12 チョコレート美味しい
新しいベッドと布団が気持ちよすぎて、また三日連続で寝てしまった。
プニガミにぷにぷにと起こされたので目が覚めたが、それがなかったら永久に寝ていたかもしれない。
「う、うーん……おはようプニガミ……村ってもう完成したかしら?」
「ぷにぷに」
まだ作っている最中らしい。
まあ、たかが三日では完成しないだろう。
犬小屋じゃあるまいし。
「せっかく目が覚めたんだから、見物するわ。プニガミ、お願い」
「ぷにー」
アイリスはいつものようにプニガミの上に座る。
抱き枕とお風呂と脚を兼任する、働き者のスライムだ。
そんなプニガミは、ぷにぷにと可愛らしくアイリスを乗せて進み、教会の外に出る。
「あ、何か皆で作ってる」
丘の上から見下ろすと、シェリルが言っていたとおり、五十人ほどの人々が働いていた。
森の木を切って家を作ったり、囲いを作ってその中で牛を放牧したりしている。
それから、家が完成するまで住む用と思わしきテントも並んでいた。
「そっかー。森があるから、よそから木材を持ってこなくていいんだ。お手軽ー」
「ぷにー」
と、アイリスとプニガミが感心していると、シェリルが丘を登ってきた。
「アイリス様ぁ、プニガミ様ぁ! おはようございます!」
「おはようシェリル。もうお昼みたいだけど、おはようなの?」
「ええ。だってアイリス様は今起きたのでしょう?」
「……当たってるから反論できないわ」
「アイリス様のことはお見通しです。そして、これが約束していたお菓子……じゃじゃーん、固形チョコレート!」
シェリルはバスケットから、大きな葉っぱでくるまれた、板状の物体を取り出した。
そして、その葉っぱをバリバリと破ると、中から焦げ茶色の板が出てきた。
「板じゃん」
「ちっちっち。甘いですね、アイリス様。この板状チョコレートの如く甘いですよ。今、王都ではこれがブームなんです。ナウいんです。嘘だと思うなら食べてみてください!」
そう言ってシェリルは、板を半分に割って差し出してきた。
「ほんとにー?」
一応は受け取ったアイリスだが、半信半疑だ。
しかし、シェリルが毒を食べさせようとするはずもないので、思い切って食べてみた。
まずは一口。
「……甘い!」
「でしょう! 少し前までチョコは苦い食べ物だったんですけど、近頃、砂糖をドバドバ入れて甘くした物が現れて大ブーム。これが美味しいの太るので大騒ぎ! ホットチョコレートにしてもたまらない美味しさです!」
などと解説しながら、シェリルもバリバリ食べる。
負けじとアイリスも食べる。
あっという間になくなってしまった。
「ぷーに!」
「あ、ごめん……プニガミも食べたかったわよね……」
「ぷにぷに!」
プニガミはとても怒っている。
どうしようとアイリスがおろおろしていると、シェリルは不敵に笑い、バスケットに手を突っ込んだ。
「ま、まさか!」
「そう……こんなこともあろうかと、もう一枚持ってきました!」
「やったー!」
「ぷっにー!」
二枚目のチョコレートは、仲良く三等分して食べることする。
「あれ? プニガミ様ってどうやって食べるんですか?」
「適当に体に突っ込めばいいのよ」
「……突っ込むんですか?」
「そう。ぶすっと」
アイリスは三等分したチョコレートを受け取り、プニガミの体に腕ごと突っ込んだ。
「うわっ、グロ! アイリス様、なんとエグいことを!」
シェリルは失礼な悲鳴を上げる。
「グロくないし! エグくもないし! ひんやりして気持ちいいし! スライムだから大丈夫なのよ!」
「本当ですかぁ?」
「嘘だと思うなら、シェリルも腕を突っ込んでみなさいよ」
「はあ……では、ちょっとだけ」
シェリルは恐る恐るという感じで、指先をプニガミに近づける。
そして、ズブッと入れた。
「わっ、ひんやりしてます! そしてぷにぷにです!」
シェリルはそのまま腕を肘まで突っ込んだ。
「ぷにー」
「あれ、プニガミ様の体が私の腕にまとわりついて……ああ、何ですか、これ……き、気持ちいい……洗われるー洗われるー」
「凄いでしょ。プニガミは皮膚の汚れを取ってくれるのよ」
「凄すぎます。お風呂いらずじゃないですか! ほら、見てください。私、片腕だけツヤツヤになっちゃいましたよ!」
シェリルはプニガミから腕を抜き、袖をまくってかざして見せた。
太陽の光を反射し、光り輝いている。
「も、もしかして、アイリス様の肌がお美しいのは、プニガミ様のおかげ……?」
「まあ、そういう側面もあるわね……」
「ズルいです! 私もプニガミ様に全身を綺麗にしてもらいたいですよ!」
「プニガミがいいって言ったらいいんじゃない?」
「プニガミ様! お願いします!」
シェリルは必死な形相で頭を下げる。
「ぷにぷにー」
「チョコレートを食べてからならオッケーだって」
「やったぁぁっ、ありがとうございます!」
シェリルはぴょんぴょん跳びはねて喜ぶ。
高そうな絹のドレスなのに、まったく貴族らしさがない。
本当に領主としてやっていけるのか、アイリスは心配になってきた。
まあ、変に威張り散らしているよりはいいのかもしれない。
そんなことを考えつつ、アイリスは自分の分のチョコレートをバリバリ食べる。
シェリルもバリバリ。
やがてプニガミがチョコレートを消化し終わった。すると……変色していた。
さっきまで綺麗な青色だったのに。
今はチョコレートと同じ色になっている。
「シェリル。こ、これって……」
「はい……なんかこう……エンガチョって感じです!」
「ぷに?」
「ほら、シェリル。洗わなくていいのかってプニガミが聞いてるわよ。全裸になってプニガミに飛び込んで、全身くまなく洗ってもらいなさいよ!」
「いや、その、ありがたいのですが……プニガミ様の色が元に戻ってからにします! さようなら!」
シェリルはスカートを翻し、全力疾走で丘を下っていった。
「ぷにぃぃ!」
なんて失礼な奴だ、とプニガミは怒る。
だが、仕方がない。
この色のスライムに全身を包まれるのは、かなり嫌だ。
「ぷにぷに」
「え、代わりに私を洗うって? いやぁ、私も今度にしておくわ……」
「ぷにー!」
「わ、駄目よプニガミ……ああ、洗われるー洗われるー、服ごと洗われるー」