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66 部屋割り騒動

「ふふふ。実はこのホテル、私の実家なのです!」


「なんじゃ。自分のホテルの売上に貢献させたかっただけか」


「ち、違いますよ! お代はいただきません! この繁盛期に部屋を開けておいたんですから、むしろ損してるんですよ!」


「そ、そうじゃったか……これは申し訳ないのじゃ……」


「いえ! そんな気にしないでください! 三部屋用意したので、二人ずつに分かれてくださいね。では、中へ!」


「ぷにょん!」


 シンディーとプニョバロンが、回転扉を開けて中に入っていく。

 そのあとを追いかけると、赤絨毯が敷かれたロビーが現われた。

 立派な調度品が置かれている。なかなか儲かっているらしい。

 そんなロビーに、ピンク色に塗られたスライムの石像が飾られていた。


「これって、プニョバロン?」


 そうアイリスが尋ねると、


「ぷーにょん!」


 プニョバロンは石像の隣に並び、「そうだよ、格好いいでしょ」と自慢してきた。


「再現度が高いのじゃー。ちょっと離れると、どっちが本物か分からないくらいじゃ!」


「ぷにぷに」


 プニガミが羨ましそうにしている。自分の石像を欲しがるタイプだったとは知らなかった。

 石像は無理かもしれないが、そのうち粘土とかで作ってあげようかなぁ、とアイリスは考える。


「おや? 石像の横に『スライム四天王のプニョバロン』という札がありますね。スライム四天王とは一体……?」


 シェリルが首をかしげる。

 するとシンディーとプニョバロンが自慢げな顔になった。


「よくぞ聞いてくれました! このスラスラーンの町はスライム使いの聖地! スライム祭りが開かれていないときでも百人を超えるスライム使いが住んでいます! スライム使いではない住人もスライム大好きな人ばかり! そんなスラスラーンの町で最も強いと認められた四匹のスライム……それがスライム四天王なのです!」


「ぷにょにょーん!」


「ほほー! それは凄いです! するとこの石像は四天王に与えられる勲章のようなものですね!?」


「いえ。四天王の実家だって宣伝すればスライム好きが泊まりに来てくれるから、ホテルの宣伝のためにお父さんが作ったのです!」


「あ、そうなんですか……商魂たくましいですね!」


「お褒めにあずかり光栄です!」


「ぷにょん!」


 プニョバロンはぷにょぷにょ動く。石像のほうは動かないので、どんなに似ていてもどちらが本物か分かる。


「あれ? プニガミってプニョバロンに勝ったわよね? じゃあプニガミってすでに四天王より強いってこと?」


 マリオンはプニガミの表面をムニムニしながら疑問を口にする。


「そ、そんなことはありません! 前の戦いは、あくまでプニガミさんの力を試すためのテスト! もっと真剣に戦えば、プニョバロンはまだまだ負けません! ね、プニョバロン!」


「ぷにょにょ!」


「ぷににー!」


「ぷにょー!」


「ぷーに!」


 二匹のスライムが、「負けないぞ」「ぼくだって負けないぞ」と言い合っている。

 スライムの言葉を理解できるのはアイリスだけのはずだが、ニュアンスだけは皆に伝わるらしい。

 柔らかそうに揺れながら睨み合っているスライムの姿を見て、全員がほんわかした顔になる。


「あー、あー! スライムって可愛いですね! 素敵ですね! 舐めたくなりますね!」


 シンディーは体をくねらせながら叫ぶ。


「確かに……って、舐めたくはならないから!」


「えー、アイリスさんなら分かってくれると思ったんですが……」


 シンディーは期待を裏切られたと不満そうだ。

 アイリスとしてはそんな期待をされたことそのものが不満である。


「まあ、スライムの愛し方は人それぞれ。とにかくお部屋にご案内しましょう。こちらです!」


 シンディーの案内でテクテクと階段を上っていく。

 アイリスたちの部屋は四階だった。


「おお、見晴らしがいいですね!」


 部屋の一つに入ったシェリルは、早速、窓を開けて町の風景を見渡した。

 アイリスもその横から首を出すと、時計塔や広場の噴水などが見えた。

 なかなか綺麗な町だ。

 あとスライムがそこら中にいる。


「この部屋の両隣が皆さんのお部屋です。あ、ちなみにお食事なんですが……申し訳ありません。これだけは別料金です。ホテルの食堂か、町のレストランなどでよろしくお願いします」


「無料でホテルに泊めてもらってるんだから、そのくらいは仕方ないわね。謝ることないわよー」


 ジェシカが頬に手を当て、のほほんと言う。


「そう言っていただけると助かります。いやぁ、皆さんを無料で泊めるのも、お父さんとお母さんにかなり強引にお願いして……プニガミさんは必ずスライム相撲で優勝するスライムだ。優勝スライムが泊まったホテルだと宣伝すれば儲かる! と説得して、何とかなりました!」


