚から十五枚です」
「……安いな。私もマジックアイテムの作成を頼んだが、重い物を動かすから高かったが、この程度ならこんな物なんだな」
俺はそう言いながら瓶を戻すと、ドアがノックされ、アニタさんがお茶を持ってきてくれた。
「気にしないで飲んでくれ」
「では、失礼します」
そう言って兵器開発部の人は、スプーンで砂糖を四杯入れ、良くかき回して飲んでいた。頭脳労働者って感じだなあ……。
「コレを見せに来た訳じゃないだろう? 改良点が欲しいとか、何か助言が欲しいってところだろうな」
「はい。投げつける以外の使用用途を教えて欲しいのです。ニワトコ様の名前は残しません。偽名で立案者の名前を乗せます。どうか、どうか教えてください」
そう言って必死に頭を下げてきたので、とりあえず頭を上げさせることにした。
「はぁ……。もしかしたら暴徒になった市民に使われるかもしれないから、気は乗らないんだけどなぁ……。まずは足止めだ。直接投げつけて燃やすと、仲間が怒って突っ込んでくる可能性がある。敵の手前や狭い道に投げ込めばいい。門の前とかな。そして時間稼ぎだ」
「なるほど。火は誰だって怖いですからね」
「あとは精製していない燃える水を混ぜろ。この透明な燃える水が着火材の代わりになって、火がつく。転がっても消えないし、粘性の高い油がまとわりつくから質が悪い。コレに関してはコレくらいしか本当に知らない。バターを混ぜても良いらしいが、そういうのは料理に使いたいしな」
「燃える水で着火ですね。混ぜると質が落ちると思ったのですが、わざと質を落とすのも必要な時があると……」
兵器開発部の人はメモを取っている。このくらいは必要ないと思うけどなぁ。
「では、ご助言ありがとうございました」
「あぁ、気にするな。何か案を出して欲しいって事以外なら、ある程度は妥協しよう。国防の為にがんばってくれ」
「ありがとうございます。誠心誠意努めて参りたいと思います」
いや、そこまで言わなくて良いと思うんだけど……。
そして俺はため息を吐きながら、残っていたお茶を飲み干した。頭痛が痛いって言いたくなるわ。
「けど、やっぱりここに行き着くよなぁ……」
そして見本としておいてかれた瓶を、出入り口のドアの脇に置き、どう処分しようか悩んでいたら、アニタさんがカップの回収にやってきた。
「どうしました? 酷くお疲れのようですが?」
「あぁ、実はね――」
そして兵器開発部が置いていった瓶の説明をして、もの凄く丁寧に処分して欲しいと頼んだ。
「……元騎士として、大変興味があります。いただいてもよろしいでしょうか?」
「……多分もの凄く怒られると思いますけど? 止めた方が良いですよ?」
俺はアニタさんが、何をやりたいか大体想像できたので、一応やんわりと止める。
「興味ありませんか?」
「見た事はあるので、全然ありません」
「ニワトコ様を護衛する者としては、威力は見ておいた方が良いと判断しました。私が!」
「……そうっすか。俺は止めましたからね? 乾いた砂とか、空気を遮断する為の毛布、火傷したときの為のポーションや水は絶対に用意してくださいね」
俺はため息を吐きながらおでこに手の平を中て、アニタさんは笑顔でカップと灯油入り瓶を持って出て行った。
火炎瓶は魔法文字を使用したものですので、リアルでは真似できないので、たぶん灰色な位置づけな気もします。
最悪かなり文章を変更します。