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64 スライム祭りのお誘い

「ねえねえ。家の前にこの子が転がってたんだけど、あなたたち心当たりあるかしらー?」


 のほほんとした女性の声が聞こえた。

 マリオンの母親のジェシカだ。

 彼女はピンクのスライムを両腕で抱え、教会の前まで登ってきた。


「あ、プニョバロン! 運んでいただいて、ありがとうございます!」


「あら、あなたのスライム? いい触り心地のスライムねー」


「そうですか!? 光栄です!」


「ぷにょん」


 プニョバロンはジェシカの腕から飛び降り、シンディーの前まで移動する。

 丘の下まで転がっていった割に、怪我はないようだ。

 もっとも、スライムの怪我が外から見て分かるかは不明だが。


「それで。スライムを引き連れているということは、あなたスライム使いね。プニガミちゃんに用事かしら?」


「ええ、はい。この村に色艶のいいスライムがいると聞いてやってきました。その色艶と、そして力が本物なら、スライム祭りにぜひ参加していただこうと思いまして! 結果は想像以上でした! ぜひともスライム祭りに来てください!」


「スライム祭りって確か、世界中のスライム使いが集まる、年に一回のお祭りよね」


「おお、ご存じでしたか!」


 シンディーは嬉しそうだ。

 この村でのスライム使いの認知度が低くて、不安になっていたのかもしれない。

 ジェシカが物知りでよかったよかった、とアイリスは我がことのように喜んだ。


「二千人を超えるスライム使いが、自慢のスライムを連れて集まるのです。楽しく語り合ってよし。激しく戦ってよし。見学するだけでもよし。とにかくスライムを愛する者にとってはビッグイベントなのです!」


「に、二千人……」


 アイリスは血の気が引いていく感覚を味わった。

 シンディーが一人来ただけでマリオンの後ろに隠れるくらい、知らない人が苦手なのに。

 一気に二千倍だ。

 しかも全員がスライム好きということは、話しかけられる可能性が高い。

 普通の町に行くより難易度が高いといえるだろう。

 無理だ。

 死んでしまうかもしれない。


「せ、せっかくだけど、私はちょっと――」


「ぷに! ぷにー!」


「え、プニガミは行きたいの……?」


「ぷにに!」


「そっか……仲間に会いたいんだ……」


 プニガミの立場になって考えれば、当然のことだ。

 プニガミはアイリスがこの教会に来るまで、涸れた井戸の底で干からびていた。

 復活したあとも、スライムの仲間とは会っていない。

 それがこうしてプニョバロンと出会い、更に二千匹以上の仲間と出会うチャンスがやってきた。


「ぐぬ……ぐぬぬ……二千人……でも、うぅ……分かったわ。行くわよ!」


「ちょっとアイリス、本当に大丈夫なの!? あんた緊張で死ぬわよ!」


「でもプニガミが行きたがってるし……プニガミは私の友達だし……!」


「ぷ、ぷにぃ……」


「だ、大丈夫よ、プニガミ! いくら私だって、緊張だけで死んだりしないから。多分」


「アイリス……あんたって子は……分かったわ! 私も一緒に行くわ。か、勘違いしないでよね。プニガミが心配なだけだから!」


「マリオン……ありがとう!」


「ど、どういたしまして……!」


 マリオンは真っ赤になり、カニ歩きでジェシカの後ろに隠れてしまった。

 そう照れられると、アイリスも照れくさくなってしまう。


「そういうことなら、妾も一緒に行くのじゃ!」


「私も行くー。チョコ沢山持って行かなきゃー」


「チョコは私が領主として責任をもって用意しましょう。スライム祭りがどんなものか分かりませんが、アイリス様とプニガミ様は、シルバーライト男爵領の代表ですからね! もちろん私も応援に行きますよ!」


「あら。それなら私も行くしかないわねー」


 ジェシカも乗り気になっている。

 皆が一緒なら、きっと大丈夫だ。アイリスはそう自分に言い聞かせる。


「スライム祭りに来ていただけるのですね!? 開催は一ヶ月後。場所はスラスラーンの町です! くわしいことはこのチラシを見てください! いやー、よかった。プニガミさんのようなスライムをスカウトできて、スライム四天王として鼻が高いです。今日は負けましたが、スライム祭りではこうは行きませんよ! では、さらばです!」


 シンディーはスライム四天王という新しい単語を残し、プニョバロンと共に去って行った。

 だが、アイリスは四天王などどうでもよかった。

 残りの一ヶ月。

 二千人という重圧に耐えるため、ひたすら精神統一しなければならないのだから。

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