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第10話 塩作りって結構大変だよな 前編

 兵器開発室火柱事件から十日。なんか翌日の情報では、回復魔法やポーションで火傷は治ったらしいし、持って帰った量が比較的少なかったので、大惨事にはならなかったらしい。


「製塩にかかる費用を下げて、生産量を少し増やして欲しい」

「……はぁ」

 俺はプロテアさんに呼ばれ、対面に座ると即そんな事を言われた。前置きとか色々欲しいじゃん? いきなりだぜ? こんな声も出るわ。

「では資料を調べ、現地での視察、報告書と計画書って流れで良いですか?」

「その辺は前の実績があるから任せるが、何も聞かぬのだな」

「内陸の同盟国に売る為に税を下げる約束をした。恩を売りたいから、なるべく低い値段で貿易をするのに、こちらが工夫をするしかない。辺りですか? 道の治安回復の効果を確かめるのもありそうですね……。確か簡易的な牧場の設営は済んで、偽装が終わり、見回りの範囲が増えたって報告書が来たと、ロディアが言っていたので何となく勘で。後は盗賊とかが減れば問題はなさそうですね。あと、国内の塩の物価が下がるのは国民が喜びそうです」

「お、おう。そうだ、だいたい合ってる」

 プロテアさんは目を泳がせながら、お茶を飲んでいる。なんか怪しいな。


「無茶でも言ったんですか? 外交って大変ですよね」

「そうなんだよ……。良質な銅が欲しくてな。内陸側で岩塩でも出れば別なんだが。あ……」

「一国の王なんですから、勢いだけでの交渉は控えてくださいね」

「……すまん」

「別にかまいませんよ。使う薪の量を減らせば、塩が安くなって国民も喜ぶでしょうし、その分他の場所に薪を回せますので」

 俺もお茶を飲むと、本題が終わったのか愚痴に付き合わされた。

 実績が少ないのに、親父に王位を無理矢理譲られたとか。隣国の王が酒癖が悪いだの。子供がもう一人ほしいだの。孫でもいいだの。



「娘の婿になる男に、言って良いものじゃない内容も多少ありましたが、聞かなかった事にしておきます」

「助かる。で、火柱事件の事は私の耳にも入っているが……。もう少し使いやすい物にならなかったのか?」

 プロテアさんは片目を細め、頬杖をつきながらテーブルをトントンと指で叩き出した。


「アレは自分が望んでいた物の副産物を、兵器開発部に譲っただけですので。道路舗装に関する書類は読んでくれたかと思いますが、あちらがメインです。それに使い方を間違わなければ、元の世界では暖房器具にも使われていたくらいですよ? どうやって火柱をあげたのか、こっちが聞きたいくらいですよ」

 俺は肩をすくめ、片目を細めて困った顔をした。盛大に灯油ぶちまけて、火をつけただけかもしれないけど。

「うーむ。もしかしたら後日、兵器開発部から助言を求める声が来るかもしれん。話を聞いてやってくれんか?」

「歴史書に、兵器開発者として名前が残って欲しくはないんですが、まぁ国の命令なら仕方ないです。その場合は偽名で」

「まぁ、その場合は頼む」


「プロテアさんのお願いなら仕方ないですね。多分来ると思っておきますが、とりあえず製塩所です」

「そうだな。で、ロディアとはどのくらいの頻度でヤってるんだ? 孫が楽しみで仕方ないんだが?」

「せがまれたらですので、頻度を聞かれましても……。それに国民や貴族に披露する場合を考えて、子供ができたから慌てて結婚とか思われたくないので、当たりそうな日は避けてます」

「なんじゃ。つまらんのう。男らしく襲うくらいの意気込みはないのか?」

「男は良いですが、女性には体調とか色々ありますからね。若さと性欲に任せて襲う様な事はしませんよ」


「私が(けだもの)みたいではないか」

「実際そうでしょう。十三歳か十四歳のダリアさんを孕ませておいて、何言ってるんですか? 産めるだけで、まだ安全に産める体になってなかったでしょうに」

「よし、お前死刑! 理由はムカつくから」

 プロテアさんは憎たらしい笑顔で、お茶を飲みつつ言っているので、冗談だと言う事はわかる。

「国の王がそれを言うと、シャレにならないので止めてください」

 その後も、お茶を飲みながら先ほどとは少しだけ違う愚痴に付き合った。国王してない時は、普通の父親なんだけどなぁ……。いや、国王として働いてるところを見てないけど。



「ってな訳で、製塩所のある町まで行ってくるけど、行くかい?」

 一応仕事があるかもしれないが、ロディアに聞くだけは聞いてみる。

「行く行く! 今回も汚れても良い格好?」

 即答だよ……。手前の仕事はどうなってるんだ? それともしばらく予定が入ってないのか?

