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第8話 重油って湧くんだな 前編

 俺が鉱山から戻り十日、戦争で勝って増えた領地の視察に行っていた、義理の両親予定が帰って来た。

 もんの凄く気が重いわー。あの時は雰囲気に流されたけど、よく考えなくても結婚するとか、公式の場で色々披露してからの方が良かった気がする。

 もう同棲は認められてたけど、一応ね? けどあの国王、十三歳くらいのダリアさんを孕ませてるしなー。それよりはマシだと自分自身に思いこませよう。


 で、この間の鉱山の件を書類にまとめ、改善案とかを色々出し、栄養状態の改善とか、休息時間とか厳格に決め、更正施設は無理でも、刑罰用くらいの施設までには改善できそうだ。ってか鉱山イコール出てこられずに、死亡って例をなくしたい思いで書いた。

 横領を防ぐというか、食料だけは確実に食べさせるようにさせる。空腹は暴動の原因だし。

 死体を食うとか、世紀末世界以下な気もするし。ってか荒廃世界だ。もちろん刑罰が終わったら、ある程度生活のできるお金を渡す事も、その理由も書いたさ。日本の刑務所の、出所時程度の金額くらいだけど。



「失礼します。プロテア様が家族会議を開くと仰せです。ニワトコ様を、縄を掛けてでも連れて来い。との事です」

 ドアがノックされ、返事をするとトニーさんが入ってきて、そんな事を言った。

「はいはい。国王様の命令じゃ、区切りが良くなるまでってのは無理だろうなー」

 俺はため息を吐き、ちょうど筆が乗っている状態だったのを悔やみつつペンを置き、筆記用具を引き出しから出して立ち上がる。

「帰ってきてから少し時間があったし、今までの報告書とか読んでたのかも」

「多分ね。最悪疲れててもその日の内に呼び出しそうだし、色々判断したかったんでしょ。まぁ、なるようにしかならないさ」

 ソファーに座ってくつろいでいたロディアに手を差し出し、それを掴んできたので軽く引きながら立たせ、一緒にトニーさんに付いて行った。



「良く来た。ヤる事もやったし、顔を出さないかと思ったぞ」

 国王様がそう言うと、ダリアさんが思い切り肘打ちを打ち込んでいた。余程強めにいったんだろうな。だってもの凄く痛そうにしているし。


「ん、ん゛んっ! まぁその話は置いておこう。子供達やお前、メイド達の報告書を読ませてもらった。思っていたより低予算で、それなりに成果の上げられそうな物から、根本からまったく別になる物もあるが。まずは街道整備や、猟師小屋に偽装した兵士の詰め所や牧場の設営、簡易関所の建造やらから進めようと思う。これで盗賊の減少が確認でき次第、王都近くの主要道路からどんどん進めるつもりだ。まぁ、そういうのが目に見えてわかるのは、かなりかかると思うがな……」


 俺の出した、ほぼ最初の案から手を着けてくれるのか……。結婚するのに、多少の功績とか積ませるつもりなんだろうか?

 ただ、目に見える功績じゃないと、国民には支持されない気もする。しかも今回のは街の外での安全だ。他のも国益っぽいのに繋がるだけで、直接ドカンと来るものじゃない。

 税金下げるぜ! とかなら確実に支持されそうだけどな。


「おい、聞いてるのか?」

「え!? あ、すみません。少し考え事を……」

 やべぇ、全然聞いてなかった。

「一回ロディアとヤっただけで、浮か――」

 そこまで言ったら、またダリアさんがフライパンを頭に振るった。なんか聞きたくない鈍い音が聞こえたけど、平気だろうか?

