第四話 第二十部 いつか超えるため。
私は球場を後にして家へと戻ることにした。私は振り返って球場を見る。ここで姉と本気で戦えた。姉が本気になって、笑顔まで見せてくれたことが本当に嬉しかった。けれども…それと同時に悔しさも生まれた。あの時、こうしておけば…。もっと姉に追いつくようにランニングを増やしていたら…。どうだったのだろうか。どう考えてももうすでに終わってしまったことだ。もうやり直せない。あの時の野球はやっているときにしか味わえない。悔しくて…
真菜「佐奈、帰るよ。」
私は声の聞こえたほうに顔をあげると真菜姉がいた。バッグをもって帰る支度をしていた。私は真菜姉に近づくと真菜姉は右手でグータッチのポーズをとった。
佐奈「それは…?」
真菜「お疲れ様の挨拶。すごかったよ。」
佐奈「お世辞はいいよ。」
真菜「お世辞じゃないよ。本当にすごいピッチングだった。正直私も腕が疲れたもの。」
そんな話をしながら私は真菜姉にグータッチした。そして真菜姉が私の手を思いっきり握ろうとした。
佐奈「…あれ?」
真菜姉の手からはいつもの力が感じられなかった。一生懸命に腕を握っているのだろうけれども力がない。それだけ腕を使い込んだみたいかもしれない。
真菜「苦戦したのよ。こんなに本気で投げれたのは久々よ。ありがとう。」
佐奈「…真菜姉。」
私は真菜姉から涙を隠すように抱きついた。声を出さないように、泣きじゃくりをあげないように。真菜姉は私の頭をゆっくりと撫でていた。暖かかった。
真菜「その前に整骨院で腕のケアしてもらわないとね。」
佐奈「どこか怪我したの?」
真菜「明日も試合があるからよ。」
佐奈「むきーーー! 悔しい!!」
真菜「はっはっは、これは勝ったものだけの特権みたいなものよ。まあ佐奈もアイシングしなさい。疲れてるだろうから。」
佐奈「うん…。」
真菜「…その悔しさでいつか私を越えてみなさい。」
佐奈「絶対超えてみせるもん!」
真菜「そうとは言っても超えられないようにすごい選手になるようにするわ。」
そういって笑いながら私たちは帰っていった。