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47 南まで飛んでいく

「「へーんしん! ぎゃおーん!」」


 早朝。

 ドラゴンの親子は、村はずれでドラゴン形態に変身し、咆哮を上げた。

 正確には、変身を解除してドラゴンに戻ったのだが……人間形態で活動する時間のほうが長いのだ。もはや人間形態こそ真の姿といえるかもしれない。


「寒い! 皮膚面積が大きくなったから、よけい風が冷たく感じるわぁ……!」


「アイリス、早くあたためてー!」


 ジェシカとマリオンはブルブル震え出す。

 体が大きいので、地面まで揺れ始めた。


「待ってて、今やるから。ギガ・インフェルノ・フレイム!」


 アイリスがマリオンに魔力を放ったと同時に、


「ギガ・インフェルノ・フレイムぅ」


 イクリプスはジェシカに魔力を放った。


「ああ……ポカポカしてきたわ。ありがとうイクリプスちゃん。アイリスちゃん」


「助かるわ。これがなきゃ、この場で冬眠しそうだったもの」


 ドラゴンの親子はホッとした声を出す。

 それに対し、領主のシェリルが腰に手を当て「困りますよ」と切り出した。


「こんなところでドラゴンが二匹も冬眠していたら、村人たちも気が気じゃないし、外から来た人が何事かと思うじゃないですか。討伐隊とか派遣されても知りませんよ」


「だってー、寒いと眠くなるんだものー。レッドドラゴン的には仕方のないことなのよー。ねえマリオン」


「そうね。こればっかりはどうにもならないわ」


 意地っ張りのマリオンですらそう言うのだから、努力とか根性でどうにかなる問題ではないのだろう。


「さあ、ドラゴンたちよ。守護神ミュリエルが命じる! 雪玉を運ぶのじゃぁ!」


「はいはい、言われなくてもやりますよっと」


「ふふ、じゃあ私はこっちの雪玉ね」


 ドラゴンの親子は翼を広げてバサッと飛び立ち、それぞれ雪玉の上に降り立った。

 そして四本の脚で雪玉をしっかりと掴み、再び羽ばたいて浮かびあがる。


「おお、本当に飛んだのじゃ! 凄いパワーじゃ!」


「すごーい! マリオンもジェシカもすごーい!」


 ミュリエルとイクリプスは感心した声を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。


「ふ、ふふ……これがドラゴンの実力よ……!」


 マリオンはとても嬉しそうだ。

 アイリスはついからかいたくなってしまった。


「褒められて嬉しいのは分かるけど、だからってそんな赤くならなくても……」


「レッドドラゴンだから元から赤いのよ!」


「律儀なツッコミ、ありがとう」


 いつも期待したとおりの反応をしてくれるマリオンは、大変ありがたい存在だ。

 会話していて安心感がある。

 これからも素直なマリオンでいて欲しい。


「そろそろ出発するのじゃー」


「ですね。水不足で困っている人たちのため、急ぎましょう!」


 というわけで、マリオンの背中にアイリス、シェリル、プニガミが。

 ジェシカの背中にイクリプス、ミュリエルが乗り込む。

 そして二つの雪玉とともに、ドラゴンの親子は高度を上げ、南に向かって飛び立った。


 目的地の名は、ワガカ村。

 ずっと南にある中規模の村だ。

 とある理由から、いつも水不足ぎみの村なのだが、今年は特に酷いらしい。


 シルバーライト男爵領からは結構な距離がある。

 しかし昨日地図で確認した限り、ドラゴンの飛行速度ならお昼頃には到着しそうだ。


「ほら、マリオン。ちょっとスピードが落ちたんじゃないの? 頑張りなさい」


「ぷにぷにー」


「ファイトですよ、マリオンさん!」


「あなたたちは背中に乗って応援しているだけだから楽でしょうけど……雪玉を持って飛ぶのって大変なのよ!?」


 マリオンはそう文句を言ってから「ぎゃおーん」と怒りの咆哮を上げた。


「うーん、じゃあ体力回復魔術をかけてあげる」


 アイリスはマリオンの背中に手をかざし、魔力をえいやっと流し込む。


「あ、なんか疲れが取れたわ! もっとやって!」


「えいやっ!」


「きたきた! 元気出てきた!」


 マリオンは出発したての時よりも元気に羽ばたき始める。


「あら凄い。ねえイクリプスちゃん。私にも同じのやってくれる?」


「いいよー。えーい」


「ああ……これいいわね。普段、お洗濯とか掃除しているときにやって欲しいわー」


「じゃあ、今度やってあげるねー」


「ありがとうイクリプスちゃん。うちの子にならない?」


「お母さんの子供は私だけぇぇ! っていうかお母さん年寄り臭い!」


「と、年寄り臭くないわよ!? ほらマリオンよりも素早い加速! まだまだお母さん若いんだから!」


 年寄り臭いというのはジェシカにとって禁句だったらしい。

 若さを証明するため、突風とともに加速。

 マリオンを置き去りにした。


「お母さん、速い!」


「ちょっとマリオン。負けちゃ駄目じゃないの」


「だ、だって相手はお母さんだもん!」


「だもん、じゃなくて。今こそ親を超えるとき! ほらほら、魔力流してあげるから」


「あーあー、流しすぎ! そんなにされたら……ああ、体が勝手にぃぃぃ!」


 マリオンは母親に勝るとも劣らない速度で一直線に飛行する。

 もの凄い風圧だ。


「うわぁ、うわぁっ!」


 シェリルが悲鳴を上げながら、アイリスの体にしがみつく。


「ぷにぃぃ!」


 プニガミも触手状に変形し、アイリスの腕や脚に絡みついて風圧と戦った。


