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63 スライム相撲!

 外に出ると、雪がほとんど溶けていて、その下から草が顔を出している。

 芝生の上で二匹のスライムは見つめ合う。


「ぷにーん」


「ぷにょーん」


 お互いがんばろう、ということを言い合っている。

 さっき出会ったばかりなのに、随分と仲良しだ。

 スライム同士、気が合うのだろう。


 しかし、アイリスはシンディーとそこまで仲良くなれない。

 真正面に立つのが怖いので、マリオンの後ろに隠れて話しかけることにする。


「ほら。スライム相撲のルールを説明しなさいよ」


「私の後ろに隠れてるくせに、口だけは落ち着いてるわね……」


「いや、何かマリオンの後ろにいると落ち着くから……」


「そ、そうなんだ……!」


「うん……!」


 妙に照れくさい。アイリスは顔が熱くなるのを感じた。

 マリオンもそわそわしている。

 知らない人間がいるから、友達の後ろに隠れたほうが落ち着くと言っただけなのに。どうしてこんな空気になったのだろうか。不思議だ。


「ではスライム相撲の説明をしましょう……まずは、リング・オープン!」


 シンディーは叫び、両腕をバッと広げた。

 すると草むらの上に光が広がり、大きな円を描いた。

 直径はアイリス三人分くらいだ。

 魔法のようだが、そこから変化することなく、光の円はただ淡く光だけだった。


「……この円から何か出てくるとか、そういうのはないの?」


「え、出てくる!? そんな高度な魔法、使えませんよ! この円の内側がスライム相撲の舞台です! それ以上でもそれ以下でもありません!」


「あ、そうなんだ……」


「はい! ルールは単純! この円の中で二匹のスライムが押し合い、外に弾き出されたほうが負けです! 武器の使用は禁止! 外部からの手助けも禁止! それ以外は何をやってもOKです!」


「確かに単純ね。プニガミ、大丈夫?」


「ぷにー!」


「そう。じゃあ早速やってみましょう」


「ぷにん!」


 プニガミはやる気満々だ。

 闘志がみなぎっている。


「プニガミ、ファイトだよー」


「この村の代表として頑張るのじゃー」


 イクリプスとミュリエルが声援を送る。

 それを背に受けて、プニガミはリングの中に入った。


「プニョバロン、行くのです!」


「ぷにょん!」


 プニガミとプニョバロンは、リングの真ん中で睨み合う。

 一触即発だ。


「では誰か、スライム相撲開始の合図をお願いします!」


 そう言うシンディーが合図すればいいような気もするが、彼女はスライム相撲の当事者だ。第三者が合図したほうが公正ということなのだろう。


「マリオンが合図したら?」


「え!? 私はそういうの、恥ずかしいからパスするわ……」


「恥ずかしがることないでしょ」


「私の後ろに隠れてる奴に言われたくない!」


 それとこれは話が違う。

 アイリスは恥ずかしくて隠れているのではなく、人間が怖くて隠れているのだ。

 が、どちらにしても情けない話なので、説明するのはやめにした。


「では、領主の私が合図しましょう。スライム相撲、レディィィ、ゴーォォォォッ!」


 シェリルの威勢のいい合図と共に、二匹のスライムは激しくぶつかり合った。


「ぷにー!」


「ぷにょーん!」


 気合いの入ったかけ声が聞こえてくる。

 プニガミとプニョバロンの激しい体当たり!

 その反動でお互いが跳ね返る!

 再び激突!


 その連続した攻防を見てアイリスたちは手に汗を握る……こともなく、のんびりと見つめていた。


 何せ、どちらもスライム。とても柔らかい。

 どんなに力強くぶつかっても、ぷにぷにしているだけだ。


 ただ一人、シンディーだけは拳を握りしめ、血走った目でスライム相撲を凝視していた。


「行け、プニョバロン! 頑張れ、プニョバロン! そのまま押し出せ!」


 もの凄く気合いの入った応援だ。

 こんな平和な戦いで、どうしてそこまで興奮できるのだろうとアイリスは不思議に思う。

 だが、応援するのは大切だ。

 アイリスも頑張っているプニガミに声をかけることにした。


「プニガミー、負けるなー」


「ぷにー!」


 アイリスの声援に応え、プニガミはゴロゴロと転がり、今までにない速度でプニョバロンにぶつかった。


「ぷ、ぷにょーん!」


 プニョバロンはその衝撃でリングのギリギリまで吹き飛んでしまう。


「凄い! 応援の力って偉大なのね!」


「ぷにに!」


 プニガミは「力が沸いてくる!」と言っている。

 それならば、もっともっと応援してあげないと。


「くっ、私のプニョバロンを一方的に吹き飛ばすなんて……流石は私が見込んだスライムさん。その色艶は伊達ではなかったようですね! しかし……プニョバロン、魔法を使いなさい!」


