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二話

 並んで置かれたベッドの上には、それぞれ母と父が仰向けに横たわっていた。自分のしてしまったことにおののきながらも、両親を放っておくことはできず、テクラは二人を寝室まで運んで来たのだ。その際、抱えた両親の体は、驚くほど軽かった。血のなくなった体とはいえ、その重さはまるで幼児と変わらず、異様な軽さにテクラは面食らった。血を失っただけで、体重はここまで軽くなるものだろうかという疑問はあったが、いずれにしても、こうなったのは自分の手によるもので、取り返しのつかない罪を犯したテクラに、小さな疑問を受け付ける余裕などなかった。

 もう二度と動くことのない両親は、どこか苦しげな表情のまま眠っている。その首には死に至らしめた小さな傷が揃って見える。傍らに立ち尽くし、呆然と眺めていたテクラだったが、さすがにいたたまれなくなり、逃げるように寝室を後にした。

 居間の机に両手を付き、がくっとうなだれる。そこには手付かずの朝食が残されたままだった。なぜこれがおいしそうと思えなかったのか。自分は一体いつからおかしくなったのか――そう考えて、テクラの脳裏には昨晩の兄の姿が浮かんだ。記憶にはなかったが、おそらく兄はテクラの血を吸ったのだ。傷痕という証拠もある。つまり、この異変の始まりは兄テオドールと言えた。兄の身に何が起こったのか、話を聞かなければいけないが、その行方はわからない。村にいるのか、それともどこか別の――

「……!」

 鼓動が一際大きく打たれたような感じがして、テクラは自分の胸を押さえた。そして、体の奥底からじわじわと迫ってくる何かに気付く。未知の感覚ではなかった。それはつい先ほど体験した、あらがえないほどの強い衝動、理性をあっさりと奪っていく別の人格、渇きを覚えさせる貪欲な獣……両親をためらいなく殺した、あの感覚だった。

 這い上がってくるものに支配されてしまう――焦りながらもテクラは居間を歩き回りながら、内側にうごめく罪深い感覚が治まるのを待った。だが体は少しずつ血が欲しいと主張し始めていた。

「血なんかいらない……血なんかいらない……」

 呪文のように唱え続けること五分。膨れ上がっていた衝動は波が引くように、すっと奥へ下がっていった。それを感じて、テクラは胸を撫で下ろした。どうにか理性を失わずに済んだが、次も同じようにできるかはわからない。自分の中に潜む人殺しを、このまま抑え続ける自信など、テクラにはなかった。この異変は一人ではとても手に負えないし、兄を捜すどころでもない。

「……領主様のところへ、行かないと」

 この問題を解決できるのは、やはり領主様以外にはいないと、テクラは乱れた髪や服も気にせず、家を飛び出した。

 早朝の爽やかな景色や空気を感じる余裕もなく、この村から東へ行った先にある領主の館を目指して歩く。途中、民家の並ぶ小道で人が集まり、何やら騒がしくしている光景があったが、テクラは足を止めることなくひた歩いた。あの恐ろしい衝動がいつ襲ってくるかわからない今、寄り道などしている暇はなかった。また誰かを殺してしまう前に、一分でも早く領主に会わなければならなかった。

 テクラがなぜ、領主ならこの問題を解決できると思っているのか。それは単に肩書きや頼れる人物だからということではなかった。領主は人間のように振る舞ってはいたが、人間ではなく、ずばり吸血鬼だからだ。では、どうして人間でない吸血鬼が領主など任されているのか。それ知るには数百年もの時をさかのぼらなければならない。

 この国が戦乱に明けくれていた時代、テクラの住むテルノーナ村はまだ存在していなかった。当時は雑草だらけの未開拓地で誰一人として住む者はおらず、見かけるのは野生動物と吸血鬼だけだった。

 その吸血鬼は戦で忙しい人間の目を盗み、いつの間にかその土地に居着いていた。当時から吸血鬼は恐ろしい怪物とされる存在で、見つければ退治されるのが常だったが、存在を把握していても怖さが先に立ち、誰も退治に乗り出すことはなかった。出没場所も荒野ということで、人間に直接害がなかったのも理由の一つだ。

 そんなある時、吸血鬼の住むその土地に、戦火から逃れてきた避難民が大勢やってきた。近くの村や町にもすでに避難民は来ていたが、人数が多すぎて入れなかった者達が、休める場所を求めてここにたどり着いたのだった。離れた地からやってきた彼らは吸血鬼の存在など当然知らなかった。知らずに避難所を作ってしまったのだ。だが吸血鬼は彼らを襲うことはなく、それどころか守る行動を見せたのだった。

