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04 その名はプニガミ

「ぷにー、ぷにー」


 アイリスはスライムの鳴き声で目を覚ました。

 まだ朝だった。


「ふぁぁ……こんなに寝たのにまだお日様が……え? 私、三日も寝てたの? ごめんなさい。あなたの体が気持ちよすぎて……ずっとベッドにされてて嫌だったでしょ」


「ぷにー」


 いちいち触れてスライムの思考を読み取るのも面倒なので、アイリスは常時発動型の翻訳魔術を組み立てた。

 これでスライムの言葉が自動的に翻訳されて聞こえる。


「ふむふむ……私を乗せたまま散歩とかしてたの。よく落ちなかったわね、私……」


「ぷにぷに」


「え? 三日も寝てたんだから、いい加減、風呂に入れって? そんなこと言われても、この教会ってお風呂あるのかしら?」


 アイリスは寝てばかりなので、周辺はおろか、教会の探索すらしていない。

 だが、スライムはアイリスが寝ている間に、ある程度、把握したらしい。


「ぷにー」


「お風呂がないのに入れって言ってたの? 無理言わないでよ」


「ぷにぷにー」


「自分が風呂になる? 何を言って……わ、わっ!」


 スライムに覆い被さっていたアイリスだが、突如、体がスライムの内側にめり込んでいった。

 そして全身が、ひんやりぷにぷにした感触に包まれる。

 今、アイリスは、頭だけをスライムから出し、それ以外の場所は完全に取り込まれていた。


「あー……やばい……何これ、気持ちいい……」


「ぷにぃー」


「あ、あ……そんな、的確にぷにぷにとマッサージされたら、私……」


「ぷにぷにぃー」


「洗われるー、洗われるー」


 スライムの内部でアイリスは、ぷにぷにされたり、むにむにされたりと、丹念に洗われた。

 まるで毛穴一つ一つまで綺麗になったのではというくらい洗われた。

 そして再びスライムの上に浮上する。


「ふぁぁ……気持ちよすぎて寝ちゃうところだった……」


 アイリスは夢見心地に呟く。


「しかも、全身スベスベになってるわ……凄い。生まれたてみたい。いや、私はこの前、生まれたばかりなんだけど……つまり生まれたてより凄い!」


 何かこう、自分の肌が輝いているように見えた。

 汚れなど一つもない。

 指先でなぞると、やみつきになりそうなほど触り心地がよかった。

 自分の体なのに!


「あなた、ベッドだけでなく、お風呂としても凄いのね。もう神ね!」


「ぷにー」


「今からあなたのこと、プニガミと呼ぶわ!」


「ぷにぷにー!」


 プニガミは、その名を気に入ったらしく、嬉しそうにぷにぷにと揺れ動いた。


「よしよし。さて、綺麗になったところで、もう一眠りしようかしら」


「ぷに!」


「え? 私に見せたい物がある?」


「ぷーに!」


 プニガミはアイリスを乗せて教会の外に飛び出した。

 そこには特に見るべきものがない荒れ地が広がっているはずだった。


 教会の周りも、丘の下にある廃村も、そしてその外側も。地平線の向こうまで広がる荒野。


 だが、三日ぶりに外に出ると、教会の周りに沢山の草が生えていた。


「芝生だ! え、何で? 何でか分からないけど、とりあえず転がってみるわ!」


 アイリスはプニガミから飛び降り、青々とした芝生の上をコロコロと全裸で転がった。


「ぷにー」


 プニガミも一緒に転がった。


「あははー、楽しいー。でも、どうしてたった三日でパサパサしていた土地が草むらになったのかしら? 私が地下水脈を復活させたせい?」


「ぷにー?」


「丘の下はまだ荒野みたいね。そのうち草原になったりするのかしら……あら?」


 アイリスは、草むらの中に奇妙な草を発見した。

 ほとんどの草は脚のすねくらいの高さしかない。

 だが、その草はアイリスの膝よりも高く、そして葉っぱが他の物よりも大きい。

 そういった見た目だけでなく、何とかすかに魔力を放っているのだ。

 目をこらすと、うっすらと虹色の光が見える。


「虹色ってことは、え、もしかして私の魔力? 私の魔力を吸っちゃった? 私が寝ている間に魔力を垂れ流したから草むらが広がったってこと?」


「ぷにに?」


 プニガミはよく分からないという風に鳴く。

 しかし、この草から虹色の魔力が出ているということは、それ以外に考えられない。

 集中して探ってみると、他の草からも微弱ながら魔力を感じ取れた。

 やはり、アイリスの魔力のせいでこうなったのだ。


「うーん……寝てるだけで荒野が草むらになっちゃうなんて……下手に移動できないわ。やっぱり引きこもるしかないわね!」


 引きこもる大義名分が見つかって、アイリスは上機嫌だった。


「それにしても、この草。これだけ魔力を持ってるってことは、何か効能とかありそう。薬草的な。売ったら、結構なお金になったりして……?」


「ぷーに?」


 どこに売りに行けばいいのか、そもそも本当に売れるのかは分からないが、アイリスはその草を摘み取ってみた。

 他にも同じような草がないかと教会の周りを探すと、結構な数が生えていた。

 とりあえず十本ほど採集しておく。


「どうせ元手はかかってないんだから、売れなくても損はしないわ。駄目で元々。でも、それを確かめるには、人間の町に行かなきゃいけないのよね……」


「ぷにー?」


「プニガミ。あなた、私の代わりに、この草が売れるかどうか試してくれない?」


「ぷに!」


 アイリスが頼むと、プニガミは気合いの入った声を返してくれた。

 が、どう考えても不可能だ。

 まず人間の言葉を話せない時点で、まさに話にならない。


「うぅ……やっぱり私がやるしかないのね……でも人間かぁ……なんて話しかけたらいいんだろう……怖いよぅ」


「ぷにぷに!」


「そ、そうよね! プニガミが一緒だもんね! 一人じゃ無理だけど、プニガミが一緒なら大丈夫よ! きっと!」


 魔族やモンスターとしか会話したことのないアイリスにとって、人間は未知の存在だ。

 同じ魔族同士でも長時間の会話は面倒なのに、人間と……考えただけでも緊張する。

 だが、プニガミがそばにいてくれるなら心強い。

 会話に詰まったら、プニガミの体内に引きこもって逃走すればよいのだ。


「よ、よぉうし! 人間の町に行っちゃうわよ! 人間なんて、こ、怖くないんだから! ちゃんと挨拶だってできるんだから! お天気の話だってしちゃうわよ……!」


「ぷにー!」


 プニガミは「その意気だ」と励ましてくれた。

 そしてアイリスは草を握りしめ、プニガミに飛び乗り、魔力で包んで、まるごと飛行させた。


 気合いを入れて人間の町を目指す。

 しかし、途中で自分が全裸であることに気づき、慌てて教会に引き返して服を着た。

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