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第6話 比較的簡単な緑化もあるらしい 後編

「この辺を貸してちょうだい」

「はっ! わかりました!」

 防壁の外に出るのに馬車を使い、鎧がちょっと違う人達の所に行ってロディアが声をかけ、訳を軽く話したら、一番偉い人が出てきて即決まった。

「どの程度でしょうか!」

「んー。四角で百歩」

「いやいやいや。実験だから十歩でも十分だから。城の離れの倉庫部屋くらいでも十分だから!」

 俺が急いで止めに入り、本当に城壁側の一角を借りるだけにした。大きくても臭いとか多く出ちゃうし。

 で、結局十五歩分の場所を借りる事になった。だいたい四車線道路を横断するくらいだ。


「釘って平気なのかしら?」

「一応取った方が良いけど、長年放置すればサビサビになって朽ち果てるしなー。けど畑にするなら、人の事を考えて取り除いた方が良いよね」

「松材ってどうなの? 腐らないって聞くけど」

「知り合いから聞いたけど本当。四十年……四十回季節が巡った、切っただけの松が土の中から見つかったけど、油のせいでそのまま残ってた。あの細い青々とした葉っぱも。多分剣とかより朽ちるのが遅いと思う。けど俺達が死ぬ頃には朽ち始めるんじゃない? けど地上だと太陽の光と、雨風で油も抜けるのが早いと思うなー」

 まぁそのプロジェクトでは、プラスチックやビニールゴミも捨ててたけどね。



「じゃ、この辺に適当に生ゴミを蒔いて。壊したイスを紐の近くに置いて、ゴミが風で飛ばない様にお願い。とりあえず足首くらいの厚みで全部埋まったら止めるように。ゴミ捨て場でこういう木材ゴミを見つけたら運んで」

「了解しました!」

 トレニア姉さんは兵士に軽く指示を出し、ゴミとかが捨てられている様子を真剣に見ていた。本当に王族かな? けどご近所の貴族(アルテミシア)もゴミ漁りしてるし、思いの外こういうのとか平気な王族なのかも。

 因みに生ゴミは兵士の訓練施設の食堂から。イスはここに来る途中のゴミ置き場にあった物を運ばせ、紐の中にとりあえず入れ、防壁にあったどこからか飛んできた枯れ葉や、その辺の草もぶち込んだ。


「腐ってきて土になれば、多分鳥の糞や生ゴミに入ってた種が発芽するし、そのうち虫も住み着くと思う。時間はかかるけど」

「お金を無駄に使うよりいいわ。それに近場で実験できるなら、他の事もできる。ゴミが腐って土になったら、硬い土の上に蒔いていた色々な種を試してみます」

「そうだね。さっきカボチャの種とかも見えたから、植物の種の強い弱いも調べた方が良いかも。動物の糞に混ざってた種がその辺で増えるし。豆類も確か強いよね。ヒマワリや豆なんかを蒔いて、そのまま緑肥にしても良いのかな?」

「リョクヒ? とは?」

「そのまま緑の肥料っていう意味。青々と成長したら収穫しないで、そのまま刈って放置する方法。腐ったら土になって、植物が育つ地力を回復させる。麦みたいに、細く細かい根が張る物は、雨風で土の流出も防げるけど、多分ある程度成長したら、収穫して食べたくなるから、まずは花とか草が良いんじゃない? 因みにそのまま放置すれば、土表面の乾燥を防ぎ、小さな虫が死に難くなる。水分があると腐りやすいし、収穫前が良いらしいよ」

 俺が説明をすると、トレニア姉さんはメモを取り始め、何かを考える様に指を口元に持って行っている。


「クローバーとか良いらしいって聞いたな。家畜の餌にもなるし、根っこの粒が土壌改良とかになるって話だけど……」

 そう言うと、トレニア姉さんは俺の手を取り上下に振り始め、パイスラッシュされていた肩掛け鞄の中から、名前の書いてある小瓶を取り出した。

「家畜の餌の実験の為に採取しておいたのです。今蒔けば芽が出ますかね?」

「んー。腐敗ガスとかが出るから枯れるよ? 土になる直前ならいいけど、今は流石にまずいかな……」

「ロディー。この種の採取を、ギルドの依頼に追加するように手続きをお願い」

「はーい」

 そう言ってトレニアさんは、ロディアに小瓶を渡していた。帰ったら仕事とか聞いてみよう……。



「なぁロディア」

「なに? 何かわからない事があるの?」

 執務室に戻りながら、すれ違ったメイドさんにお茶を頼み、ソファーに座ってから疑問に思っていた事を聞いてみようと思った。

兄姉(きょうだい)はなんか仕事っぽいことしてるけど、ロディアはなんの仕事をしてるの? さっきトレニア姉さんが言ってたじゃん。ちょっと気になってね」

「んー? 国で決めた事で、冒険者とか旅行者に委託できる様な物を、ギルドのお偉いさんに報告しに行って、国内にある大小含めた依頼掲示板に仕事を載せてもらうとか。実際に見回りとかしてる兵士の報告書を読んで、治安維持とか犯罪率の低下案を具体的に指示したり、犯罪が多い場所の見回り強化と実際に隠れ家潰しかなー。アルも一緒に活動してたよ。除籍させられたから、最初のだけになっちゃったけど」

 これまた……。国防とまではかないけど、本人が言った通り治安維持と回復系か。それなりに発言力があって王族だし、強いから適任か……。アルテミシアさんも家訓で色々やってるし、スラムや下級層の目で意見が言える。良いコンビだな。


