第11話 不良ってどこにでもいるよね 後編
数日後。とりあえず王都内なので、護衛はトニーさんとアニタさんだけだけど、この馬車での移動の自由がきかないが、少しだけ慣れてきた。
「これはこれはロディア様。よくぞ――」
そして髭が長すぎる、白髪の学園長が出迎えてくれ、貴賓室に通されて長々と話が続いた。俺は資料的な物が見たいだけなのに、なんなのこれ? 本当お偉いさんは話が長くて困る。
「こちらが図書室です」
そして校長的長い話が終わり、自由に調べられる時間が来た。話の内容? 長いだけだったから覚えてないわ。
けど魔法使いの就職先やら、戦闘技能の話は記憶に残ってる。
「他の生徒もおりますが、この子達は学業が本分ですので、なにとぞご容赦ください」
「えぇ、いきなりの訪問です。その辺は心得ておりますし、邪魔をする事もありません。国の為に学んでいる、若者の邪魔はできませんよ」
学ぶ事に必死な学生の邪魔なんかできません! ってか、最前線で戦ってた時に、何回か魔法使いが来てたなぁ。
ファイアボール的な物が飛んできてたけど、質量がないから壁が崩れるとかなかったけど。処理に手間取ったのは確かだ。
「じゃ、私は懐かしいから色々回ってくるわ」
「あぁ、アニタさんもいるから平気だと思うけど、素行の悪い生徒に絡まれるなよ。見た目が子供っぽいんだから」
「返り討ちにしてやるわよ」
そう言った瞬間に笑顔で軽く叩かれた。
「いや、王族的な意味でまずいんじゃないの? 相手が」
「この中は身分とか関係ないから」
そう言ってロディーは、ニコニコとしながら廊下を歩いて行ってしまった。
「卒業してて、王族として訪問してるから言ってるのに……」
それだけを呟くと、トニーさんが苦笑いをしていた。いや、結構シャレにならない事態になると思うんだ。
そして図書室に入室して、入門編や土魔法系の資料を探して隅の日当たりの良い窓際の席に座り、入門編から読み始めた。
「ん゛ー。汎用性がない……」
必要そうな文面をメモしたり、図を簡単に写すが、読んでいて思った事は、決まった詠唱で決まった魔法が発動する感じだ。
例えるなら日本のゲームの魔法だな。海外のゲームの魔法は、自由度が高すぎてバカみたいな事もできたしなぁ。
発動時間一秒で、ジャンプ力が十倍とか。
発動した瞬間に飛んで、無理矢理ダンジョンの構造を無視して攻略したり。そういう無茶な設定は発動時間が長いと、消費魔力が多いから大抵最低値の一秒だったけど。
十ダメージ十秒か、二十五ダメージ四秒でも微妙に消費魔力が違かったし。
「どのような物を想像していたのですか?」
「んー。イメージした物が使える感じ? これじゃ使い勝手が悪いかなーって思って。まぁ俺は使えないからいいんだけど、個人的に欲しい魔法が見つからない、見つけられない。けどどうにかして応用を利かせるのも必要だから」
「……ならマジックアイテム科が別棟にありますので、見学許可をいただいてきますか?」
そんなのがあるのか……。整地に保温か加熱辺りが欲しいな。
「じゃあお願い」
「わかりました」
そう言ってトニーさんは、走る事なくゆっくりと静かに、図書室から出て行った。
「ボスケテに近いな」
「おいおっさん、てめぇ教師じゃねぇだろ? そこどけよ。俺の特等席なんだよ」
トニーさんが出て行き、しばらく資料を読み漁っていたら、声をかけられたので見てみると、まぁあれだ。多人数でコミュニティーを作ってる不良。今は十五歳くらいの三人だけど。
しかも制服を着崩してるし、目つき悪いしで不良みたいだ。多分不良だけど。
