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06 カツアゲに出くわす

 そして町に繰り出し、パジャマを買い、干し肉やチーズ、魚の燻製などの日持ちしそうな食料も買い込む。ついでに、荷物を入れるリュックサックも買う。


 道具屋でコミュニケーション能力に自信をつけたアイリスは、これらの買い物を次々と成功させていった。


 更に、美味しそうなクレープなる食べ物が売っていたので、買い食いしてみた。

 これだけ買っても、金貨一枚からお釣りが出た。


 凄い。

 エリキシル草、凄い。

 教会の周りにはまだまだ生えているのに。


「エリキシル草さえあれば……私、一生働かずに暮らしていけるわ!」


「ぷにー?」


 アイリスはその素晴らしさに戦慄するが、プニガミにはいまいち、その素晴らしさが伝わらなかったらしい。


「ふふふ、プニガミもまだまだね。ほら、おばさんにもらった飴玉あげるわ」


「ぷーに」


 プニガミの体に、飴玉を突っ込む。

 すると飴玉は、プニガミの体内でうにょんうにょんと動き、徐々に消化されていく。


「ぷにー!」


 プニガミは飴玉を気に入ったようだ。

 アイリスも飴玉を舐める。美味しい。

 飴くらいクリフォト大陸にもあったが、それは砂糖の塊のような大雑把な味だった。人間の世界にある飴のほうが美味しい。

 クレープなど絶品だった。

 人間を絶滅させたら、これら美味しい食べ物まで消えてしまう。

 やはり、絶滅は中止だ。


 今後の方針を決めたアイリスは、人気のない裏路地に行く。

 空を飛んで教会に帰るのだが、離陸するところを見られると騒ぎが起きそうなので、こっそりと飛び立つのだ。


 が、飛び立つ前に、背中から声をかけられてしまった。


「おい、ちょっとそこのお嬢ちゃん」


「ひゃあ、ごめんなさい!」


 アイリスは反射的に謝ってしまった。

 いくら買い物を円滑に行えるコミュ力を身につけたからといって、不意打ちに対応できるわけではないのである。


「……何を謝ってるんだ?」


 話しかけてきた男は、不思議そうな声を出す。


「い、いえ、別に……何となくよ!」


 本当に何となくなので、他に言いようがなかった。

 恥ずかしいのでダッシュで逃げ出したかったが、この町にはエリキシル草を売るため定期的に通うことになる。

 あまり変な噂が立たないよう、まともに対応しなければならない。

 これは難しいぞ、とアイリスは気合いを入れて、声の主へと振り返った。


 すると、そこには男が二人いた。

 丁度、大通りへ通じる道を塞ぐ形に並んでいる。


 一人は、筋骨隆々な大男。いかにも凶暴そうな顔をしている。何やら、アイリスに危害を加える気が満々のようだ。

 もう一人は、神経質そうな顔をした細身の男。なんと、さっきの道具屋にいた客だった。


「おい。こいつで間違いないのか?」


 大男は細身の男に問いかける。

 すると細身の男は頷き、ニタリと笑った。


「ええ、そうですぜアニキ。この小娘がエリキシル草を道具屋に売って、金貨十枚も稼いでやがったんです」


「そうか。じゃあ単刀直入にいくぜ、お嬢ちゃん。有り金を全て俺たちに渡しな。そして、エリキシル草をどこで手に入れたのかも教えてもらおうか。じゃなきゃ痛い目を見るぜ」


「そういうこった。言っておくが小娘。でかいスライムを従えているからって、いい気になるなよ? アニキはな、素手でミノタウロスを倒したこともある一流の冒険者だ。スライム如き、何匹いても関係ねぇぜ」


 早い話、彼らはカツアゲをしたいらしい。

 おそらく、細身の男が道具屋で偶然アイリスを見かけ、これはいいカモだと、自分のアニキに報告したのだろう。


「い、嫌よ……どうして、わ、私があなたたちに有り金渡さなきゃいけないの! それにエリキシル草の場所を教えちゃったら……私の分がなくなっちゃうじゃない!」


 カツアゲされるという人生初めての状況に、アイリスは緊張し、声が震えた。

 すると二人の男は嬉しそうに笑う。

 アイリスが怯えているので、金と情報を巻き上げられると思ったのかもしれない。

 だが、別にアイリスは二人を特別恐れているのではない。知らない人は全員怖いのだ。


「へへへ、声と肩を震わせて、可愛いじゃねーか。そのリュックに金が入ってるのか? ほら、よこしなよ」


 そう言って、大男がアイリスに詰め寄ってきた。


「い、いやぁ……」


 近くで見ると、大男の顔が脂ぎっているのが分かる。それに不細工だ。

 嫌だ、近づかないで欲しい。怖い。


「いやあああああああっ!」


 アイリスはたまらず、大男の顔面をグーで殴った。


「うぎょわぁぁぁっ!」


 すると大男は折れた歯を飛び散らせながら、ぴょーんと飛び、細身の男の隣まで戻っていった。


「ア、アニキぃ!?」


 細身の男は大男に駆け寄る。が、完全に気絶しているので返事はなかった。

 頼みの綱のアニキが一撃でやられたからだろう。細身の男の顔にはパニックが浮かんでいた。

 そんな哀れな彼に、アイリスは追い打ちをかける。


「いやぁぁっ、知らない人いやああああ! 来ないでえええええ!」


 別に細身の男はアイリスに近寄ってなどいない。むしろアイリスから踏み込んでいた。踏み込んで見事なストレートパンチを彼の頬に見舞った。

 やはり歯が折れ、鼻血を出しながら細身の男も気絶する。


 そこでアイリスはようやく正気に戻った。


「ひゃあ! 殴っちゃった! ご、ごめんなさい……でも、あなたたちが悪いんだからね! 謝らないわよ……!」


「ぷにー」


「え、私、もう謝ってる? あ、ほんとだ! どうしよう……とにかく、さよなら!」


 アイリスは気絶した二人をそのままにして、プニガミごと離陸し、教会に猛スピードで逃げ帰った。


 そして恐怖を忘れるため、買ってきた食料をむさぼり食い、眠くなったから新品のパジャマに着替えて寝る。


 寝て起きたら、殴り倒した二人の男のことなど忘れ去っていた。

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