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第5話 王族なのに緩いわー 後編

「ニワトコ。あまり民に謝るのもどうかと思うわよ? 馬鹿にされるわ」

「そうです。王族貴族は威厳がないと成り立ちません。馬鹿にされればお終いです。自分は良いかと思いますが、ロディーのお兄さまやお姉さまにも被害が出る事も……」

 盗賊の処刑が終わり、部屋に戻ると先ほどの事を注意された。

「んー。私を馬鹿にするのはかまわない。だが親兄姉を馬鹿にするのは――。ってな感じで、きつめに言いつつ、最悪は処罰?」

 俺がそう言うと、四人がため息をついた。酷いな。急に性格は変えられないって。

「まぁ、今回は予定を切り上げて帰ろう、次は最低限の人数を用意しての視察だ。はいはい、撤収準備! 昼食を食べたら出るよ」

 俺は手を叩き各自帰る準備をさせるが、この宿に何日泊まるか聞いてなかったし、キャンセルとかもあったかもしれない事を考えたら、少しだけへこんだ。

 だって、迷惑かけるじゃん? 食材とか用意してたかもしれないし。まぁ、代金は払ってるかもしれないけどさ?



 数日後。王都に戻り書き溜めた書類を清書し、卓上ベルを鳴らしたらトニーさんが来た。

「あれ? シルベスターさんじゃないの? 配置換え?」

「先日申し上げましたが、自分がニワトコ様専属となっておりますので……」

「出先だけじゃなかったのか。まぁ、あの人って新人の教育とかで忙しそうだしなぁ……」

「どの様なご用件だったんでしょうか?」

 トニーさんに言われ、呼んだ本来の意味を思い出す。

「あー、そうだそうだ。ヘリコニアさんと話がしたいので、都合が付く時間を聞いてきてもらえません?」

「わかりました。直ぐにお聞きして参ります」

 そう言ってトニーさんは、音もなくドアを閉めて出て行った。

「別にゆっくりでも良かったんだけどなぁ……」

 そう呟き、ティーコージーをティーポットから外して注ぎ、暖かいお茶を飲んだ。



「今直ぐでも大丈夫だそうです」

 書類に間違いがないかを確認していたら、トニーさんが戻ってきた。トレーに書類を乗せ、前回持っていなかった筆記用具やらの入れ物もできあがっていたのでソレも持つ。

 二つ折りの財布みたいになっていて、ペンが二本刺さり、小さい円柱の小瓶にインクが入っている。俺がデザインしたものだ。豪華さもなければ無駄な装飾もないシンプルな物だ。そしてお札みたいに紙も入る。

 綴りになってるメモ帳もなければ、ボールペンももちろんないからな。しかも一応王族だから、木炭を使う訳にもいかないらしい。最低限の見栄えもあるっぽいし。

 そして部屋を出ようと思い、立ち上がったらトレーをトニーさんに持たれた。普段当たり前だった事が他人にされる。大企業の社長的でなんか変な気分だ。


 そして場所は知っているがトニーさんに案内され、この間話し合った部屋に着くとノックをしてくれ、返事があったのでドアまで開けてくれた。

 なんか微妙にストレスが溜まるなコレ。

「さて、ある程度の事はロディーから聞いているが、話を聞こうか」

「こういうのは初めてですので、どう報告したらいいのかわかりません。とりあえず資料と報告書を用意しましたので、まず目を通して頂ければ」

 そう言うと、トニーさんがヘリコニアさんの前にトレーを置いた。

「まぁ、かけてくれ」

 立っていたらそう言われたので、とりあえずソファーに座り、筆記用具を出して相手の出方を見るが、ヘリコニアさんの目が筆記用具入れに行っている。なんか評価が気になるが、何も言ってこないので堪える事にする。


「ニワトコ君。視察は街道整備と、盗賊対策のはずだったんだが……。なぜ関所や、伝令用の軍馬を取り替える為の施設を牧場に偽装する案もあるんだ?」

 ヘリコニアさんは頭を押さえ、眉間にしわを寄せてこっちを見ている。何かまずい事でもした? 軍事に口を出したからか?

 とりあえず内容を説明したり、補足を入れたりして、聞かれた事に答える。

「盗み自体をさせる気を起こさせない事が防犯ねぇ。確かにここに関所を置くと遠回りになって、盗んでも利益が出ないな。兵士の拠点を牧場に偽装して国民に威圧感を与えないのと、敵国のスパイ対策もかねているのか……」

 ヘリコニアさんは手で口元を押さえ、俺の書いた書類を目で追っていた。


「それと街道沿いに、見張りの範囲を延ばす兵士の休憩小屋。結構興味深いな。派出所というのか……。井戸も掘って牧場の利用者も増え、休憩所を安全にして、犯罪率の低下を促す……。ふむふむ」

 ヘリコニアさんは興味深そうに、長々と書類を読んでいる。きっちり目を通してくれるのはありがたい。

「ふんふん。一日交代で牧場を移動しつつ、街道の見張りをして、一定のサイクルで町に戻ると。大抵はヘマをした奴が行くから、どうしても杜撰(ずさん)になる。視察した町近辺を試験的に運用っと……。ほー、戦争時の臨時物資集積所と……ヤセンビョウイン? このビョウインっていうのはなんだい?」

 ヘリコニアさんは、聞き慣れない単語があったのか、質問をしてきた。


「あー、なんて言うんでしょう。怪我をしたり病気になったら行く所を、こっちに来る前の世界では病院といい、戦時中は野山に臨時に作った建物で治療をします。なので野戦病院です」