 戦乱は激化し、敵兵はとうとう避難所にまで到達した。武器を持たない一般市民とわかっても、敵兵は槍や剣で襲いかかってきた。戦の狂気は彼らを死に追いやろうとしていた。するとそこに立ちはだかったのが吸血鬼だった。殺気立つ敵兵に一人突っ込むと、吸血鬼は圧倒的な力ですべての敵兵を葬ってしまったのだ。自分達を救ってくれたことに避難民がどれほど感謝したのかは想像に難くない。

 その後、戦乱が終息に向かうと、この話は人伝に広がり、最終的には当時の国王の元まで届いた。吸血鬼が人間を助けるという信じられないような話に国王はいたく感動し、自らの足で直接吸血鬼に会いに行くと、周りの意見も聞かず、彼に位を与え、未開拓の土地一帯の領主に任命したのだった。

 それから現在までの数百年間、領主である吸血鬼は自身と同じ名が付いたブランディス領を平穏に治めている。外の人間からすると、その領内に住む者は領主の家畜だなど、時が経った今も吸血鬼への恐怖は強い偏見を生んでいるが、それがかえって抑止力となり、ブランディス領は他のどこよりも治安がよかった。しかしその一方で人がなかなか入って来ず、『吸血鬼の谷』と忌避して立ち寄ろうとする者も少ないので、財政的には寂しい限りだった。

 にぎやかに発展する気配もなく、いわゆる田舎であり続けるブランディス領だったが、そこに住む領民に不満はなかった。彼らが望むのは、食べることに困らず、平和に、家族と暮らすことで、それさえ叶えば幸せなのだ。そして領主はその望みに何百年と応え続けていた。人間でない吸血鬼を敵視する者はまだ大勢いるが、ここの領民ほど吸血鬼を信頼している者はいなかった。その中には当然テクラも含まれる。

 領主に悪印象は微塵もないテクラではあったが、テルノーナ村に生まれ育ってからこの方、その領主に会ったことは一度もなく、姿を見るのは今回が初めてのことだった。こういう領民は少なくなく、村の中でも領主と会った者は数えるほどしかいない。その理由は領主本人があまり館から出てこないからだった。しかしそれで領民は不信感を募らせたりはしない。何せ吸血鬼なのだ。夜行性と知っている領民にとっては、昼間に現れないことはごく自然のことと捉えられていた。だからと言って昼間は寝ているのかというと、そんなことはなく、館を訪れれば領主は昼夜関係なく快く応対し、領主の仕事をきっちりと果たしていた。

 村から三十分ほど歩くと、高い青空の下、広大な森に囲まれるように建つ大きな館が見えてきた。辺りを見回しても豊かな自然だけで他に建物はなく、あれが領主の住む家に違いなかった。若干の緊張を覚えながら、テクラはその館の玄関へと近付いた。

 目の前には見上げるほどの大きく立派な扉があり、その上には石造りの館の壁がさらにそびえる。一見するだけでかなり古い建物だとわかるそれは、館と呼ぶには少々大きく、古城のようにも思えた。二階建てのようで、装飾の施された石壁にはいくつも窓が見えるが、そのいずれも堅く閉ざされ、中を見ることはできない。吸血鬼は日の光に弱いと聞くが、それは本当なのかもしれないと思いつつ、テクラは扉のたたき金を鳴らした。ゴン、ゴンと重量感のある音が鳴り響く。玄関にやってくるまでしばらく待とうと一歩下がった時だった。

「何の用かな」

 背後から不意に話しかけられ、テクラは弾かれるように振り向いた。そこにはいつの間に現れたのか、身なりの綺麗な男性が微笑を浮かべてこちらを見ていた。驚いてすぐには言葉が出ないテクラに、男性は続けて言った。

「君は、テクラ・ランドフスカだね」

 これにテクラは目を丸くした。

「私を、知ってるんですか?」

「これでも領主なんでね。領民の顔や名前くらいは知っているよ」

 男性の言葉に、テクラははっとする。

「それじゃあ、あなたが、領主様……?」

「皆からはそう呼ばれているね」

 口角を上げた領主は、驚くテクラを穏やかな眼差しで見下ろした。その姿はまるで人間と変わらず、数百年生きているはずだが、見た目は三十代半ばの男性にしか見えない。一般的に想像する凶悪で恐ろしい吸血鬼の印象はどこにもなく、逆に整えられた黒髪や、しわ一つない上着とシャツ、ズボンとブーツという服装からは、領主としての品格さえ感じられる。本当に彼は人間ではなく、吸血鬼なのかと疑ってしまいたくなるほどだった。

