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57 神の力、復活じゃ

「何と言うことだ……戦わずしてドラゴンが逃げていく……守護神アイリス……恐るべき力の持ち主……」


 飛んでいくジェシカとマリオンのお尻を見上げて、子爵は感心した声を上げた。

 もちろんアイリスの力で追い払ったのではなく、たんに彼女らが友達だからなのだが、誤解を解く必要もないので、アイリスたちは黙っていた。


「さあ、さあ。壺を割るのじゃ。怪しい壺は割るに限るのじゃ」


 ミュリエルは率先して館に入っていった。


「どれじゃー。どの壺を割ればよいのじゃー」


「ああ、ミュリエル様、困ります! 一階に飾ってあるのはどれも高価な品で……ガーシュ様より頂いた壺は地下室です!」


 子爵は慌てて館に飛び込んでいく。

 アイリスたちもその後を追いかけることにした。


 そして皆で地下室に潜っていく。

 子爵がロウソクに火を付けようとしていたが、アイリスが魔術で明かりを出したので、無用になった。


「おお、アイリス様はドラゴンを追い払えるだけでなく、明かりを出すことまでできるのですね……」


 子爵はすっかりアイリスの信者だ。


「こらこら、子爵。明かりくらいあたしでも出せるぜ?」


「妾もじゃー。力を取り戻せば妾もできるぞー」


 二人の守護神は口をとがらせる。


「というか、人間のボクでも明かりくらい出せますけど……」


 ケイティも遠慮がちに呟いた。

 それで子爵は自分が大げさすぎたと気がついたようで、黙って階段を降りていった。

 その先には、灰色の地下室があった。

 物置として使っているらしく、木箱とか樽とかガラス瓶などが並べておいてある。


 奥には鍵のついた扉があり、子爵いわく、そこにガーシュからもらった壺があるという。


「私の探知魔術でも、あの扉の奥から魔力が流れてきていると感じるわ」


「私もそう思うよー」


「子爵よ、早く開けるのじゃ!」


「か、かしこまりました」


 言われたとおり、子爵は鍵を開けた。

 その奥には、小さな部屋があった。

 人間が二人も寝そべれば埋まってしまいそうな面積しかない。


 そこに地味な壺が置いてあった。

 貴族のコレクションだと言われたら首を傾げてしまう。

 まして鍵付きの部屋で厳重に管理しておくような代物には見えない。


 だが、これこそが、天上世界とこちらの世界を繋ぐ、ガーシュの壺なのだ。


「のじゃぁぁ! 守護神パンチ! そして守護神キック!」


 ミュリエルは気合いの雄叫びと共に、拳を壺にぶつける。

 更にガシッガシッと蹴りまくる。

 それにより壺は粉々に砕け散った。

 どうやら、強度は普通の磁器と同じようだ。


「あー、魔力の流れが止まったよー」


「本当だ。ミュリエル、これで封印も解けたんじゃないの?」


「むむ……何となく力が湧いてくるような気がするのじゃ。試してみるのじゃ!」


 そう言ってミュリエルは、思いっきりジャンプした。

 結果、地下室の天井に頭をゴツンとぶつけて落ちてきた。


「おいおい、ミュリエル。封印が解けたからって、おバカ度まで二百年前に戻らなくてもいいんだぜ?」


 ロシュが呆れた声を出した。


「のじゃぁ……思ったよりも痛くないのじゃ。体が頑丈になったのじゃ。全身に力がみなぎるのじゃ! 神の力、復活じゃ!」


 ミュリエルは「のじゃのじゃ」言いながら、喜びのステップを踏む。


「よかったですね、ミュリエル様。神の復活に立ち会えて、神意大教団の一員として誇らしいです……」


 ケイティは涙ぐみ、本気で感動していた。

 神が天井に頭をぶつけるところを見て泣くほど感動するとは、神意大教団というのは変人の集団なのだろうか。

 まあ、ケイティが特別に変なだけかもしれないが。


「私もミュリエル様が復活なされて嬉しいです! これで名実ともに、シルバーライト男爵領は守護神三柱体勢! 凄い! 祈りがいがあります! ひゃっほう!」


