はじめまして、さようなら。
つい先程まで話していた妻の容態が急変し、私は動転した。
慌ててナースコールを連打し、激痛に顔を顰める妻の背中を摩ってやる。安らかだった吐息は獣のような荒々しさで口から吐き出され、酸素を漏らすまいと歯を食いしばっていた。額からは止め処なく脂汗が滲み、それを拭う余裕も無いのかひたすらベッドの柵を握り締め、ひたすら譫言を紡ぐ。
「い……い、たい……っ!痛いッ!」
「も、もうすぐ先生がいらっしゃるから」
鼻の穴から西瓜、男が体感したら死ぬ、後は何だったか。私の頭は痛みの形容ばかり探し、何の役にも立とうとしない。今この場において私は全くと言って良いほど無力だ。
「痛い、ねえ痛い、お腹、裂け、もう嫌、触らないで!」
「ご、ごめん」
ものすごい力で背中の手を叩き落とされ、思わず後退る。うっかり「頑張れ」などと言おうものなら殺されかねない。
「はい、どうしました?」
おざなりなノックと共に扉が開かれ、数人の看護師が入ってきた。助かった。今これほど白衣の天使だと思った事はない。
「急に痛がりだしたんです」
「陣痛が始まっていますね。すぐに分娩室へ」
狼狽える私と違って冷静な天使たちはすぐに簡易なベッドを持って来させた。暴れる妻を難なくいなしてそちらに移し、私に一礼してからベッドを押して行った。
静かな病棟に悲鳴とも唸り声ともとれる甲高い絶叫が木霊する。
「立ち会いますか?」
「……いえ、結構」
「そうですか。では後ほど」
最後に一人残った看護師に力無く首を振り、簡素なスツールに腰を降ろす。若めの女性看護師は一瞬ゴミを見るような目で私を捉え、すぐに事務的な笑みを浮かべて立ち去った。
扉が再び閉まると、途端に広がる静寂。
僅か数分の出来事だったはずだが、何時間も残業した時のような疲れに見舞われている。
『絶対に立ち会って。わたしが頑張るところ、ちゃんと見て応援して』
『わかったよ』
ああ、この(私からすれば)小さな口約束が反故になった事を彼女は延々と根に持つに違いない。
産前産後フォローの有無によってその後の結婚生活が決まると教えてくれた上司は、先々月離婚した。結婚観について熱く語っていた部長も、気づけば独身五十年目。
ため息をついてスーツの内ポケットを探る。すぐに馴染みの感触を探り当て、思わず取り出しかけたがやめた。ここは病院だ。
すっかり乱れたシーツの皺を何となく伸ばしながら独りごちる。
「子供か……」
およそ一般的な感覚を持った日本人が描く“普通”の人生の一コマ。私も妻も適齢期をやや過ぎてしまっていたが、概ね好調に消化していると言えるだろう。表向きは。
私と妻は所謂「見合婚」で、ざっくり言うと共通の知人が余り者同士を無理矢理くっつけただけである。これを逃せば次が無い(であろう)危機感と、独身者が軒並み左遷されていく恐怖に負けたようなものだ。とにかく生理的に問題無ければ容姿や性格、その他条件など後回し。妻も同じ気持ちだったと思う。
私たちは半ば義務的に交際を重ね、何の盛り上がりも感動もなく入籍した。全て妻に任せて行った式と披露宴はまるで見栄と虚飾の塊で、口に運ぶコース料理の無機質な味と金の主張といったら!“普通”を維持するためにどれだけ振り回されなければならないのかと自嘲したものである。さすがに海外旅行は拒否したが。
新婚生活はロボットのように同じ動作を繰り返し、妻の機嫌を損ねないよう努めた。
『結婚記念日にはプレゼントを頂戴』
