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28 悪の会議

「イクリプスがアイリスのところに向かってから、一ヶ月が経ったな」


 大魔王は頬杖をついて玉座に座り、ふてくされた声を上げた。


「はい、大魔王様。そのようですな」


 すると開発主任は悪びれることもなく、淡々と答える。


「……なぜなんだ? お前、あれだけ自信たっぷりにイクリプスを押していただろうが。だから我は信じて送り出したんだ。それなのに……どうなったのか報告もないのか?」


「いえ。スパイからの報告が来ています。イクリプス様は、例の村の上空で、アイリス様と激しく戦ったそうです」


「ほう!」


 ようやく求めていた情報が出てきた。

 なにせ今までは、戦闘すらなかったのだ。

 魔族の想いを込めて送り出した生物兵器が、引きこもりニートになってしまったという悲しいお知らせしかなかった。


 結果はどうあれ、少なくともイクリプスにはやる気が感じられる。

 そこは積極的に評価していきたい。


「で、で? イクリプスは勝ったのか?」


「……負けたようです」


「そ、そうか……じゃあイクリプスはもう……」


「いえ。アイリス様に敗北したイクリプス様は、そのあとチョコレートで餌付けされ、村の者たちと仲良く暮らしているようです」


「は? はああああああッ!?」


 最悪の結果を聞いた大魔王は、恥も外聞もなく奇声を上げる。


「何でだよ、何でそうなるんだよ! おま、チョコレートで餌付けって、それアイリスより最悪だろうが! チョコレート一つで何でも言うこと聞いちゃうだろ! クリフォト大陸に攻め込んできたらどうするんだよ!」


「いや、全くですな……想定外です」


「想定しろよ! こっちがイクリプスを砂糖の塊で釣ってたんだからさ! もっと美味しいお菓子を出されたら寝返るだろ!」


「しかし、大魔王様もそういう指摘はしなかったではありませんか」


 もっともな反論をされ、大魔王は言葉に詰まる。


「そ、それは……あれだ。お前が何らかの対策をとっているだろうと信じていたのだ!」


「本当ですか?」


「ほ、本当だ……」


 もちろん嘘である。

 実のところ、開発主任と同じく、何も考えていなかった。

 しかし、そんなことを白状したら、大魔王としての威厳が失われてしまう。

 嘘をついてでも誤魔化すしかない。


「はあ、なるほど。流石は大魔王様。信頼を裏切ってしまい、申し訳ありませんでした」


 開発主任はそう冷ややかに言いながら、軽蔑するような目を向けてきた。

 これは嘘をついていることがバレている。

 正直に言ったほうがよかったかもしれない。

 だが、今更遅すぎる。


「あー、うん……それでだ。実際、本当にマズい状況なのではないか? アイリスだけでなくイクリプスまで人間に付いてしまった。正直、片方だけでもクリフォト大陸を滅ぼせるぞ」


「幸いにも、人間たちはクリフォト大陸に全く、これっぽちも価値を見いだしていないので、攻めてくる確率は低いでしょうな」


「悲しいなぁ!」


 しかし、クリフォト大陸は本当に荒れ果てた土地だ。

 そもそも海が荒れているから、船は近づくことすらできない。

 飛行魔術を使える者しか、出入りできないのだ。

 そんな土地、誰が欲しがるものか。

 だいたい、魔族は大陸だと言い張っているが、人間界の地図には島として載っていると聞く。

 それも昔からある、おとぎ話を元にして書き込まれているので、実際の場所とは異なっているし、形もかなり違う。

 ようするに、人間はクリフォト大陸も魔族も、どうでもいいと思っているのだ。


 だからこそ、目に物を見せてやらなければ! ギャフンと言わせなくては!


