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67 祭りの前日

 そしてアイリスたちは町を適当に歩き回ることにした。

 あちこちに『スライム祭り!』と書かれたポスターや垂れ幕が飾ってある。

 スライムのお面をつけた子供たちが走り回っていたり、露天でスライムまんじゅうが売られていたりと、お祭り前日なのに、もうすっかりお祭りムードだ。


「もぐもぐ……おいしー!」


 イクリプスはスライムまんじゅうを食べ、嬉しそうに飛び跳ねる。

 ちなみにスライムまんじゅうは、スライムの形をした白いまんじゅうだ。決して中にスライムが入っているのではない。


「ぷにぷに」


「共食いにならなくてよかったわね、プニガミ」


「ぷーに」


 プニガミの体内に取り込まれたスライムまんじゅうが、少しずつ溶けていく。

 プニガミだけでなく、道行くスライムたちも同じように食べていた。

 アイリスも自分の分をパクリと一口。

 中にチーズが入っていた。これは意外。しかし美味しい。もぐもぐ。


「おや? 随分と色艶のいいスライムだ。それは君のスライムかい?」


 突然、見知らぬ男が話しかけてきた。その隣に緑のスライムがいるので、彼もスライム使いなのだろう。

 その穏やかな表情からは悪意はまるで感じられない。単純にプニガミに興味をもっているだけなのだろう。

 が、そうだと分かっていても、アイリスは緊張してしまう。


「え、あ、えっと、あの、はい、私のスライムでしゅ……あわわわわ」


「そうか。スライム相撲には出場するのかな?」


「あわわわ、あわわわわ」


 アイリスは「そのつもりです」と答えたいだけなのだが、どうしてか呂律が回らない。

 代わりに目が回ってきた。


「もう、アイリスったら雑談もできないわけ? ごめんなさい、この子ったらすぐに緊張しちゃう性格だから。スライム相撲は出るつもりよ。あなたも?」


「そうさ。今年こそプニクイーンを倒して優勝するんだ。君たちのスライムも、かなり強そうだね。もしトーナメントで当たったら、正々堂々戦おう。それじゃあ」


 男は緑のスライムを連れて雑踏に消えていく。


「ひぇぇ……緊張した……」


「緊張しすぎよ。こっちが恥ずかしくなるじゃない」


「そんなこと言われても……初対面はどうしても緊張するし……特に今のは男の人だったし……ねえ、マリオン。ずっと私の隣にいて、私の代わりに会話してよ」


「む、無茶言わないでよ! でも……そうね。危なっかしいから、ずっとは無理でも、できるだけそばにいてあげるわ……!」


「あ、ありがとう!」


 その頼もしさに、アイリスはついついマリオンに抱きついてしまった。


「ちょ、ちょ、ちょ! 人前で抱きついたりしないでよ!」


「あ、ごめん……」


 自分が恥ずかしいことをしていると気づいたアイリスは、慌ててマリオンから離れ、代わりにプニガミにしがみついた。


「ぷに?」


「アイリスお姉ちゃん、一人がこわいのー? だいじょうぶだよー。マリオンだけじゃなく、私もずっと一緒だよー?」


「のじゃ! 妾もいるのじゃ! 心配無用なのじゃ!」


「ふふふー。私もいますよアイリス様。シルバーライト男爵として、アイリス様たち神様のお世話はお任せください!」


「あら。それなら私だって、皆のお母さん役として頑張っちゃうんだから」


「お、お母さんは私のお母さんでしょ!」


 マリオンは慌てた様子でジェシカにしがみつく。


「マリオンったら、アイリスちゃんだけじゃなく、私のことも独り占めしたいの? 欲張りねぇ」


「独り占めはズルいのじゃ!」


「そうだよー。マリオンは甘えんぼさんすぎるー」


「わ、私が甘えん坊!? そんなことないし!」


 マリオンは首をブンブンと振ってイクリプスの言葉を否定する。

 だが、その件についてはアイリスも擁護してあげられなかった。


 そもそも、このドラゴンたちが親子でシルバーライト男爵領に住むことになったのは、アイリスにケンカで負けたマリオンがジェシカに泣きついたからである。

 その出来事だけでも、甘えん坊呼ばわりは避けられない。


「マリオンはいいなぁ……本物のお母さんがいて」


 ふとアイリスは呟く。

 なにせアイリスとイクリプスは、カプセルの中で製造された生物兵器だ。母親がいない。クリフォト大陸に帰れば父親である大魔王はいるが、親子の交流をした覚えはない。


 シェリルの両親は離婚しており、母親とは長いこと会っていないという。父親も亡くなっている。


 ミュリエルに至っては、人々の祈りによって生まれた神だ。親というものが初めからいない。


 そんな中、マリオンだけがいつも母親と一緒にいるのだ。

 アイリスは何だか急にマリオンが羨ましくなってきた。


「うぅ……分かったわよ! あんたたちも、お母さんに甘えていいわよ!」


 マリオンは自分が恵まれた立場にいると自覚したらしく、バツが悪そうに言う。

 しかし、改めて「甘えていい」と言われると、これはなかなか恥ずかしい。

 とりあえずアイリスは、ジェシカにピッタリくっついてみた。


「あらあら♪」


 ジェシカは嬉しそうにアイリスをなでてきた。


「わーい、イクリプスもー」


「のじゃー」


「では、私も!」


「あらぁ。四方を囲まれちゃったわ。娘が沢山で大変だわ~~」


 少しも大変そうじゃない声を出しながら、ジェシカは頬に手を当てる。


「ぷにぷにん!」


「え、プニガミもお母さんに甘えるの? ……じゃあ、私も!」


「あ、ちょっと、流石に一遍にこられたら……潰れちゃうわー」


 全員から抱きつかれたジェシカは、珍しく弱音を吐いた。

 しかし、それもどこか楽しげだ。

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