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第13話 基準って難しいわ…… 後編

「お疲れさまです。調子はどうですか?」

 俺は工房に入って挨拶をするが、なんかクマがなくなり、血色の良い好青年が立っていた。

「誰?」

 まぁキナさんなんだけどさ。一応お約束って事で。


「キナだよ。知ってていつも言ってるだろ? まぁ調子は見てわかる通りだ」

 キナさんはドラム缶の様な大きな容器に手をかざし、何か魔法を使用しているのか手首から先が青白く光り、底にある九十度回す水抜きのドレンバルブっぽい物を動かし、手頃なバケツに何個も移して、下に沈んだ重油と軽油を大ざっぱに分けていた。

 そして透明になった液体が出始めたらバルブを絞め、別なバケツに取り替えて、一斗缶くらいの蒸留器っぽい物に移し、手を当てて灯油を生成している。多分コレは最悪マジックアイテムで応用できそうだ。火とか使わないし。

 ってか重油はそんなに気を使わないし、多少緩くても問題ないけどさ、ちょっと大ざっぱ過ぎじゃない?


「……労働者を一人雇います? 雇用主としては、負担を減らす事も考えないと。ほら。その大きな容器に重油を入れるのに、結構力を使うでしょう?」

「いや、いい。灯油の生成中に座れる」

「まぁ、確かに座ってますけど……」

 魔力的なものの回復ってどうなってるん? よく知らないから聞けないけど、本人がそう言うなら問題はない。

「腰とか気をつけて下さいね」

「わかってる。ってか初日の火柱事件だが。早速奴等がやらかしたみたいだな」


「えぇ。もの凄く丁寧な注意書きを渡したんですが、好奇心には勝てなかったようです」

「あれなら軍に行くのも納得だ。こいつが火を使わずに精錬できる事を、喜ぶしかないな」

 キナさんはそう言いながら、灯油が滴っている蒸留器をポンポンと叩いている。静電気とか大丈夫?


「あぁ、それとコレに目を通して置いてくれ。精錬するに当たっての、効率化やらが色々書いてある」

「あ、どうもありがとうございます。今軽く見ますね」

 俺は綴られた紙をめくると、軽く地面を掘り、バルブを捻れば重油と軽油を分けるドラム缶の様な筒に、流し込めるような図が描いてあった。


「液体は重いですからね。運び込まれた物を移すのにも一苦労ですし」

「あぁ、もの凄く大きな物を作っても、量が多すぎて魔力が枯れて中途半端になる。このくらいの大きさなら、蒸留中に休めるから問題はないが。掘った場所から重油を上げる奴が必要だ。その辺は考えてくれ」

「もの凄く大きな物を作って、手押し式ポンプで汲み上げるのもありですね。下から小出しで上げるのも面倒そうですし」

 吸い上がるかは不明だけど。

「その辺は任せる。雇う奴の給金と相談してくれ」

 そう言ってキナさんは蒸留器から軽油を抜き取り、専用の樽に入れ、灯油は少し離れた樽に運んでいた。

 そして、軽油しか残っていない容器からまた液体を運び、蒸留器入れて手を当てていた。

 一応流れはできるんだな。問題は大規模化が技術的にまだ無理なだけで……。


「その蒸留器の下に、マジックアイテムで火を使わないで、発熱するだけの物を設置します? さっき魔法学校に、見積もりに行ってきたんですよ」

「俺の手間が減るならいいな。この最初の燃える水を分離させるだけで済む」

 そう言ってキナさんは、空になったバケツをカンカンと叩き、ニヤニヤとしながら言ってきた。

「施設を充実させて、職員の負担を減らすのも雇用者の務めみたいなものですから、なるべく早めの設置を目指します。魔力だけなら、魔法が使えない人でもあるみたいですし。雇用条件に何かあります? 胸の大きい可愛い未婚女性とか」


「……お前馬鹿か?」

「冗談に決まってるじゃないですか。まぁ、職種によっては女性とかの方が良いでしょうけど。メイドを募集したのに男が来たらどうします?」

「その手の趣味の奴にはいいんじゃないか?」

 キナさんは真顔で答えた。本気で需要がありそうだから勘弁してほしい。

「まぁ、その手の趣味の奴なら……。ですけどね」

 権力をもった未亡人とか、貴族の娘でペットが欲しいとかの? 多分薄い本かエロ本であるな。男にメイドの格好をさせて、アレコレしちゃう奴。

 キナさんは、多分男同士のを考えているだろうけど、向こうのエロを侮っちゃいけないぜ? まぁ、向こうの中世も色々ヤバかったらしいけど。


「まぁ、誰でも良い」

「軽犯罪者の更生計画プログラムで、単純作業とかも考えてますが、魔力を消費させるだけで、安く済ませるならコレで十分なんですけど」

「俺が殺されたり、物が盗まれて困るのはお前だからな。任せる」

「はいはい。なら試験的に、刑期が終わりそうな模範囚を考えておきますね。じゃ、お仕事頑張ってください」

 そう言いながら筆記用具を出し、簡単にメモを取りつつ、ちょっと良い時間なので、さっさと切り上げる事にする。一緒に食事できないのが残念だけど。



 城の離れに帰り、ロディアと昼食を食べた後は基準を元になにができるかを考えたが、細かすぎるのもアレなので、十等分や半分に留めておいた。

 平方メートルや立方メートルを考えたけど、土地の広さの前に地図の作製も必要だと思ったが、もし地図が奪われた場合に、あんな大ざっぱな見難い物を作ってあるかもしれないので、ヘリコニア義兄さんに要相談。

