第14話 なんで情報収集しないで突っ込んでくるの? 前編
わかりやすい馬鹿達です。ツッコミはなしの方向で……
前編の方が長いです。
翌日に、一メートルっぽい基準の長さの鉄を取りに行き、執務室の机に意味もなく飾る。紐で百メートルくらいを誰かに作らせようと思っているが、正直誰に頼んで良いかわからないので、後回しにする。
そしてヘリコニア兄さんに、土木部隊と王立の会社設立案を出し、読み終わったらプロテア義父さんの所に回す様に言っておいた。
その十五分後には、マジックアイテムの見積もりが届き、ホットプレートはゼロが一個多く、プレートランマーはちょっとだけ安かった。ってか本当に材料のインクの使用量だけな気もする。
なので試作品として、両方一個ずつの作成を頼むと手紙で返事を出し、特にやれる事がないので、俺のできる執務をこちらに回してもらい、書類の束を減らしていたら、いきなりドアが乱暴にノックされたので急いで返事をした。
「おい! ビバーナムって奴が親を連れて、城の裏手の法務部にやってきたぞ! お前を出せってうるさいらしい! 今から急いで行け!」
おもしろい事が向こうからやってきた。的な超笑顔で、プロテア義父さんが俺に言った。
「ロディアも呼んでおいたからな! 法務部だぞ法務部!」
それだけを言い、廊下を走って戻っていった。どれだけ楽しみにしてたんだよ……。ってか王様ぁ! あんた王様だよな!?
ってか敵も敵で、親が来たから速攻乗り込んできたってレベルだぞ!? 馬鹿か?
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「おや。服しか燃やせないお方が来たと思えば、なんか態度がクソ悪いですね」
法務部に行き、小会議室みたいな場所に行くとニヤニヤしているビバーナムと、その親っぽいっていうか、親なんだろうけど、容姿をそのまま太らせた感じのが座っている。トリミングしたらかっこいいオッサンなんだろうけど……。
その二人がニヤニヤしながら、ソファーにどっかりと座っていた。しかもお茶が出ている。普通こういう場所って出ないよね?
「偉そうにしていたと聞いたが、ただの王室の末端に勤めてるだけの木っ端職員が偉そうに、私の息子に手を出したらしいじゃないか」
……俺が木っ端ねぇ。一応まだ。ってなだけだけどな。
「えぇ。行き過ぎた子供を注意するのは大人の役目だと思っておりますので。結果多少諫めましたけど」
睨んで来ているが、俺は笑顔でかわす事にした。
「思い切り殴られ、挙げ句に数人に囲まれて袋叩きにあったと言っているが? どう責任取るつもりだ? 貴様の首なんぞ簡単に飛ばせるんだ。さっさと書類を取り下げろ。握りつぶすのにだって手間と金がかかるんだ」
首を飛ばす……。この時代なら物理的にかな?
「そうですかそうですか。それってビバーナム君の証言ですよね? 他にも目撃者とかかなりいましたけど?」
「うるさい! 私がそう言ってるんだ! それに従者と可愛い妹を連れてたらしいじゃないか。奴隷商に売り飛ばされたくなければ取り下げろと言ってるんだ! それと君じゃない。様だ様! 身分の違いをわきまえろ!」
「あんた……。大声でわめけば道理が引っ込むと思ってんのか? それに売り飛ばすだと? あんたにそんな権限があると思ってるのか? もし、もしもだ。俺がなんらかの原因で莫大な借金を負ったとしよう。それならば、本人の意志やら、色々な要因が合わさって売ることがあるかもしれない。そんなことすら無いのに他人がとやかく言うと、さらいますよ? と言ってるように聞こえるんだが? 違うか?」
俺は冷静に言いつつ指を組み、言葉に少しだけ角をつける。
「当たり前だろう。私を誰だと思っている。子爵だぞ? 貴様みたいな木っ端なんかいくらでも吹き飛ばせるし、この事も揉み消せるんだ! じゃなきゃあることない事でっち上げて、てめぇの家族全員死刑にだってできるんだぞ!」
馬鹿が立ち上がり、俺の事を指さしながら、唾を飛ばして大声でわめき散らしているし、ビバーナムはニタニタしている。
「おい、偉いのはお前じゃねぇよ。お前の親父だ。お前はソレを利用してるだけの屑だってわかってんのか? 今なら引き返せるぞ? お父様ごめんなさい、全て僕が悪いんです。代わりにお金払ってください。って言えば助かるぞ?」
そう言うと、ビバーナムがテーブルのお茶をぶっかけてきたので、避けずに全て受け止める。
ってか、とりあえず親が偉いって事を知ってて、そんな態度をとってるのが気にくわなかったので、口調はもうどうでも良くなってきた。
「おいおい、そんな口を利いていいのか? 今屑って言ったよな? それだけでこっちは侮辱って事でどうにでもできるんだぞ?」
「あぁ。お前は今私の息子を侮辱した。今から連れ帰って処刑だ処刑!」