と言われればすぐに献上し、
『土日くらい家事を手伝ってよ』
不満を露わにする事なく従い、
『せめて一人くらい子供を作らないと、世間体が悪いわ』
とても重大な決断が必要だったとしても逆らわずにいた。
その結果がこれだ。私は今の今に至っても父親になる自覚が無い。軋轢を避け“普通”を望んだ自尊心に父性は宿らず、それどころか少しばかり億劫な気さえしてきた。絵に描いたような恋愛結婚だったらまた違っていたのだろうか。
私と彼女の遺伝子を組み合わせて産まれてくる子供。容姿は地味で、きっと性格もパッとしない。妥協に妥協を重ね、やっと結婚という餌にありつけたような夫婦の血はどう間違っても鷹を産まないだろう。
何だか病室にいるのも嫌になって廊下へ出る。元々このアルコール臭が受け付けないのだ。
風にあたるついでに一服しようと屋上へ向かう。どうせ産まれるまでまだ数時間はかかる。既に立ち会い拒否したのだから、これ以上罪を重ねても一緒だ。幸せそうな夫婦を横目にエレベーターに乗り込む。
昇っているはずが、何故か落ちていくような気がした。
◇◆◇
『これを貴方が読んでいるという事は、私がこの世からいなくなって二十年が経過したのでしょう。』
ありきたりな書き出しから始まるその手紙を、無表情な母親から渡された僕はある種の感動を覚えた。すごい。初めて父親から貰った贈り物が遺書なんて。
僕が産まれたその日に父親は自殺したらしい。“らしい”というのは詳細を教えてもらえなかったからだ。
口紅を塗りたくった母親の萎びた分厚い唇を通して語られる父親はいつも悪辣で、そんな極悪非道人間が一体どんな罵詈雑言を息子に託したのかと、それはもう丁寧に読み始めた。
『これから書き上げる想いは貴方にとって不愉快かもしれませんし、この手紙そのものが不要だと思ったらいつでも処分してください。』
随分腰の低い文章だ。母に難癖つけて暴力を振るった“らしい”男が書いたとは信じられない。
『私は凡庸でした。顔立ちは地味で身長も平均値、学校の成績も常に真ん中をうろうろしていたと思います。当然、妻──貴方のお母さんに会うまで恋人すらいた事がありませんでした。』
今の僕と酷似している。母は僕が成長するにつれ、お前の性格はあの人にそっくりねと苦々しく言った。普段は全く僕に興味を示さないくせに、父の話題に関してはむしろ積極的に母は話しかけてきた。
中学生の頃は父親を感じ取れる嬉しさと、庇護者に嫌われたくない二つの心が綯い交ぜとなって煩悶したが、今となってはどうでも良い。
『何となく地元の大学を卒業して上京し、適当な中小企業に就職して十四年。知人の紹介でお母さんと知り合い、結婚しました。』
性悪さから女性に嫌われ、誰にも相手にされなかった父親を母が仕方なく貰ってあげたんだとか。重度の酒乱にヘビースモーカーでお手上げ状態だったとか。
『それから貴方が産まれるわけですが、はっきり言いましょう。私は父親失格です。』
「何て気味の悪い勘違い男」
どきりとした。いつの間にか母が隣に立って手紙を覗き込んでいる。僕に渡したからにはとっくに検閲済みのはずだが、それでも他人に読まれるのは気まずい。手いっぱいに広げていた便箋を心なしか丸め、身を縮ませながら続きを読んだ。
◇◆◇
腹の具合から考えて、今は二十時頃だろうか。そういえば昼に弁当を食べたきりだったと思い出す。
