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第9話 錬金術師は俺より高給取り

短いので一本に纏めます。

8話で、アスファルトと重油が混ざり、ややこしいので、原油が蒸発した物全てを重油扱いにしました。

そして、灯油や軽油を混ぜて流動性を上げた物をアスファルトにします。

「お疲れさまでした。どうぞ」

「あぁ。ありがとうございます。癖が強過ぎて疲れました……」

 俺はトニーさんが用意してくれた、街の防壁の外にある商業施設の一般工房で、集めてくれた錬金術師達の面接を終わらせ、ため息を吐いたら、アニタさんがお茶を淹れて持ってきてくれた。

 一般って言うのには無理があるな。火を使ったり、大型設備が必要な物だったりで、何かあると街が大惨事になるかもしれない、施設の隔離場所だし。

 鍛冶屋とガラス工房が、こっちだったりする。

 ちなみに服はスーツではなくツナギだ。急遽安くて、分厚い汚れの目立たない布で作ってもらい、この格好で面接をした。

 綺麗だったので、偽装するのにその辺で転がって汚したのに、メイドさん達の執念で、極力泥汚れを落とされ、パリッパリに糊付けされて帰ってきた時は、少し何ともいえない気持ちになった。

 もちろん武器は仕込んであるので、多少の対応は可能だ。


「有望な方はおりましたか?」

「えぇ、数名ほど。この中から一人を選び、実験をさせて結果が出たら、落とした数名を雇用し、大がかりな精製施設ですかねー。一緒に仕事してくれるか微妙ですが」

 俺は石鹸水と油を入れた瓶を振り、ある程度乳化させた物を渡して、分離させられるかの実験をさせてみたが、見事に中央から二層に分かれた瓶と、上に油が少し浮いているが、濁った水の比率が微妙に多い物を机に出してアニタさんに見せた。


「こんなに差が出るんです。錬金術っていう物を初めて見たけど凄いですねこれ。瓶を持って少し光ったと思ったら、どんどん分離し始めるし」

 俺は少し興奮気味に言いお茶を飲む。

「錬金術とは、本当にくず鉄から金を作れるものなのでしょうか?」

 アニタさんが、不思議そうに聞いてきた。この状況になった物を見れば、多少は信じたくなるのかもしれない。


「コレみたいに、元ある物を変化させる事は可能かもしれません。たとえばこの原油から、不純物を取り除いて燃える水は作れるけど、根本的な物質が違う鉛から金にするのは、まだ無理だと思っています。ただ、炭からダイヤモンドは作れると思いますよ。向こうの世界じゃ作れてましたので」

 炭素から工業用ダイヤモンドも作れるし、技術力が上がって、本物のダイヤモンドとほとんど同じ物が作れる様になってるしな。

 本物のダイヤモンドより、紫外線の透過率が少な過ぎて、不純物が少なく透明度が高過ぎる奴になって、機械じゃ偽物扱いだけど。


「恐ろしい世界ですね……。一応おとぎ話で迷い人の世界の事は知っておりますが、ソレより上を行っています」

「極端な話ですが、魔法的な感じで、この王都より大きな街を一瞬で更地にできる兵器もあります。科学と言う技術によるもので、錬金術とは異なりますが、やってる事は似ていますね。簡単な物なら……」

 俺は工房の隅に落ちていたゴミの中から、拾い損ねたと思われるクズ銅っぽい物を持ち、蝋燭に火を付けて少しかざすと、緑色の火になった。


「こんな感じに。色々反応させて火の色を変えられるんですよ。ちなみにさっき言った兵器を使うと危ないから、お互いの国が持って、戦争にならない様バランスを取ってる事になってますねー。使ったらこっちも使うからな! と。早い話が抑止。攻め込まれない為に、お互いに力を保有しておき、火傷じゃ済まされない状況にしておけば、お互い手を出し難い。そんな世の中っすわ……」

「難しい世界ですね……」

「かなり難しいです。最悪原油から燃える水が作れたら、攻撃には使わせたくないですね。簡単に火が付くから、油より使いやすいのは確かなので」

 俺は原油の入った瓶を持ち、少しだけ睨む様にして見て、ため息を吐きながら机に置いた。



 数日後、回収を頼んでおいた馬車一台分の樽が工房に届くと、俺はこの間の面接で採用したキナさんを呼び出してもらい、向かう事にした。

 もちろん採用通知は出してあるし、落とした他の優秀な人達にも、ある程度実験の目処が立ったら雇用通知を出す事を書いてあるので、もう一度来るか来ないかは、個人の判断に任せる様な事は送ってある。