 土木部隊でスコップや鍬、アメリカンレーキや鋤簾(じょれん)、ツルハシ等の規格化も進めたいけど、まずは部隊の編成と人数。それから上官様の教育内容……。

 土木部隊に軽犯罪者を入れ、刑期が終わったらそのまま就職できる王立の会社の設立。

「一気にやる事が増えちまった……」

 冷めたお茶を飲みながらつぶやき、箇条書きしたメモを細分化させ、どんどん枚数を増やし順番に並べる。

 そして清書が一枚終わる頃には、ロディーがソファーでくつろいでいた。



「あぁ、ごめん。いつからいたのか全然気が付かなかった」

「んー? 別に良いよー。私もアニタが運んできたお茶と一緒に来ただけだし。けどニワトコってさ、本当勤勉だよねー」

 ソファーに座り、足をブラブラさせながら天井を見て大きなあくびをしていた。

「仕事だからね。声をかけてくれれば良かったのに」


「アニタがお茶を持ってきたのに、生返事しかしてない人には、声をかけられないかなー? お姉ちゃんでも(・・)返事くらいはできるよ?」

「それだけ真剣だったって事か……。悪かったよ」

「で、何を書いてたの?」

 そう言ってロディーは机の方に来て、草案を取って目を通している。


「あー。地図ね。うん。確かにコレはわざとわかり難くしてるのよ」

「やっぱり? 防衛上作っちゃまずいか……。盗まれるとヤバいし」

「んー防衛の戦略とかに使うのに、一枚はあっても良いかも?」

 あのT字のを並べる奴だろうか?


「やっぱりお兄ちゃんと相談か」

「そうねー。けど隣国との国境線付近は、相手方の了解を得ないと多分無理よ? 監視とか偵察になっちゃうし」

「めんどくせぇ……。なら道路の整備も外交で了解を得ないと駄目じゃないか……」

「塩街道なら簡単に通るわよ? 道が三ヶ国くらい続いてるし、相手にも必要な物だし」

「そんな内陸まで!? 本当に生命線じゃないか……。どこかに岩塩とか出ないのかよー、もー」


「けど四ヶ国目は、内陸の方の岩塩を買ってるらしいわ。運搬費用とか外交の問題だから私の専門外だけど」

「内陸の方だとあるのか……。まぁ、山奥で見つかることもあるし、海沿いじゃなければそう言う場所が強いよな」

 ヒマラヤとか……。塩湖とか。


「ねぇ。なんで内陸で塩が見つかるの? 海とか関係ないじゃん」

 ロディーが焼き菓子を食べながら、上の方を見て不思議がっている。かわいいな。

「んー。なんて言えばいいんだろう。実は物凄く長い期間で見ると陸が動いていたり、地震とかで盛り上がったり下がったりで、海水が閉じこめられる。そして水が蒸発する流れかな。要は自然が作った塩田だよ」

「……私が産まれる何回前くらい?」

「五億回から六千五百万回前くらい。もう少し簡単にするなら、義父さんが海の近くのどこか低い場所を探して、溝を掘って海水を引き入れて塞ぐ。それをロディーが産まれた時にやって、おばあちゃんになって死んだら、孫達の代でやっと水が蒸発して塩が採れる。それを大陸規模でやってる感じ。こう説明すればわかりやすいね」

 そう説明したら、ロディーがぼーっとしながら聞いていた。だよね。そうなるよね。


「ちょ、ちょっと待って。途中で雨とか降るでしょ? それはどうするのよ!?」

「仕方がない。だから長い時間をかけて蒸発して、塩だけが残ったのが岩塩。だから内陸でも塩は採れるんだよ」

 少し授業みたいな事になったが、遅めのお茶と雑談をしたので、もう業務は切り上げてのんびりするか。


「もう仕事は切り上げるか。のんびりしよう」

「えへへー。ならイチャイチャかなー」

 少しだけ提案するとロディーが立ち上がり、俺の膝の上に座って背中を預けてきた。

「おいおい。執務室でこんな事してると、ティカさんに叱られちゃうって。見習いメイドや執事の目がどうのこうのって」

「気にしない気にしない。エッチな事しなければどうにでもなるよ」

 そう言いながら清書してある書類を取り、これはどういう事? とか聞いてきたので、膝の上に乗せたまま説明をして、左手に書類、右手にお茶を持っているので、俺は焼き菓子を食べさせたり、髪の香りを嗅いだりする。