申し訳程度に花壇の置かれた屋上は酷く殺風景で、一度も清掃された形跡が無かった。今度こそ内ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。純白の巻紙に焦げが付着し、中央に橙が灯った。徐々に徐々に侵食していく焦げは残骸を煙となって吐き出し、充足を知らない貪欲さで胃を満たす。束の間の気晴らしには大き過ぎる代償を健康で支払いながら喫する脂は作り物の味がした。
「……」
喫煙場所も年々減っている。この病院は“寛大”な方だ。尤も、存在自体を失念していそうだが。
いつから咥え始めたのかも思い出せないほどしっくりくるフィルターに愛おしさを覚え、じっくりと堪能する。子供を建前に禁じられる筆頭こそ、私の本音を吐き出せるのに。
秋と冬の境に立つ肌寒い夜は重い。私は寒い季節が嫌いだ。人は衣服を纏う毎に冷たくなる気がする。“普通”のカテゴリーから外れた人間を弾き、寄せ付けようとしない。もし私が独身を貫いていたら、きっと零れ落ちそうなほどの星空が拝めていたに違いない。自然の美しさが取り柄の、穏やかな「僻地」に。
便利さと醜悪を詰め込んだような都心にしがみつくのは、世間体のため。地方から上京して失敗した同級生たちは皆、故郷で肩身の狭い思いをしているという。帰属意識の強い田舎に於いて半端に都会の空気を吸った者は異端だ。私だって二度と実家に帰ろうとは思わない。盆や年末年始だって仕事を理由に遠ざけている。
両親も私が“普通”に暮らしている間は無言を貫くだろう。ああ、だけど子供が産まれたらそうもいかないな。“普通”の息子なら孫の顔くらい見せるから。
厄介だな、と思った。
半分ほど同じ血を引いた人間が一人この世に生まれるくらいで失う物が多過ぎる。煙草に限らず、趣味で集めた食玩もトレーディングカードも全部捨てられるのだろう。趣味に充てていた部屋を子供部屋に造り替えるからだ。妻が欲しいと望んだから応じただけで、私自身は微妙な心持ちだった。後からぐちぐち言っても仕方ない話なのだが、この夜風に吹かれていると妙に頭が冴えてくる。
昇進はするだろう。世間体だって守られる。だが、それだけだ。
きっと乳幼児期の世話は大変だろうし、金もかかる。妻の事だから土日は家事も育児も私に丸投げするに違いない。平日は会社でこき使われ、土日は家でこき使われる。大して可愛くもない子供のために頑張れる親などいない。皆が皆自分の子供を本当に可愛いと思っているなら、もう少し虐待事件だって減るはずだ。浅薄な考えかもしれないが。
私は一体何のために“普通”に執着してきたのだろう。他人の評判ばかりを気にして居場所を守る事に固執し、勝ち取った末の褒美がこれなのか。だとしたら私の人生はこの小汚い屋上に似ている。夢も希望も無く平凡にしがみつくだけの、簡単に忘れ去られる存在。俳優っぽくニヒルに笑ってみたところで口の端が痛いだけだった。そういえば最後に心底笑い転げたのはいつだったか。これからはもっと笑わなくなっていくのだ。人生の主役から引きずり落とされ、代わりに子供が笑うのだから。私は金と手だけ繋げば良い。
それから数時間経って辺りが明るくなってきた頃、ポケットが震えた。気を利かせた看護師が出産の終わりを知らせてくれたのだろう。それとも、痺れを切らした妻が連絡するように要請したか。煙草が入っている方とは反対のポケットからスマートフォンを取り出し、応答する。
「はい」
『おめでとうございます。母子共に健康です』
