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第17話 土木って言っても色々な物が一括りなんだよね 前編

 二日後。俺は一度入った鉱山に行くのに、もの凄く丁寧な書類を書き終わらせ、服を選んでいる。

 相手はお堅い退役兵士で、ダラダラしていた現地の兵士を規則正しくした鬼教官ってイメージしかないからだ。

「この着たくない装飾過多な服か、スーツか……。んー」

「どちらでも問題ないかと思いますが? こちらは王族ほぼ確定ですので、向こうも何も言えないかと」

 悩んでいたら、アニタさんがあまり参考にならないアドバイスをくれた。

「仮にでも鉱山の件で貢献してくれた、元偉い人だから……」

「なら鎧などどうでしょうか? 礼装用のがございますが」

「鎧か……。余計堅苦しい気もするけど、元騎士だから無難って言ったら無難か。籠手と胸当て、グリーブかな?」

「剣を吊るベルトもですね」

 アニタさんはそう言って、ウキウキと部屋から出ていった。元騎士団所属だからだろうか?

 そう言えば、アニタさんに武装してるところは見せた事はなかったな。あの時は街人風に帯剣だったし。


「どうぞ。なるべく装飾のない、サイズの合う物を持ってきました」

 そう言ってアニタさんは、ガシャリと俺の言った一式を一人で持ってきた。中々パワフルですわー。流石元騎士団。

「うわ。綺麗に手入れされてる……」

 俺は、くすみや錆がない、眩しいくらい光っている鎧を身に纏う。

「久しぶりだから、腰が少し重く感じるな。まぁ、いいか」

「良くお似合いです」

 アニタさんがいつも以上の笑顔で誉めてくれた。やっぱりこういうのが、好きな女性なんだろうか?

「では、お荷物はお持ちします。馬車まで案内いたします」

 そう言ってトレーを持ち、ドアを開けてくれて、そのまま馬車まで先導してくれた。なんだかんだで、ちょっと慣れてきたから良いけど……。

 そうして俺は馬車に乗り込み、一度入った鉱山へ向かった。



「ここに来るのも久しぶりだなぁ。見た目は全然変わって……るなぁ……」

 よく見なくても、出入り口には詰め所があり、門の向こう側には(やぐら)が建っていて、外や中の様子を兵士が目を光らせていた。

 そして御者が何かを話しており、兵士の大声で開門と聞こえ、門が開いた。

 中に入ると、所々に兵士が槍の代わりに棒を持って見張りをしており、ほぼ直立不動の人と、一定間隔で同じルートを巡回している人がいる。

 囚人の宿舎も増えており、無理矢理詰め込む系ではなく、多少余裕がありそうな感じになっている。

 そして換気の為に、入り口で籾殻を飛ばす、大きな唐箕(とうみ)みたいな物を回し、坑道の奥の方に空気を送り込んでいた。

 この変わり様。上が変わると、こうも違うのかという良い例だな。

 そう思っていたら、中央の櫓にいた兵士が鐘を木槌で叩き、大きな音を鳴らすと、休憩と叫びながら坑道の中に別な兵士が入っていき、続いて水の入った桶を持った囚人が入っていった。

「徹底してやがる……」

 それだけを呟き、案内されるがまま、執務室に通された。


「よくぞいらっしゃいましたニワトコ様。自分はライラックと申します」

 そして出迎えてくれたのは、厳つい顔で髪を短くしていて、革のズボンに麻のシャツを着た、思ったより普通の格好だった。やっぱり歳を取っているのか、白を混ぜた感じになっている。

「おや、どうかなされましたか?」

「いえ。退役したとはいえ、国王様より承った勲章を着けた礼装かと思いまして。失礼がない様、この様な格好で訪問したものでして」

「ははは、もう退役した老骨の身。確かに勲章の数はそれなりでしたが、ここでは無用な物でございます。ささ、お座りになってください」

 そう言ってライラックさんは手の平でソファーを指して、座る様に促してくれ、水差しからカップに水を注いでくれた。


「失礼する。して、提案なのだが。コレじゃ剣は握れるがペンが握れない。外しても?」

「どうぞ。自分もニワトコ様が、礼装鎧でお越しになるとは思いませんでした。普段通りの格好で申し訳ございません」

「業務中の作業着なら、終業の鐘が鳴るまではそれが正装だ。気にするな。それと、少し言葉を崩してもいいだろうか? むしろライラック殿も普段通りで良い。そうすればこちらも普通に喋れる」

