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第17話 土木って言っても色々な物が一括りなんだよね 後編

「ってな事があってね。とりあえず嗜好品は許可した」

 寝室で今日あった事を、風呂に入るまでの間のダラダラ時間に話す。

「大丈夫なの? 鉱山に入るような人達だよ?」

「訓練されてる兵士だし、酒飲んで暴れても対処はできるだろうし、賭事を見つけたら数十日禁止にさせた」

「んーあの人なら平気かな? じゃ、せっかくだからカードでもしよう」

 ロディーはそう言って、サイドテーブルの引き出しからカードを出してきた。あったのは知ってたけどさ……。


「ムキになる奴がいるから、あまり好きじゃないんだよ」

「負けるのが嫌なの?」

 ロディーはニヤニヤとしながら言うが、負けたらもう一回とか言いそうなタイプだ。

「そういう風に言って煽る人も嫌いなの。ロディーも実は負けるのが嫌いなタイプだろ? 先に三回勝った方が勝ちな。もしくはお風呂の時間までで、勝ち数が多い方」

 そう言ってサイドテーブルを引っ張り、カードを配りやすい位置に持ってきた。

「はい、カードを見せて。ポーカー? ブラックジャック?」

 そう言ってとりあえずカードをよく確認して、変な傷とかがないかを軽く確認し、この世界でもメジャーな名前を出す。


「ポーカーね」

「はいはい」

 そう言いながら俺はカードを切り、交互に五枚配り、サイドテーブルの真ん中に山を置く。

「これはロディーの勝ち」

「なんで? まだカードを配っただけじゃない」

 ロディーはポーカーフェイスで言ってきた。こういう顔もできるんだな。

「俺がジャックのフォーカード。ロディーがクイーンのフォーカード」

 そう言った瞬間、ロディーが少し目を見開いた。


「当たりかな? こんな感じで、上手い奴はカードを自在に配れる。次は山の上から交互に五枚配るけど、ロディーがハートのストレート、俺が役なし。次はフラッシュとツーペア」

 俺は持っていたカードをサイドテーブルに置くと、ロディーも置いた。やっぱりクイーンのフォーカードか。

 そして交互に山からカードを取っていくと、ロディーがため息を吐いてカードを置いた。宣言通りハートのストレートだ。

「ねぇ。次この山から交互に取る時、順番を変えたらどうなるの?」

「もちろん俺がフラッシュになる」

 そう言って山から交互にカードを取ると、俺がフラッシュになった。

「ね? こういう奴が偶にいるんだよ」

「ねぇ。どうやったの?」

「カードの場所を覚えるだけ。あとは切る時に、そう言う風になるようにするだけかな。血の滲むような努力次第でできるようになる。俺はロディーくらいの頃に暇だから遊びで覚えた。んー。十三枚。数えてみて」

 俺はそう言って無作為にカードを取り、ロディーにカードを渡す。


「十二、十三……。嘘でしょ……」

「指先の感覚だけで、カードの枚数を当てただけだよ。さて。本来ならロディーの勝ちだったから、止めようか」

「いやいやいや、これイカサマでしょ!」

「バレなければイカサマじゃないんだよ。イカサマって言うのは……こういう事でしょ?」

 そう言って俺は、残った山の一番上を二人で確認し、それを裏返してから適当にカードを配って、もう一度めくると二人で確認したカードが出てきた。

「これは上から二枚目をわからない様に配る。けどコレはギリギリ灰色かな? それと……」

 俺は袖からカードを二枚取り出した。

「冗談でしょ……。いつのまに……」

「こっちのがイカサマだと思う。ちなみに仕込んだのは、最初にカードを確認してた時だね。けど止めようかって言うのは冗談。次はロディーがカードを切って配ってくれ」

 そう言ってカードを集め、ロディーの前に笑顔でカードを置いた。


「なんか。ニワトコとカードゲームするのが、怖くなってきたんだけど……」

「ロディーが切る、そして配る。そうなれば後はちゃんとした勝負だよ。普段はこんな事はしない。場を盛り上げるだけの、一発芸みたいなものに使ってるし。その後は二度とカードを配らせてもらえなくなるけど。あと知り合いにコレを見せたら、元々嫌いだった賭事がさらに嫌いになったっぽいね」

 まぁ、ゲームとか勝負事での読み合いとかは上手いから、手元をゆっくり見せたら見分けは付くようになったけど。

 あいつ今なにしてんのかな……。ゲームが好きな奴だし、今もゲームをする為に仕事してるんだろうなぁ……。

 そんな事を思いつつゲームを続行する事にしたが、一勝三敗で負けた。所詮仕込まないと運も絡むからな。ってかテキサスホールデムじゃないし、ドラゴン的なゲームのカジノの、一回しか引けないルールだし。