「ああ、そうですか。わかりました。すぐ行きます」
ディスプレイに表示されていた番号は妻のものだった。どうやら後者のようだ。無事鼻の穴から西瓜をひり出せたらしい。思考の時間は終わりだ。
一際白い煙を吐き出す。入口に備え付けの古びた灰皿スタンドに吸殻を押し付け、ついでに煙草の箱ごと捩じ込んだ。最後の晩餐にしては惨めな場所だったが、仕方ない。さようなら。
扉を開けて再びエレベーターに乗り込む。深夜というのも相俟ってか、誰も使用していなかったためすぐに利用出来た。安物の蛍光灯がチカチカと点滅し、どこからか忍び込んだ蛾を誘う。私は三階のボタンを押して壁に凭れた。今度こそ本当に落ちていく。
気分が悪い。叶うならずっと屋上の冷気を吸い込んでいたい。この病院は魔窟のように清潔な臭いがする。どこもかしこもぼろぼろで、安さと立地だけが取り柄なのに。
ポケットが再度震えた。今度は着信ではなく、両親からのメッセージ。読まなくても大体察しがつく。今頃近所に吹聴して周る言い回しでも考えているのだろう。義両親だってそうに違いない。慶事の押し売りは積極的にしなければ伝わらない。悪事は秘めても隠し切れないというのに。せめて返事は後回しにしようと電源を切った。もう朝の六時だ。
チン、と耳障りな音と共にエレベーターから吐き出される。
我が子に会える喜びや緊張は微塵も無い。ただ機械的に足を運ぶだけだ。リノリウムの床を革靴で踏み鳴らし、分娩室を目指す。狭い病棟だからすぐに見つかった。
私を待ちかねていたらしい看護師が手を振る。
「元気な男の子ですよ。さあ、こちらへ」
促されるまま部屋に入り、むっとしたぬるさと独特の臭いにえづきそうになった。何だこの不快感は。
大きな分娩台には疲れ果てた様子の妻が横たわっており、尋常ではない汗で髪の毛がくっついてしまっている。派手に暴れたせいか辺りは少し散らかっていて、私は自分が男である事に感謝した。
何と声をかけようか考えあぐねていると、私に気づいた妻がこちらを睨む。
「遅いよ」
不満を隠そうともせず詰ってくる。予想以上に機嫌が悪い。──どうせ立ち会ったところで私には何も出来ないのに。今まで散々命令を聞いてきたのだから、こういう時くらい許してくれたっていいんじゃないのか。今日だってわざわざ有給を取得して側にいたんだぞ。
だが思っている事と言う言葉はいつも正反対で、
「ごめん」
「……煙草の臭いがする。わたしが必死で頑張ってる間、あなた何してたの」
「ごめんな」
「最低。金輪際煙草吸わないで」
「わかった。本当にすまない」
とにかく私が子供と対面したのはひとしきり妻に謝罪してからだった。
小さな籠のようなものに入れられた“彼”は人間とは思えないほど醜く、ちっぽけな存在に見える。くしゃくしゃで真っ赤な顔と手足はエイリアンのように不気味だ。気持ち悪い。毛布に包まれて隠れている胴体もきっとみすぼらしく貧相なのだろう。目もろくに開いていないから潰れた鼻と薄い唇も相俟って顔に三本線が引いてあるようにしか見えない。私が言うのも何だが、この子は絶対容姿で苦労する。
皆こんなモノを可愛い可愛いなんて、正気か?
「二千八百グラムだって」
私は“これ”に、人生の主役を譲らなければならないのか?煙草を手放し、食玩を捨て、トレーディングカードを売り捌き、残りの余暇を全て捧げる結果が“これ”なのか?時折ふにゃあと奇怪染みた喃語を発し、もぞもぞと横たわる化け物が?
