第四話 第十二部 最大の誤算
大きな誤算だった。私はここで動揺を誘って点を取ることを考えていたけれども、ヒットを打ったことによって真菜姉のリミッターが外れたみたいだ。いままで私がキャッチボールをしたときにも…決勝戦でも見せたことの無い球が放られていた。
岸「!?」
相手のキャッチャーも驚いている。サインも気にせずにまた腕を上げている。真菜姉の目はバッターに集中している。とんでもない集中力だ。そして…ここからも伝わる。ものすごい打たせてたまるかという威圧感が…。
シュバァアアアアアア バシューーーン!!!
ストライクツー!
野本「(なんだこれ…目がおいつかねぇ。体験したこと無い球だからか? くそったれ!)」
唸りを上げるストレートはバットを振らせないかのような威圧感を発していた。ボールにこめられた思い。それはあまりにも強いとバッターだけでなく、観客席からも何かしらの感情が感じ取れるのだろう。私にはひしひしと伝わってくる。「もう絶対誰にも打たせない。」って。
シュゴオオオオオオ バシューーン!
ストライクバッターアウト!
野本「手が出なかった…。」
真菜「しゃああああ!!!」
雨宮「うおっ。」
あまりの大きな叫びに私も驚いた。真菜姉のあんな姿をみるのは初めてだ。そして気合の入った顔つきでベンチへと戻っていった。誰も真菜姉に近づこうとはしなかった。あの雨宮さんでも…キャッチャーでキャプテンの岸さんであっても…。
堀近「すまん、点とれずに。しかし椎葉の姉はとんでもない球を投げるな。」
なら…私はそれに答えなければならない。姉を失望させることのない最高の球を投げること。それが妹である私の役目だ。
佐奈「でも…私も点取らせなければ良いことです。」
私はそういいながらマウンドに向かった。マウンドが遠く感じる。真菜姉の意思がまだ残っているような気がした。圧迫されて、何もかもなくなってしまいそうな…そんな押しつぶされそうな気持ちが…。でも…今までの私とは違う。
堀近「さあこい!」
雨宮「よっしゃ。」
バッターは雨宮さん。こんなにすごいバッターでも私はもう…。
シュッ!!
佐奈「っし!」
シュゴオオオオ バシューーン!
ストライクワン!
真菜「そうでないとね…。」
怖いものなんて、何も無い!!