 ってかキナさんの第一印象が強過ぎた。元は何色だかわからない、ボロボロの染みだらけのローブを纏い、隈が酷くてフラフラだったし。けど優秀だった……。


「お久しぶりです。来ていただいて良かったです」

「自分以外はいないのか?」

「えぇ。ある程度実験の目処が立ち、成功して量産できる様になれば、貴方の部下として雇います。来るか来ないかは別ですが」

「で、何をやればいいんだ? こんな広い工房にイスとテーブルが一つ、隅に樽が数個。まだ何も決まってないのか?」

 キナさんは辺りを見回しながら言い、呆れた様にため息を吐いた。


「この間、石鹸水と油を混ぜた物を、綺麗に分離してもらったのは覚えていると思います。今日はコレでやってもらおうかと」

 そう言って俺はテーブルに、瓶に入った重油を置いた。

「燃える水? こいつをどうするんだ? 火種にすら使えないだろ?」

「これに目を通してください。それとこの事は他言無用です。良いですか? 言ったりすると、貴方を罰する事になります」

 そう言うとキナさんは首を縦に振ったので、数日の間に覚えている限りの知識をまとめた資料を渡し、最低でも灯油、軽油や重油にしてもらいたい事が書いてある。


「こいつはこいつは……。いやいやいやいや……。まいったなこりゃ。燃える水にこんな使い道があったとは……」

 キナさんはニヤニヤしながら呟き、どんどん資料をめくっている。

 腕は良いから、多少は諦めよう。

「この燃える空気と、もの凄く燃える水は保存技術的に無理なのはわかった。この燃える水に二種類あるのはなんだ?」

「火のつく温度の違いって認識で良いです。その図の上に行けば行くほど純度は高く、タバコでも火がつき、一番下は不純物の多いカスなので、松明(たいまつ)を投げ入れてもしばらくは火がつきません」

 実際、アスファルトなんかガスバーナーで暖めながら施工してるしな。


「だが、お前はこのカスが欲しいんだろ? なんで自分を呼んだんだ?」

「とある理由で燃える水を欲しがっている奴がいる。むしろカスだけ取って、破棄するのはもったいないから作っておく。ってのも強いです。なので一応……。必要な機材や物があればこの紙に書いて下さい。費用は全てこちらで持ちますので」

「高待遇だな。後が怖いな」

「別に怖くはないですよ。逃げられても次を探します。むしろ普通にやってても燃えるので、そっちの方が怖いですよ。少し間違えばこの辺一帯が吹き飛びますし。で、実験が成功してある程度手引書ができたら、王都から少し離れた所に本格的な工房を建てます。そこは防諜しやすく、他国からのスパイをある程度排除できる作りになります」

「……あんた。いったいなに者だ? 言ってくれないとこの仕事は断るぞ? 入り口に立ってた男女二人も関係あるのか?」

「国の関係者。じゃ、弱いですか?」

 キナさんに睨まれたので、口角を少しだけ上げてニヤついて言う。

「この図で見たが、この辺の液体は兵器になるんだろ? 武器の開発部か?」

 キナさんは灯油の辺りをトントンと何回も指さし、俺の方を睨んでくる。


「いえ、自分は主に国民の為に見えない場所で日々努力しています。その為に先程言った残りカスが必要で、燃える水はもったいないので軍に行きます」

「……いいだろう。こっちは雇われて金をもらう。ソレ以上も以下もない。言われた事をやれば良いだけ」

「んー。そこまでヤバくはないですが、他国からの引き抜きとかが怖いくらいでしょうか? その為に建造予定の防諜しやすい施設への移動前提で、ここは借りただけの物件です。もしさらわれたら、拷問とかされる前に喋っても問題はないです」

 死の沼の買収は済んでる。むしろもの凄く喜んでいた。あんな土地が売れるなんて、と。だから他国に原油が採れる場所がなければ意味がない。問題は防火だけだな。


「……いいだろう。給金の話に入ろうか」

「そうですね。一日でこのくらいでどうです?」

 そう言って、城にいるトレニア姉さんの部下の給金と同じ額を紙に書いたら、目を瞑り、少しだけふらついていた。少なかったんだろうか?

