第14話 なんで情報収集しないで突っ込んでくるの? 後編
「で、罪状はどうなったのー?」
執務室に戻ると、ロディーが俺のイスに座ってグダグダしており、ドアを開ける音で顔だけをこちらに向けた。
「んー? あの時皆が言ってたのと同じかな? 爵位剥奪と財産半分没収。それと禁固刑。ビバーナムは母親が金を出さないと、高級オークション行き」
「へー。あの歳まで子爵の子供って事で好き勝手やってたツケだと思えば、自業自得かしら? 子供の頃は知らないから多分で言ってるけど」
そう言いながら体を起こし、イスの背もたれに体重をかけて揺り椅子の様にしている。本当親子だな。ってかイスも絨毯も傷むから止めなさい。
「母親が金遣い荒いってダリア義母さんが言ってたし、多分大金貨一枚は出さないでしょ。再婚するにしても瘤付きになるし、なんか性格に双方共に難ありだし。平気で売りそう」
日本円で一千万に利息発生済みだし。この時代背景で、浪費癖のある三十代女性ってどうなんだろうか? 婦人が超好みの顔で、金持ってる爵位持ちの側室か、大商人くらいしか結婚相手はいないんじゃないだろうか?
「この事はしばらく、貴族の間で醜聞になるわね」
「醜聞……。あぁスキャンダル。そうだね、王族の前で何か言ったらしい。あの馬鹿息子がやらかして高級オークション行きらしい。ってか? レア物件だから、クソ変態系の、金を持て余している紳士淑女に飼われるのを希望。物凄く生意気元貴族の息子がペット。その手の奴には食い付きが良いはずだ」
薄い本展開的になるな。多分だけど。
「たまにいるのよねぇ。ああいう奴のプライドを折るのが好きなその手の人間。コレ以上は下品だから言わないけど」
「そうなって欲しいのが希望だけど、確かにコレ以上は下品だな」
俺は執務机に座り、中途半端だった書類に目を通す。いきなり呼ばれたからな。
「そう言えば義父さんは、全員を探し回ったんだろうか? 自分から報告しに来たし」
「じゃないかしら? 私の所にも来たわよ? こういうの大好きな人だし」
「まぁ、お兄ちゃんを見てればわかるよ。面白そうな事に首を突っ込みたがりそうな、根が悪ガキのままだし」
そう言って書類に目を通してたら、いきなり首に手を回され、後ろに引っ張られて机に倒された。
「お父さんや、お兄ちゃんに似ているのは私もなのよねー」
ロディーはそう言って、少し悪い笑顔で俺の両頬を押さえ、キスをしてきた。
「暇そうにしている女の子を無視して、背中を向けて書類を見ている悪い子だーれだ?」
「一応執務の途中で呼び出されたんだけど? てか危ないから、かまって欲しいならそう言ってくれよー」
「えー。見てわからないかなー?」
「暇そうにしてたのは、執務室に入った時の態度とかで知ってた。寝室じゃないから、ここじゃちょっとだけ勘弁し――」
そしてもう一度キスをされ、口を塞がれた。
「ちょっと……でしょ? ならこのくらいなら問題ないわよね?」
「本当親子だなぁ。ビバーナムへのやりすぎはちょっと困るって言ってたから、金で済まそうとして今日みたいになったし。ノってきたら絶対にエスカレートするもん。この間の夜だってそうだったじゃん」
裸エプロンの時じゃないぞ? アレはおれが頼んだんだし。
「んー……。まぁ、アレはニワトコが悪い。ノせてきたんだもん」
「いやー、イチャイチャは多い方が良いじゃん? けど場所は弁えようね? ここ執務室だよ? 仕事場ではちょっと……」
オフィスラブ的な? 私がいいと言うまで誰も通すんじゃないぞ! って奴? 絶対お楽しみ中だって秘書にバレバレだし。ってか秘書が相手の時もあるしなぁ。
ソッチ系の肌色の多い奴は趣味的な問題で見てなかったけど、映画とか漫画で良くあったし。そして暗殺されると……。
「っしょっと。まぁ、夕食後まで我慢ねー。なんかティカさんも寛容になってるし、お風呂も多分一緒に入れるでしょ」
そう言いながら起き上がり、書類を置いてお兄ちゃんが名前だけ書けば問題ない方のトレーに重ねる。
「ニワトコ様。お手紙が届いております」
ドアがノックされ、返事をすると、見習い執事が手紙を持ってやってきた。
