第四話 第十九部 数年ぶりの笑顔
堀近「いくぞ、集合だ。」
私は堀近さんの声に反応してホーム前に並んだ。けれども移動中、顔を上げることが出来なかった。涙を見せたくないというのもあったけれどもそれよりも姉に合わせる顔が無かった。頑張ったけれども…ヒット一本しか打てなかったのと私が点を取られた後にボロボロに打たれたから。悔しくて悔しくて…辛かった。
審判「礼!」
皆「したぁ!!」
礼をすると大きな拍手が沸き起こった。それは相手に対しても私たちに対しても健闘を称えた拍手だった。それでも…まだ顔は上げられなかった。
真菜「佐奈。」
私が戻ろうとすると後ろから真菜姉が声をかけてきた。私は立ち止まったが、振り返ることができなかった。
真菜「ナイスピッチング。今までの中で一番よかったよ。」
そういって真菜姉は帽子を外している私の頭をゆっくりと撫でてきた。私はすこし嬉しかったけれども気にもさわった。負けた相手にこんなこと…しかも妹に向かってなんて…。私はどうせ無表情のまま言っているのだろうと思って振り返った。
佐奈「…ぁ。」
真菜姉はにっこりと笑っていた。何年かぶりに見る満面の笑顔だった。やさしくて…暖かくて包まれるような姉の姿がそこにいた。私はすこし笑顔を見せてベンチへと戻っていった。私は…頑張れたのだろうか。
堀近「今回は負けたが、まだ秋がある。最後まで諦めず、次こそは優勝するぞ!」
皆「おう!」
私は挨拶が終わるとすぐにバッグを持って、帰ろうとした。ここにいるのが気まずいから。
堀近「椎葉! ナイスピッチングだったぞ。次こそ絶対に勝とうな。」
その声に私は立ち止まって振り返った。そこには笑っている皆の姿があった。私は右手をグーにして腕を頭の位置まで上げた。ガッツポーズではないけれども、やってみせるのポーズをとった。まだ…私は頑張れそう。