「お前等アレだな。頭ん中に大量の、吸うと幸せになれる葉っぱでも詰まってんのか? ここがドコで、下調べもろくにしないで敵地に乗り込んできて、猿みてぇにギャーギャー喚きやがって」
「うるさい! 私がそう決めたからそうなんだ! 安心しろ! 貴様の後に家族の男だけ処刑して、女は全員奴隷として売り払ってやる!」
「お兄ちゃん。あの馬鹿が来たんだって?」
そして良い感じで、ドアの前で待機していたロディーが、俺の事を兄と言いながら入ってきた。この王族もノリノリである。
「父さんこいつだよ。こいつがいきなり俺の胸ぐらを掴んで、殴りかかってきたんだ! こいつは売らないで。お前は可愛いから俺の専属奴隷にしてやるからな。あの時の三人でたっぷりとかわいがってやる」
ビバーナムがニタニタと言うが、一瞬で父親の方の顔色が赤から白になり、直ぐに青になった。うん、知らないって凄ぇな。好き放題言えるし。
「やぁ妹よ。あんな事を言っているけど。どうする?」
「顔はいいから、股間を切り落として女装させて、その手の娼館に売ればソッチのが大好きな男に大人気ね。ん? 付いてた方がいいのかしら?」
ロディーが頬に指を当て、上の方を見ながらさらっと怖い事を言った。いや、知りませんって。
「そんなこと言って良いのか? おれの父さんは子爵だぞ。そんな事で――」
ビバーナムが口を開いたら、父親が思いきり殴り飛ばしていた。ロディーを王族と知らないで、ベラベラ喋っている奴を無理矢理止めるなら、コレしかないよな。
「あぁ。知っている。まずは不敬罪でいいか? それから別な物にするか、増やすか減らすか決めよう」
そしてプロテア義父さんと、トニーさんとアニタさんがスペイン宗教裁判みたいに入ってきた。そしてビバーナムの顔色も真っ白になった。さすがに王様くらいは知っているらしい。にしてもこの三人、ノリノリである。
「証人が王族付きの執事とメイドだけで不服なら、その場にいた学生も呼びなよ。そう言えばさきほど家族全員処刑とか、女は奴隷とか言っていたね……」
そしてニヤニヤとしながら、ヘリコニア兄さんが入ってきた。
さらにニコニコとしながら、ダリア義母さんとトレニア姉さんが入ってきた。全員廊下で待機してたの? やべぇな。王族全員大集合かよ。ノリノリじゃねぇか!
「家族全員処刑? 王族の血が途絶えるなー。困っちゃうなー。ねぇビバーナム君」
おいおいおい、随分と楽しそうに全員入って来ちゃったよ。ってかビバーナムの横に座って、一方的に肩を組まないで。そいつすでに涙目じゃないか……。
「三人も産んだこんな体で、若い子とその知り合いを相手にするのは困っちゃうわねー。若く飢えた獣の相手……。そして気が付いたら十人以上に増えてるんでしょ?」
いや、ビバーナムの取り巻きの相手はロディーですので、そんな人妻系薄い本みたいにはなりませんよ?
「まさか、敵国に負けた王族みたいな体験ができるとは思わなかったわ」
いや、お姉ちゃん。貴女王族ですよね? みたいじゃないですよね? ってかこの家族ノリノリすぎてやべぇわ。どんだけ悪ノリ好きなんだよ。
「まぁ、とりあえず城の方まで行こうじゃないか。全て準備は整っている。あーそうそう。そこの木っ端はお前を殴った娘の婿だ、妹じゃないぞ。まだ公表してなくて悪かったな。さて、空いた土地に誰をあてがうのがいいいだろうか? まぁ、その辺は会議だな」
「失脚って一瞬だよ? 若い内に良い勉強になったねビバーナム。さぁ、一般人の君がどうやって義弟のニワトコにお金を返すか、一緒に考えようか? そう言えばさっきお茶をぶっかけたけど、弁償するお金増えちゃったね? 良かったね、さらに変態なおっさんにかわいがってもらえるよ。それか若いのが大好きな、人には言えないような趣味を持っているマダムかなー。オークションで大人気になれるかもね。貴族の息子で、生意気な若い子の心を合法的に折れる絶好の機会が、お金で買えるんだから。あ、元だったね」
ヘリコニア兄さんは、笑顔で震えるビバーナムに優しく言っているが、かなりえげつない。
もしかしたらあんな事やこんな事が、日夜繰り広げられるのかもしれない。単語すら出すのがおぞましい奴とか。むしろ単語自体が十八禁指定かもしれない。
「王族を亡き者にしようとしたから国家反逆罪? 軽くても不敬罪?」
「不敬罪なら地下に重禁固が妥当ね! 季節が二十回くらい?」
「奥様はご実家かしら? それとも修道院? けどあの人って浪費癖があるのよねぇー? 確か私と同じくらいの産まれよね? 頑張ればもう一度結婚はできるかもしれないけど、今までの生活には戻れないでしょうね。もしかして浪費癖があったから税を重くしていた可能性も?」
女性組は女性組でなんか話し合ってるし……。ってか俺はニコニコとしながら座ってるだけで、なんか話がどんどん進んでるんですけど?