 ロディーやアニタさん情報で、礼儀はあるが、どちらかと言えばたたき上げ系なので、俺と同じでこういう言葉使いが苦手だと聞いた。


「良いのですか? んん゛。やっぱりこっちの方がいいな!」

 そして咳払いをすると、ライラックさんは少し声を大きくして、笑顔で喋った。

「ははは、ですね。やっぱり普段通りの方がこっちも楽ですよ」

 そう言いながら籠手を外し、ガシャリとソファーに置いたが、ライラックさんの目が俺の左手をずっと見ていた。

「気になります?」

「ん? まぁ。それなりにな」

「護身用ですよ。使わないのが一番ですが、最前線の砦にいた頃からの習慣です」

 俺は笑顔でダガーの柄に指をかけて抜いて逆手で持ち、そのままテーブルに置いて腕を巻くり、鞘を見せてから元に戻す。


「手の動きが阻害されない程度の、オモチャみたいな物ですけどね」

「もしかして、ロディア様と一騎打ちをして、勝った若造ってニワトコ様か?」

 若造って。普段通りって言ったらこれだよ……。すげぇな。

「えぇ、勝ちましたね。だからこうして婿予定として来てます」

「そうかそうか! お前がロディア様を打ち負かした男か! 会議で何回も話題に上がっていたが、ニワトコ様が同じ奴だったか! ロディア様は、自分より強くて知的な男じゃないと嫌だ嫌だとか言ってましたからなぁ……。良い方が見つかって良かった。で、夜の方は上手くいってるのか? 小さいから大変だろう」

 何が大変なのかは突っ込まないぞ! いや、突っ込んでるかもしれないけど。


「子供が出てくるんですよ? 手順を間違えずに、丹念に――」

「んん゛っ!」

 そこまで言ったら、後ろに立っていたアニタさんに咳払いをされた。

「この話しは、ここまでの方が良さそうですね」

「だな。しょ、書類は……」

「あぁ、そうでしたそうでした……」

 気まずい雰囲気の中、俺は脇に置いたケースから書類を取り出した。なんだかんだで厳しいだけで、意外に訓練とか終わったら、部下と酒場でわいわいやってたかもしれないな。


「ふむ。模範囚の労働か。確かにカッとなって殺してしまった奴もいるが、そういうのは真面目にやっている。少し待っててくれ」

 そう言ってライラックさんは前回なかった棚に行き、囚人名簿を持ってきてテーブルに置いた。

「先ほど言った境遇の男が十数名。その中でも特に文句も言わずに黙々と作業をし、態度も良好。そう言う奴は情状酌量と言う事で、俺は比較的簡単な作業に当てている。キッチンで皮むきや配膳の手伝いとかだな」

 そう言って名前の所を指し、指を横にずらして確認をしている。

「良いですね。仕事はきつくなりますが、外に出て作業をさせ、給金も払って多少嗜好品もある場所で作業をしないかと、打診をしてください」

「ちょっと待て。まだこの資料を読み終わらせていないぞ」

 ライラックさんは良い笑顔で言い、少しゆっくりとした動作でページをめくっている。


「労働内容は主に道作りか。物資運搬の効率上昇に、僻地の村への商人の行き来の負担軽減。ふむ、道が良ければ国内の産業や輸出物の運搬費軽減を目的としているのだな。ついでに兵士の進軍速度の底上げって言うのが多少気に食わんが、ニワトコ様はそちらが専門じゃないから仕方ないか」