「あぁ、ありがとう。自分の仕事に戻って良いよ。……あーはいはい。風車の見積もりだこれ」
封蝋をナイフで取って中身を見てみると、地盤作りから、立て込みまでなんか物凄く大まかだった。
「何も言えねぇ……」
「なになに? どうしたの?」
そう言いながらロディーが肩に手を起き、立ち上がって覗き込む様にしてきたが、なんかゴトゴト聞こえたので、四つん這いで机の上を移動してきたっぽい。ちなみに胸の感触はほとんどない。
「海に石を組んで建てるのと、地面に石を組んで建てるだけ。詳細はなし」
「おー。これはある意味凄い。海の上に建てるのはなんか面倒だから、大金貨二枚足しました。って感じ。だって二が一個多いだけだし」
「本当にここの組合支部大丈夫かよ……。これなら波風の腐食とか考えて、引き入れる為のスクリューを伸ばした方がまだマシだな。地上で決まりだ。明日には話し合いの為に、ちょっと行ってくるわ」
「じゃ、今日は執務切り上げて、イチャイチャかなー?」
ロディーは肩に顎を乗せ、頬ずりをしてきた。肌がスベスベでプニプニだから、変にくすぐったい。
「あれ? てっきりついて来ると思ったけど?」
「数日後に軍のお偉いさんとの、今後の警備方針についての会議があるのよー。アルも一緒だから別に色々と問題はないけど、スラム周辺での犯罪率が少し上がってるのよねー」
「そういう書類は全然こっちに来ないから、知りもしなかったわー。何か産業でも立ち上げて、労働力の確保と給金とか、色々やらないと根本的な解決はしないでしょ」
「んー。そう言うのじゃないのよ。職もある程度どうにかして、収入とかがある人はいるんだけれどね。なんか冒険者か傭兵崩れの奴が頭やってて、危ない薬とかを売ってる犯罪者組織ができあがりつつあるっていうの?」
そう言って、今度は胸に手を回して背中に抱きついてきて、息を吐いているのか一部が暖かくなってきた。
「あー。心の隙間に入り込む系ね。それを早めに潰しておく感じか」
「そうそう、それも話し合う。普段行かない場所とか。怪しい奴に話しかけたりとか、根本的なところの変更かなー」
ロディーは俺から離れ、隣に座ってきた。もちろん机の上を移動して。
「なぁ、はしたないから止めないか? 俺がいつも通りイスに座るから、膝の上に座ってくれ」
「最初に机に座ったのはニワトコよ? って事でー」
ロディーはそう言うと机から下り、俺の手を引っ張って引きずり下ろし、イスの方に誘導したのでいつも通り座ると、直ぐに太股の上に座ってきて背中を預けてきた。
「はい、次の書類」
「どうも」
そして書類を渡してくる。まぁ、一種のイチャイチャ的な? 執務室でできる奴でも上の方だ。
ちなみにこの間の、お菓子を食べさせたり、髪の香りを嗅ぐのが最上位にしたい。ソレ以上は、モラル的な物になってくる。
いや、執務室でも問題はないかと思うけど、見られるとか見せつける趣味はないから、コレ以上のは寝室でしたい。
「あ、魔法学校への寄付金の件だ。良いタイミングで来たな。かなり校長に迷惑かけたし、俺の裁量で少し増やしておくか」
とりあえず数字を二重線で消して、五割増しに変更しておく。
「あー私情挟んでるー。王族としてそれってどうなのよー?」
「俺の話を聞かないで真っ先に鼻を殴りに行ったのは、ドコのダレだったかな? 翌日の校長は、五歳くらい老けてたんだぞ?」
ってかロディーも結構私情を挟んでそうだけど……。
「あの校長が今更五歳くらい増えようと変わらないわよ。私がいた時と見た目が変わってなかったのよ?」
まぁ、確かにあのくらいなら、数歳くらいだったら見た目はそんなに変わらないと思うけど。
「わからないよ? 胃に穴が開いちゃったかもしれないし」
「薬学も専攻してて、個人でポーションとかも作れる人だから、それは多分ないかなー」
「心労って知ってる?」
そんな会話をしながらどんどん書類を処理して、夕食の時間になり、ティカさんが知らせに来た。
ロディーがここにいるって知っていたのか?
「今日もお風呂一緒で」
「わかりました。係の者にその様に伝えておきます」
そしてティカさんは、もう何も言ってこなくなった。一線越えてからは本当寛容になったよなぁ……。
都合良く資金調達
※ほぼ必要ない