 とりあえず俺は聞いてなかった理由を話し、手を付けるのはもう少し国民にわかりやすく貢献できるものとかの方がいいんじゃないか? と提案してみた。


「そこまで考えなくてもいいよ。そういうのはこっちでやるから、今まで通り、ニワトコ君が気が付いた事とかをして欲しい。後は自分の補助かな。この間の事で、ニアもロディーも感謝しているし、スカーレットセージ家の件も動けている。君は国民の支持とかには無縁だが、家族や貴族、商人からの評価だけじゃ不満かい?」


「いえ。今までこういうのとは無縁だったので、特に問題はないですが、なったらなったで意識が向くというか……。民として不平不満をグチグチ言っていたので、気にするというか。なので手を付けなかったっていうんですけどね?」


 実際にこっちに来てからも、貴族の不正を明るみに出しただけで、最前線にある基地の防衛だったしな。愚痴も言いたくなるさ。向こうの国だったけど。

 それに税収とか怖くて、勝手に口出しできないって……。


「民に愛され過ぎると、貴族連中から愚痴が来るぞ? 問題は折り合いの付け方だ。今まで通りの税収を得つつ、国民が楽できるとかなら問題はないかと思う。あぁ、もちろん今までの君の発案したものは、名前も残るし、評価される場所ではしっかり評価されているから、安心してほしい。自分達は横から全てをかっさらう事なんかはしないよ」


 ヘリコニア兄さんはニコニコとしながら言い、他の人達も頷いているので、言っている事は本当らしい。ってかまだ色々知らない事が多過ぎて、この国の全貌が見えないんだよなぁ。どこで評価されているんだろう? 兵士達と研究者? 囚人? まぁ、いいか。


「そうですか。では気にしないで、それっぽく迷い人の考えから立案してみます」

「それでいい。変に不慣れな事をしても、良い結果は出ない。なら気が付いた事で、変えられそうな事をどんどん立案してくれ。じゃ、父さんの話を聞くように」

 えー。ここでそこに繋げるのかよ……。



「さて、続きでもやるかー」

 とりあえず、国王様の評価は概ね好評だったし、治安維持や緑化が低予算ってのも良かったらしい。鉱山潜入での国の膿出しもできたっぽいし。

 評価のされ方は個人から個人だけどね。

 とりあえず書類の続きを書き始めるが、筆の乗りがかなり悪い。調子なんかこんなもんだ。直ぐにどこかに行く……。


「そういえばさー。サルビアってどうなったん?」

「んー? あれから即動いて、父親への説明と、実家に戻ってろって感じで実母の確保。とりあえず第二夫人確保までは今まで通り好きにさせておけー。って感じ? 子供が正式に貴族になる、最高のタイミングで暴露してからの確保。結構やることエグイよねー」


「だなー。それも聞きたかったけど、聞きたいのは男女仲の方だよ。なんか知り合いっぽい。親同士が仲が良い。婚約破棄してフリー。そんな状況で一つ屋根の下……。まぁ家は広いだろうし、使用人の目とか多そうだけどさ、気にしない人だっているじゃん?」


「あー、そう言う事ね。サルビアも犯罪者って事で、向こうから一方的に婚約破棄されたし、くっ付きそうな気もするねー。アルと二人でいる時の日常会話に、サルビアの話題も出てくる程度には意識してるっぽい?」


「脈ありじゃん。目つきとか人相が悪いだけで、かなり良い奴だったし。幸せになって欲しいと思うよ……。二人とも異性に運がないっぽいし。そしてサルビアの婚約を破棄した家は、どう思うかだな。まぁ、信用しきれなかったのか、表面上の付き合いだけだったかだけど」


 飯抜きの時に励まされたし。まぁ、兵士の目があったから、飯を分けるとかはなかったけど、顔で損し過ぎだし、本当にサルビアには幸せにはなって欲しい。第一印象の見た目で、やばそうって判断した俺も俺だけど。

 そして破棄した奴は、手の平返しで即寄り添ってくるが、サルビアとアルテミシアは婚約中。中々熱い展開じゃないか。


「そういえば俺のお小遣いってどうなってる? ちょっと気分転換に買い物に行きたいんだけど」

「聞かれなかったから言わなかったけど、一日大銅貨五枚までは容認されてる。しかも貯める事も可能。つまり結構な額が貯まってるんだよね。食品関係は毒殺を警戒して駄目だけど。ってかお父さんもお兄ちゃんも、今まで買い物に出ていないのを不思議がってたよ? 無欲過ぎるって」