「あぁ、すまない。日当たりが良かったからね。直ぐに退くよ」
「おっさんがびびって退いたぜ、さすがビバーナム君」
「睨んだだけとか凄ぇじゃん」
「だろ?」
うーん。若いっていいわー。白髪って向こうじゃ結構頑張ってると思うけど、こっちじゃ普通にいるんだよなぁ。
「おいおっさん、なにニヤニヤしてんだよ。文句でもあんのかよ」
「いやいや。若くて良いなーって。おっさんも君達くらいの時に、もう少しやんちゃしとけばよかったよ」
孫を見る祖父母のような笑みで見てたら、さらに絡まれた。若いって良いわー。
「ってかおめぇ、なんでこんな所にいんだよ。魔法の素質がないのにお勉強っすか。えらいでちゅねー。ってか目障りだから出てけって意味だったんだよ」
そう言ってビバーナム君の取り巻きの一人が、俺の写していた資料を摘んで、何か詠唱を呟いて燃やしやがった。
「はぁ……。まぁ、イキがるのも子供の特権だと思ってたが。他人様の手間暇の結晶を、ないがしろにするのはおっさん気に入らないなー」
そう言って取り巻きの一人にアイアンクローを決め、どんどん力を入れていき、ビバーナムと言われた男も、ついでに掴んでおく。
「取り巻きの手綱くらい握ってろよ? なぁ? 少年、お前達は学生だろ? あまりお痛が過ぎると、大人が本気になっちゃうぞぉー?」
そう言ってつま先立ちになるくらい持ち上げ、少し力を込めるとどんどん騒ぎ出し、前腕を握ったり、殴ろうとしてきてるが顔に拳は届かない。
「てめぇ! 俺の親父が黙ってねぇからな! 覚悟しておけ――ぎゃぁ!」
「んんー? 聞こえんなぁー。何か言ったか? それとここは身分が関係ないと聞いていたが? 問題を学校の外に持ち出すのかな? んーそれとその歳なら、やって良い事と駄目な事くらいわかるはずだが……。それほどまでに幼いんでちゅかー?」
さらに力を入れると叫び声をあげ、蹴ってきたが腰が入ってないし、片方の足はつま先立ちなので全然痛くはない。
ってか世紀末の漫画風に聞いちゃったよ。
「大丈夫ですかニワトコさ――」
騒ぎ声を聞きつけたのか、トニーさんがドアを勢いよく開けて入ってきたが、ダブルでアイアンクローをかましているのを見て止まった。
「ニワトコか、覚えたぞ!」
「ん? あぁ、逃げも隠れもしない。親の情報網とニワトコという名前だけで俺を探し出し、どんどん挑んで来なさい。中の事を外に持ち出すリスクを考えずに、親の権威を振るうのもまぁ良いだろう。力を借りるのも一つの手だし悪いとは思わない」
俺はにやけながら言い、蹴られながらも続ける。
「けどな、そんな事なんかどうでもいいって思ってる奴だっているんだぞ? 親の威厳が脅しとして使えない奴だっているんだぞ? ん?」
まぁ、貴族の派閥とかこの際どうでも良い。俺だけ処罰されても良い。けど子供にすげぇ馬鹿にされて、黙ってられるほど大人じゃないんだよね。
むしろ大人が注意しないから、子供が増長するんだよ。ってか校風なのか? 本当に注意できないのか? もうどっちでもいいや。
「ご、め、ん、な、さ、い。はい、繰り返して」
「何で言う必要があんだ――あががががが」
「聞こえなかったかな? ごめんなさい。この一言で済むんだぞ? ん?」
俺は更に力を込めると痛がりだし、蹴り出してきたので、もうちょっと吊り上げた。
「見てねぇで助けろ!」
何もできずに見ていただけの奴に指示を出すが、トニーさんが速攻でアイアンクローをかけた。ねぇ、絶対面白がってやってるでしょ?
