峠の伝説 0本目 『プロローグ』
20XX年。日本の道路交通網は、自動運転車とバイパスの発展により、その利便性は目覚ましく進歩していた。
一方、山岳地帯の道路、いわゆる「峠」は利便性が悪く、更に自動運転に委ねるのは危険であるとの判断から、自動運転禁止区間となり、「交通網」としての需要は下がっていった。
……そう、「交通網」としては。
この時代、「峠」は、ドライビングを楽しむことに特化した、エンターテインメントとしての道路へと変貌を遂げていた。
「峠」において、一定のドライビングスキルを身につけ、ライセンスを取得した者は、制限速度などの一部法規が緩和され、自己責任の範囲で、自由なドライビングを楽しむことができる。
「峠」は、昼と夜でその性格を大きく変える。
山岳地帯である「峠」は、景勝地が多い。そのため、日中は観光用道路としての側面が強くなる。
無論、ライセンスを持たない一般のドライバーも多く、特に土日はそういう人の割合は増える。
一方、夜になると周囲の景色は暗がりとなり、観光客は影を潜める。
だが、その暗さを逆手に取ると、ヘッドライトが対向車同士の視認を容易にしてくれる時間帯ともいえる。
これらの性質から、自動運転の発展によりドライビングに飢えた者達が、この「峠」に集結し、腕を競い合っていた。いわゆる「走り屋」である。
この時代、ライセンスを取得してドライビングテクニックを保証していれば、この「走り屋」行為は、峠においては合法の範疇となる。
ライセンスは、各地方の峠で定期的に開催される記録会にて、取得が可能である。専用車両にて、監査員同乗による走行試験を行い、タイム及び官能評価をクリアすれば、ライセンスが取得できる。
ライセンスは、排気量または馬力ごとにクラス分けされており、クラスに準じて規制の緩和が許可される。
・「Kクラス」…660cc 80馬力以下の車両まで
・「Cクラス」…1600cc 160馬力以下の車両まで
・「Bクラス」…2400cc 240馬力以下の車両まで
・「Aクラス」…全排気量320馬力以下の車両まで
・「Sクラス」…全排気量600馬力以下の車両まで
これらのクラスの範疇で、速度制限、追い越し等の法規が緩和される。
なお、600馬力を超えた車両に乗る場合は、Sクラスのライセンスを持っていても法規緩和の対象にならず、通常法規を守らなければならない。峠での走行は危険であるとの措置である。
また、ライセンスを持ち、その範疇の車両に乗っていたとしても、排気量と馬力のテストを通過しクラスの定義をされた車両でなければ、規制緩和の対象とならず、違反となる。
このように、一自動車大国である日本の「峠」は、スポーツドライビングを楽しめる場として、独自の発展を遂げたのである。
これは、その「峠」を舞台に、とあるクルマ好きの青年が、走り屋として伝説的な存在になるまでを綴った物語である。
峠の伝説 0本目『プロローグ 』完