「ふーん。王立の会社ねぇー」

「全員元囚人のね。服役中はそこで働き、刑期が終わったらそのまま就職もできるって流れを作りたい。元の世界でもあったから、まずは試験的にだけど。もちろん他に行きたい所があればそっちで。けどなんだかんだで、刑期中に学んだ事がそのまま生かせるし」


 あれは造船所だけど。けど服役中の知識がそのまま使える就職先だし。けど日本みたいにお行儀良く行くかが、問題なんだよなぁ……。

 まぁ、日本でもお行儀良くなかった時期もあるし。開拓とか? 某格闘漫画でも、道路か線路、高速道路の基礎っぽい事させてたし。東郷さんの刑務所潜入でもやってたし、この世界でもやってできなくはない気もする。


「けっこう酷い道とかが多いし、良いかもねー」

「問題は囚人をどこまで厳しくするかだけどねー。監視させてる衛兵と土木兵は別だし難しいかな。普通に会話させて、良い雰囲気を心がけつつ、脱走してもう一度捕まえたら、軽犯罪でも鉱山行きとかにしとけば抑制できるかな? まぁその辺は様子見て探り探りかな」

「管轄の違いって本当面倒。騎士団にいたから良くわかるわ」

「組織あるあるだね」


 そんな事を話しながらイチャイチャしてたら、シルベスターさんが夕食を知らせに来てくれたけど、特に何も言われなかった。小うるさいのはティカさんだけっぽい。むしろ微笑ましい物を見る目になってた。

 なんか優しいおじいちゃんって感じなんだけど、元裏仕事とか暗殺専門ってのがなー。未然に毒とか防いでくれてるかもしれないけど、経歴が本当怖いわー。

 ティカさんは教育係だから仕方ないんだろうけど、もう少し寛容にならないかね?



「今日は一緒にお風呂に入ろう! 執務室の時の勢いで行けそうな気がする!」

 夕食後、ロディーがなんか勢いで言ってきた。本当に勢いだけだから困る。

「……一緒に入って何するん? 洗いあうの? 常に見習いメイドさんがいるのに? あとロディーの細くて繊細な髪を、俺が洗うと傷みそう」

 俺はベッドにうつ伏せで寝ていたが、顔をロディーの方に向け、目を細めて呆れた感じで言う。


「見習いメイドは脱衣所で待機。髪とかは無視しつつ、とりあえずイチャイチャ優先で!」

 そう言いながら俺の腰骨の辺りに座り、肩の辺りに手を置いて軽く押してくる。むしろ今日は押しが強いな。

「今日はやけに押しが強いんじゃない? なにかあった?」

「あんだけイチャイチャしながら、そのまま何もないのはもったいないと思うの」

「あーそういう……。一緒にお風呂とか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど?」


「何言ってるのよ! もうお互いの裸も見てるし、ヤる事もやってるのに」

「ソレとコレは別だと思う。しかも見習いメイドさんが聞こえちゃう環境で、キャッキャウフフするのもねぇ……。ってか話に聞く、若い頃の義父さんそっくりなんじゃない? あ゛ー。ぞごぎも゛じい゛い゛」

「王族と貴族は、子を残すのが仕事なのよ!」

 ロディーはそう言いながら、親指で背骨の脇の筋肉の指圧を始め、自然と変な声が漏れる。


「これもイチャイチャじゃない?」

「別物よ。よし、あとはティカを説得ね」

「ってか、男女逆じゃない? 普通ムラムラした男が女を説得してそうなんだけど? 若さ? 若さなの?」

「そこまで変わらないでしょ。たまにはお母さんもお父さんの事誘ってたし、問題ないない」

「はいはい。俺はいいよ。ティカさんの説得頑張ってね」



 はい、ティカさんがばっちり廊下で聞いていたらしく、ロディーの説明もなしに一緒に風呂に案内され、見習いメイドさんもそそくさと脱衣所からも去り、挙げ句に夜まであるとかもうね……。

 いやー、なんかがっついてくる若い男ですよ。俺もまだ若い男になるけどさ、性格的な問題でそこまでグイグイいけないわ。

 で、義父母の誘いは、普段自分で砂糖を入れるのに、ダリアさんがいくつ入れるかを聞くと誘ってる時で、いつもより少なく言うと承知(OK)で、同じだと乗り気じゃないらしい。

 風呂場で本当どうでもいい知識が身についたわ。ってか子供にバレバレですよ?

 まぁ、今はロディーが直接誘ってくるけど、子供ができたら……ね? そういう合図を考えておかないと。

後日10話と11話の間にキャラ紹介と、1話の前に-01話を挟みますので、ブックマークがズレると思いますが、ご了承ください。

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