「あっ、あのっ、領主様、聞いてもらいたいことがあって――」

 焦って話すテクラを、領主は笑顔でなだめた。

「急ぐことはない。とりあえず中へ入ろう。そこでゆっくりと聞かせてくれ」

 領主はテクラの背中に手を添えると、開けた玄関扉の奥へと招き入れた。

 一歩入ったテクラは、その華やかな空間に目を奪われた。無数のランプに照らされた玄関広間には、骨董品や彫像など、美しい美術品がそれとなく飾られており、その奥には二階へと続く曲線の階段が優雅に吹き抜けを渡っている。そして見上げた天井からは、ろうそくを灯した輝くシャンデリアが宝石のような光をたたえて広間を照らし出していた。その豪奢な眺めにテクラが言葉を失っていると、横にいた領主は歩きながら言った。

「どれも埃をかぶった過去の遺物だよ。本当なら処分したいところなんだが、貰いものだとそうもいかなくてね……さあ、こっちへ」

 手招きし、領主は階段の下を通って奥の部屋へと入った。

 薄暗かった部屋だが、領主が壁のランプに火を灯していくと、そこが応接間だとわかった。部屋の中央には長机と、それを囲むように椅子とソファーが置かれている。座ってと促されたテクラは、一番近い椅子に腰を下ろした。

「紅茶は好きかな」

 そう聞いて部屋を出て行こうとする領主を、テクラは慌てて止めた。

「お、お茶は結構です。それより、お話を……」

 切羽詰まった表情のテクラを見ると、領主は足を止め、そのまま踵を返してテクラの正面に座った。

「紅茶を飲んでいる場合ではないか……。それもそうだね。君には緊急事態だ」

 すでに話す内容を知っているかのような口ぶりに、テクラは領主を見つめた。

「どうして、緊急事態だと……」

「君からは眷属の気配を感じる。人間ではなく、私に近い気配をね……。誰かに、血を吸われたんじゃないか?」

 何も言わずとも言い当てた領主に、テクラは瞠目しながら言った。

「そ、その通りです。寝てる間に、ここを、兄が――」

「お兄さんが? そうか……それは、まずいな……」

 表情を歪めた領主にテクラは不安そうに聞いた。

「何が、まずいんでしょうか」

 これに領主はためらいつつ、答えた。

「……実は、昨晩、お兄さんのテオドールがここに来たんだよ」

「え……何で……」

「テオドールはその時、ひどく弱っていてね、私に助けを求めにやってきたんだ。見たところ、何かの中毒のようだった。解毒剤を与えるにも、その毒に対するものでなければ効果はない。しかし、私にはそれを特定する術がなく、彼にもそんな時間はなさそうだった。苦しみながら助けを乞う彼を死なせたくなかった。だから、私は……彼を吸血し、命を助けたんだ」

「兄の血を、吸った……?」

 テクラは、それで自分の身に起きたすべてのことが理解できた。吸血鬼という生き物は、自分が血を吸った相手を同じ吸血鬼に変えてしまう力を持っている。そして、吸血鬼に変えられてしまったその者が、また別の相手の血を吸えば、新たな吸血鬼が生まれる――人間が彼らを恐れる理由の一つは、そうしてたやすく仲間を増やし、人間を人間でなくしてしまうところだ。ひとたび吸血鬼にされれば、一生血を求めさまようことになると言われている。テオドールは、そんな吸血鬼になったということだ。そして、その兄に血を吸われたテクラもまた……。しかし、そこで一つの疑問が浮かんだ。

「血を吸うと、どうして兄は助かるんですか? そんなことをしたら、領主様に毒が……」

「我々の中には、病という概念がない。つまり、病気にかかることがないんだ。もちろん毒の類もね。体内に入ったとしても、たちまち浄化してしまう体なんだ。それは人間から吸血鬼になった者も同じだ。テオドールはおそらく、その知識があってわざわざ私の元へやってきたんだろう」

 領主に血を吸われたことで、兄の命は助かった。だがその後、家に戻った兄は妹の血を吸った。テクラはその時の光景を思い出し、もしかしたら自分は死んでいてもおかしくない状況だったことを今さら実感し、恐怖を覚えた。しかし今朝、それ以上に恐ろしいことをしてしまった自分を思うと、テクラは指先を震わせ、定まらない視線をさまよわせるのだった。

「……どうした?」

 テクラの様子を気にした領主はうかがう表情で聞いた。

「いえ、何でも……それで、兄とは、それきりなんですか?」

「体調が戻った後、行かなければならないところがあると言って、テオドールはどこかへ向かったようだが、どうやらその行き先は君達の家だったようだね」

「理由は聞いてませんか?」

「すまない。詳しくは聞かなかったんだ。だが、すぐに私の元へ戻ってくるようにと言ったんだが、それが果たされていないことを考えると、テオドールは理性を失いかけている可能性もある」