 いや、簡単に出かけられないって先入観と、頼めば持ってきてくれてたし、そういうのはないと思ってたわ。あと護衛が大げさになるのは好きじゃない。


「もうそれってお小遣いじゃなくて、給金だよね? 王族的に多くない?」

 流通貨幣には六種類あり、銅貨、大銅貨。銀貨、大銀貨。金貨、大金貨とあり、十枚で桁が変わる簡単な感じだ。銅貨が百円だとしたら、銀貨は一万円だ。つまり俺の日給は五千円で、鉱山の責任者は、百万円の束を数個隠していたって感じだ。


「その辺の貴族よりもの凄く少ないよ? ってか、この離れの見習い執事やメイドより少ない」

「城の中で働くエリート候補だしね。ってか皆高給取りなんだなー。まぁ、王族が国民の税金で豪遊するよりは、用途が確実にわかってた方がいいんだろうけど……。正直お小遣いだから、一日大銅貨一枚くらいだと思ってたわ」


 日給五千円の王族か。多いのか少ないのか判断できねぇ……。この時代背景の国民で、稼いでる奴はもっと稼いでるんだろうけど、日本だったら年収百五十万くらいか……。どうなのコレ? まぁいいか。王族が大金持つよりはいい。そこで俺は考えるのを止めた。


「買い物に行く為の手順は? ちょっと行ってくるって、ふらっといなくなるのも問題でしょ?」

「トニーかアニタに言えば、準備してくれるわよ? 私もティカとかシルベスターに言うし。アルテミシアの所に行く時は、いつもその辺のメイドに一声かけるだけだけど」

 一声で済むって、どんだけご近所さんだよ。もしかして馬車で出かける時に見えてた?


「んじゃ出かけよう。なんか今日は筆の乗りが悪い。予定がないなら一緒に出かけようか? プロテアさん達に呼ばれる前はそこでくつろいでたし、暇なら行かない?」

「行く行く! ちょっと動きやすい服に着替えてくる!」

 誘った瞬間に、ロディアが飛び起きて、執務室から慌てて出て行った。そんなに嬉しかったんだろうか?

