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14 村が形になってきた

 月日が経つのは早いもので、シェリルが丘の下に村を作り始めてから、半月が過ぎた。

 暦は八月となる。


 木製の家が建ち並び、それなりの形になってきた。

 今は家を建てるより、畑を耕すことに忙しいらしい。


 そんな働き者の開拓民たちを丘の上から見ながら、アイリスはプニガミを椅子にしてぼけーっとしている。


 なにせ守護神に祭り上げられてしまったのだ。

 ならば見守らねばならぬだろう。

 直接手を貸すのは、かえって人間たちのためにならないと判断し、あえて何もしない。

 アイリスは決して怠けているのではないのだ。


「アイリス様、今日も暇そうですね」


 丘を駆け上ってきたシェリルは、アイリスの顔を見るなり失礼なことを言う。


「暇じゃないわよ。こうして開拓の状況を見守っているんじゃない。ああ、忙しい忙しい……」


「そうですか! アイリス様は働き者なんですね!」


「……ごめんなさい。嘘つきました」


「知ってまーす!」


 シェリルは屈託のない笑顔で言い放った。


「……あなた、信仰心がだんだん薄れてきたわね。最初はあんなに丁寧な対応だったのに……私、この地を離れて、別なところに行こうかしら」


 なんてアイリスが冗談を言うと、シェリルは青ざめた。


「ちょ、ちょ、ちょ! 謝ります! 雑な対応をしたのは謝りますから、どこにも行かないでください! 湖の水質はいいし、森の木は頑丈だし、その辺にキノコとか沢山生えてるし……これも全て、アイリス様の魔力のおかげに違いないのです! ほら、クッキーを持ってきたので! 美味しいですよー、ここにいれば色んなお菓子が出てきますよー」


 そう言ってシェリルは、いつものバスケットからクッキーを取り出し、アイリスの口に放り込んだ。


「もぐもぐ……」


「美味しいですか?」


「おいひい」


「よかったー。これでシルバーライト男爵領は安泰です!」


 シェリルはニコニコ笑って、アイリスの頬からクッキーの欠片を取り、ペロリと舐めた。


「ぷーに」


「はい、プニガミ様もクッキーをご所望ですね」


「ぷにぷに!」


「はい、どうぞ」


「ぷにー!」


 シェリルがクッキーをプニガミの体にずぶりと入れると、プニガミは嬉しそうにぷるぷる震え、あっという間に消化してしまった。

 体の色がクッキーと同じ、クリーム色に染まる。


「シェリル、よくプニガミの言葉が分かったわね」


「いえ、分かりませんけど、何となく。ぷにぷに具合を見ればプニガミ様が何を考えているか、想像つきます!」


「ぷにぷに具合……分かるような、分からないような」


「ぷにぃ?」


「あ、プニガミ様は今、もう一枚クッキーをちょうだいと言っています!」


「違うわよ。プニガミは『あの畑で何を育てるつもり?』って聞いたのよ」


「うーん……惜しかったですね……」


「惜しい要素ないし。何から何まで違うし。さっき当たったのって偶然でしょ」


「バレてしまいましたか……」


 しょせん、シェリルの勘などこの程度のものだった。


「ぷにぷに」


「で、何を育てるの?」


「ええっと、まずはジャガイモです。三ヶ月くらいで収穫できるので、今のうちに植えると、年内にシルバーライト男爵領産のジャガイモを食べられます!」


「へえ。楽しみ。他には?」


「ジャガイモの次は、小麦を植えます。秋に植えると、来年の今頃に収穫できるらしいのです」


「ふむふむ」


「あとキャベツとかトマトとかピーマンとか、色々育てたいです!」


「欲張りね……とりあえず小麦とジャガイモだけにしといたら?」


「はい。とりあえず今年はそのつもりです。アイリス様の魔力を吸った土地ですからね、きっと美味しい小麦とジャガイモになりますよ! 高く売れます!」


「そう上手くいくかしら?」


 最初からあれもこれもと手を出しすぎると、全て失敗する危険性が高い。

 特にシェリルにとって、領主一年目だ。

 アイリスが守護神役までしてやっているのだから、頑張って頂きたい。


「失敗してお金がなくなったら、またその辺のエリキシル草を売ってもいいわよ」


「ありがとうございます。しかし、エリキシル草にばかり頼るのも……それに売りすぎると市場価格が下落しちゃいますし」


「なるほど。もともと流通量が少ない物は、そういう心配もしなきゃいけないのね」


 アイリスは自分でエリキシル草を売りに行くときは、十本程度を適当に摘み取って町に運んでいた。

 しかし領地の運営資金にするなら、まさに桁違いのエリキシル草を売る必要がある。

 畑を作るのに失敗したら、領民たち全員の食料を買わなければならないのだ。


 それにシェリルは意外と壮大な夢を抱いている。

 以前、ワインを作りたいなんてことまで言っていた。

 色々と設備投資もしなければならないだろう。

 それらをエリキシル草だけで賄おうとしたら……確かに、市場価格が壊れてしまうかもしれない。


「すでに百本くらい売ってるもんね」


「はい。あれのおかげで、領民の皆さんの当面の食料とか、服とか、それから農具とか買えました。いやぁ、アイリス様にはいくら感謝してもしたりませんよー」


「私は別に……寝てたらエリキシル草が生えてきただけだし……それにしても……五十人くらいだっけ? よくあんなに人を集められたわね。コネとかあったの?」


「コネじゃないですよー。王都の酒場を回って、新しい村に住んでくれる人を探し歩いたんです。旅の傭兵でそろそろどこかに落ち着こうと考えている人とか、お家騒動で住む場所を失った人とか、とにかく新天地を求めている人とか、探せばいる者です!」


「……シェリル。あなた、かなり度胸あるのね」


「メイドは度胸が命ですから!」


 シェリルは澄まし顔で言って、胸をドンと叩く。


「いや、今のあなたはメイドじゃなくて領主じゃない?」


「は、そうでした! えへへ、まだ自覚が足りないみたいです」


 そう呟き、シェリルはぺろっと舌を出した。


「でも、その割には、計画的に領地を作ってるじゃないの」


「それは当然です。シルバーライト家は代々、領地を再開拓することになったらどうするかという妄想だけを糧に生きてきましたから! 妄想だけは万全です! あとは実行あるのみ!」


「そうなんだ……妄想が上手く現実になるといいわね……」


「それは心配無用です。私の妄想には、アイリス様のような可愛らしい守護神様や、プニガミ様のような眷属様はいませんでした。つまり現実のほうが妄想よりも都合いいのです!」


 そう言ってシェリルは、アイリスとプニガミを後ろから抱きしめ、草むらの上にゴロンと寝転んだ。


「ぷにー?」


「やれやれ。まさか私が領地運営なんかに巻き込まれるとは思わなかったわ……」


 などとアイリスは愚痴てみた。

 しかし、もはや、この地を離れるつもりは微塵もなかった。


 とはいえ、丘の下に行って、シェリル以外の人間たちと交流しようとは思わないが。

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