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19 ドラゴン、村民になる

 アイリスのベッドに寝せておいたシェリルは、数分後にたわけた寝言を呟き始めた。


「うーん、むにゃむにゃ……アイリス様、今日も元気に全裸なんですねぇ……」


「どんな夢見てるのよ! ちゃんとパジャマ着てるし!」


 アイリスは自分の名誉のために抗議する。

 するとシェリルはむくりと起き上がり、現実に帰還した。


「おはようございます、アイリス様。今日は全裸ときどきパジャマですか?」


「うっさいわね! 当たってるから腹が立つわ!」


「ぷにー」


 プニガミは「僕はいつも全裸だから仲間だ」と意味の分からない慰め方をしてきた。

 スライムに全裸の心配をされるとは、アイリスもいよいよ落ちるところまで落ちてきた感がある。


「これも全部、マリオンが私の服を燃やしたのが悪いのよ!」


「な、何だと! あれは決闘だったんだから仕方がないだろ! すぐ燃える服を着てるほうが悪い! 言っておくが、私やお母さんが着ている服は、私たちの魔力で出来ているから。燃えても再生するんだ。どうだ、凄いだろう!」


 マリオンは小ぶりな胸をそらす。


「魔力で出来た服……その手があったか! 今度パクらせてもらうわ!」


「パクるな!」


「嫌よ! だって全裸になりたくないし!」


 マグマに使っても燃えないような服を作ろう。そうすれば全裸対策は完璧だ。


「まあ、アイリス様の全裸はどうてもいいとして……それで、えっと……さっき、そちらの方がドラゴンに変身したような気がするんですが……私の夢ですよね? ドラゴンがこんなところでアイリス様と仲良くコントしているはずないですよね……あはは」


「いや、ドラゴンだけど」


 そう言ってマリオンは、尻尾をうねうね動かして見せた。


「ひぇぇ……夢じゃなかった……食べないでくださぁい……」


「食べないわよ! ドラゴンのこと何だと思ってるの!? 言っておくけど、私はただお母さんを連れ戻しにきただけよ。すぐにいなくなるから安心して」


「はあ……するとこちらの方がお母さんですか」


 シェリルに見つめられたジェシカは、頬に手を当て、うふふと笑う。


「そうよー。私はジェシカ。そしてこの子はマリオン。親子でーす。アイリス様の従者になりまーす」


 そう自己紹介し、ジェシカはアイリスの頭を撫で始めた。


「お母さん! 私は従者になんかならないからね! お母さんのことも連れて帰るから!」


「そう言われても……じゃあドラゴンの里にアイリスちゃんも連れて行くしかないわね」


 ジェシカがそう呟いた瞬間、シェリルがベッドから勢いよく飛び降りた。


「それは許しませんよ! アイリス様はこの土地の守護神! アイリス様がいなくなったら、きっと恐ろしい厄災が降りかかります!」


 厄災というか、また荒野になってしまう可能性は高い。

 アイリスとしても、こんな素晴らしいベッドがある教会から移動するつもりはない。

 それに、今更シェリルを見捨てるのは、人でなしというものだろう。

 実際に人ではないのだが。


「へえ……アイリスちゃんは守護神として祭られてるんだぁ……じゃあ、やっぱり私がここに住むしかないわねー」


「お母さん! じゃあ私もお母さんが帰る気になるまで、ここに住むわ! アイリスが来る前だって住んでたし!」


 ドラゴン二匹だか二人だかは、勝手に話を進めていく。


「シェリル。領主的にはどうなの?」


「えっと……領民が増えるのは歓迎ですが……ドラゴンは……えっと、暴れたりしませんか?」


「暴れないわよー。実際、さっきだって湖で大人しくしてたじゃないのー」


「むむ、確かに。あれは気を遣ってくれていたんですね!」


「そうよー」


「なるほど、ではオッケーです!」


 シェリルはぐっと親指を立てた。


「そんな簡単に決めちゃっていいの……?」


 アイリスは流石に心配になってきた。


「いいんじゃないですか? ジェシカさんはいい人……じゃなくていいドラゴンっぽいですし。マリオンさんも、根は優しそうですし!」


「や、優しくなんかないし!」


 そう言ってマリオンは顔を赤くした。

 実に根が優しそうな表情だ。


「さて。お二人が住む場所は、とりあえずはテントを張って確保するとして……マリオンさんの角と尻尾を村の皆にどう説明しましょう……?」


 シェリルは顎に手を当てて考え込む。


「正直に『ドラゴンです』って自己紹介すればいいじゃないのー。誤魔化して、あとでバレたら、余計にややこしいわぁ」


「うーむ……しかしドラゴンが現れただけでパニックになっていたのに、一緒に住むとなると……何か、皆を納得させる材料が必要ですよ。例えば……アイリス様の強さと美しさと可愛らしさに屈服し、正義のドラゴンになった! とか」


「あらー。それ例えばの話じゃなくて、事実じゃないのー。私たち、現にアイリスちゃんに負けたんだものー」


「はっ! そうでした! そのエピソードを語れば、村の皆も納得してくれるはずです!」


「私、三百年も生きてるけど、人間と一緒に暮らすのは初めてだわー。楽しみー」


「えっ、そんなに綺麗なのに三百歳なんですか!? 美容の秘訣を教えてください!」


 シェリルは目を丸くする。


「秘訣なんてないわよー。たんにドラゴンの寿命が長いだけー」


「ということは、マリオンさんも私よりメッチャ年上だったり……?」


「いや。私は十五歳だけど」


「年下だった! ドラゴンってどういう成長の仕方なんですか!?」


「そうねぇ。二十歳くらいまではどんどん成長していって、そこからはものすごーく緩やかに老化していく感じかしら? 健康に気を遣えば、千年くらいは生きるわよー」


 つまり魔族と似たようなものである。


「千年ですかぁ……凄いですねぇ……」


 シェリルは『千』という数字の大きさに圧倒され、ピンと来ていない顔をしている。

 もっとも、アイリスとてピンと来ていない。

 おそらく、アイリスもそのくらい生きるはずだが、何せ、ついこないだ生まれたばかりなので、千年という時間がどういうものなのか皆目見当が付かない。


「さっそく村の皆のところに言って、私とマリオンが如何にしてアイリスちゃんに敗れ、そして忠誠を誓ったのかを語りましょー」


 ジェシカは、どことなく楽しそうだった。

 実は人間と交流するのが好きなのかもしれない。


「お母さん! 私、自分が負けた話するの嫌よ! 恥ずかしい!」


「私も……自分が話題にされるの恥ずかしいんだけど……」


 マリオンとアイリスはともに抗議する。


「そもそも、負けた話をするなんて、それこそドラゴンとしての誇りに傷が付くじゃないの! お母さん、いつも誇りを大切にしろって言ってたのに!」


「ええ、誇りは大切よ。だからこそ、よ。全てのモンスターにとって、仕えるべき魔族を見つけることは、最高の名誉なのよ。ね、プニガミちゃん」


「ぷにぷに!」


 プニガミは「そうだそうだ」と頷く。


「何よ、お母さんったら……そんなスライムと仲良くしちゃって……私はアイリスに負けたことを名誉なんて思わないからね! こんな、こんな……くっ、撫でたり抱きしめたくなる! 屈しないわよ!」


 マリオンは一人で赤くなったり震えたり身もだえしたり怒ったりと、実に忙しそうだった。

 これだけ感情豊かだと日常生活を送るだけで疲れそうだ。

 アイリスは、やはり自分には植物のような引きこもり生活が相応しいと再認識する。

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