「国の利益になるような物とか、国の危機とかは会議だけど、お姉ちゃんのは私個人の判断で問題はないかなーって感じ。駆け出し冒険者の小銭稼ぎ? 魔物の討伐の帰りにも探せるし。けど王都じゃなくて寒村単位かな。もしくは村長に依頼して買い取りとか。そうすれば子供の小遣い稼ぎにもなるわねー」

 んー。ちょっとおバカかと思ったけど、正直第一印象のイメージと、俺にベタベタするのが多過ぎて、これは想像できなかったわ。

「けど、畑の地力が回復できるなら、まずお姉ちゃんが所属してる機関が実験して、結果が出たらお触れが各所に出回ると思う。それも私の仕事」

「お、おう」

 思っていた以上におバカキャラじゃないな。一応国の為の教育がされてて、それぞれ役割も分担されてる。俺が婿に呼ばれたのも納得だ。これで俺が馬鹿だったら戦死扱いで諦めさせられてたんだろうな。


「ギルド指定の小瓶……。今ニワトコが持っている奴一杯で、銀貨一枚かしら?」

「いいんじゃないか? 向こうでも花の種ってちょっと高かったし。あと時期的な物もあるだろ? あんまり花は詳しくないから教えられないぞ?」

「その辺はお姉ちゃんと話し合って決めるよ。ってか花は詳しくないのに、さっきの緑を戻す方法は知ってるんだ」

「まぁ、俺のいた世界でも戦争とかまだあったし、木を切りまくって砂漠になっちゃったりしてたから。だからそう言う事を考える人も大勢いて、低予算で緑が戻るならって感じで記事を読んでた」

 貧困が酷過ぎて、実験用の放牧した家畜が盗まれるから、厳重に柵もしてたけどね。

「ふーん。ニワトコの世界の学者って凄いんだね」

「あぁ。奇人変人って感じのから、馬鹿にされながらも真面目に研究して、努力が実って世界から表彰されてた人もいる。本当に頭が下がる」

 そしてお茶が運ばれてきたので、二人でのんびりとお茶を飲み、トレニアさんの仕事内容を詳しく聞く事にした。


「んー。まぁ学者みたいなものかなー。実験の繰り返しで、成功したらそのまま記録を残して、失敗したら何がダメだったかとか。そして会議をして、予算が下りたら実行。元国境付近に実際に村を作ろうってなったんだけど、土が見せてもらった感じでしょ? 結構困ってたみたい。だからニワトコの知識って感じかな?」

 お茶の入ったカップを持ち、上の方を見ながら説明し、ゆっくりとお茶を飲んでほっこりとしている。

「あの話の実験が成功したら予定してた予算がかなり減らせるし、最悪近隣の村からゴミを運ばせて、しばらく放置でもいいんだし。手を入れない限り無理って思ってたのが、放っておいても大丈夫ってわかったのが大きいわね。人件費が一番かかるしねー」

 そして小さくなった焼き菓子を口に放り込み、もの凄い笑顔でモグモグと少し多めに噛んでいる。


「直ぐに結果が出ないのはもどかしいけどな。で、ロディアの仕事も見たいし、午後になってギルドが空いてる時に、ちょっと一緒に連れて行ってくれないか?」

「残念。今日ギルドの会長さんは、他の町の会長達と会議が入ってるの。それに三日後の騎士団の偉い人達の会議で決まった案件も、一緒に提出したいからこれだけじゃ行けないなー」

 ロディアはニヤニヤとしながら、カップを雑に持ち一気にお茶を飲み干した。一応お偉いさんの予定は把握してるんだな。

 あとこんな高そうなカップなのに、あんな飲み方をしてもったいない。ティカさんが見たら怒りそう……。

「なら仕方ない。武器庫に行って、ブーツナイフ代わりになる、足に巻き付けても違和感のない、そんなナイフを選んでくれないか? この靴だと仕込めないんだ」

 俺は左腕をめくり、一応スーツ姿でも武装している事を見せる。

「緊急時に裾を持ち上げて取れるようにね」

 東郷さんみたいに……。あの人もスーツの時は足にナイフ仕込んでるし、多分予備にはなるな。


「良いわよ。けど書類書くのが面倒だから、ソレはニワトコね」

「書き慣れてそうなのに……。あと、無断持ち出しはやっぱり駄目か」

「当たり前じゃない。一応そういう管理はしっかりしてるのよ? 内緒で持ち込まれた武器は知らないけどね」

 そう言いながらロディアは、最後の焼き菓子を口に放り込み、ニコニコとしながら俺の筆箱を見た。

「名目上は紙を切る為の折り畳み式小型ナイフと、穴を開ける千枚通しみたいな、握って先端だけ出るような、刺突兼投擲武器っぽい物とか」

「ロディアにはそう見える?」

 俺もニコニコとしながら、ロディアに聞き返す。

「もちろん。ニワトコだから名目上のまま使うとは思ってないわよ」

「だよね。で、取り上げるの?」

「まさか。私だって持ってるもの」

 そう言って、ニヤニヤしながらアップにしている髪を止めている、ヘアクリップの飾りの一本を横に引き抜くと、俺と同じ様な刺突武器っぽい物が出てきた。……ってか使用方法が(かんざし)みたいだな。

「素晴らしい。捕虜にした時に、もうちょっと身体検査しとけば良かったわ」

「学べたなら良いんじゃない? それに使う機会もなかったし、これからもない事を祈りたいわね」

「だな。俺もなるべく左手のダガーは使いたくないなー」

 二人でニヤニヤしながら、お互いに暗器を黙認する事にした。

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