「ほう。こちらではそういうのは教会だ。従軍牧師といったところか。やはり迷い人の情報や思想は興味深い」

 何かしたら僻地に飛ばすって発想になるのか。まぁ俺も飛ばされたしな、確かに士気に関わるわ。俺もしばらくやる気なくしたし。臭い物には蓋をしろじゃないけどさ。


「多少のトラブルで引き返してきたが、数日の視察でココまでの案を出して、細かい指摘まで出せるなら上々だ。このまま父さんに見せられるし、頭の固い連中も納得させられるだろう。ご苦労だった。褒美として何か望む物はあるか? 一応無理のない程度の事なら聞いてやれと言われている」

 ヘリコニアさんはニヤニヤしながら、懐から琥珀色の液体の入った瓶を出し、お茶の入っていたカップに注ぎ口を付けた。


「んー……。あぁ! こっちに迷い込んだ時に着ていた服なんですが、ミニウムの城にあると思うんです。現物を取り返して欲しいとは言いませんが、型紙を取ってきてもらい、仕立てて欲しいんですが」

 俺は今着ている、少しゴテゴテした服の袖を摘み、軽く両手を広げて見せて、少しだけ不満があることをアピールする。こんな装飾過多なのは肩がこる。

 ってか、このボタンがあるべき場所にへんな横線が入ってたり、縁が色違いとか、襟とか袖にゴワゴワした刺繍のある服なんか着てられるか。


「ほう。それだけかい?」

 ヘリコニアさんがニヤニヤしていたので、何か思いつく事、忘れている事を必死に頭を動かして考える。

「城内や、公の場で着ても良い事にして下さい」

 服を持ってても着れないんじゃ意味がない。

「何だ。本当にそれだけか。わかりやすい金品とか地位じゃないんだな」

「むしろ今の地位を剥奪(はくだつ)して欲しいくらいですよ。いきなり王族なんて重過ぎます」

「無理だ。敗戦国にいて、ロディーに惚れられた時点で諦めろ」

 エアろくろ状態で必死に言ってみるが、二言で終わった。


「あぁ、そうだ。前々から思っていたが、君は自分の義弟になるんだから、ヘリコニアなんて堅苦しい呼び方は止めてくれると嬉しい。妹ばかりで男の兄弟が欲しかったんだ。そうだ。妹達みたいにお兄ちゃん(・・・・・)と呼んでくれたら、公の場で着用を認めよう」

 何を言っているんだ? ってか悪ガキみたいな顔になってるし……。王族がこんなんで平気かよ。まぁ、仲が良過ぎるとは思ってたけどさ、婿に入る俺もっすか?

「義兄さん」

「堅いなー。もう一声」

 そしてまたカップに注ぎ入れられる琥珀色の液体。絶対に酒だろそれ。

「お義兄さん」

「ちゃん。おにいちゃん(・・・・・・)。はい」

「お、オニイチャン」

 なんか年下年上関係なしに恥ずかしい。屈辱とかそういうのはないし、純粋に恥ずかしい。美形過ぎるのに、なんかお茶目過ぎなんだよ。

 ってか家族内で緩過ぎだよ。王族ってなんだっけ? 堅過ぎるよりはいいけどさ。ってか、ロディアもトレニアさんもお兄ちゃんって言ってたな。


「まぁ、及第点かな。多分母さんも似たような事を言ってくると思うから、まずは自分の事を、お兄ちゃんと呼べる練習をしておいた方がいい」

「はぁ。そうっすか……」

「そう、それだ。家族になるんだから、ソレくらいの気安さでいい。実際ニワトコ君の方が年上なんだから、自分もお兄ちゃんって呼び合う仲で良いと思うんだ。ねぇ? お兄ちゃん」

 ヘリコニアさんは目を細め、ニコニコとしている。本気っぽいなぁ。

「違和感なく言うのを止めてもらえませんか? 冗談ですよね?」

「どこまでが冗談だったらよかった?」

「この世界に迷い込んだ頃からですね」

「面白い冗談だ。ではお兄ちゃんの報酬は、着ていた服の型紙と、仕立てで進めておこう」

「あ、俺の事はお兄ちゃん呼び決定ですか……」

 俺はため息を吐きながら頭を押さえた。



「で、お兄ちゃんって呼ばれちゃったんだ。多分仲良くしておこうって意味だと思うわよ? 良かったじゃん。あれでもよそでは掴み所がないから、取り入ろうとしてもかわされるだけで終わってるのよ?」

 夕食前、執務室でロディアに相談したらそんな事を言われ、なんだかんだで気に入られているのか、義理の兄弟になるから歩み寄ってきてくれているんだという結論にした。

「そうかー。ってかロディアの家族って緩いよね。俺の知ってる王族貴族って、家族内でも地位とか気にして堅そうだったし。それに第二、第三婦人とかが、自分の子供を王にしたいって欲から毒殺や暗殺が当たり前だったし」

 だから婿を取ったり、仲良くしようって魂胆なのかもしれない。いくら俺に王になる願望がないとは言ってても、可能性は潰しておきたいんだろうなぁ。

「へー。いつもこんな感じだからわかんないや。そういえばお姉ちゃんもニワトコの事を、お兄ちゃんって呼びたがってたよ?」

「なら、義理の姉になるから、俺もお姉ちゃん呼びになるんだろうか? 本当緩いなーこの王族」

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