「何が何でもやらせてもらう!」

 あ、コレ多かった奴だ。錬金術師ってどれだけ不遇な扱いなんだ?

「ありがとうございます。では、契約書にサインを」

 一応国の職員だし、ヘリコニア兄さんとの話し合いも済んでいるので、問題はない。むしろ銀貨一枚まで、上乗せしても良いと言われていたし。


「では、必要な物を紙に書いてください。こちらで用意しますので」

「あぁ、あの量だろ? コレと……。アレも必要だな。半分は燃える水になるとして、保存容器は……」

 キナさんはどんどん紙に必要な物を書き、何かを思い出す様に腕を組むが、もうないのかペンを置いた。

「これを頼む」

「わかりました。これはこちらで用意して運び入れておきます。では、今日は半日分の給金を出しますので、良い食事を食べ、睡眠を多く取ってください。お酒を飲む場合は、胃に何かを入れてからで」

 話をしている最中に、何回もお腹の音が鳴っていたのでろくに食べていないか、食費を研究費に充てているかだろう。


「い、いいのかよ。まだ太陽一個分も動いてないぞ?」

「早く終わっても半日は半日です。今からでは日雇いも何もできませんし、拘束は拘束です」

 これは個人の判断で、ポケットマネーで支払った。お金を渡して機材を買いに行かせても良いが、領収書とかないし、少し多く報告されたら色々とまずいしな。

「では、機材がそろった日の夕方には、係の者が報告に行くと思いますので、その翌日から来て下さい。ご苦労様でした」

「あ、あぁ。わかった。今日はもう飯食って寝るよ」

 俺が笑顔で言うと、テーブルに置いたお金をポケットに入れ、ニヤニヤとしながら工房から出て行った。


「ではトニーさん。これを買ってここに運ばせるか、部下を使って運んで置いてください。輸送費は常識の範囲内なら、業者に頼んでもいいです」

 キナさんが出て行くと、入れ違いでトニーさんが入ってきたので、書いてもらったメモ用紙を渡した。

「……ポーション類の醸造関係施設で全て揃いますので、王室関係や騎士団直属の部署から手に入ると思います。ですので、ロディア様に話した方がこの場合は早いかと思われますが、それでもというならお受けします」

「……そうっすか。会う機会があれば言うか、なければ夕食後寝室だなー。では帰りましょうか」

 仕事関係だから真面目に言ってたけど、なんかさっきの一言で、そんなのどっか飛んで行ったわ……。


「ってな訳で、これを頼みたいんだ」

 夕食後。お互い入浴をすませた寝室で、今日の事をロディアに話した。

「……倉庫番号はあるわね。ってか机も必要なの? 本当に何もない所を選んだのね」

 ロディアは俺の太股の上で、書いてもらったリストに目を通し、背中を預けている。なんかこんなスキンシップが、最近増えてる気がする。一線を越えちゃったからなぁ。

「錬金術については何もわからないからね。変に荷物が残ってても面倒だろ? 面接用に入れた中古のテーブルと机だけだよ。イスは一つを残して引き上げたけど」

「んー。品質はどうするの? 精密な物から、大ざっぱに煮て、出た蒸気を集めるだけの、蒸留所の小さい感じの物まであるけど、粗悪だと細い部分とか均一じゃないわよ?」

「結果を出して、他の者に見せる手引き書も必要だから、この紙に書いてある器具だけは、なるべく高品質な物を。結果が出て、話し合いをして結論がでたらそれに合わせる」

「わかったわ。それで話を通しておくわね。でー。終わったんだからさー。ちょーっと……ね?」

 ロディアはいきなり仕事モードから、プライベートな雰囲気になり、リストをサイドテーブルに置き、腰を振って押しつけてきた。まぁアレだよアレ。アレがアレに押しつけられてるんですよ!