「いや。海沿いの町だし、普通に視察する普段の格好で良いと思うよ」

 執務室に戻り、ダラダラしていたロディアに言うと、散歩と言われた犬みたいにキラキラした目になった。

 とりあえず俺は筆記用具入れのインクや紙の確認をし、視察の準備を始めると、ロディアもウキウキと廊下に出て、寝室の方に曲がっていった。



「じゃ、お願いします。そちらの良い様に目的地に向かって下さい」

 翌日。スーツ姿で馬車に乗り込み、進行方向側のガラスを軽く叩いて、御者に合図を送る。

 今回の護衛は騎馬兵十騎、身の回りの事をしてくれるメイドさんの馬車が一台、先頭と後方を走る護衛馬車二台の計四台となった。この間の、原油視察時よりちょっと少ない。俺だけだったらもう少し少ないんだろうけど、仕方ないよね?

「で、今回はどういうのを考えてるの?」

「太陽の熱を使って海水を温めて、先にある程度水分を蒸発させようと思う。初期費用はかかるけど、長い目で見れば燃料代と人件費は抑えられる」

 俺は昨日作った、簡単な図を描いた紙をロディアに渡す。


「話を聞く限り、綺麗な海水を煮てるだけだったから、元の世界でも使われてた奴の図形。まず風車で海水を汲み上げ、長くて広い木材の上を通して軽く暖める。この時に水の量が少ないと暖まりやすい。そして箒の先みたいなやつを多くぶら下げた場所に流して滴らせる時に風で蒸発、大きな升に落ちたら小型の風車で汲み上げてを繰り返して、どんどん海水を濃くしていき、最後に薪でも炭でもいいから使って蒸発させると、塩が結晶化し始める」

 俺は図を指でさしながら、流下式塩田法の説明をする。箒っぽいのが駄目なら、よしず的な物に変えればいい。

 それに雨量が結構あるから、海水を引き入れて、一年から二年間放置っていう塩田も無理そうだから、こんな製塩方法なんだと思う。

「むー。確かにこれは風車の初期投資がかかるわね」

 けど、砂浜に水を撒く奴より技術は使わないのは確かだ。なんか綺麗に水を撒くには慣れないと難しいっぽいし、ならある程度天候に左右されない施設を作って、風車とかの整備や、行程は薪をくべるくらいにしたい。


「幸いな事に、製塩が国営だったのがいいね。国が新たに手を出すと、個人でやってた業者がいたら、死ぬか転職するしかなくなる。水とか薪を運ぶ人が減るけど、国で再就職先を見つけてやればいい」

「いままでお金をかけた設備とかが、無駄になるしね。けど必要な物だからこそ国営にして、国民や他国に、安定した塩を届けたいって気持ちが強かったのかも」

「生きるのに必要だからね。高値で売りつけないだけで本当に頭が下がるよ」

 何代前からやってるのかは知らないけど、最悪国家間で何かあったら塩の値段を上げたり、供給を止めればいいし、戦争前に弱らせる事も可能だ。相手もそれを避けたいだろうし。海沿いを持ってる国はある意味強いな。どういう大陸になってるかわからないけど。



 あれから五日。ちょこちょこ馬を休ませるのに休息を挟んだり、少しでも良い場所で寝泊まりさせたいからか、大きな町に入ったら日が高くても早めに移動を切り上げたりで、思っていた以上に進まなかった。

 だから王都から何キロくらい離れているのかがわからないが、道中に盗賊が潜めそうな場所があればメモをしておいたので、城に戻ったら計画書と一緒に報告書も出さないといけない。


「おー。やっぱりプラスチックゴミが一切ねぇ! すげぇ綺麗だ! 瓶や木材は少しあるけど」

 大きな川も離れているし、近くに街もない。ちょっとだけ小さな港町だ。

 昨日は宿の窓から海を見る事しかできなかったけど、実際に浜に立ってみたら感動だ。海外の旅番組やカレンダー、パソコンの壁紙みたいな綺麗な浜辺が、ずっと続いている。

「海なんかで大げさね。ニワトコの国じゃ海は珍しかったの?」

「自然に還らないゴミが多くて、汚かったんだよ。あと海流の影響で濃い緑とか。排泄物とか石鹸の水を垂れ流し、ゴミの多いドブっぽい時期もあった。ここは塩作りしてるから、そういうのも気をつけてるんだろうなー。ちなみに国は大きすぎる島だったから、よその国に行くのには船だった」