 ライラックさんは資料を置き、水を飲んでから少し考えている。

「この土木部隊の運用というのは、進んでいるのか?」

「えぇ。少しずつですが。最後の方に運用方法や、組織図予定案が書いてありますよ」

「どれどれ。文字を読むのは報告書だけだったからな。必要なところしか読んでなかったわ」

 そう言ってもう一度書類を手に取り、パラパラとめくってページを探している。


「これか……。ニワトコ様が総司令官的な位置で、貴族がそれぞれにいて、部隊長に数十名の部下か。二枚目は、失業者を主とした会社の設立。ロディア様を振り向かせただけはあるな。腕っ節も頭も良い。俺が若い頃に部下に欲しかった様な男だ! わかった。こちらで二十人ほど選別し、準備ができたら書簡を送る。俺に任せろ。こう見えて人を見る目はある。他にあるか?」

 叩き上げの勘って奴かな? まぁ、信じるしかないか。

「こっちの部隊の設立がまだですので、それができたら折り返し書簡を送ります。それから囚人を送ってください」

「わかった。それで行こう。いやぁ。本来なら酒でも出したいところだが、規律は規律。上が守らなかったら部下に示しが付かん。申し訳ないが、機会があればだな」

 ライラックさんは膝を叩きつつ、もの凄く悔しそうにしている。訓練や業務以外は基本的に人の良い方なんだろうな。

「えぇ。規律に厳しい方と聞いてますので、気にしないでください。ではその様にお願いします」

「あぁ。ここに一人ずつ呼んで面接する。決してニワトコ殿の顔に泥を塗る様な奴は選ばぬ。安心してくれ」

「では、失礼します」

「あぁ、そうだ。囚人の中で嗜好品を望んでいる者がいる。出してもいいか?」

 そう言って腰を上げたら会話が続いたので、もう一度腰を下ろす。


「えぇ。ライラックさんが囚人の管理をしているのなら、問題は少なそうですね。釈放後に渡される少ない給金での購入なら問題はないでしょう。最低品質……と言うと言葉は悪いですが、スラムなんかで飲まれている安酒、それとタバコやカード類で良いですか? 酒に関してはたしなむ程度、タバコは滅多にやらないので詳しい奴にでも聞きます」

「十分すぎるな。強い酒だと暴れる奴も出るだろう。鉱山改善案になかったから、出すのをためらっていたのだ。しかも考えたのは、実際に潜入したニワトコ様だからな。それ以外は必要ないのでは? と思ってしまって……な」

「収容所って事で囚人には悪い事をしたな。けど酒を飲んで暴れたら、連帯責任で全員数十日禁止とかにしておけば、他から恨まれたくなければやらないでしょう」

 日本の刑務所じゃ無理っぽいけど、ここは異世界だ。柔軟にいかないとな。


「賭事が目に付くようでしたら、即禁止で。木の枝とかを使っている内はいいですが、嗜好品とかになってくると、違法行為を働いてボロ儲けする奴も出てくるでしょうし。兵士を買収されないように気をつけてくださいね」

 班長とか? そのうちTボーンステーキとか食いださなければいいさ。

「それはわかっている。カードやサイコロは賭博に繋がりやすいのが難点だ。普通の娯楽だけにしとけばいいのに、そういうのをやりたがる奴が一定数いる。困ったもんだ。部下にもいたよ。それで昇級を逃して落ちていった奴が。それさえなければ優秀だったんだが……」

 ライラックさんは首を振りながら、ため息を吐いている。長生きしてて、多くの人と接しているとこういう事もあるさ……。

 ってか賭事で落ちていく事自体がある意味優秀じゃない気もするけどね。酒さえ飲まなければ良い人なんです! ってか?


「では、その様に」

「あぁ、頼まれた」

 その後規則の見直しをして俺達は立ち上がり、軽く握手をしてから退室をした。

「賭事はよろしかったのでしょうか?」

「多少の娯楽がないと、どこかで爆発するからね。飯だけが楽しみってんじゃ、あまりにも人としてどうかしている。そのくらいは必要さ」

 アニタさんと話しながら廊下を歩き、外に出たら馬車に乗りこんだ。

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