「……まぁ、この間は断っちゃったしね」

 そう言って軽くロディアに抱きつき、首に軽くキスからはじめた。



 あの後五日後には工房に機材が運ばれ、俺はキナさんの実験の様子を見守りつつ、少量から精製を始め、重油と軽油、灯油が作られた。

 蒸発皿に灯油をスプーン一杯を入れ、マッチで触れただけで火が付いた。

「凄いな。本当に燃える水じゃねぇかよ」

「そうですね。で。油なので水にも浮くので……」

 俺は別な蒸発皿に水と灯油を入れ、油膜が張っているのを確認してから火を付けると、それでも火が付いた。

「最悪戦略にも使いやすいってか……。俺なら水の上に撒いて火を付けるな。本当に色々と契約書が厳しかった訳だ。部屋の隅に偉そうな奴もいるしよ」

「えぇ。軍? 騎士団? のお偉いさんです。後はこのぼろ布をよく燃える水に浸して枝に巻き……」

 俺は小さい松明を作り、火を近づけると簡単に発火した。


「松明、火矢なんかも簡単です。ランプにも使えますよ」

 そして火の付いた松明を振ると、ゴウッと火が風で煽られた音が鳴るが、消える事はなかった。

「発火点が低いので油よりはいいでしょう? このよく燃える水はそちらに渡しますので、お好きにどうぞ。けど、兵器開発はそちらでお願いしますね。変な事で自分の名前を残したくないので」

 笑顔で言い、ある程度の量の灯油を軍のお偉いさんの部下に渡す。

「どうぞ、お帰り下さい。随時あの樽の燃える水が精製されるので、部下をこちらによこせばちょこちょこ実験は可能でしょう。こちらは取り扱いの説明です。くれぐれも火気厳禁で、少量を心がけ、多く使う場合は外での実験をお願いします。気をつけてくださいね? いいですね?」

「ありがとうござ……。感謝する」

 丁寧な言葉を使われそうになったので、睨んだら偉そうな言葉使いに戻り、そそくさと帰って行った。


 そして鉱山から持ってきてもらった、多分鉱脈じゃない場所から出た細かく砕かれた石を、軽油を混ぜながら暖めて粘性の下がったアスファルト化した重油と混ぜ、試験的に木の板の上に載せてローリングピンで平らにする。もうこれ専用でしか使えないけど。

「それっぽい」

 そして軽く触ってみて、熱くないので木の板を床に置き、乗ってみるが変化はない。人の重さは平気だけど、荷物満載の馬車とかどうなるんだろうか? その辺は実験が必要だな。


「お前が欲しがってたカスってのは、それを作る為だったのか?」

「えぇ。これを道に敷いて馬車の振動を少なくし、尻と車軸へのダメージを減らします。最初は製塩所のある海から王都までか。王都から鉱山までを予定したいですね。この舗装用の石材の確保もしたいので」

 ってか、板バネの馬車が他の迷い人の知識で文献として残ってはいるけど、まだ一般化されてないしな。

「では、精製と手引書の作成をお願いします。監督させる者がいないので孤独な作業になりますが」

「あぁ、あの樽に分けて詰めておけばいいんだな?」

 キナさんは、よく果実酒とか果物とかを入れておく、人の胴体くらいの元ワイン樽を指した。


「はい。そうですね。それと適度な休息、ちゃんとした食事や睡眠を忘れずにお願いします。貯蓄がないため給金はある程度までは日給でとの事ですが、毎日は通ってられませんので先払いします。嗜好品の持ち込みは許可しますが、作業中に火だけは使わないでくださいね」

 まぁ色々持ち逃げされても、監視が付いてるから捕まえられるけど。

「高待遇過ぎて怖いな」

「それだけの物って事ですよ。結果が出れば部下もできて、専用の施設の建設も始まり、そこでの作業になりますので」

 近くに町しかないから、交代制で長期休暇や、道の整備をしてストレス発散できるくらい栄えさせたいけど、どうなる事やら……。利便性がないと人が流れてこないしなぁ……。

「では、お願いします」

 俺は笑顔で言い、工房を後にした。



 そしてその日の夕方に、軍の兵器開発部で巨大な火柱が上がり、お偉いさんを含む六名が重度の火傷を負ったと、寝る前にロディアに聞かされ、眉間に皺を寄せつつ渋い顔で、コメカミを手の平でガンガンと叩き、一言愚痴を漏らしておいた。

「あれほど気をつけろって言ったのに……。本当に説明読んだのかよ」

 実は燃えるのは気化したガスだって書いたんだけどな。

 しかも多分伝わらないから、燃える水から出てる、歪んで見えるモヤモヤした奴とか、結果的に温まって出るガスが増えて、さらに燃え広がるとか。色々結構な量を書いたのに……。開発部なんか好奇心の塊だから、やってみたくなったんだろうか? ダメだダメだと言われてる物ほどやってみたくなる心理……。

 一応消火方法に完璧に乾いた砂を使えって書いておいたけど、直ぐに用意できたのかな?


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