 そして誰かを呼び出そうと呼び鈴を持ったら、ロディアを見たのかアニタさんが執務室に入ってきたので、出かける用意をお願いした。



「どこに行くの? 市場? 雑貨屋?」

 スーツのまま馬車から降りると、大通りにある露店が多く並ぶ場所だった。懐かしいなぁ、最前線にとばされる前は、向こうの国で良く買い物してたわ……。

「何があるかわからないから、今回はぶらつくだけー。ってか物々しい護衛じゃなくてよかった」

 護衛はとりあえず二人、軽装で腰に剣を下げている屈強な見た目の男だ。

「動き辛いし、私達ってそれなりに強いからねー。けど名目上は必要でしょ?」

「まぁ名目上はね? さてさて。美味そうな串焼きとか食えないから、食べ物系はさっさと通り過ぎるに限る」


「だね。っていうか、騎士団に所属してた時は食べてたんだけどね」

「シェフに頼んで焼いてもらうかー。久しぶりにこういうのがめっちゃ食いたい。ビールと一緒に食いたい」

「ビール? なにそれ」

「んー。麦酒?」

「あー、まずいのは酸っぱかったりする奴ね。水が腐るから、魔法使いがいない部隊とかは、そういうのを持ち歩いてるわよ」

「へー。陸なのに船乗りみたいだな」

 そんな事を話しながら歩き、なんかめぼしい物はないのかと、辺りをキョロキョロとしながら歩くが、端から見ればおのぼりさんっぽい。


「そこの兄さん。フローライトは初めてかい? 安くしとくよ」

「あぁ、買い物(・・・)は初めてだな。名産品はなんだい?」

「でけぇ王都だからな。各地の名産品の持ち寄りで、コレってのはねぇな。四代五代と続く老舗はあるが、こういう露店じゃそれを模倣した物とかしかねぇぜ?」

 そういうもんなのかな? 何でも買えるけど、地元名産品が埋もれかかってる。


「この金や銀の細工の小物は?」

 色々な種類が売っているが、一番に目が向いたのは小物類だ。けど王族のロディアに贈って良いものかどうか迷っている。

「無名の奴から買い取る。そして売る。露店じゃそんなもんさ」

「そうか……。で。その瓶に入っている黒いのを見せてくれ」

 ノリの佃煮っぽい見た目の奴だ。


「これかい? まったく売れねぇ燃える水だよ。燃えるまでに結構火にさらす必要があるから、布に染み込ませて、松明くらいにしか使えないよ」

「ほう……。燃える水ねぇ……」

 俺は店主から品物を受け取り、軽く振ってみるが粘度が結構ある。コルクを外すと僅かにアスファルト施工中の作業現場臭がする。

「……これは。どこで手に入る? もしかしたら大量に欲しくなるかもしれないから、場所を教えて欲しい」

 俺は書いてあった値段の、十倍の貨幣を手の平に乗せて見せた。大銅貨五枚だけど。情報料込みかつ、コレを買うつもりだからだ。

 原油だか重油っぽい物をリッター換算で千円は高いけど、多分。


「王都から海の方の道を進んで町、村、町って順番であるから、村から右手側の道に入って歩きで三日進んだ、死の沼って場所だ。凄くでけぇ魔物の骨とかあるし、入ったら出れねぇから、そう言われてるよ」

「あぁ、ありがとう」

 俺はお礼を言い、手に持っていた大銅貨を店主に渡した。


「ロディア。海の方角はどっち?」

 俺は露店から離れ、少ししてから聞いてみた。

「ん? あっちだよー」

 そう言って西の方角を指したので、その村から大体北側の方角になるか。重油が湧く場所も、海から少し離れた場所にあるし、一応合ってはいるか……。

「ねぇねぇ。ソレ騎士団でも運ぶ手間とかあるから、会議で切り捨てた奴だよ? 何に使うの?」

「ん? とりあえず道路かな。後は色々。そう言えば名前だけ聞いた事はあるんだけれど、錬金術師ってーのは、この王都にいるかな?」


「いるんじゃない? いつも何か煮込んだりしてて、夢見てるだけの変わり者しかならない職業かな。金食い虫で金とか銀ばっかり溶かしてるよ」

「ふーん。いるならいいや」

 俺は瓶の中で黒い液体を回し、側面に付いた液体の色を見ると焦げ茶色っぽい。錬金術師が、水から(きゅうりょう)を作り出す事になるとは、思いも寄らないだろうな。

「お持ちしますか?」

「重くないし、こんな物で片手がふさがると護衛としてまずいだろ? 気にしないでくれ」

 そして護衛に話しかけられたが、断っておいた。

 今すぐにでも帰りたいが、一応ロディアとのデートっぽい事を楽しんだ。



「でー。それなんなの?」

「そのままだよ、燃える水。放っておいてもなくならないから、ちょっと不純物が多過ぎるね」

 俺は石油プラントの簡単な図を描き、ロディアに見せる。

 因みに似合いそうな貴金属の小物類とかを、別の店で見ようか? と言ったら、いらないと言われ、店から離れたら専属の職人がいるから、変な所で買うなと言われてる事を言われた。なのでプレゼント的なものより、一緒にいる時間を多く作り、ベタベタさせる方が良いと俺は判断した。