「さて……。君の今使える校内の権威は使い切った。残された手は反撃して逃げ出すか、許しを請うかだ。どうする? 安いプライドは捨てた方がいいぞ?」
「済みませんでした!」
メモを燃やした方が謝ったので、そっちは放してやるが、ビバーナムはまだだ。
後ろの方でも謝罪が聞こえたので、トニーさんも結構力を入れていたみたいだ。弓使ってるし、剣も使えそうだから、アイアンクローも問題ないんだろうな……。
「何を騒いでいる!」
「ぎゃぁーいてぇ。いてぇよぉー」
騒いでいたら大人が入って来た、多分教師だろう。そしてこいつは痛がる作戦に出た様だ。どうしても謝りたくないらしい。
「君は教師でも生徒でもないね。校内でこんな事をして、ただで済むと――」
そしてトニーさんが懐から何かを出し、入ってきた大人に見せると一瞬で黙り、固まってしまった。
「こいつは暴漢だぞ。暴力を振るわれている生徒を助けろよ!」
おい、もの凄く痛がっている演技はどうした……。
「くっ……。私は権力なんかに屈したりなんかしない! 生徒を放せ。私はこの学園の教師だ! 生徒を守る義務がある!」
髪がピンクだが、思ったより熱血教師だった。仕方ないか……。こっちは部外者だしな。ってか教師でも即堕ちフラグ建てるのね……。男だけど。
「先生。お名前は? 言わなくても調べますが」
「私はリカステだ。逃げも隠れもしない!」
「そうですか……。校内で騒いでしまい、申し訳ありませんでした。ビバーナム君、人が書き写していたメモを、燃やす様な取り巻きの教育くらいしろよ」
先生が名乗ってくれたのでクソガキを放し、軽く微笑みながら肩を叩いたら、短い詠唱で発動できる弱めの魔法があるのか、腹部辺りを燃やされ、超回復できる豆を食べた、○空みたいな服になった。
「ざまぁみやがれ!」
「では、私達は退室します。リカステ先生。申し訳ありませんが、そこの資料を片づけておいてください。ここにいると全裸にさせられそうなので」
そう言い、トニーさんにアイコンタクトを送ると、出入り口のドアを開けてくれたので、筆記用具だけを持って無視して退室しようとした。
「無視かよこの腰抜け野郎が!」
俺は左手の袖の中の前腕にある、ダガーの柄の部分に人差し指を掛けて素早く引き抜き、そのまま逆手で持って首に側面部分をピタピタと当てる。
「あまり大人しくしている人を、怒らせない方がいいよ?」
そして退室をする時に何か吠えてたが、これ以上はかまっていられないので、ダガーを戻して無視をした。
「あの生徒と教師の処罰について、どうしますか?」
「何もしなくて良いよ。もしかしてクビになったら、俺が教師の方は引き抜くけど、生徒の方は多分親に絞られる可能性が高いかもしれない。俺の地位が怪しいが、向こうが親の権威を振るって仕掛けて来た。多分鼻息を荒くして、親にある事ない事を言いまくり、乗り込んでくるかもね。そうしたら面白いんだけど」
廊下を歩いていると、トニーさんがそんな事を聞いてきたが、とりあえず面倒なので向こうから来てくれると思って、今回は何もしない事を選んだ。
「まぁ目撃者も大勢いるし、脅されても多分こっちの身分を知ったら、簡単に引くと思うけど。仕掛けてきたのは向こうだし、とりあえずマジックアイテムの視察は後日かな? 俺は気にしないけど、地位的にね? この格好はまずいでしょ」
穴の開いたままの服をつまみ、少しにやけながら言って校長室に向かった。
「ってかトニーさんは生徒に手を出しちゃまずいでしょ。地位的な意味で。面倒な事にならない?」
「護衛ですので」
そして凄くさわやかな笑顔で言い切った。俺この人結構好きだわ。何かあったら庇おう。
「なにそれ! どうしたのよ!」
購買で買ってきた一番安いローブを着つつ、校長と事の経緯を話していたら、ロディーとアニタさんが帰ってきたので、軽く説明をした。
「まだ図書室にいるかしら?」
「サボリっぽいからいるんじゃない? 別に面倒なこ――」
事になるから止めて。と言いたかったんだけど、全部聞かずに走って出て行った。せめて最後まで聞いて欲しい。
「本当に面倒な事になりそうだ……」
「私、護衛してきますね」
そう言ってアニタさんは、ニコニコと冷ややかな笑みで出て行った。
「更に複雑になりそうだ……」
俺は大きなため息を吐くと、校長がもの凄く謝ってきている。最悪自分の責任問題になるしな。こうもなるわ。
「別に気にしないで良いですよ。学校で勉強してない馬鹿がやらかしたことですし、こうして校長先生が謝ってくれてますので」
そう言いながら落ち着かせ、お茶を飲みながら焼き菓子を食べた。