 その言葉に、テクラはどきりとして聞き返した。

「それは、血を求めて……ということですか?」

 領主はうなずく。

「吸血鬼には永遠に逃れられないものがあるんだ。血への深い欲求……それに呑み込まれてしまえば、理性はなくなり、本能にのみ従うだけの生き物に成り下がってしまう。ある程度生きている吸血鬼なら自制する術を備えているんだが、人間から吸血鬼になったテオドールには、まだ欲求を抑えることは難しいだろう。先ほどまずいと言ったのはそういうことからだ。血の欲求が暴走すれば、人間の被害がどれだけ出てしまうか……。私も、安易に一人にさせるんじゃなかった。そこまで考えるべきだったよ」

 自分の不注意に後悔を見せる領主だったが、テクラはその正面でうつむき、体のどこかに潜む血への欲求に戦々恐々としていた。両親を手にかけた時の衝動は、まさに本能だった。理性の欠片もなかった意識はためらいもせず両親の首に噛み付いたのだ。その行動は、傍から見ても自分から見ても、誰の目からしても人間には見えない。本能だけの生き物――自分は、それに成り下がろうとしているのだと思うと、テクラは喉を絞められたような息苦しさを感じた。

「君も、すでに誰かの血を吸っているね?」

 不意の言葉に、テクラは驚いて視線を上げる。その正面からは領主の心配そうな眼差しが向けられていた。

「かすかだが、君からは血の匂いがするんだ。……違うか?」

 領主様にはすべてが知られている。欲求に従ってしまったこと。そして、罪を犯してしまったこと――そう悟った途端、テクラが抱えていた気持ちは決壊するように、紺色の瞳から大粒の涙を流させた。

「私は……私は……」

 何かを言おうとするが嗚咽に邪魔され言えないテクラを、領主は優しく制した。

「いいんだ。何も言わなくていい。血の欲求は君にとって不可抗力なものだ。テオドールよりもあらがうことは難しいだろう」

「でも、私も、兄さんと同じ吸血鬼だっていうのに……」

「厳密に言えば同じではない。吸血鬼には等級があってね。私のような純粋な吸血鬼が上級だとすると、テオドールは下級と呼ばれ、吸血鬼としてはやや能力が劣る。その下級に血を吸われた君は最下級になり、能力は当然ながら、血の欲求は一番顕著で、理性を失う頻度も自然と多くなる。その末路は得てして我々とはかけ離れる。吸血鬼とは呼べないほど変貌してしまうんだよ」

「私は、じゃあ、このまま血を求めるだけの、ただの……」

 化け物に変わってしまう――現実を受け入れられないテクラは、その言葉を呑み込んだ。人間でなくなった上に、化け物に変わってしまうなど、辛く、信じたくないことばかりで心の動揺は治まらなかった。

「……二度と、元には戻れないんですか」

「残念ながらね」

 あっさりと言われ、テクラは呆然とするしかなかった。このまま化け物に変わり果てるために生きるのだと思うと、何も見い出せず、絶望の闇しか感じられなかった。

「だが、君が吸血鬼に変えられたのは昨日の夜……まだ間もない。人間に戻ることはできないが、理性を保てる下級に変化させることはできるかもしれない」

 人間に戻れないという言葉は辛かったが、化け物になることはない下級吸血鬼に変われるかもしれないという言葉は、テクラの心にほんの小さな光を灯した。

「私は、私でいられるんですか?」

「保証はできない。何せ私も初めての試みだからね。だがやってみる価値はあるはずだ」

 どうする? という領主の漆黒の瞳が聞いてくる。この先、自分に一体何が残されているのかと捨て鉢な気持ちもくすぶっていたが、そう思う前にテクラにはやらなければならないことができた。兄の捜索だ。血の欲求に支配され、人間の血を求めて歩いているとなると、妹として放っておくことはできなかった。そして昨晩、兄の身に何が起こったのか。妹が両親を手にかけるまで至った最初の原因とは何だったのか、すべて聞かせてもらわなければならなかった。

 決断したテクラは正面の領主を見据えると、力のこもった静かな声で言った。

「……お願いします。私に、試してみてください」

 意を決した表情を見て、領主は小さくうなずいた。

「そうか、わかった……では、試すなら早いほうがいい」

 そう言うとおもむろに立ち上がった領主は、椅子に座るテクラの元に近付いてきた。

「な、何をするんですか?」

 不安げに見上げたテクラを、領主は微笑を浮かべて見つめる。

「特殊なことはしないよ。ただ私が、君の血を吸うだけだ」

「それ、だけ……?」

「ああ。それだけだ。失礼するよ」

 すると領主はテクラの肩にかかる茶の髪を除け、ブラウスの襟を引き下げると、細い首の柔肌をあらわにした。

「少し痛みがあるかもしれない。我慢してくれ」

 そう言ってから領主は顔を近付け、そしてテクラの首筋にがぶ、と噛み付いた。肌が破られ、鋭い痛みが走る。領主の息遣いと自分の血が流れ出ていく脈動を感じながら、テクラは強く目を瞑った。その胸では、どうか上手くいきますようにと、祈りの言葉が何度も唱えられていた。

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