「俺はここの一番下のが欲しいの。この上の方に行くと、保存する物とか技術がないから諦めてる」

 ガスとかガソリンだし。特殊な容器がないと気化してなくなる。

「この上の方のはなんなの?」

「燃える空気、もの凄い勢いで燃える水、簡単に火の付く水かな。兵器利用もできるけど、それ用の詳細を書いた説明書はいる?」

 一応ガスとかガソリンの説明を軽くする。そして兵器利用もできると。


「……一応お願い」

「はいよ。因みに簡単だ――。キッチンに行って、もう使えない欠けたカップとかをもらって来て。見習い用のでもなんでもいいんで、底に穴が開いてなければどんなのでも」

 俺は呼び鈴を鳴らし、アニタさんが入ってきたのでとりあえず用件を言い、ランプを用意しておく。



「こちらでよろしいでしょうか?」

「んー。もう少しボロい奴がよかったけど、仕方ないか。ありがとうございます」

 俺は、飲み口が少しだけ欠けたカップを受け取り、原油だか重油かわからない、黒い液体をカップに数滴垂らし、ランプの上に置いてソーサーで蓋をして、蝋燭(ろうそく)に火を付けてから、蓋をずらして火を近づけると、一瞬だけ火が上がった。


「コレが燃える空気。特殊な容器がないと保存できない。炭坑とか鉱山で、何もないところで死ぬのは、吸えない空気だったり、燃える空気だったりする。そして多分もうないけど、もの凄く燃える水は、氷の張る真冬でも放っておくと、燃える空気になってなくなる」

 軽く説明すると、ロディアとアニタさんは眉間にしわを寄せており、なんとか理解しようとしているのがわかる。


「こんな瓶とコルクじゃ、気が付いたらなくなってるし、ランプの熱で炙ったら余計だね。簡単に火の付く水も多分なくなる。けどこれは真夏じゃない限りは平気。ロディア達に使わせるのはこっちを予定。で、俺が欲しいのはココ。道路の舗装や木材の防腐剤、接着剤に使える」


 俺はガソリンや灯油の場所を指しながら説明し、最後にカップの底に残った黒く粘つく液体を見せる。不純物の多い、余計な水分が減った重油だ。

 こんな世界じゃ、ガソリンやガスは逆に扱い辛いに決まってる。


「燃える水の中には色々な物が入ってるから、実は燃え難いんだ。だから最初に説明したのは暖めるとなくなる物で、実際に燃えてる物はソレって事。もちろんちゃんとした設備なら、燃える空気も燃えやすい水も集められる。でもまぁ多分、この世界じゃ魔法の方が安いし早い。蒸留酒みたいに精製する事で、燃えやすい水くらいは集められるだろうけどね」

 そう説明したら、ロディアが少しだけ険しい顔をしている。まぁ、ある程度教養があるなら、やばいって事はわかると思う。


「ねぇ。どんな感じで燃えるの?」

「火をつけて振り撒くと火が付いたまま飛んで、壁や人に張り付いたらそのまま燃える。焚き火に藁を掴んで投げ入れるより早く燃える。転がっても消えないから、冷静になって水に入るか、毛布でくるんで消すしかない。騎士団が使うのを諦めたのは、この焦げ茶色の状態だからでしょ? この液体をより分ければ、蝋燭一本だって取り扱い注意だ。最初に見せた燃える空気は、タバコの火だけでも危険だ。よく考えて報告した方がいいよ。なんで俺が数滴しか使わなかったのかもね」


 そう言ったら、ロディアが口元を押さえて右の方を見ている。もう少し怖がらせておくか。歴史書に、ガソリンや灯油を使った兵器の生みの親とか載るかもしれないし、まだこの世界じゃオーバーテクノロジーだ。


「ちなみに、もの凄く燃える水がこの瓶一つあったとして、放っておいて全部燃える空気になったとしたら、冬に誰かに触ったときにパチってなる奴で、部屋の全てが炎に包まれる。タバコを吸ってる奴がドアを開けてもだ。窓さえ開けてれば多分平気だけど、まぁこの世界にはまだ早いだろうから、魔法で十分。魔法とかあまり見た事ないけど」