「ちょっと絞めてきたわ!」
体感で十分。超笑顔のロディーが拳にハンカチを巻き付け、服に血を付けながら帰ってきた。
「ほら。クソ面倒な事になりそう……」
「向こうが親を出すなら、こっちも親を出すだけよ! なめられたらお終いよ?」
「……ソウダネ。で、拳を痛めたの?」
「痛めない様に巻いたのよ。あとこれは返り血だから安心して。初撃で鼻よ鼻!」
「ウン、シッテタ。ってか喧嘩慣れしてるなー。騎士団入ってた人はやっぱり違うなー」
「でしょ!」
ほめたつもりはなかったんだけどな……。ほめた様に取られたぞ? もの凄く笑顔だし。
「私が加勢するまでもありませんでした。魔法使いは、接近されたらやはり弱いですね。綺麗な一撃です。それから胸ぐらを掴んで、頬や顎を狙って数発」
「ソウデスネ」
王族って良くわからなくなってきたわ……。
ってか王族とか魔法使い、元騎士は関係ないわ。場数踏んでるかどうかだわこれ。
そして校長は白目になって放心してるし。俺が校長だったらこうもなるわ。どのくらい偉い貴族なのか知らないけど、こっちは王族だし。ってか心労で臥せなきゃいいけど。
□
「事の詳細はわかった。ただ、物を燃やされての暴力と、向こうの攻撃魔法で痛み分けだろうな。ロディアのはただの私怨だ。こちらはどうにもならんな」
「学園内は一応身分は関係ないとはいえ、ちょっとやり過ぎよ?」
「効果がなかったからいいけど、もしかしたら大事になってたのよ!?」
「そこはニワトコ君が、ナイフを突きつけて力の差を見せて終わりで良かったと思うのよね? 別に魔法で大火傷って訳じゃないし」
あまり効いてなかったんだけどね。初めてモロに魔法を食らって、耐性っぽい物もあるかもと思えたくらいだ。
「まぁ、最悪文句を言わせないやり方で処罰も可能だが、そう言うのは私は嫌いなんだよなぁ」
一応プロテアさんとダリアさんに報告をしたが、両親として、王族としてまともで良かった。
普通の王族の対応は知らないけど、暴虐じゃなければいいさ。
「とりあえず相手の特徴と名前から、あいつが親なのは確かだ。弱い奴にはとことん強い、少し性格に難ありの奴だからな。子供の性格もそうなると考えれば自然か。向こうが出てきたら対応するが、こちらから書状にて召喚は止めておこう」
「けど問題はニワトコ君よね。黒髪でスーツって見かけない服だし、見つけるのは案外簡単かもしれないわ」
確かに黒髪は、ほとんどこの世界じゃ見ないな。本当にたまに見る程度だけど。
「まぁ、見つかったら見つかったでいいさ。今までどおり普通に業務に当たってくれ。暗殺者にやられる様な奴ではないが、外での毒殺にだけは注意してくれ」
「わかりました。軽率な行動をとって申し訳ありませんでした」
「かまわんかまわん。向こうが地位を引き合いに、いつも通り大人にも挑発してきたんだ。上には上がいるって事を教える、良い薬になっただろう。親は土地が広いだけの子爵だし。ってかあそこの税金少し重いし、数字を上手く誤魔化してるんだよなー。狡猾だし本当は潰したいんだけど。上に行きたいって野心から国に多少は貢献してるんだよなー。領民からは不平不満がダダ漏れだから、その尻拭いとかクソ面倒なんだよ……」
「凄く面倒で愚痴を言いたい事はわかりました。実は調べられない事が多かったので、あと二回か三回行く必要があるんですよ。今度ちょっかいかけてきたら、折っていいですかね? どうせ手紙で親に言って、こっちに来るまで数日かかるでしょうし」
「個人的にはどんどんやってこい! って言いたいんじゃが……。王的にはまずいな。いくら先に攻撃されたとしても、やりすぎなのはちょっと困る。治療費とかぜってーあいつに払いたくねぇし!」
「困るのはちょっとですよね? なら大人からの教育として、高い授業料でも払わせてやりますよ」
「なら良し! 家を追い出されて、絶縁されるくらいやってこい」
俺が真顔で言うと、プロテアさんが超良い笑顔で親指を上げ、ダリアさんがもの凄い笑顔で頷いていた。
双方の了承を得た。すんごいノリノリじゃん。どのくらい嫌いなんだよ。
Vカツでヒロインをイメージしました。
盾FPSのグリチネもいますが、ロディアも載せてあります。
興味があれば下記のURLから飛ぶか、作者の活動報告からお進みください。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/428528/blogkey/2244865/
髪の毛にもう少しオレンジを混ぜておけば良かったと後悔。これじゃ金髪じゃないか……