 俺は飛行機の事はだまっておき、靴と靴下を脱いで裾をめくり、海に入ってガラスのコップで透明度とかを見てみる。

 細かい砂みたいなのが浮いてはいるが、ゴクゴク飲めそうなほど綺麗だ。脱水症状になるから飲まないけど。


「でー、どの辺に作るの? こんな場所に風車なんか建てられないでしょ?」

「んー。その辺も含めての視察だしなー。少し水路みたいなのを掘って海水を引き入れると、なんか細い海草とか生えそうだし。もしくは海上に建てるかだな。あの石でできた船着き場みたいなのを少し大きくするか。塩水の湧く井戸を掘るのも良いけど、湧くよりも早く汲み上げそうだしなぁ」

「どっちにしろ大掛かりね」

 ロディアは腰に手を当て、ため息を吐きながら船着き場の方を見ている。海風で髪が揺れているので、風は期待できそうだ。

「あー。アレがあったわ」

 俺はそう呟き簡単な図を描くと、ロディアが背伸びをしながら脇にぴったりとくっついて、手元を覗き込んできた。


「これは俺の世界にあった、かなり古い道具でね。アルキメデスっていう数学者、物理学者、技術者、発明家。その他沢山の分野で凄すぎる人が考えた発明だよ。手押し式ポンプでも良いけど、砂とか小魚を吸い込んだりして、詰まって清掃や整備とかを考えるなら、こういう奴の方が良いと思う」

 俺は雨どいに、ドリルみたいな螺旋状の物を乗せた簡単な絵を描き、風車のシャフトとギアで、自動で回る図を仕上げる。斜めのギアも風車内で見たからこれも平気だろう。

 本当なら、紐にバケツを何個もくっつけた奴で、汲み上げるのを考えてたけど、綺麗な海水とか使いたいじゃん? 水路を掘ると、藻とか生えそうじゃん?

 ってか諸説あるんだよなぁ……。アルキメデスが産まれる前にあったとかも言われてるし。


「俺も詳しくは知らないけど、これで水が汲み上げられる。炭坑とか鉱山の水も、これを小さく作って、人力で回して排水してた例もある。で、水が出る場所に斜めに板を持ってきてー。この箒みたいな場所に流して、下の升に溜まるようにし、こっちは小型風車でまた水を汲み上げて、何回もかけ直す。そして隣に製塩所で運ぶ手間を省く奴も欲しいなぁ。板は長くしたり短くしたりで製塩所の場所まで延ばせるし、これなら技術者の手間だけで、比較的予算は少なく行けそうだ」

「まぁ。最初から地面が固い所に建てるなら、そりゃ安いだろうけどー。本当に水が来るの?」

 ロディアが腕を引っ張ってきたので、図を見せる様に腕を傾け、ちょっとした説明も付ける。


「銅でできた筒をどこかで見たな……。錬金術師の道具か。その筒を棒に巻き付けて、水に斜めにして入れて手で回しても出てくるぞ」

 ホースとかでやるのが一番早いけど、多分ないだろうし……。

「帰ってから技術者を呼んで検証して、この螺旋が作れるかどうかで、物を大掛かりにしないといけなくなるんだけどね。さて、あとは建てる場所とか決めたり、実際に製塩所を見学か。民家はないから、立ち退き要請はしなくていいのが楽だよ」

「そうね。あの辺りなんかどうかしら? 一気に深くなってるし、低木の生えてる土の部分まで比較的距離はないわよ?」

 ロディアが指をさした方を見ると、確かに浅瀬が短くて急に深くなっている。といってもスネくらいから、胸の辺りまでだけど。

「石を持ってきて海の中に土台を作る費用と、この螺旋を作る費用がどっちが安いかで決まるなー。ある程度の見積もりを、ここの業者に頼んでいくか」

「では、そちらは自分がやっておきます。大きな組合の支部があったはずですので」

 俺が海の方を見て呟いたら、いきなりトニーさんの声がしたので、少しだけ驚きながら、ついでに普通に風車を建てる見積もりと、建設予定地の確保も任せる事にした。

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