「仕込みがなければこんなもんさ。さて、まだお風呂の時間じゃないみたいだし、もう一回する? 別なもの?」

「ニワトコってさ。バカ正直よね」

「少しだけ否定できない。基本嫌われたくないからね。砦時代に、いかさましてる奴を黙らせたくらいかな? あとは普通に楽しんでたよ」

 そう言いながら適当にカードを集めて、ロディーに渡す。どうするかは向こうの気分次第かな。


「止めときましょ。ニワトコは賭事で熱くならないってわかったし。にしても……本当すごい特技ね。賭博場で働けたんじゃない?」

「遊びでやるから良いの。賭事になった時の雰囲気が嫌い。そうなると場の空気も悪いしね」

 賭場荒らしに巻き込まれたくないし。ってかあんな空間で働いてたら胃に孔があくな。

「入浴のお時間です」

 そうしてる内に、ティカさんが入浴を知らせに来たので、なぜかロディーに手を引かれたまま風呂場に連れて行かれ、一緒に入る事になった。



「んーまずは百人単位での運用して、実績作りが先かなー。いきなり千人とかは無理だ」

 俺は執務室で提出する、土木部隊の最終的な案をまとめて独り言を漏らす。結局最初は最小単位の百人で申請する事にした。

「ヘリコニア様の所に参りたい。今都合が良いか聞いてきてくれ」

 俺は呼び鈴を鳴らし、入って来たメイドに聞いてきて欲しいと頼んだ。

「はぁ、毎回コレが面倒だ。お兄ちゃんが謁見とかしてるはずないのに、今良いかい? とかって行けねぇんだもんな……」

 俺は愚痴りながらティーコージーを外して、ティーポットからお茶を注いで一口飲んだ。

 後は貴族に専門的な教育か。俺に教師みたいな真似事ができるかな……。



「大丈夫との事です」

「あぁ、わかった。ならコレを頼む」

 俺はそう言い、ちょっと厚い計画書をトレーに乗せ、見習いメイドさんに渡すと、何度も行っているのに、先導される様に歩く事になった。


「入れ」

 そしてドアの前に立っているメイドさんが、見習いメイドさんからトレーを受け取り、一礼してから去って行き入室をする。

「なんだそれ? 報告書か? それとも回した仕事の書類か? どっちにしろ、そんな多く頼んでなかったはずだけどな?」

 ヘリコニア兄さんは怪訝な顔をしてトレーを見た。なんか面倒な物を持ち込んで来たって雰囲気だ。


「土木部隊の計画書だよ」

「計画書でそんな分厚いのか……。まぁいい。気分転換に確認しよう」

 そしてテーブルまで来て、ソファーに座り、呼び鈴を鳴らしてお茶を頼んでいた。


「さて、コレも一仕事だな」

 そう言ってニヤニヤ笑い、一枚目をめくった。

「土木部隊の運営目的と主な作業内容と目標……。まぁ、ここはまだいいとしよう。初期運営資金が金貨七十枚? コレはあいつがオークションで売れた金か? 運営が上手く行ったらニワトコに返す……」

 そうして数枚めくって、また手が止まった。


「街から離れた場所での、就寝の質と行商人や出張娼婦の手配。道具の規格化に独自の基準。安全な作業をする為の装備に、森や山を切り開く為の企画。実績を積んだ後の組織の大規模化計画に、道路を整備した時の馬車一台に対しての少量の税金と資金運営方法。離職者に対しての雇用と、模範囚の受け入れ基準……。貴族に対しての専門知識の教育に、マジックアイテムの逐次購入……。一言良いか? 目次でこれとか、お兄ちゃんはバカだろ?」