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「不敬罪で爵位剥奪と財産の半分と領地の没収のうえ禁固刑。奥様は残りの財産を持って実家か修道院だな。ビバーナム君はまだ爵位を持っていないので、ニワトコへの借金が払えなくなるから高級オークション行き。もし奥様からお金がもらえるなら助かるけど、家族仲は良い方? 瘤付きで再婚は難しいからね、見捨てられない事を祈るよ。まぁ、日頃の行いが悪いとこうなるって良い教訓になったね。次に生かされる事は多分ないだろうが……。さて、罪状はこんな物か。略式ですまんな。ドア越しに全部聞いてたからな」
そう言ってプロテア義父さんが軽く罪状を言うと、なんか偉そうな奴が記録を取っていた。
「ビバーナム君に姉か妹がいなくて良かったのが救いか……。あ、そうだ。愛人っている? いると結構揉めるからさ。まぁ、このままご近所の地下牢に行くから関係ないか。多分そっちは奥様と争う事になるだろうし。じゃ、連れてって良いよ」
プロテア義父さんがそう言うと、首輪と腕輪がセットになった木製の拘束具を付け、口にネジで開く洋梨を突っ込まれて騒げない状態の二人がどこかに連れて行かれた。
「随分と緩い進行でしたね」
「ちゃんとした物で、もう少し大事なら証人を呼んだりと、結構厳粛な感じで進めるが、略式だし。ってか目の前で起こってた事だし、私自身が聞いていたからな。と……。皆の者、席を外せ」
プロテア義父さんが雰囲気を変えてそう言うと、少ない兵士と、記録を取っていた偉そうな奴が退室した。
「良くやったニワトコ! あいつ凄ぇ目障りだったんだよ! さっさと処理できて本当に助かった! ビバーナムに喧嘩を売って、法務部に書類を預けて、こっちに親を呼ばせるとかやるじゃないか! まだ公式に披露してなくて良かったと思ってるくらいだ! 何か褒美をやらんといけないな、何が良い? 空いた場所に行くか? ある程度整ってるぞ?」
そして一瞬で元に戻った。そのまま言って良かったんじゃね?
「いや、行っても良いですが……。土木部隊の設立案とか、道路工事予定案。その他諸々が誰かに任せることになりますよ? だってここから馬車で数日ですよね? 引継なしでも面倒が多いですよ?」
「あ、そっか……。ん゛ー、欲が少なくて、ある程度地位が確立されてる奴への褒美は、何が良いのかわからんなぁ……」
プロテア義父さんは、なんかしょんぼりした表情で、頬杖を付きながら呟いた。
「すみませんね。ある程度の働きで地方を任せるとか言われてたのに、王都から離れられない状況を作っちゃって」
「まぁ、仕方ないだろ。結構やってる事物凄く地味だけど、かなーり地味に有益で、改善されている場所も多いしな。牧場に偽装した詰め所で日替わりの見張りの奴とか。次の場所に行くのに、移動がそのまま警邏になってるし。あの街道の盗賊の被害とか聞かなくなった。だからまずは主要道路に同じ物を作る計画をヘリコニアに任せて、財務大臣と摺り合わせをさせている」
なんか高そうな作りをしているイスの背もたれに体重をかけ、かなり斜めになりながら頭の後ろに手を持って行き、揺り椅子の様にしながら、なんかサラッと凄い事を言った。
もう少し、言っている事とやっている事を合わせて欲しい。そんな姿勢で言われても、どう反応して良いかわからない。
「あ、防犯は本当に地味に効果を上げてるんですね。じゃあ、ビバーナムにダメにされたスーツの仕立てでお願いします」
「相変わらずやっすいなぁー。わかったわかった。二着ダメになったから、三着分でいいな。それと適当にこちらから何かアレしておくわ」
義父さん。アレじゃわからないです……。
「ってか反逆罪で、処刑の方がいいんじゃないんですか?」
「ん? ムカつくから地下室で長く苦しめクソ野郎、が本音。似たような事を自分でやってるんだから、とりあえずやり返すのが道理? やられた奴の苦しみも知らないとな。後は重税で奥さんが浪費した分の財を、何かしらの形で領民に返さないとな。その辺はこっちでやっておく」
「やる事がえぐいですね。やられる覚悟がないならやるな。って奴ですか。とりあえずは一段落かな?」
「そうだな。とりあえず私は空いた土地に誰を入れるかとか、これから会議だ。物凄くだるい。あーあいつの飯代出すのももったいないな。何か内職でもさせて、飯が食いたければ働けって言っておくか」
そう言ってプロテア義父さんは、ため息を吐きながら立ち上がり、気だるそうに出て行った。最初の勢いは、楽しみの勢いだったか。