第二話 第七部 均衡を破る先取点。
サード塁審はグルグルと手を振っている。私にはその手が大きく、偉大なものに感じた。援護点をもらえるということがこんなにもすばらしいことを。
堀近さんはゆっくりと周り、ホームベースを踏んで帰って来た。
高坂「ナイスバッティング!」
大木「やっぱり決めてくれたか!」
堀近さんがハイタッチをしていく。その様子にはうれしさともどかしさがあるように見えた。なんでだろう…ホームランを打ったのにもかかわらずなんでだろう…。
佐奈「堀近さん!」
堀近「ああ、一点取ってきたぞ。だけど…このムードは良いんだが…統一感がない…。」
佐奈「統一感?」
堀近「気づいたか。お前の姉の学校とうちの学校の違いが…。」
私はまた思い出した。あの時のこと、全て。「負けない。」その言葉がどれだけ重い言葉なのかを今知った。それを知って私は怖くなった。このままでは姉に絶対に勝てないことだって丸わかり、さらには地区大会で勝ち抜いていけるかさえ心配になってきた。
堀近「いいか椎葉、これから一回たりとも気はぬけないぞ。俺がしっかりリードする。絶対に押さえてくれ。こいつらがわかってくれるまでの辛抱だ。たのむ。」
私はグローブをゆっくり取った。
バシーン!!! ストライクバッターアウト!
佐奈「手を抜く気なんて初めからありません。最初から全力ですから…。それに…。」
私は振り向いた。
佐奈「堀近さんみたいに全力で投げられる捕手がいて本当に良かったと思います。」
堀近「ありがとう。」
佐奈「投げることに関しては任せてください。リードはお任せします。」
堀近「よっしゃ! いくぞ!!!」
皆「うぉおおお!!」