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第13話 基準って難しいわ…… 前編

前編後編に別けますが、区切りがいい所だと前編が短いです。

 そして翌日。ベッドの横にエプロンが落ちてたりするが、別に汚れてもいないし、汚してもいないので、クローゼットに戻しただけで終わった。

 皺? アイロン? 知らんな……。

「で、今日も魔法学校に行くのー?」

「うん。思ってたより早く設計図ができたし。渡しておけば試作品に取りかかるのは早いでしょ?」

「だねー」


 ってか今まで頭の隅にあったけど、思った事は度量衡(どりょうこう)がないのが厳しい。年とか月はまだ良い。なんか節目みたいな物とか祭りがあり、それから何日って感じで数えるし。

 ただ長さとか重さ、容積が使えないのが厳しい。今回の設計図を描いてて凄く思った。

 しばらくは出張も、現場に行く予定がなかったし、休日明けの予定も会社に行くくらいしかなかったから、ペンケースがバッグに入ってなかったのが痛い。

 アレには関数電卓や定規やら便利な物が多く入っていた。本当常に持ち歩いてれば良かったと思う。

 ないなら作ってしまえと思うけど、浸透させるのには時間がかかるし、独自の基準を作って、申告だけしておく方がいいだろうか?


「難しい顔してどうしたの? お腹痛いの?」

 ロディーはパジャマ姿のまま、ベッドに座っている俺の顔を覗き込む様に見てきた。

「ん? やっぱり重さとか長さの基準がないと厳しいなって。だから作っちまうか。って思ってる。向こうだと数字で長さとか重さが全部出てたから、こういうのを描くのにも、どのくらいって書けたんだよ」

「あー、どこかの国だと、ワシが基準だ。とか言って、指の長さとか、足の大きさが基準の所もあるらしいよ。パンは大きくても手首から肘までとか」

「向こうでも昔はそんな感じだった。けど王様が変わると混乱するから、基準を決めたいんだけど、色々と面倒なんだよね」


「作っちゃって別にいいんじゃない? それから変えなければいいんだし」

「簡単に言っちゃうなー。そうだな、たとえばだけどこのサイドテーブルの横の長さが……」

 俺は親指と小指を使い、尺取り虫みたいに動かし、大体四回分の大きさだった。

「向こうだったら約八十センチ。あー奥行きも同じか。ってな感じで数字で表せる。重さも基準になる物があったから、大体何キロとかも書けた。基準になる物があったから、色々正確に出せたんだけどね……」

 ため息を吐きつつ、ティカさんが来る前に俺もパジャマに着替え(・・・・・・・・)、ロディーを抱き上げる。


「重さも数字で出るから。太ったとか痩せたとかも自分で知ることもできた。子供の身長も測る事ができたから、成長も数字で記録できた。ここにはそれがないんだよね」

 俺はロディーを下ろして頭をポンポンと軽く叩き、水差しを持つ。

「これはどのくらい水が入ってるかとか。そうなると結構色々な物が不便だね」

「ふーん。剣だったらもう少し軽く、とかじゃなくて、数字で減らす感じなのね」

「そうそう。だからちょっと考えてみるさ」

 そんな事を話してたら、ドアがノックされてティカさんが入ってきたので、その話題を切り上げる。



「真空で、光が一秒で進む早さの三億分の一とか、この世界じゃ無理だよな……」

 馬車の中で魔法学校へ移動中に呟いた。本当どうするかな。もうコレって決めるか。膨張率とか考えるなら、こっちじゃ鉄が一番低コストか? ケイ素とかよくわがんね。けど腐食もあるしなぁ……。

 そんな事を考えていたら魔法学校に着いたので、能面の様な顔をしている校長に挨拶をして、もう少しで終わりそうだった模写を、馬鹿が来る前に終わらせ、さっさとマジックアイテム科に顔を出す。


「あ、昨日はどうも」

「あー昨日の。もうできたんですか? 早いですねー」

「複雑じゃないので、結構簡単なんですけどね」

 そう言いながら、昨日描いた設計図を出す。見積もりだけならトニーさんに任せるけど、コレの説明もあるからな。


「んー? 重りを回転?」

 設計図を渡したら、そんな事を言いながら頭を少し傾け、眉間にしわを寄せている。

「えぇ、震えるって事は、そういう事ですよね」

「え? そういう事とは?」

「ん?」

「ん?」

 どうも話が噛み合っていないっぽい。


「えーっとですね、こう、棒があるじゃないですか? で、重りを真ん中に挿して回すと安定してますけど、芯からズラして回すとブレるじゃないですか? コレってそれで振動してるんじゃないんですか?」

 そういいながら、その辺にあった棒に造形用の粘土を挿して説明し、昨日のモザイクを指さす。


「んー。コレってただ振動してるだけなんですよ。ってか回転ですか……。まぁ問題はないです」

「そうですか……。振動だけだとその場で震えるだけですが。この様に回転すれば、鉄の板が前、平らな面、後ろの順で波打つ感じで軽く飛ぶんですよ。そして重心が前だから、反動で進むんです」

「……あー。はいはい。そういう事ですか」

 俺は薄い鉄板を使って説明をすると、やっと理解したようだ。ってか魔法って便利すぎて、色々過程をすっ飛ばすからこうなるのか。

 ってかクオーツ時計みたいに、魔力を通せば振動するのかよ。うまくいけば時計も作れそうじゃない?