「誉め言葉として受け取っておくよ。部隊運用なんて初めてだからね。これくらいしか(・・)思いつかなかった」

 ヘリコニアお兄ちゃんは、ため息を吐きながら目元に手を置いて、少し口を開けて固まっていた。


「もうこれ財務大臣とか関係者にそのまま出せるね。読まなくていい?」

「できれば読んで欲しいね。部隊なんか良くわからないし。間違えとかあったら嫌だし」

「これ……ちょっとした詩集より分厚いぞ? ある程度図は入ってるけど、ぎっしり書いてあるし……。数日もらっていい? 父さんにも見せたい」

 ヘリコニア兄さんは、計画書をバラバラと内容を見ないで、呆れた感じで数回めくっている。


「良いよ。特に急ぎじゃないし」

「助かる。コレじゃ他の仕事をしてる時には、目を通す気も起きない。他の内容を忘れる」

 ヘリコニア兄さんは苦笑いをしながら、ソファーに寄りかかると、メイドさんがお茶を持ってきてくれ、それに蒸留酒を少し入れて一息入れていた。


「で。この部隊って、道専用?」

 お茶を飲みながら一息入れていたら、ヘリコニア兄さんがいきなりそんな事を聞いてきた。

「……他にもあるよ? けど本当に国家単位だよ? それでも聞きたい?」

 一応今まで黙っていたが、個人的にも手を出したくない分野なので、確認の意味でも言っておく。


「一応次期国王予定としては、今までのお兄ちゃんの実績からして、嘘って事はないんだろ? 聞くだけならタダだ」

「はぁ……。じゃあ言うよ。橋や港、ダムの建造。川の治水と利水、遊水池の作成。川のない地域へ水を引くための疎水。山を掘ってトンネルの開通。土木ってかなり幅広いんだよ……。正直橋なんかの強度計算とか面倒だし、巨大ダムの建造なんか一生物だ……。金がいくらあっても足りない。今まで大水害とかないのが幸いだけど、疎水なんか川の上流の方から国の中に新しく引っ張ってくるんだし、どこかに貯水湖も作らないと、確実に行き渡らせるのは困難だね。川の上流が他国にあるって事は、仲が良くないと、最悪毒なんか流されたら死者が多く出る」

 今まで考えていたが、口に出さなかった事を言い、お茶を飲んでヘリコニア兄さんの方を見ると、顎に手を当てて右の方を見ながら何かを考えている。正直嫌な予感しかしない。


「それぞれ草案で良いから、利点と欠点を書いて提出してくれないか? 疎水って奴は、国内から引く事前提で」

「だよね……。そうなるよね……。本当に簡単で良い?」

「あぁ。大規模化した場合に、細分化した前提でいいよ。仕事を増やして悪いね」

「そう言うのは、ちょっと申し訳なさそうに言って。まぁ、いつかはやらないといけないのは確かだし、技術力が追いついたらできるようになるのもあるから、保留にもできる」


 そうするとコンクリートを作るのに、石灰や火山灰、砂とか色々必要になってくるな……。魔物の骨とか貝を利用できるか?

 一番は石灰とか火山灰が手に入るのが良いんだけど。

 俺は筆記用具から紙を出し、早速思いついた事だけをメモしていく。石灰は軟弱な土地に蒔いて、締め固めてた気がするし、あって損はないだろう。


「おーい。早速かい? 今はお茶を飲んでるんだから、そう言うのは止めない?」

 メモに軽く書いていたら、ヘリコニア兄さんにそれを奪われてしまった。

「んー? なんで灰と骨が必要なんだ?」

「錬金術の親戚みたいなもので、科学ってのが俺の世界にはあったんだよ。銅を火であぶると火の色が緑色になるってな感じで、アレとコレを混ぜてこうすると。ってな感じかな」

「ほう……。そうするとどうなるんだい?」


「最初はドロドロだけど、しばらくすれば固まって石の様になり、枠を作って流し込めば簡単に強固な土台ができる。ま、それだけ大量に必要になるから山を掘り返したりして、全部現地に運んで、枠を作ってってな具合。港なんかこの城より多い量の砂とか火山灰が必要だから、本当に国家予算の値段だよね。ダムなんか山と山の間に壁を作るから、もっと必要かなー」

 そう言うと、ヘリコニア兄さんは苦笑いをしていた。


「だから言いたくはなかったんだけどね。で、本当に草案は必要? 本気で作るなら国が潰れるよ? 国民の有権者と話し合って、税金とか上げて上手く回せば平気だろうと思うけど」

 俺は笑顔でそう言いながらお茶を飲むと、ヘリコニア兄さんは笑顔で首を横に振った。


「ま、極端な例だけどね。治水や利水、遊水池なんかは土を掘ったり盛るだけでもできるし、疎水は地面をくぼませるだけでもできるから、そっちは草案を書いて、港やダムは夢物語的な資料として残しておくさ。んじゃ、残りの書類を片づけないといけないから俺は帰るよ。気が向いたら、さっき持ってきた資料を読んでもいいんだよ? ね、お兄ちゃん」

 俺はそう言ってにやけながら立ち上がると、苦笑いをしているヘリコニア兄さんが軽く手を挙げたので、こっちも軽く手を挙げて退室をした。

「少しやりすぎたかな?」

 そう呟き、一人で帰ろうと思ったら、アニタさんが待機していたので、先導してもらって執務室に帰った。

あと知り合いにコレを見せたら、元々嫌いだった賭事がさらに嫌いになったっぽいね=盾FPSのスピナの中の人

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