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第15話 誰もが口に出すのをためらうって…… 後編

注意:前編で分かっているかと思いますが、ビバーナムが高級オークションで売り飛ばされます。

人によっては大変胸糞の悪い話になっておりますので、お読みいただく場合はご注意してください。


読みたくない人の為に、おおざっぱなネタバレです。

ただの金策です。

「では、種付き発光草一束は、六十番の方が銀貨四十七枚で落札です」

 オークショニアがオークションハンマーで音を鳴らし、競売終了を知らせ、次の品物が運ばれてくる。

 なんか聞いてて思ったけど、大銀貨四枚銀貨七枚とかだと言いにくいらしく、大が付く貨幣でやりとりはしないみたいだ。

 と言っても高級オークション。俺には価値のわからない発光する草が、日本円で四十七万円か。どこの需要なんだろうか? 姉さんに買っていけばよかったか?

 ってか蓄光テープみたいに使えそう。どう光るかは不明だけど。


「アレねー。険しい山の上にしか自生してないらしいのよね」

「へー。まぁ需要があるからオークションなんだろうけど。専用のハンターとかいそう」

「最低限身の守りだけできる様にして、そういうのを狙いに行く冒険者もいるわよ? 魔物を狩るのとあまり危険度は変わらないけど」

「ふーん。慣れれば良い稼ぎになるのかな?」

 そんな事を話しながら、オークションを見ていた。見てるだけでも結構面白いな。




「本日のメインの登場です。元子爵の子供、ビバーナム。金貨十六枚からです」

 お? 俺に借金が返せる値段か。ってか値段って誰が設定したんだ? あとスーツ一着分上乗せされてる……。

 で、なんで腰布一枚で、エックスのローマ字見たいのに繋がれてるんだ? まぁ、口に喋れないようにする奴はいいとして……。

「金貨三十枚」

 そしてマダムが自分の番号札を上げて、値段を言った。ってかお前が狙ってたんかい!

「金貨三十五枚!」

 そして参加する腹の出た方の男性。お前もか!

「金貨四十枚!」

 対抗するマダム。

 やべぇ。なんでこうなった!? 初老夫婦は、娘の婿にして孫欲しさにって感じじゃない声だしてるし。やっぱり夫婦で体目的か?

 良かったなビバーナム。お前変態のペット決定だぞ。

「金貨四十一」

「金貨四十二」

 お、金貨一枚単位で上がり始めた。


「金貨五十」

 そして後ろの方から、いきなり値段を跳ね上げた女性の声が聞こえた。振り向きたくても振り向けないのが悔しい。

「金貨五十一」

「金貨六十」

 そして老夫婦が下りたのか、マダムの声しか聞こえなくなったが、競わせる気すらないのか、また一気に値段を上げた。


「あ、あの婦人は」

 知っているのか、ライ○゛ン!

「噂の調教師……」

 なんだよ調教師って。早く続き言えよ。すんげぇ気になる。

「調教師が出たんじゃ勝てんな……」

「そうね、私達は諦めましょう」

 老夫婦、そこはもう少し掘り下げて言って。本当に気になるんだ!

「金貨六十五」

「金貨七十」

 いいや。後でロディーにでも聞こう。


「金貨七十銀貨五十」

 お? ついに銀貨も混ざったぞ?

「金貨七十五」

 あ、もう決まったわこれ……。


「他にございませんか? ……では、五番の方が金貨七十五枚で落札です」

 そして先ほどと同じようにオークションハンマーを鳴らし、終了を知らせてビバーナムが奥の方に引っ込んだ。

「あの子も可哀想に。あの歳で調教師に目を付けられるとは……」

 なんだろう。どっちの意味で可哀想なんだ? 奴隷的な意味で? それとも性奴隷?

「生かされたとしても、二度とまともな生活は送れんだろうな」

「ですねぇ。残念だけど次の機会を待ちましょうか」

 うん。あんた達は夫婦で良い趣味してると思うよ。何となく家の中の想像は付く。地下とか!