「大魔王様。悲しむことはありません。私は既に、アイリス様よりもイクリプス様よりも強い生物兵器を完成させております」


「ふーん……」


「露骨に聞き流さないでください。今度は本当に強いのですぞ!」


「そう言うが、お前の言動全てがうさんくさいからなぁ」


「あまりの言われように心が折れそうですが、頑張りますぞ!」


「分かった分かった。聞くだけ聞いてやる。聞いただけでは流石に害はないだろうからな」


 大魔王は開発主任のガッツに免じ、耳を傾けることにした。しかし、どうしても興味が湧いてこなかったので、ハナクソをほじりながらだ。


「よいですか、大魔王様。今までの生物兵器、つまりアイリス様とイクリプス様は、あなた様の遺伝子を元に作られました」


「うむ。今のところ我が最強の魔族だからな」


「私はそこに問題があったのではと考えました」


「うぉい! お前、我に対する敬意がなさすぎるだろ! 一応、大魔王だからな! 偉いんだからな!?」


「落ち着いてください。別に大魔王様のことをけなしているわけではありません。ただ、人間を滅ぼすのに使う生物兵器のベースにするには、ちょっと……いや、かなり頼りないなぁと思っただけです」


「我、泣いていいか? 咽び泣いていいか?」


「駄目です。うっとうしいので」


「おおーん」


 大魔王は泣いた。

 だが開発主任は無視して解説を続ける。


「そこで私は、大魔王様だけでなく、様々な魔族、様々なモンスターの遺伝子を組み合わせることにしました」


「……それで、どうなったんだ? またニートとか、お菓子に釣られて寝返るような奴になったのか?」


「いえいえ。今度こそ成功です。最強です」


「最強なのはいいが、ちゃんと言うことを聞くんだろうな?」


「いえ、全く。下手に話が通じるようにすると、また人間側に付いてしまうかもしれませんからな。一度解き放ったら目に映るもの全てを破壊する。まさに最強の生物兵器!」


「魔族まで殺されてしまうだろうが!」


「もちろん、魔族がいる場所では解き放ちません。まずはアイリス様たちがいる村まで運び、そこで解き放つのです」


「うーん……それだとアイリスとイクリプスを回収できないぞ?」


「致し方ありません。なぁに。ようは人間を滅ぼすことができればそれでいいのです」


「一つ疑問なんだが。お前の言うように、今回の生物兵器が最強で、アイリスとイクリプスを倒せて、人間も滅ぼせるとするだろ?」


「はい、何か問題が?」


「人間を滅ぼしたあと、その生物兵器はどう処理するんだ? そんな危ない奴が残っていたら、せっかく人間がいなくなっても、土地を利用できないじゃないか」


「それはですね……」


 指摘された開発主任は腕を組んで悩み出す。

 さては、何も考えていなかったらしい。


「これから更に強い生物兵器を作って、そいつに倒してもらいましょう!」


「その更に強い生物兵器ってのは、裏切らないし、話も通じるのか?」


「善処します」


「お前な、ほんとにな、いい加減にな、しろよな!」


「では、新しい生物兵器は使わない方針ですか?」


 開発主任に尋ねられた大魔王は、短い沈黙のあと、ためらいがちに答えた。


「……いや、使う」


「なんだ。散々、私のことをなじっておきながら、私が作った生物兵器がないと何にもできないではありませんか」


 開発主任は勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべて言った。


「だってさー。もうさー。アイリスとイクリプスみたいな強い奴らが敵になっちゃうしさー。人間は年々増えてるしさー。クリフォト大陸は狭いし土地が痩せてるしさー。もう全部まとめてぶっとばしたいよー」


 大魔王はヤケクソだった。

 やることなすこと全部駄目なので、世界中の者を破滅させてやりたいのだ。


「おお、何という暴力的な発想。破壊の権化。大魔王に相応しい思想です!」


 開発主任は何やら感銘を受けたらしい。

 おだてられた大魔王は、その気になってきた。


「そ、そうか? うむ、我もそういうつもりで言ったからな。というわけで、お前の作った新しい生物兵器をアイリスとイクリプスのいる村に送り込め! まずは裏切り者を倒すのだ。そして世界を炎で包むのだ! わはははは!」


「ぬははははは!」


 大魔王と開発主任は、二人で楽しく高笑いした。

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