「使い方次第で、味方にも損害がでる事も言っておくわ。一応書類の作成だけお願い」

「……はいはい」

 諦めてはくれなかったか……。歴史書に名前が載っちゃうのも覚悟だな。



「アニタさん。人探しが上手い人に、錬金術師探しをお願いしていいですか?」

 俺はロディアに渡す書類を作り、棚にある書物から錬金術師の事を調べ、夕食の為に呼びに来たアニタさんに、人探しをお願いする。

 なんか地球で読んだ書籍の内容そっくりだったわ。魔法が絡むか絡まないかの違いだけで。


「何名ほど必用でしょうか?」

「面接をしたいので、五名以上。城で面接する訳にもいかないから、どこか手頃な工房の確保も。期限は、この燃える水が湧いている場所の視察をしたいので、二十日以内で。帰って来てから呼んでもらいます」

「かしこまりました。その様に手配しておきます」

 そして廊下の途中でロディアと会ったので、一緒に部屋に入り、長いテーブルで向き合うように座る。


「アレを読んだけど、もう少し取り扱いが安全な物じゃないと、運用は厳しいかも」

「そうだろうね。瓶が割れてこぼれ、火が付いたら他の物まで燃える。全部なくなるまで消えないし、最悪水をかけても消えない」

 香料とかで臭いを付けてるとかは知ってるけど、香料が専門外だから一切わからない。腐ったタマネギでもみじん切りにして、一緒に入れておくか? 水分は沈むし。


「その理由も読んだわ。水に浮いて、浮いてる部分が燃えるのよね? 取り扱いの安全性が確保できるまで、所持はまずいわね」

「そうだね。とりあえずご飯食べようか」

 食事中に兵器運用の話なんかしたくはない。まぁ、容器を鉄にすればいいんだけどね。携行缶とかドラム缶みたいに。報告書に書いてないけど、多分ロディア以外の兵器開発の連中が、そういう判断をすると思うけど。



「ニ、ワ、ト、コ」

 食事が終わり、入浴をお互いに済ませると、ロディアがイチャ付く為にパジャマ姿で体を密着させてきた。何かプレゼントとかするより、コレをさせた方が機嫌がいいし。

「明日か、明後日には視察しに行くんでしょ? その時はベタベタできないし、ちょーっと多めに甘えさせてー」


 そう言って膝の上に座り、背中を預けてきたので優しく頭を撫でる。サラサラとした長い髪は触っていて飽きないし、香油を作った時に出る、香りの付いた水でも使っているのか、今日はラベンダーの良い香りだ。落ち着くなーこれ。

「ねー。もし兵器に使いたいから、知恵を貸してって言われたらどうする?」


「国の意見として受け取り、情報を開示するしかないな。他にも兵器になるものなんかありふれてるし、仕方ないと思うよ。馬だって、鞍を掛ければ人間のお供。農耕用の器具をつければ農具。チャリオッツを付ければ兵器。物は使い方次第だ。燃える水もランプ油になる。簡単に火が付くから火口にもなる。けど量が多過ぎれば、燃え尽きるまで消せないじゃじゃ馬にもなる」

 俺はロディアの腰に手を当て、太股の方に軽く引っ張ると、それに合わせて腰を浮かせて、更に体を密着させてくる。


「まぁ、魔法が使えない人が、ソレの代用って事とかじゃない?」

 俺は腰に手を回してロディアに抱きつき、指先で後ろ髪の毛先をクルクルとやって遊ばせる。本当サラサラだなー。この時代にこの長さで、このツヤとかどうやって維持してるんだろう。リンスとかコンディショナーとかあるのかな? 浴室にはないから、メイドとかが毎回持ち込んでる可能性もある。


「それか、もう少し安全な方法での運用を考えろ。ってところだろうなー」

「あの連中なら言いそう。ねーねー。だめ?」

 そう言いながらロディアは、腰に回していた俺の手を掴み、ほぼ平らな胸の方に持ってきた。


「だーめ。二日前にしたでしょ」

「この流れなら、雰囲気と勢いでできそうだと思うんだけどなー」

「ティカさんから聞いたよ。そろそろ当たりやすいんでしょ? お腹に赤ちゃんがいる状態で式をあげるの? できちゃったから結婚しますって感じでなんかヤダ。だからイチャイチャで我慢して」

「んー。まぁーしかたないかー」

 ロディアはそう言いながら俺の手を放し、大人しく頭を撫でられるだけになった。

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