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60 久しぶりの大魔王

 玉座に腰掛けた大魔王が、最近暇だなぁ、とため息をついていたら、珍しく部下がやってきた。


「大魔王様、お久しぶりです」


「ん……おお、開発主任! 本当に久しぶりだな!」


 彼はアイリスやイクリプスといった生物兵器を作った、魔族の老人だ。

 前に『今度こそ最強の生物兵器』とかいうのを作って以来、顔を見ていなかった。


「今まで何をしていたんだ? ああ、さては時間をかけてじっくりと新しい生物兵器を作っていたんだな。感心だなぁ」


「いえ、寒くなってきたので、家に閉じこもって孫と遊んでおりました」


「……そっか」


 真面目に働けと怒鳴ってやりたい大魔王だったが、寒くて城から動いていないのは自分も同じだし、孫と遊ぶなというのも老人には酷な話だ。

 だから怒鳴りたい気持ちをグッとこらえ、深呼吸する。


「それで開発主任よ。寒いのを我慢して、わざわざ城まで来たということは、何か報告したいことがあるからだろう?」


「はい。アイリス様とイクリプス様を捕獲、あるいは撃破する方法を思いついたのです。今度こそ確実です」


「うーん……お前の言う『確実』というのは、本来の意味からかなり遠いからなぁ……しかし余は寛大だから、話だけは聞いてやるぞ」


「そういう態度をとられると、不愉快です。帰らせて頂きます」


「おま、ちょ、待て! 余が悪かった。ぜひ聞きたいから教えてくれ」


「大魔王様。誰も遊びに来てくれなくて本当は暇だったのでしょう? あまり偉そうにしないほうがいいですぞ」


「うむ……余が間違っていた」


 そう答えつつ、なぜ大魔王の自分がこんなに下手に出ているのだろう、と釈然としないものを感じた。


「それで? 確実な方法とは何だ?」


「数です。戦いとは数で押すものなのです。今までは強力な一体を作ることに固執していたから、いつまで経っても成功しなかったのです」


「ほほう。かなりまともな意見だな。つまり生物兵器を何体も作って、一度にあの……何と言ったっけ? シルバーライト男爵領だっけ? そこに送り込むわけだな。いいアイデアだと思うぞ!」


「その通りです。流石は大魔王様、理解力がありますなぁ」


「はっはっは! 余を誰だと思っている。魔族の王、大魔王ベルベレスであるぞ!」


 褒められた大魔王は、嬉しくて高笑いした。

 開発主任も自慢げな表情をしている。


「よし。基本的な方針は分かった。それで何体送り込むんだ?」


「その前に、まずはシルバーライト男爵領の戦力を改めて分析しましょう。あの村で戦力と呼べるのは、まずアイリス様とイクリプス様です」


「うむ。ぶっちゃけ余よりも遙かに強い。あの二人が魔族の味方になってくれれば、人類など明日にでも根絶やしにできるのになぁ……」


「過ぎたことを嘆くのはやめましょう。それからドラゴンの親子です。巨体な上に、ドラゴンブレスは侮れません。シルバーライト男爵領で戦力と呼べるのは、この四つでしょう」


「改めて考えると、一つの村に戦力集中しすぎだなぁ。まずは他の場所から滅ぼしたほうがいいんじゃないか?」


「そんな弱気ではいけませんぞ。人類を滅ぼそうと思ったら、アイリス様とイクリプス様とはいずれぶつかります。ならば早めに片付けたほうが、安心できるというものです。それに上手くいけば、お二人がこちらに帰ってきてくれるかもしれません」


「なるほど。じゃあ、相手が四体だから、こっちは五体の生物兵器を送ればいいのか? あいつらがどんなに強くても、五方向から攻めたら、一カ所はどうしても手薄になるだろう」


