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最期のネバーランド

作者: 烏村そらまめ

≪キャスト≫

ヒカリ ♂

不治の病にかかった女の子。中学二年生。臆病だが負けん気が強い。


名前のない君 ♂

ヒカリのクローン。ヒカリの臓器提供のためだけに生まれた。


長野博士 ♂

 ヒカリの主治医


福島さん ♀

ヒカリの看護師


女性 ♀

 若い女の人。名前はない。かつてクローン人間として生まれた人間。



 第一章


中央の長野博士と名前のない君にスポット


君  :あ、あの…

博士 :なんだね。

君  :私は…私は何のために生まれてきたんですか…?

博士 :なぜそんなことを聞くのだね。

君  :私…目が覚めたらここにいて、それまでの記憶が全然ないんだ。でも、ぼんやりした記憶があるんです。

でも…あれ?でもこの記憶は全部他の人の物のみたいで、その記憶の中心にいるのは私なのに…なんだろう、こ

の気持ち…


 名前のない君、ひどい頭痛を覚えて頭を抱え込む。


 そんな君の肩を優しくさする長野博士。


博士 :そんなこと、君は気にしなくていいんだ。

君  :どうしてですか…?

博士 :君は生きているだけで役に立つんだ。

君  :でも…

博士 :ん?なんだ?

君  :なんでも、ない、です…

博士 :そうか。

君  :そういえば、おじさんは誰ですか…?

博士 :おじ…っ!?

君  :え?

博士 :あぁいや、何でもない。私の名前は長野。君を作った博士だ。

君  :あ、あの…

博士 :なんだね。

君  :私は…私は私の生まれてきた理由が知りたいです…

博士 :ほお。興味深い。では、私から君に一つプレゼントをあげよう。

君  :プレゼント?

博士 :そう。プレゼント。君に3日間の自由をあげよう。

君  :自由…?

博士 :そうだ。

君  :うーん…わかりました。

博士 :ただし、絶対にこの病院の外に出てはいけない。そして、三日目のこの時間に必ずここに戻ってくるこ

と。

君  :え、ここって病院なんですか?

博士 :そうだよ。

君  :わ、わかりました。じゃあ、行ってきます。

博士 :あぁ。気をつけたまえよ。



 第二章


君 :ううん…どこに行こうかな…どこに行ったら私が生まれてきた理由がわかるんだろう……

ヒカリ:あれ、君、患者さん?

君  :ええっと…患者さん…?それではないかなぁ…

ヒカリ:ふぅん。お母さんとお父さんは?君はどこから来たの?

君  :ううん…わかんない…

ヒカリ:へぇ。君、なんか変だね。

君  :変、なのかな…

ヒカリ:わかんないけど。

君  :…そっか。

ヒカリ:ねえ、君、暇なんでしょ?

君  :う、うん。

ヒカリ:じゃあ、僕と遊ぼうよ!

君  :え…?いいの?

ヒカリ:うん!もちろん!


 間


君  :あなたはなんていう名前なの?

ヒカリ:私の名前はヒカリ。君は?

君  :僕の名前は…わからない。

ヒカリ:ふぅん。じゃあ、あなたはいつも何して遊んでるの?

君  :遊んだことは…ない、気がする…

ヒカリ:そっかぁ…やっぱり変わってるね。

君  :ごめん…

ヒカリ:謝ることないよ!じゃあさ、私と一緒にお絵描きしよう!

君  :お絵描き?わかった。


 ヒカリと君、近くのテーブルに座って絵を描き始める


ヒカリ:何描く?

君  :うーん、何描こう。

ヒカリ:じゃあ私は君の顔を描く。君は私の顔を描いて!

君  :わ、わかった。


 間


ヒカリ:描けたー!

君  :わ、私も!

ヒカリ:じゃあお互い見せてみよ!

君  :わかった!

ヒカリ・君:はい!


 ヒカリ・君、お互いの絵を見る


ヒカリ:…ねえ、もしかして私たちすごく顔似てない?

君  :確かに…。

ヒカリ:こんなに似てる人初めて会った!なんか面白いね!

君  :そ、そうだね!


 そこに看護師が登場


福島 :あら、ヒカリちゃん、お友達?…って、まあ…そっくりじゃない。

ヒカリ:あ!福島さん!そうだよ、私のお友達。そっくりでしょ。

福島 :そっくりどころじゃないわ…ほくろの位置とか二重幅まで全くおんなじじゃない。

君  :こ、こんにちは…。あなたは…?