「ふ、二人ともそんなところ触ったらくすぐったい……あひゃひゃひゃひゃ!」


 シェリルとプニガミに悪気はないのだろうが、我慢できないほどくすぐったかった。

 なので二人を肘で叩いて離れさせ、とりあえずマリオンの鱗に掴まらせておいた。


「ちょっとちょっと。あんまり鱗を強く握らないでよ。剥がれたらどうするのよ。血が出ちゃうじゃない」


「大丈夫。一時的に掴まらせておくだけだから。それに元々赤いんだから、血が出ても分からないわよ」


「誰も色の話なんかしてないでしょ!」


 ぎゃーぎゃーわめくマリオンを無視して、アイリスはシャボン玉のような丸い結界を作った。それで自分とプニガミとシェリルを包み込み、そしてマリオンの背中に固定する。


「もう鱗から手を放しても平気よ。風、感じないでしょ? 結界の膜があるから、落ちる心配もないし」


「おお、凄いですアイリス様! しかもこの結界、柔らかいです。体をぶつけても怪我をする心配がありませんね! まるでプニガミ様のような触り心地!」


「ぷにーぷにー」


 柔らかい結界に、柔らかいプニガミが体当たりした。

 お互いがぷにぷにしているので、相乗効果でより一層ぷにぷにした。


「私の背中で楽しそうなことしてるし……ズルイ! 私も混ざりたい!」


「今度、同じ結界を作ってあげるから、今日は飛ぶことに集中してね」


「うぅ……約束だからね!」


 マリオンはそう言いつつ、飛行する姿勢を安定させた。

 アイリスの魔力をドーピングして強引に加速させたのだが、その速度を制御するのに慣れてきたようだ。


 またジェシカのほうも、同じようにイクリプスの魔力を使って加速している。更に背中にシャボン玉状の結界があった。

 無論のこと、イクリプスとミュリエルが楽しげに遊んでいる。


「ねえ。何だかちょっとずつ暖かくなってきたわ。もうギガ・インフェルノ・フレイムを解除してもいいわよ」


 マリオンの言うとおり、眼下の地面には雪がなかった。

 それどころか夏のような鮮やかな緑が広がっている。

 カレンダーが逆戻りしたのかと錯覚してしまうほどだ。


「そうみたいね。じゃあ代わりに雪玉にギガ・コキュートス・ブリザードをかけて冷やしておくわ」


「……ちべたい! ギガ・インフェルノ・フレイムを解除したら雪玉がちべたい! ねえ、脚のとこだけもう一回かけて!」


「難しい注文をするのね……」


 アイリスはマリオンの四肢を暖めつつ、同時に雪玉を冷やすという面倒くさいことやるはめになった。

 まあ、それでも結界の膜をぷにんぷにんさせて遊ぶ余裕がある。

 複数の魔術を実行しつつ、更に他のことをやることくらい、アイリスにとっては朝飯前なのだ。


 そうやって、ぷにぷに遊びつつ南下していると、やがて海が見えてきた。


「凄いです! 透き通っています! 砂浜が白い! というか暑いですね! 私、コート脱いじゃいます!」


 シェリルが言うとおり、まるで夏のような気候だ。

 アイリスも少し汗ばんできた。

 ここは一つ、自分にもギガ・コキュートス・ブリザードをかけようかと思ったが、それよりもお手軽な涼み方があることに気付いた。


「こういうときはプニガミに抱きつくのが一番!」


「ぷにに?」


 プニガミの体はいつもひんやりしている。

 なにせ今年の夏は、プニガミをベッドにすることで猛暑をしのいだのだ。

 こんな『ちょっと暑いかな』くらいの気温、へっちゃらなのだ。


「あ、アイリス様、ズルイです。私もプニガミ様でひんやりさせていただきます」


「ぷにぷに」


 アイリスとシェリルに左右から抱きしめられたプニガミは、「何だか暑苦しいなぁ」とぼやく。


「ねえ、アイリス。海辺に村があるわよ。あれが目的地のワガカ村?」


 マリオンが首を下に向けながら尋ねてきた。


「多分……うっ、人がいる……」


「そりゃ村なんだから人がいるのは当たり前じゃない。何を言ってるのよ、もう」


「だって……知らない人、怖いもん」


「じゃあ、雪玉運ぶとか言わなきゃいいじゃないの」


「水不足って大変そうじゃない……放っておくことはできないわ」


「あんたって魔族なのに本当にお人好しね……じゃあ、あの村に降りるわよ?」


「ま、待って……心の準備が……空から雪玉落として、そのまま帰っちゃ駄目かしら?」


「駄目でしょ! 怪しすぎるわよ! 絶対パニックになるでしょ!」


「そうかなぁ?」


 そうに違いないとアイリスも分かっているのだが、ワガカ村に行きたくない一心で、分からない振りをした。


「というか、既にパニックになっているみたいですけど。ほら、皆さん、私たちを見て逃げ回っていますよ。事情を説明してあげないと、しばらく眠れない日々を過ごすかもしれません」


 シェリルが真面目な顔で言う。


「確かに、ドラゴンが二匹も村の上を旋回していたら、そうなるわね……うぅ、仕方ない……マリオン、村に降りてちょうだい……うぐっ、胃が痛い!」


「そんなに嫌なんだ……じゃあ、ゆっくり降りたらいい?」


「ゆっくりとかそんな残酷な! ひと思いにやって!」


「わ、分かったわ……!」


 マリオンは地面に向かって急降下する。

 それに続いてジェシカも一気に高度を落とした。

 すると村人たちが蜘蛛の子を散らしたように、四方八方へと走って逃げる。

 何も知らない彼らから見たら、巨大なドラゴンが二匹同時に襲いかかってきたようにしか見えないのだから、無理もない。

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