「あぁ……。調教師に渡ったら、中古すら出回らないのよねぇ」

 ふーん。ドンマイビバーナム。最終的に人皮のソファーとかにならない事だけを祈ってるわ。




「なんていうか……。金と暇を持て余した、権力を持っている狂った人間って怖い……」

 帰りの馬車で、仮面を外してため息混じりに呟いた。

 ロディーに調教師の事を聞いたら、もう単語自体が十八禁なレベル。

 噂程度の物でも控えめに言って狂気の沙汰。あえて表現するならば、スナッフフィルム的な物とかのレベルまである。

 ゲームで言うなら。規制されまくって、名称が不思議な力(マジックパワー)になった物までも最悪あるらしい。

 ってか最終的には……。が頭に付くけど、そこまでの過程が噂レベルでもやばい。もう十八禁の単語のオンパレード。普通の人はまず聞かない単語の羅列。

 変態のペットになればいいとか言ったけど、さすがに可哀想になってきた。


「ま、調教師が出た時点で、あいつの運命は決まった物よ。良かったわね。会いに行って、偶然会えても学校の時みたいに、威勢の良いままかどうかわからないわよ」

「変わりきった奴の、性格や姿を見て清清する趣味はないな。とりあえず大金貨七枚分を土木部隊の初期費用に充てる。失敗の可能性もあるから、税金で大々的にするわけにもいかないし」


「うわー。まっじめー。そのくらいの税金は、使えそうなくらい自分でわかってるはずだけど?」

「だからこそかな? とりあえず国に貸して、上手くいったら返してもらう感じで。還元するか何かしないと、この金額はまずい。とりあえず向こうの宿屋で草案とかまとめてたから、帰ったら清書かな」

 とりあえず臨時収入で、片づける額ではないのは確かなんだよなぁ。




「あ゛ー。本当に最悪な気分だ。人身のオークションは地下でやって欲しいくらいだ」

 ロディアと城の入り口で別れ、俺は離れに戻って執務机のイスに座り、ため息と共にトニーさんに少しだけ愚痴る。言ってどうしようもない事だけど、言いたくもなる。

「地面の下ですか? 表に出ないって意味ですか?」

「後者で。深夜に秘密裏にって感じ? 高級オークションと一緒にしないで欲しかったなー。仮面かぶってたからいいけど、ある程度誰がだれだか割れてそう。髪で」

 ため息を吐きながら執務机に突っ伏して、手首だけでバンバンと机を叩く。とりあえず意味のない主張を言っても、どうにもならない(トニーさん)に言う。


「戦場のオークションよりは色々とマシでしょう」

「ですね。聞いた話ですけど、末期の最前線とかだとお金じゃなくて、干し肉とかジャガイモで取引されていたとか? 末端だとインフレがやばいんですよねー。俺のいた砦ではそんな事なかったですけど」

「ニワトコ様の場所は別ですよ。食糧の備蓄と管理の厳格化に、芋の畑まで作ってたんですから。そういう場所に商人はあまり行きませんし、兵士にも余裕がありますから。だからプロテア様に見込まれたんだと思います」

「あ゛ー。そういうのもあるんかー。おかげで処刑されずに済んだー」

 そう言ったら、トニーさんが苦笑いをしていた。


「で、自分は中に入れませんでしたが……。どうでした?」

「ビバーナムは調教師に金貨七五枚で買われ、他は面白そうな物があるから、暇つぶしに毎回行っても良いくらいかな?」

「調教師ですか……」

 俺が調教師の単語を出したら、引き吊った顔になった。どうも普通の人にも有名らしい。

「で、これから儲かったお金で、土木部隊の初期費用として計画書の草案、この間の案が通ったから、とりあえず書かないと。まずは少数で運用実績を出さないと」

 そう言って体を起こし、何も書いてない紙を取ってペンを持つが、そろそろお茶の時間だという事が太陽の位置でわかり、インクに浸すのを止めた。




「あれだ。オークションは絶対昼過ぎからの方がいいわ。戻ってきて直ぐお茶。そうすると十分に作業できない。休みと割り切って行かないと駄目だわ」

 夕食を済ませ、寝室でゴロゴロしていた時に何気なくロディーに言った。

「お金に余裕があって、数日働かなくてもいい。もしくは旦那が稼ぐ。親の遺産が多いし、それなりに収入がある。そんな人が集まる場所だよ? あそこに行った日に仕事しようって気になる方が凄いわね」