「なんか、長いつきあいになりそうですので、一応お名前をうかがっても?」

「そういえば名乗ってませんでしたね。私はモルセラと言います。今後もよろしくお願いします」

「ニワトコです。こちらこそよろしくお願いします」

 昨日はなんか、モザイクのインパクトが凄すぎて名乗るタイミング逃したんだよね。


「で、こちらは発熱ですね。ふんふん。荷馬車に乗せるから、熱で燃えないように少し浮かせて、大鍋っぽい物を乗せると。コレ(・・)は人肌になるようにしてたし、このくらいは簡単ですね。では回転と発熱でお見積もりと。手紙で良いですか? どこに送れば良いですかね?」

「フローライト城の離れ、ニワトコの執務室で」

「お、お、お、お王族の方でしたか! 今まで申し訳ありませんれしや!」

 モルセラさんは、なんか噛みながら謝罪をしてきた。会った時のモザイクのインパクトで、色々ともうどうでもよくなってるけどさ。

「あの。思い切り噛んだっぽいですけど、平気ですか?」

「らいじょうぶです!」

 絶対思い切り噛んでるわ。舌が動いてないし。


「あ、見積もりはいつも通り普通でお願いしますね。王族だから気に入られようと少なくしたり、ぼったくりは一切なしで」

「そんな事するわけないじゃないですか。こっちはおもしろい物が作れれば満足なんですから」

 んー、今はっきりとおもしろい物って言い切ったな。純粋に物作りが好きなだけか。

「そうですか。ではよろしくお願いします」

 そして挨拶をしてからモルセラさんの研究室を出て、校長に軽く挨拶をしてから逃げる様に魔法学校を出た。



「何事もなくて良かったですね」

「だねぇ。まぁ何事もない様に、さっさと模写を終わらせてからの研究室だけだったんだけど……。この三日で校長が凄く老けたな」

「まぁ、あの様な事が二回連続であると、そうもなりますよ」

 馬車に乗り込む前にそんな事を話し、なんとなくステップに乗せた靴を見て、土木部隊の基準でいいんじゃね? って思った。

 素足の大きさが二十八センチ、親指と小指を結構無理して広げて二十一センチ、手の小指の爪の横幅一センチ。これで大体五十センチ、二つで一メートル。

 とある漫画で、人は自分の物差しを持っているとか言っていたが、確かにそうだ。暇な時に定規で指を広げた時の長さとか、指の爪を調べておいて良かったと思う。



 俺は早速執務室に戻る前に、板と紐を持ってきてもらう様に言い、基準を作る事にした。

 板の上に乗り、踵の所に板を立てて線を引き、一番長い人差し指の所に移して線を引く、それを二回。

 そして手を限界まで広げて二回、小指の爪を二本分。これで大体一メートル。この国の土木部隊での『1』だ。


 後は重さだ。手頃な物で一キロ? 一円玉千枚? 鉄の比重は知らん! 立方体作ってもわかんねぇ! 未開封のペットボトルなんか持ち込んでないから、水一リットルとか、どう量るんだよ……。

 多分持ってても賞味期限切れてて、物凄くへこんでるだろうな。

 そもそも感圧式の重さを量る物がないから、木材の箱をさっきの基準の『1』で作って、量を計算すればいいのか?

 けど『1』の十分の一で容器を作って水入れても、容器の重さも加わるし、感圧式の量りとかどうやって作るんだ? 吊り下げるバネの奴とかあったけど、そもそも基準がないわけで……。同じ重さの分銅とか、比重を知らないとそういうのも作れないんだよなぁ。

 極力軽い物で容器を作るか、物凄く薄いガラスで作るか……。けどガラスもな、円柱にして切って、溶かして広げたのが今使われてる板ガラスな訳で、絶対製造技術的な問題もでてくるな。

 あーなんかよくわからなくなってきたわ。もう土木部隊の長さの基準ができたなら、まずはそれでいいか。麦の量の数字は後回しだな。別な奴に任せればいいさ。



「あ、この間はどうも。とりあえずこの線の長さの長方形を、鉄で作ってもらって良いですかね? 高さと奥行きは、この人差し指の長さで。あ、ここに線を引きますね」

 俺はこの間の、アルキメデススクリューを作ってもらった鍛冶屋に行き、板を見せて説明をする。


「まーた変な仕事持って来やがって。んなもん少しの手間と、材料代にしかならねぇだろうが」

「まぁ、そこは今後も仕事を持ってくるという事で。こんどでかい仕事頼みに来ますから」

「ったくしゃーねぇなー。その線の引いてある板を置いてけ。明日までにはやっておく」

「あざっす!」

 俺は笑顔でお礼を言い、鍛冶屋みたいに隔離された、近くにあるキナさんの働く工房をとりあえず覗きに行くことにした。

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