「ぷにょぷにょーん!」


 プニョバロンの体が赤く発光する。

 それと同時に、握りこぶしほどの火の玉がプニガミへと放たれた。


「ぷに!? ぷににー!」


「プニガミ、大丈夫!?」


 火の玉はプニガミへと命中した。

 もともと熱いのが苦手なプニガミは悲鳴を上げ、地面をゴロゴロ転がり火を消す。


「魔法を使うなんて卑怯なのじゃ!」


「押し合いっこで戦うんじゃないのー? ズルはメーッなのー」


 ミュリエルとイクリプスは、シンディーを非難する。

 だが、向こうは涼しい顔だ。


「ズルではありません! さっき説明したでしょう。武器の使用と、外部からの手助けは禁止。それ以外は何をやってもOKと!」


「むむ、なるほど……スライム自身が魔法を使うなら反則じゃないのね……でも、これじゃプニガミに勝ち目はないわ!」


 アイリスは悔しくなり、マリオンの肩をつかんでガクガク揺らす。


「わ、私に八つ当たりしてどうするのよ!」


「ぐぬー! だってだって! このままじゃプニガミが負けちゃう!」


「だから私を揺らしたって意味ないってば! こら、ツインテールを引っ張るな……あっ、プニガミが危ない!」


「プニガミ、回避よ!」


「ぷにー!」


 プニガミは飛んできた火の玉を、素早い反復横跳びで避ける。

 しかしプニョバロンは次から次へと火の玉を飛ばしてくる。

 このままずっと回避し続けるのは難しいだろう。


「こうなったらプニガミ様も魔法を使うしかありませんね。プニョバロンさんが魔法を使ってるんです。同じスライムであるプニガミ様にできないはずありません!」


 シェリルが無茶を言い出す。


「そんなピンチだからって都合よく魔法を使えるようになるわけないでしょ! 魔法ってのはもっとこう、修行とかして覚えるものなのよ。きっと」


「アイリス様は修行して魔法を覚えたんですか?」


「いや……私は生まれたときから使えたけど……」


「あー、私もー」


 イクリプスが元気に手を上げる。


「妾も生まれたときから使えたのじゃ」


「私は……結構練習したけど」


 マリオンは言いにくそうに小さく呟く。


「ほら。修行なんかしなくても使えるんですよ」


「いや、私はしたってば! 無視しないで、シェリル!」


「ですが、三対一ですよ。マリオンさんは少数派。修行しなくても魔法を使えるようになる確率大です!」


「その統計、変よ……絶対に変よ……私のほうが普通だし……」


「マリオンさんがブツブツ呟いていますが、プニガミ様は無視して魔法を使っちゃってください。自分は絶対に魔法を使えると固く信じるんです! それで都合よく覚醒しますよ!」


「ぷ、ぷにー!」


 シェリルの適当極まる声援を聞きながら、プニガミは火の玉を避け続ける。

 だが、ついに回避しきれなくなり、直撃しそうになってしまった。


「プ、プニガミーッ!」


 アイリスは叫ぶ。

 その瞬間、プニガミの体から七色の光がほとばしった。


「ぷ、ぷにっ?」


 プニガミ自身も、何が起きたのか分からないようだ。

 しかし、その光は火の玉を打ち消してしまう。

 そう。それは魔力の輝き。

 アイリスが魔法を使ったのではない。

 イクリプスやミュリエルが何かした様子もない。

 プニガミの体から湧き上がった魔力なのだ。


「あの色、アイリスお姉ちゃんの魔力と同じ色だよー?」


「どういうことなのじゃ? プニガミに何が起きたのじゃー?」


「もしかして、あれじゃないですか? 毎晩アイリス様に抱きしめられたせいで寝汗を吸収し、ついでに魔力まで吸収してしまったんです。なにせアイリス様の魔力は、この辺一体の土地を豊かにするくらいですからね。くっついて寝てたら、魔法を使えるようになっても不思議ではありません!」


「アイリスの寝汗……それが染みこんだプニガミ……プニガミを舐めたってことは、アイリスを舐めたのと同じ? シンディー……なんて奴かしら!」


「んん? マリオンさんはアイリス様の寝汗を舐めたいんですか?」


「べ、別にそういうわけじゃないけど……!」


 シェリルの質問に、マリオンは目をそらしながら答える。

 ここでマリオンが頷いたらアイリスとしても困ってしまう。否定してくれてホッと一安心だ。


「七色の魔力!? まるで虹のような……しかし、いくら色が綺麗でも、強さとは関係ありません! プニョバロン、臆さずに攻撃を続けて!」


「ぷーにょ!」


 プニョバロンから火の玉が連続して発射された。

 だがプニガミはそれを避けようともせず、まっすぐ向かっていく。

 そして強烈な体当たり!


「ぷにょにょー!」


 プニョバロンはリングから押し出されただけでなく、ぷにょんぷにょんとバウンドしながら丘の下まで転がっていく。


「やったー! プニガミが勝ったわ!」


 アイリスはマリオンの背中から飛び出し、プニガミに抱きついた。


「ぷにっ!」


 どんなもんだい、とプニガミは誇らしげだ。

 実際に凄かったのだから、いくら勝ち誇ってもよい。

 アイリスは「偉い、偉い」とプニガミをなで回す。


「ああ……私のプニョバロンが……まさか火の玉を弾くほどの魔力を持っているなんて。やはり私の勘に狂いはありませんでした! アイリスさん! そしてプニガミさん! ぜひともスライム祭りに参加してください! あなたたちなら、きっとプニクイーンにも勝てるはずです!」


「スライム祭り……?」


「ぷにに?」


 シンディーが言うスライム祭りとは何なのか。

 プニクイーンとは誰なのか。

 アイリスは二度寝をしたいのだが、そのチャンスはあるのか。

 全ては謎に包まれている――。

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