表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/78

74 それから

 アイリスが逃げたあと、準決勝で敗れた者同士が戦い、三位を決めたらしい。

 勝ったのはシンディーとプニョバロンだった。

 普通なら、そのあと表彰式が始まるのだが、肝心のアイリスとプニガミが行方不明。


 実はそのときアイリスは、ホテルまで戻っており、頭まで布団を被って「怖い、怖い」と震えていた。

 プニガミが横でプニプニ揺れながら「早く公園に戻ろう」と言っても、アイリスは起き上がれなかった。


 と、そこにマリオンがやってきて「やっぱりここにいた」と呟き、アイリスを担ぎ上げた。

 そしてアイリスは、公園まで強制連行されてしまったのだ。


「優勝者が恥ずかしさのあまり逃げ出し、表彰式が一時間も遅れるなんて、私の知る限り、今回が初めてです」


 表彰台の三位の場所に立つシンディーは、唇をとがらせながら呟く。

 その横にいたプニョバロンが、同意するように揺れ動く。


「まったくだわ。私たちに勝ったんだから、もっと堂々としなさいよ。私とプニクイーンまで軽く見られるじゃない」


「ぷいんぷいん」


 二位の場所にいるエミィとプニクイーンも、非難がましい言葉を投げてくる。


「ぷにに!」


 それどころか、アイリスと一緒に一位の場所に立つプニガミですら「しっかりしろ!」と言ってくる。

 アイリスは一言も言い返せず、優勝者なのに肩身が狭い思いをした。


「あんな謙虚なチャンピオンは初めてだ……」

「謙虚っていうか、臆病っていうか……」

「試合中は結構、勇ましかったのにな」

「緊張の糸が切れたのかな? そういうことってあるだろ?」

「分からなくもないが、物事には限度がある」


 観客たちがヒソヒソと言い合っている。

 恥ずかしい。

 超恥ずかしい。


 おまけにシェリルが、どこから出してきたのか『アイリス様、プニガミ様、優勝おめでとうございます! シルバーライト男爵領の誇り!』と書かれた旗を振り回している。

 注目度は二百パーセントだ。

 アイリスはまた布団を頭から被りたい気分だが、授賞式をこれ以上延期させるわけにもいかない。

 精神力を振り絞り、ガチガチに固まりながら、優勝トロフィーを受け取った。


「し、死ぬかと思った……」


「実際に戦ったプニガミより、なんでアイリスのほうが疲れてるのよ!」


 ホテルに帰ってベッドにダイブすると、マリオンが鋭いツッコミを浴びせてきた。


「だって、だって。人が沢山いるだけでも怖いのに……皆が私を見てるなんて……うぅ、怖かったよぅ!」


「ぷにぷにー」


 プニガミが、「偉い、よく耐えた」と褒めてくれた。

 優しい。

 持つべきものはプニガミである。


 そんなプニガミの頭の上には優勝トロフィーが乗っかっている。

 さっきから離そうとしないのだ。

 よっぽど優勝したのが嬉しいらしい。


「……とにかく、この町に来た目的は果たしたわ。明日こそノンビリできるはず……プニガミ。いつまでもトロフィーで遊んでないで、私の抱き枕になりなさいよ」


「ぷーにぷに」


 ところがプニガミは、もう少しトロフィーを愛でたいようだ。

 まさかの抱き枕拒否に、アイリスはショックを受ける。


「うぅ……じゃあ私は何を抱きしめて寝たらいいの……」


「あんたって、抱き枕がないと眠れないの?」


「昔はそうでもなかったんだけど、プニガミと過ごしているうちにそういう体になった……」


「あ、そう……じゃあ私のことでも抱きしめてたら……!」


 などと言って、マリオンがアイリスの隣にごろんと寝転んだ。


「え……あ、うん……じゃあ、マリオンをプニガミの代わりにする……」


 アイリスはマリオンに抱きついた。

 もの凄く体温が高かった。

 それはマリオンだけでなく、自分もだった。

 とても暑苦しいが、しかし離れる気にはならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作の短編です↓↓↓↓

『スマホ』なんて『iランク』のハズレスキルだと追放されたけど、攻略情報を検索して爆速で最強になっちゃいます

↑↑↑↑こちらも読んでいただけると嬉しいです

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