 ロディーは俺のお腹の上に横に寝転がり、一緒にダラダラしながらこっちの世界の、貴種流離譚物を読んでいる。

「そうなのかー。今回は様子見だったけど、迷い人の目線で見てて、何かに応用できないかなーってのが何個かあったし、毎回顔を出しても良いかもしれない。メモしておいて、オークションに参加しなくても必要ならお触れとか出して、適正価格、もしくは過去の取引価格を参考に買ってもいいかも。俺の給料じゃ無理だし」


「だーかーらー、土木部隊の資金は国が出すから、そのまま自分のにしちゃえばー?」

 そして這う様に俺の上から下り、転がってお腹を枕にして、ベッドからはみ出た足をブラブラとしている。

「それは運営に成功したらね。発光草とかは崖に杭を打って、置いておけば薄暗い時に通っても安心とか。そういう場所は深夜に走る訳じゃないし。どうやって光るかは後でお姉ちゃんに聞くけど。昼間の光を蓄えて、暗くなったら光るってって感じなら、事故が減らせるし」

「一束で大銀貨五なんだから、盗難に遭いそうなんだけど」

「鉄製の杭を深く埋め込んで、高い位置に警告風に? 瓶とかに入れてさ」

「鉄の方が高そう」


「だよねー。ま、面白いから毎回行ってもいいかも。人身オークションがなければ最高だね。あ、ビバーナムの事を義父さんに報告忘れた」

「私がしておきましたー。物凄く喜んでたよ。あいつの血筋が途絶えるって」

「言ってる事がえげつないなー。そんなに嫌いだったのかよ」

「色々とやってる事が汚いし、貴族の間でも不愉快に思ってた人も多いからねー。強請(ゆすり)や賄賂は当たり前だし。貴族らしくない? っていうのかな?」

 ロディーは本にしおりを挿み、後頭部をお腹に押しつけるようにグニグニとやってきた。多分特に意味はないだろう。


「ま、あいつは目立ちすぎてたんだよ。他の貴族も多少なりやってるけど、そこまで酷くないし。お兄ちゃんに取り入ろうとして、下品で似合わない金の観賞用の置物とか、装飾の多い剣とか贈ったりしてるし」

「確かにお兄ちゃんはそういうの嫌いそうだ。しかも逆効果っぽいけど、それでも贈るのかよ……」

「そのお金を領民に使えって感じの考えだし。ってか何が好きなんだろう。私も知らないんだよなー」

 そしてその場でうつ伏せになり、お腹に顔を乗せて、今度は顎でお腹を押してきた。


「多分だけど面白い事が好きで、採算度外視で首を突っ込めたら突っ込むのが好きだと思う。王族に産まれてから物に不自由してないし、執着心もない。ならそういうのに興味が行くんじゃない? この間だってビバーナムの隣に座って、肩を組んでニヤニヤして面白がってたし」

「お兄ちゃんって本当に性格悪いわねー。いつまで経っても悪ガキみたい」

「義父さんも悪ガキっぽいし、話だけにしか聞いてない先代様の事を、悪ガキって言ってたから多分血だね。俺はそう思う。スーツの時もニヤニヤしてたし。俺が着て、周りの反応とかどうなるのか考えてたのかも」

「あー。もしかしたらありえるかも。ねーねー。ベッドを大きいの一つにしない? しない時でも、離れて寝れば問題ないでしょ?」

「トイレとかで起きる時に、起きそうだし起こしそう。それにイチャイチャしちゃって、ちょーっと汚れた場所で寝るのもねぇ。端でするのアレだし。こういうのってさ、落ちたくないから真ん中でしたいじゃん?」

「……たしかに。なら今まで通り二つで。しなくてもいちゃいちゃしたい場合は、どっちかのベッドで二人で寝ると。二人で寝ても余るしね」

 そんな事を話しながら、俺はロディーのお腹に手を置き、ポンポンと叩きながら二人で風呂の時間までダラダラと過ごした。

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