嬉しそうに笑う妻が白々しい。
「名前はどうしよう。わたしがつけてもいいかな」
私が自らを抑制してまで手に入れたかった“普通”は、こんなものではない。地味ながらも恋愛結婚をして、お互いを思いやりながら自然なタイミングで子供を授かって、男の子だったら一緒に食玩を集めて、女の子だったら可愛い洋服を着せてあげて、妻とも良好な関係を築き、そして、そして────。
「お義父さんとお義母さんにも知らせなくっちゃ。連絡しておいてね」
要らない。
「兄さんからメッセージきた。すぐに来てくれるって」
こんなもの、要らない。
「兄さんとこの子供も歳近いから遊んでくれそうね」
私は失敗した。他人と同じ道を歩んでいるように見えて、その道は汚い獣道だったのだ。
あの時無理に結婚しなければ左遷はされても暮らしていけた。中途半端な見栄を張らずに僻地でも何でも飛べば良かった。独りでなら充分に生きていけるだけの給料を貰えるのだから。大手でも無い中堅の会社で少しばかりの昇進が何だと言うのだ。結婚式で嫌味な上司は何と言っていた?余り者同士の妥協夫婦だ。騒々しい式場内で密かに零された陰口を、私は一生忘れない。
「ねえ、聞いてるの?」
無効だ。
こんな事があってはいけない。
急にあの、寂れた屋上で嗅いだ冷たい空気が頭に染みた。私を辛うじて繋ぎ止めていた薄っぺらい意識がある意志を以て粉砕される。
「聞いてるよ。お義兄さんが来るんだよね」
「ええ……」
土地も金も何もかも全部くれてやる。
その代わり、私は降りた。くだらない茶番に付き合うのはここまでだ。思春期に迎えた反抗期以来の自分勝手で私は“普通”をやめよう。
籠の中の、まだ名前すら持たない主役が立派に跡を継いでくれる。生まれてきてくれた事に心の底から感謝しなければ。せめてもの手向けに餞別を贈ろう。
「父さんと母さんに電話してくる」
「わかった」
にこりと微笑んだ私に妻も笑いながら頷いた。
そっと部屋を出て、廊下のゴミ箱にスマートフォンを投げ捨てる。
辿り着いた病室で迷わずに手に取ったのは、メモ帳とボールペン。
『これを貴方が読んでいるという事は、私がこの世からいなくなって二十年が経過したのでしょう。』
下書きなど必要ない。書きたい言葉は山のようにある。冴え渡った頭ならきっと文章もまとめられるし、何より今は気分が良い。
手紙を。
あの醜く無力で哀れな生命体に。
◇◆◇
『……私が初めて貴方を見た時、それは天啓でした。これまで当たり前のようにこびりついていた世間体というものが急に馬鹿馬鹿しく薄ら寒いものに感じ、それ以上の続投を辞めたのです。私は生き物として最低限子孫を残す事に成功しました。同時に逆転不可能の大博打に失敗もしました。私の勝ち取った“普通”は、果たして他人のそれとは違っていたのです。何故なら──……』
遺書の内容は不思議なもので、僕がいかに「世間」に望まれ「彼」から疎まれていたのかを述べていた。自己を卑下する割に達観したような調子で淡々と進む。
父は本当に母が言うような人間だったのだろうか。
「……ねえ、母さん」
「教えてあげようか。この人ね、病院の屋上から飛び降りたの」
母は楽しそうに笑っている。悪役が死んで清々したというよりは、むしろ邪魔者がいなくなって喜ぶ悪役のような。
「わたし宛の遺書もあったんだけどね、財産全部あげるから先立つ不孝をお許しください、だって。無責任もいいとこよね。薄給だったのに」
そういえば我が家は母子家庭ながら金銭面で苦労した事は無かった。母はいつもブランド品で身を固めていたし、僕を私立大学付属の幼稚園へ行かせようとした。父の遺した財産はそんなに莫大だったのだろうか。けれどはっきり「薄給」と言っている。祖父母は父方、母方共に中流だから多大な援助も見込めない。よくよく考えればおかしい点はいくつもあった。
「お前があの人と同じ性格に育った時は心底驚いた。呪いかとも思った」
何を言われているのかよくわからない。
自分でも顔は母親似で性格は(恐らく)父親似だと思うが、問題でもあるのだろうか。うっかりくしゃくしゃにしてしまった遺書を張り直す。メモ帳を接ぎ合わせて作られているから、力の加減を間違えると経年劣化も併せてすぐ朽ちてしまう。
母はとびきりの笑顔で言った。
「お前の父親は今も生きているのにね」
瞬間、僕は全てを理解した。