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32 守護神ミュリエル

「のじゃー、のじゃー」


「ぷにー、ぷにー」


 自称守護神のミュリエルはプニガミを気に入ったようで、顔をうずめて幸せそうにしていた。

 しかしプニガミはアイリスとイクリプスの抱き枕だ。

 返してくれないと非常に困る。


「ねえ、ちょっと。いきなり出てきてベッドとプニガミを占領しないでよ。何者なのよ?」


「それは私とアイリスお姉ちゃんのベッドだよー? 私たちと一緒に寝るのー?」


 そう話しかけると、ミュリエルはプニガミから体を離し、ベッドからピョンと飛び降りてきた。


「いかんいかん! あのスライムが気持ちよすぎて我を見失っていたのじゃ! なんと高度な罠! 卑怯じゃぞ!」


「プニガミの抱き心地に中毒性があるのは認めるけど、別にあなたに対する罠じゃないわよ。言いがかりはよしてよ」


「そんなことより、私、もう眠いよー……皆で寝よう?」


 イクリプスは大きなあくびをした。


「そんなこととはなんじゃ! 妾の教会じゃぞ。勝手に住み着くでない!」


「そこら辺の詳しい話は明日聞くから、今日はもういいじゃない。ほら、こんなに可愛い子がおねむなのよ? 夜更かしさせて心苦しくないの?」


 アイリスはイクリプスの頭をなでながら、ミュリエルに問いかけた。

 イクリプスは今にも寝てしまいそうなとろんとした表情で、まぶたを手で擦っている。

 抱きしめたくなるほど可愛い。全く狙っておらず、天然の可愛らしさだというのだから凄い。


「むむ……確かに可愛いのじゃ。確かに夜更かしさせるのは酷というもの。分かった、今夜は寝るのじゃ」


「なかなか話せるじゃないの」


 というわけで、三人でプニガミを枕にして眠ることにした。

 そして次の日の朝。

 アイリスは「のじゃー、のじゃー」という声で目を覚ます。


「……なによぉ。まだ朝じゃないの」


「朝じゃから起きるのじゃ!」


「……? 朝とか睡眠の本番じゃないの」


「ええい、ふざけるな! ぐうたらにも程があるのじゃ。やはりお主のようなものには、この土地は任せられん! 成敗じゃ!」


 などと言って、ミュリエルはアイリスのおでこにチョップを落としてきた。


「あたっ! そんなことで私が起きるとでも思ってるの? 負けないわよ!」


 アイリスは布団の中に潜り込み、隣でまだ眠っていたイクリプスのお腹に顔をうずめた。 これで完璧な防御……と思いきや、敵もさるもの。

 布団を剥ぎ取り、イクリプスのことも退かしてしまった。


「ああ、布団が。イクリプスが。こうなったらプニガミを……」


「このスライムも退けるのじゃ!」


 ミュリエルはプニガミを床に放り捨てた。


「ぷ、ぷにに!?」


 寝ていたところを急に投げられたプニガミは、床で驚きの声を上げる。


「先手を取られてしまったわ……凄いのね、あなた。認めるわ。あなたがナンバーワンよ」


「むふふ。お主もなかなか潔いではないか」


「というわけで、おやすみ」


 アイリスはうつ伏せになり、二度寝しようとした。


「こらこら! 寝られたら、妾の苦労がなんだったのか分からないではないか!」


「じゃあ、あなたも一緒に寝る?」


「そんな選択肢はないのじゃ! 朝になったから起きるのじゃ! そして妾の話を聞くのじゃ!」


 ミュリエルは一生懸命、アイリスのパジャマを引っ張り、起こそうと頑張る。

 しかし。


「ぐぅ……」


「寝た!? よくこの状況で眠れるのじゃ、どういう神経しているのじゃ!」


 ミュリエルの声は涙交じりになっていた。

 実のところ、アイリスは狸寝入りしているだけなのだが、それを見抜く洞察力はないらしい。

 べそをかきながら起こそうとしてくるミュリエルが面白いので、アイリスはしばらく寝たふりをすることにした。


 しかし『寝たふり』のはずが本当に眠くなってきた。

 これはこのまま二度寝に突入するより他にない。


「……うーん、うるさいよぅ……朝からなに騒いでるのー?」


 アイリスが再び眠る寸前に、イクリプスの可愛い声が聞こえてきた。

 おかげで、アイリスの意識はかろうじて保たれた。


「こいつが起きてくれないのじゃー。お主の姉じゃろう? 何とかするのじゃー」


「アイリスお姉ちゃん。可哀想だよー。ミュリエルのお話、聞いてあげようよー」


「……仕方がないわね。イクリプスが言うなら、聞いてあげるわ」


 アイリスは観念して、上半身をむくりと起こした。


「な、なんじゃ、起きていたのか。性格の悪い奴じゃなぁ」


「性格は悪くないわ。寝起きが悪いだけよ」


「得意げに言うことではあるまい! まあ、とにかく起きているなら妾の話を聞くのじゃー!」


 そう叫び、ミュリエルはアイリスにしがみついてきた。


「うっとうしいわね……しがみつかなくても聞いてあげるわよ!」


「ありがたいのじゃ……って、なぜ妾がお主にありがたみを感じねばならぬのじゃ!」


「知らないわよ、そんなの。ほら、話したいことがあるなら早く言いなさい」


「う、うむ。まずは改めて自己紹介じゃ。妾はミュリエル。この土地の守護神じゃ! この教会で祭られていた神なのじゃ!」


「へー、そうなんだ」


「リアクションが薄いのじゃぁ」


「だって、昨日から守護神って名乗ってたじゃない。今更よ」


「そ、そうじゃったな……まあ、つまりこの教会は妾のものというわけじゃ」


「守護神というのが本当なら、そういうことになるわね」


「うむ、本当じゃぞ。そしてお主らは妾の教会に勝手に住み着いておる。しかも妾を差し置いて守護神に祭り上げられるなど……まかり通らん! よって出て行くのじゃ!」


「やだ」


 アイリスは即答した。


「のじゃぁぁ! こうなったらそのプニガミとかいうスライムを人質にしてやるのじゃ!」


 ミュリエルは目をつり上げ、床でぷにぷにしていたプニガミに飛びかかった。

 全体重を乗せてしがみつき、そして両腕と両足でガッチリホールドする。


「のわぁぁ、何という心地よさ。人質にするつもりが逆に囚われてしまったのじゃ! またしても罠に!」


「ぷに?」


「誰も罠なんかしかけてないってば。あなたが勝手にしがみついてるだけじゃないの」


「しかし、抗えぬ抱き心地なのじゃー」


 ミュリエルはプニガミの上で、怒っているのか喜んでいるのか分からない大声を上げた。

 それを見たイクリプスは、アイリスの袖を引っ張りながら呟く。


「ねえ、アイリスお姉ちゃん。もしかしてミュリエルって、シェリルよりも変な人なのー?」


「そうね、そうかもしれないわ……」


「どうしてこの辺には変な人が集まるんだろー?」


「さあ……シェリルが呼び寄せてるのかもしれないわね。類は友を呼ぶって言うし」


「ぷににー」


 プニガミは「アイリスも十分に変だし、シェリルを呼び寄せたのは多分アイリスだよ」なんて失礼なことを言い出した。

 全く自覚がない話ではなかったので、アイリスはプニガミの意見を黙殺し、ミュリエルをどうするかという問題だけを考えることにした。

次話からは四日に一度のペースで更新していきます。

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