福島 :私は福島。ヒカリ君の看護師よ。あなたのお名前も教えてもらっていいかな。

君  :私の名前は…わからない。

福島 :迷子かしら…

君  :違う…と思う。


 長野登場


長野 :その子は迷子ではないよ、福島君。

福島 :あ!先生!

長野 :先生ではなく、博士と呼びなさい。

福島 :は、はぁ…。で、博士、この子は…

長野 :(福島を無視して)君、友達ができたんだね。仲良くできているかな?

君  :はい!おじさん!私たち、仲良くなれました!

長野 :おじさんではなく博士だと…まあいい。仲良くできているならよかった(君の頭を撫でる)

福島 :あの…先生…?

長野 :博士だ。

福島 :じゃあ…博士。

長野 :なんだね。

福島 :この子、迷子じゃないならなんなんですか?

長野 :…まあ、君もヒカリ君の専属の看護師だし、このことを話しておく必要があるな…じゃあ、ついてきな

さい。


 暗転



第三章


 セットは特になし。福島と長野。


福島 :で、せんせ…じゃなくて博士、あの子はなんなんですか?

長野 :福島君…君はヒカリ君の病状の悪さを知っているだろう?

福島 :…はい。もう余命は残り長くて…1か月…。

長野 :(頷く)

福島 :生まれつきの病気だからってあんな小さいのに殆ど外に出ずに一生を終えるなんて…可哀そうに…(顔

を手で覆って泣く)

長野 :私は世界中の優秀なドクターを探しまくった。でも…それは…意味をなさなかった。

福島 :……。

長野 :もう、あきらめるしかなかった…

福島 :……。

長野 :しかし…

福島 :え?

長野 :ひとつだけあったんだよ。

福島 :治療法…ですか?

長野 :治療…うん、まあ、治療だな。

福島 :あの子が生まれてずっと探していた治療法が…とうとう見つかったんですか?!…でもそのこととあの

迷子の女の子に何の関係が…?


 そこに君が登場。博士の様子を陰から伺っている


長野 :まあそう焦るな。…あの子はヒカリ君の……クローンだ。

福島 :…………は?

長野 :ふふふ。君、驚いているね?

福島 :そ、そりゃ…。

長野 :そう、君も知っている通り、人間のクローン製造は法律で禁止されている。

福島 :で、ですよね。それに、ヒカリちゃんのクローンってことは…

長野 :…健康なあの子の臓器をヒカリの傷んだ臓器と交換する。移植手術をするんだ。

福島 :嘘でしょ…?それが見つかったら博士は…

長野 :わかっている。でも、自分の身と患者の命、どっちが大事だ?医療現場で10年以上働いている君なら

わかるだろう?

福島 :わかります。でも…

長野 :でも…なんだ?

福島 :臓器移植用クローンってことは、あの子は臓器移植のために生まれてきたんですよね?

長野 :うむ。そうだ。何か問題あるか?

福島 :…じゃあ、あの子は…死ぬために生まれてきたってことなんですよね。

長野 :……

福島 :博士…?

長野 :…はあ(溜息)福島君、よく聞きたまえ。

福島 :…はい。

長野 :何かを守ったり、手に入れるためには何かしら捨てねばならないものがある。今回はそれがあの子だっ

たってだけだ。

福島 :でも…っ!


 君、後ずさる。その時に音がなってしまう。


君  :嘘…

長野・福島:君…?!

君  :嘘、私は…私は死ぬために生まれてきたの…?

長野 :ち、違う!!違うよ。君は生きているだけで役に立つ。それはとても素晴らしいことなんだぞ?!なあ、

福島君!!

福島 :それ、は…

長野 :福島君!!

君  :もう、もういやだ!!私の命を大事にしてくれない人の元で生きたくなんかない!!死んでやる!!

長野 :君!!

福島 :待って!!


 暗転



 第四章


 音響(雨の音)


 セットは特になし。上手から下手に向かって君が走っている


君  :はあ、はあ、はあ…逃げなきゃ、遠くに、もっと、遠くに…(つまずいて転ぶ)いったっ!!


 君、立ち上がろうとするも、痛すぎて立てない


君  :…痛い……


 そこに傘を差した女性が登場。君に駆け寄る


女性 :大丈夫…?

君  :え…?お姉さん、だれ、ですか…?

女性 :私は…私は何者でもないわ。


 君、女性に手を借りて立ち上がる


女性 :大丈夫…?