 シェリルはテンション高く叫びながら、ケイティの手を取って踊り出す。


「ひゃ、ひゃっほう!?」


 ケイティは訳が分からなそうにしつつも、ミュリエル復活を祝う踊りならば、と一緒に踊った。


「やれやれ。そう言えば、昔のシルバーライト男爵も、底抜けに明るい一族だったぜ。守護神も領主も変わり者なんて、類は友を呼ぶって奴かな」


 ロシュが肩をすくめながら呟く。

 アイリスも同感だった。


「全くだわ」


「……アイリス。あんたもシルバーライト男爵領の守護神の一柱だぜ?」


「そうだけど……え、私も類友の一員だって言いたいの!?」


「アイリスの生い立ちを考えたら、かなり変わった神としか言い様がないと思うぜ?」


 ロシュはニヤリと笑う。


「ぷにに」


 プニガミがそれに頷いた。


 確かに、アイリスは魔族が作った生物兵器だ。しかも大魔王の血を引いている。

 それが巡り巡って、人間の村で守護神として崇められることになった。

 冷静に考えると変だ。

 しかし、ミュリエルよりは、まともだと思いたい。

 神としてどうということではなく、一人の存在として……普通、だと、思う。


「類は友ぉ! アイリスお姉ちゃんも私も、類友だよー」


「……イクリプス。あなた、それ意味を分かって言ってるの?」


「分かるよー。シルバーライト男爵領に住んでる人は、みんな友達ってことでしょー」


 イクリプスは、ほがらかに言う。

 反則的に可愛い笑顔だ。

 こんなイクリプスと類友扱いされるなら、むしろ名誉なことだ。


「ところで。この子爵はどうするのじゃぁ?」


 のじゃのじゃステップを終えたミュリエルは、地下室の隅で小さくなっていた子爵を指差した。

 その瞬間、彼はビクッと震える。


「うーん……子爵殿のご先祖様がやったことは許せませんが、今の子爵殿には関係ないことですからねぇ。別にどうもしなくていいんじゃないですか?」


 さっきは怒っていたシェリルだが、時間が経って冷静になったらしい。

 穏やかな口調になっていた。

 だが、この町の守護神ロシュが異論を挟む。


「いや。こいつは壺がなんなのか知っていた。つまりミュリエルを封印し続けるのに加担していたってことだぜ。ミュリエルが復活したら、ここのリンゴがまた脅かされると思っていたんじゃないのか?」


「それは……その……」


 図星だったようで、子爵は俯いてしまった。


「まあまあ。よいではないか、ロシュよ。時間はかかったが、妾は力を取り戻せた。妾が消えている間に、アイリスが土地を復活させてくれたし。イクリプスは可愛いし。結果オーライじゃ」


「そうか……まあ、シルバーライト男爵領の領主と守護神がいいって言うならいいのかな。あたしのオヤジが始めたことでもあるし、あたしは見抜けなかったし。それにあたしがもっと頼りになる守護神だったら、今までの子爵もあんな壺に頼らなかったはずだ」


「思い詰めてはいけないのじゃぁ。お隣同士なのじゃから、仲良くするのじゃ。ガーシュも当時の子爵もいないのじゃから、全て水に流すのじゃ!」


「……ありがとう、ミュリエル。あんたと友達でよかったぜ」


「のじゃ! ずっ友なのじゃ。そして類友なのじゃ」


「……類友かぁ」


「どうしてちょっと嫌そうなのじゃ!?」


 ミュリエルは心外そうに叫ぶ。

 アイリスたちはそれを見て、アハハと笑ってしまった。

 本当に見ていて飽きない神様だ。


 ミュリエルが守護神を務めていたかつてのシルバーライト男爵領は、きっと素晴らしい場所だったのだろう。

 もちろん今も素晴らしい場所だが、ミュリエルが力を取り戻したからには、更によいものになるに違いない。


「さて。守護神と領主がいつまでも留守にしているわけにもいかぬじゃろ。村に戻るとするぞ!」

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