74 それから
アイリスが逃げたあと、準決勝で敗れた者同士が戦い、三位を決めたらしい。
勝ったのはシンディーとプニョバロンだった。
普通なら、そのあと表彰式が始まるのだが、肝心のアイリスとプニガミが行方不明。
実はそのときアイリスは、ホテルまで戻っており、頭まで布団を被って「怖い、怖い」と震えていた。
プニガミが横でプニプニ揺れながら「早く公園に戻ろう」と言っても、アイリスは起き上がれなかった。
と、そこにマリオンがやってきて「やっぱりここにいた」と呟き、アイリスを担ぎ上げた。
そしてアイリスは、公園まで強制連行されてしまったのだ。
「優勝者が恥ずかしさのあまり逃げ出し、表彰式が一時間も遅れるなんて、私の知る限り、今回が初めてです」
表彰台の三位の場所に立つシンディーは、唇をとがらせながら呟く。
その横にいたプニョバロンが、同意するように揺れ動く。
「まったくだわ。私たちに勝ったんだから、もっと堂々としなさいよ。私とプニクイーンまで軽く見られるじゃない」
「ぷいんぷいん」
二位の場所にいるエミィとプニクイーンも、非難がましい言葉を投げてくる。
「ぷにに!」
それどころか、アイリスと一緒に一位の場所に立つプニガミですら「しっかりしろ!」と言ってくる。
アイリスは一言も言い返せず、優勝者なのに肩身が狭い思いをした。
「あんな謙虚なチャンピオンは初めてだ……」
「謙虚っていうか、臆病っていうか……」
「試合中は結構、勇ましかったのにな」
「緊張の糸が切れたのかな? そういうことってあるだろ?」
「分からなくもないが、物事には限度がある」
観客たちがヒソヒソと言い合っている。
恥ずかしい。
超恥ずかしい。
おまけにシェリルが、どこから出してきたのか『アイリス様、プニガミ様、優勝おめでとうございます! シルバーライト男爵領の誇り!』と書かれた旗を振り回している。
注目度は二百パーセントだ。
アイリスはまた布団を頭から被りたい気分だが、授賞式をこれ以上延期させるわけにもいかない。
精神力を振り絞り、ガチガチに固まりながら、優勝トロフィーを受け取った。
「し、死ぬかと思った……」
「実際に戦ったプニガミより、なんでアイリスのほうが疲れてるのよ!」
ホテルに帰ってベッドにダイブすると、マリオンが鋭いツッコミを浴びせてきた。
「だって、だって。人が沢山いるだけでも怖いのに……皆が私を見てるなんて……うぅ、怖かったよぅ!」
「ぷにぷにー」
プニガミが、「偉い、よく耐えた」と褒めてくれた。
優しい。
持つべきものはプニガミである。
そんなプニガミの頭の上には優勝トロフィーが乗っかっている。
さっきから離そうとしないのだ。
よっぽど優勝したのが嬉しいらしい。
「……とにかく、この町に来た目的は果たしたわ。明日こそノンビリできるはず……プニガミ。いつまでもトロフィーで遊んでないで、私の抱き枕になりなさいよ」
「ぷーにぷに」
ところがプニガミは、もう少しトロフィーを愛でたいようだ。
まさかの抱き枕拒否に、アイリスはショックを受ける。
「うぅ……じゃあ私は何を抱きしめて寝たらいいの……」
「あんたって、抱き枕がないと眠れないの?」
「昔はそうでもなかったんだけど、プニガミと過ごしているうちにそういう体になった……」
「あ、そう……じゃあ私のことでも抱きしめてたら……!」
などと言って、マリオンがアイリスの隣にごろんと寝転んだ。
「え……あ、うん……じゃあ、マリオンをプニガミの代わりにする……」
アイリスはマリオンに抱きついた。
もの凄く体温が高かった。
それはマリオンだけでなく、自分もだった。
とても暑苦しいが、しかし離れる気にはならなかった。