君  :だいじょう…いったっ

女性 :怪我してるじゃない!!…私の家にいらっしゃい。このままここにいたら風邪をひくし、私なら手当を

してあげられるわ。


 暗転


 明転


 場所は女性の家。テーブルとイス。君が椅子に座らせられている。そこに女性がマグカップを持って来る。


女性 :傷、大丈夫…?ほら、温かいお茶よ。よかったら飲んで。

君  :ありがとう…

女性 :……

君  :……

女性 :あなた、逃げてたの?

君  :え?

女性 :だってあなたあんなに走っていたじゃない。

君  :…そう、です。逃げて、ました。

女性 :なにから?お母さん?

君  :いえ、おじさんです。

女性 :おじさん?

君  :はい…。

女性 :そう、なんだ……。


 間


君  :あの…

女性 :ん?

君  :お姉さん、今忙しいですか?

女性 :ううん、私は暇よ。

君  :なら…私の話、少し聞いてもらえませんか?

女性 :もしかして、あなたが逃げていた理由とか…?

君  :そ、それもありますが…

女性 :じゃあ、ぜひ聞かせて。

君  :わかり、ました。


 間


君  :私が言っていること、意味が分からないと思います。でも、頑張って話すので…

女性 :大丈夫。ゆっくりどうぞ。


 間


君  :私…私は死ぬために生まれてきたみたいです。

女性 :え…?

君  :私は気が付いたら、おじさん…えっと、あの病院の先生です。のいる部屋にいました。私、それまでの

記憶があいまいで、記憶の中心にいるのは私なのに、なにか外から見ている感じが…って、説明下手でごめんな

さい。

女性 :大丈夫。ちゃんと伝わっているわ。

君  :ありがとうございます。…それで私は、そのおじさんにプレゼントをもらったんです。…3日間の自由

っていうプレゼントを。

女性 :…。

君  :その時点で気が付けばよかったですね。3日間の自由なんて、その言い方、明らかに怪しいのに…


 間


君  :私、そのあと友達ができました。名前はヒカリ。私にそっくりの女の子です。

女性 :え…?

君  :病院でずっと入院している子らしいです。その子は私のはっきりした記憶の中の唯一の友達です。気を

かけて一緒に遊んでくれたし、優しく声もかけてくれた。


 間


君  :私、ヒカリの移植用のクローンだったんです。

女性 :…え?

君  :病院を出てくる前、おじさんがヒカリの看護師さんに話しているのを隠れて聞いていました。私…私、

私は移植用の臓器提供クローンだって知った途端、怖くて逃げてきちゃったの…

女性 :うん…

君  :本当は戻らなきゃならない。私がいないとヒカリは死んじゃう。分かっているのに…ほら、見てくださ

い。私…今もこんなに足が震えてる…。

女性 :……

君  :突拍子もない話ですよね。そんなSFみたいなことあるわけ…

女性 :わかるわよ。

君  :え?

女性 :私もある人のクローンだもの。

君  :……え?

女性 :生まれたのはあの病院ではないわ。でも、私はあなたと同じ、ある大病を患った女の子の臓器移植用ク

ローンとして生まれたわ。

君  :その女の子は…?

女性 :私…逃げたの。

君  :お姉さんも…?

女性 :うん。そう。私、あの子のこと、殺しちゃったの。

君  :……え…

女性 :私が逃げたことであの子は死んだわ。それは私が殺したってこと。分かるでしょ?

君  :じゃあ、私は…私はヒカリを…殺してしまうんですか…?


 そこに福島が走って入ってくる。


福島 :あなた!!

女性 :だ、だれですか?!


 福島、君の腕をつかむ。


君  :福島さん、何を…

福島 :ヒカリちゃんが…ヒカリちゃんの容態が急変したの。このままじゃヒカリちゃんが死んじゃう。助けられるのはあなたしかいないの!来て!!


 暗転



 第五章


 場所は病室。台にヒカリが横たわっている。その隣に長野が立っている。


 そこに福島、君、女性が走って入ってくる


福島 :先生!連れてきました!!

長野 :……

福島 :先生…?

君  :おじさん、おじさん、早く私を殺して、ヒカリを助けて!!そうじゃないとヒカリが、ヒカリが…!!

長野 :もう…もう、遅いんだ…

君・福島:え…?

長野 :もう、手遅れだよ…

福島 :ま、まさか…

長野 :君たちが来る1分前に死亡を確認した。彼女はもう…ここにはいないんだ…

君  :嘘…(膝から崩れ落ちる)

長野 :君はもう、生きる意味を果たすことは永遠にできないんだ。君は…君は人殺しなんだよ…

君  :嘘、嘘…いやぁあああああああああああ!!!!!!


 暗転


 閉幕

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