「優勝……そうね、プニガミなら優勝できるわ!」


「ぷにっ!」


「ぷにょ!」


「ぷに! ぷにーん!」


「ぷにょにょーん!」


 またスライム二匹が「優勝するのはぼくだ」と言い争っている。

 これは確かに舐めたくなる愛らしさ……いやいや、何を考えているのか、とアイリスは首を振る。

 まったく、シンディーの感染力は恐ろしい。


「では、私はこれで!」


「ぷにょ!」


 シンディーとプニョバロンが去ったあと、アイリスたちは部屋割りを話し合った。


「アイリスお姉ちゃんと同じ部屋がいいー」


「そうね。イクリプスは私と同じ部屋ね」


 姉妹なのだから、自然な話だ。


「じゃあ、私とマリオン。シェリルちゃんとミュリエルちゃん。この組み合わせでいいんじゃないかしら?」


 なるほど。妥当な組み合わせだ。


「プニガミはいつも通り、私とイクリプスの抱き枕ね」


「ぷにー」


 任せろ、とプニガミは跳びはねる。

 さて。

 これで部屋の割り振りは決まったので、あとはダラダラしよう。

 そうアイリスが提案しようとしたとき。


 マリオンが遠慮がちに手を上げた。


「そ、その組み合わせだと、代わり映えがしないというか……せっかく旅行に来たんだから、もうちょっと変えない……?」


「のじゃ? たとえば、どういう組み合わせがいいんじゃ?」


「えっと……たとえば、私とアイリス……とか?」


「のじゃぁ……そんな回りくどいこと言わず、素直にアイリスと一緒の部屋がいいと言えばいいのじゃー」


「そうですよ。最初から言えばいいんです。どうして素直になれないんです?」


 と、シェリルが呆れたように言う。


「あらあら。うちの子は変な方向に育っちゃったわねぇ。まあ、いいんだけど。うふふ」


 ジェシカは何やら嬉しそうだ。


「あれー? マリオンがアイリスお姉ちゃんを捕っちゃうのー? ずるーい」


「イクリプスちゃん。いつもアイリス様と一緒なんですから、この町にいる間くらいは、変わってあげましょうよ」


「うーん。仕方ないなぁ。マリオン、アイリスお姉ちゃんのこと大好きだもんねー。じゃあ、いいよー」


「あ、ありがとう……!」


 マリオンは耳と頬を真っ赤にしながら言う。


「ちょ、ちょっと待って。私の意見を聞かないで勝手に話を進めないでよ!」


「んー? アイリスお姉ちゃん、嫌なのー?」


「い、嫌じゃないけど……うん、ぜんぜん嫌じゃないけど……」


「じゃあ、アイリスお姉ちゃんとマリオンがこの部屋ねー。私はどうしよー」


 イクリプスたちは再び部屋割りの話を始める。

 取り残されたアイリスとマリオンは、見つめ合い、なぜか黙ってしまう。


 マリオンの頬の赤みは、だんだん首まで下がってきた。

 おそらく、アイリスも同じように赤くなっている。


「えっと、じゃあ、よろしくね……」とマリオン。


「あ、うん。よろしく……」とアイリス。


「ぷにに」とプニガミ。


 友達同士が一緒の部屋に泊まるというだけなのに、なぜこうも緊張してしまうのか。

 アイリスは自分のことなのに、さっぱり分からなかった。

 もしかしたら風邪かもしれない。


「妾とジェシカ。イクリプスとシェリルで決定なのじゃ。決まったから町に遊びに行くのじゃー」


「あ、待って。私たち、もしかして風邪かも……」


 マリオンがモジモジしながら言う。


「のじゃ? 確かに顔が真っ赤なのじゃ!」


「大丈夫よ、ミュリエルちゃん。風邪じゃないから。たんに照れくさいだけよ」


「なるほどのぅ。流石は母親。ジェシカママは何でもお見通しなのじゃ」


「さぁさぁ。二人で楽しむのは夜にして、今は遊びに行きましょう。まずは晩ご飯です」


「ねーねー、シェリル。晩ご飯の前にチョコたべたーい」


「はい、どうぞ」


「わーい、もぐもぐ……おいしー」


 イクリプスはチョコを食べながら、シェリルと手をつないで部屋を出て行った。

 ミュリエルとジェシカもあとを追う。


「ぷにぷに!」


 アイリスとマリオンは、プニガミに背中をぷにぷに押され、自分たちの意思とは無関係に部屋から出てしまった。

 あまり強く押されたものだから、プニガミの上に尻餅をついてしまう。

 そのときアイリスとマリオンは、とっさに抱き合ってしまった。

 おかげで二人とも、顔だけでなく全身が真っ赤になった。


「ぷにぷーに! ぷににに!」


 プニガミが「ぼくは熱いのが苦手なんだ。二人とも体温が妙に高いよ! 座るな!」と怒っている。

 しかし、アイリスもマリオンも、自分の意思ではどうにもできなかったのである。

書籍版2巻の流通が始まったようです!

よろしくお願いします!

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