「いえいえ、大魔王様。それは甘いです。そういう油断が敗北を招くのです。ここは念を入れて……六体送りましょう!」


「おお! それは確実だ! しかし大丈夫か? 六体も生物兵器を作れるのか?」


「そこはお任せを。孫と遊んで英気を養いました。それに今まで三体も生物兵器を作って、かなり慣れてきました。これまでより素早く作る自信があります」


「それは頼もしい!」


「まあ、素早く作る分、ちょっと手を抜きますが」


「……まあ、戦いは数だから。一体一体を頑張って作るより、そこそこの出来のを沢山作ったほうがいいんだろうなぁ」


「ええ、まったくその通り。というわけで私は今から作るので、完成を楽しみにしていてください!」


 そう言い残し、開発主任は玉座の間をあとにした。

 なぜだろうか。

 大魔王は不安を感じてしまった。

 いや、なぜもクソもない。

 今まで全て失敗しているのだから、不安にならないほうがどうかしている。


 しかし、四体の敵に六体の生物兵器をぶつけるのだから、きっと何とかなるだろう。

 多分。


        △


「のじゃあ。寒いときはやはり、オデンが一番なのじゃー」


「うふふ。ミュリエルちゃんのお口に合うみたいでよかったわ」


 ジェシカとマリオンの家に招待されたミュリエルは、食卓で熱々のオデンを食べ、幸せそうな顔をしていた。

 もちろん、招待されたのはミュリエルだけではない。

 アイリス、イクリプス、プニガミ、シェリル。


 そして――。


「まさかオデンを食べるためだけに隣の村に来ることになるとは思わなかったぜ」


 カニングハム子爵領の守護神ロシュもだ。

 オデンパーティーをやるからロシュちゃんも誘っていらっしゃい、というジェシカの一声で、女神三柱が向かえに行ったのだ。


「はふはふ……この村で採れた食材が少ないのは悲しいですが、出汁が染み込んでいて美味しいですねぇ」


 領主シェリルはダイコンをもぐもぐ食べる。

 彼女の言うように、この村の畑で採れたのは、まだジャガイモだけ。

 来年には小麦も採れる予定だが、しばらく先のことだ。

 あとは鶏と豚と牛も育てている。

 今日のオデンに使った鶏肉は、この村で育てた鶏だ。


「早くオデンの具を全てシルバーライト男爵領でまかなえるようにしたいものです。もぐもぐ」


「ねぇねぇ。オデンにチョコ入れちゃだめー?」


「駄目に決まってるでしょイクリプス。いくら何でも合わないわ」


 イクリプスの提案を、マリオンが即座に拒否した。


「えー、ものは試しだよぅ」


「試さなくても分かることってあるのよ。どうしてもって言うなら、チョコを口に入れた状態で、オデンの汁を飲んでみたらいいじゃない」


「分かった……ごくごく……合わなーい……」


「だから言ったじゃないの」


 苦い顔のイクリプスを見つめながら、マリオンはしたり顔で勝ち誇る。


「ぷにー」


 プニガミがアイリスの横に来て、オデンをおねだりした。


「待ってて。プニガミはどれを食べたいの?」


「ぷにに!」


「ちくわ? 分かったわ……それにしても、ちくわって野菜なの? 木になるのかしら?」


 アイリスはちくわを今日生まれて初めて見たので、珍しくて仕方がない。


「ん? アイリスはちくわを知らないのか? ちくわってのは魚のすり身で作るんだ。野菜じゃないぜ」


「あ、人が作ったんだ。ロシュ、あなた詳しいのね。ちくわマニア?」


「いや……マニアじゃなくても知ってるものだぜ……?」


「そっかー」


 アイリスは素直に感心し、深く頷く。


「ぷにぷに」


「ごめんごめん。はい、ちくわ」


「ぷにっ!」


「熱かった? そう言えばプニガミって猫舌だったわね。どこが舌か分からないけど……ふーふー……これでどう?」


「ぷにー!」


「まだ熱いの? じゃあ魔力で冷却っと。はい、どうぞ」


「ぷにー」


「美味しいけど熱いのはもっと美味しそうだって? じゃあ食べる?」


「ぷに!」


「そう……チャレンジャーね」


 アイリスはプニガミの望みを叶えるため、ちくわにフォークを刺して、プニガミの体に押し込んだ。


「ぷに!? ぷにににに!」


「わっわっ、そんなに暴れないでよ。熱いのがいいって言ったのはプニガミでしょ!」


「ぷにぃ……」


「ごめんなさい、私も言い過ぎたわ……でもやっぱり、プニガミは熱いオデンを食べられる体じゃないのね」


 魚が陸の上で生きられないように。

 鳥が海の中で生きられないように。

 スライムは熱々オデンを食べられるようにできていない。


「ごめんなさい、プニガミちゃん。あなたが猫舌だってことを忘れていたわ。今度、冷たくて美味しいものを作ってあげるから許してね」


「ぷにぷにぃ」


 謝るジェシカにプニガミは「気にしてないよ」と優しい言葉を送る。

 そうやって楽しいオデンパーティーを続けていると、水を差すように村へ接近してくる気配があった。


「六つ……六方向から何かが向かってくるわね」


「アイリスお姉ちゃん、これって生物兵器じゃないのー?」


「せ、生物兵器が六つもですか!? ど、どうしましょう! 領民たちをどこに避難させたら……あわわ」


「安心するのじゃシェリル。敵が六体。そしてこっちで戦えるのは……妾にアイリスにイクリプスにジェシカにマリオンに……そしてロシュ! 丁度六人じゃ。楽勝じゃろ」


「やれやれ。オデンパーティーの上に、戦わせられるはめになるとは」


「よいではないか。助け合いじゃ」


「まあ、いいけど。うちのオヤジがこの村に迷惑をかけたんだ。そのくらいは付き合ってやるさ」


 ロシュは渋々といった感じの台詞を言うが、口調そのものはまるで嫌そうではなかった。

 むしろ借りを返すチャンスが来て、嬉しそうですらある。


「もう! 楽しいオデンパーティーを邪魔するなんて、許せないわ!」


「お母さんが怒ってる!? ひぇぇ……敵が可哀想……」


「ぷにーぷにー!」


「プニガミはシェリルと一緒におするばんよ」


「ぷにぃ……」


「プニガミ様。皆さんが戦っている間に、私と一緒に熱々オデンを食べる練習をしましょう」


 そんなわけで、六体の敵を、六人で撃退することになった。

 その中にタコのような生物兵器が混じっていたので、切り裂いてオデンの具として追加してみた。

 最初は闇鍋のようなノリだったが、これがなかなか美味しかった。


「また生物兵器こないかなぁ」


 と、アイリスが空になった鍋を見ながら呟くと、


「次は牛の生物兵器がいいわ。ビーフシチューにしましょう」


 なんてジェシカが言い出した。

 考えてみれば、恐ろしい村である。


        △


「送り込んだタコ型の生物兵器。アイリス様が意気揚々と切り裂いて、食べてみようかな、とか言いながら持ち帰ったそうですぞ、大魔王様」


「すげーな、それ!」

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